)” の例文
ボヘメヤ硝子ガラス色のサーチライトが、空気よりも軽く、淋しい、水か硝子のように当てどもなく、そこはかとなくき散らされていた。
髪切虫 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それじゃあ砂をいて置いたらどうでしょう。その男が空でも飛んで来れば別ですが、歩いて来るのなら足跡はのこる筈ですからね。
青年と死 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
三月の下旬になって、雪の降り止むのを待って、土をくのであるが、その頃はまだ夜間気温が零度以下に降ることがしばしばある。
農業物理学夜話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
また毒瓦斯弾どくガスだんはいかなる順序で、いかなる時機を狙ってくのであろうかなどいうことが、この際早くわかっていなければならない。
東京要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「喜三郎は二千兩の金に眼がくれて、鍵屋の主人を裏切りました。それをバラいたのは、外ぢやない、半次兄哥ぢやありませんか」
ギシギシという草を方言にノミノフネといい、これを室内にいて後で集めて流すと、蚤はこれに乗って海へ行くと信ぜられている。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
それは、オクターヴォ判型の書簡紙に二枚ほどのものでしたが、認め終ると、その上に金粉をいて、さらに廻転封輪シリンドリカル・シールしました。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
むかし平家が赤直垂衣あかひたたれの童を京中にいて、平家の蔭口をきく者とあれば、すぐ拉致らちしたというような——生ぬるいものではないのだ。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
泣きながら昨夜ゆうべからの一部始終をありのままにぶちけたものとみえまして、やがて私がまた奥の間へ戻ってまいりました時には
蒲団 (新字新仮名) / 橘外男(著)
横笛フリュートを吹鳴らしたり野菊の花をいたりしたか、どんな方法で密閉された屋内に忍込み、更らに密閉された寝室へ入ることが出来たか。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
星野の葉書は柿江の手の中に揉みくだかれて、鼠色の襤褸屑ぼろくずのようになって、林檎りんごの皮なぞの散らかっている間にき散らされていた。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ビラがかれると、みんなはハッとしたように立ちどまったが、次にはワアーッと云って、ビラの撒かれたところへ殺到してきた。
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
と三人出たから見物は段々あと退さがる、抜刀ぬきみではどんな人でも退る、豆蔵が水をくのとは違う、おっかないからはら/\と人が退きます。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
米は例によってさんざん毒づいた結果あげく、客商売に坊主は縁起が悪いと云って戸外そとへ突出し、下足番に言いつけて叔父の頭へ塩をかした。
寄席の没落 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
少年は、見当り次第の商家の前に来て、その辺にあるほうきを持って店先を掃くのである。その必要のある季節には綺麗に水をくのである。
みちのく (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
勿論その前から練馬へゆくのをひどくいやがっていたから、途中でおふくろをいて逃げ帰ったのであろうと、おちかは推量した。
半七捕物帳:08 帯取りの池 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そんな訴えを、町方で取りあげるかどうかは疑わしいが、高田屋で金をくことも考えられるし、いずれにせよ事が面倒になる。
夕方、水車の道に沿った例の小さな教会の前を私が通りかかると、そこの小使らしい男が雪泥の上に丹念に石炭殻をいていた。
風立ちぬ (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
やはらかさに滿たされた空氣くうきさらにぶくするやうに、はんはなはひら/\とまずうごきながらすゝのやうな花粉くわふんらしてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
お松がこの店に休みながら考えたのは、やはりこの後いかにして、がんりきという気味の悪い道づれをこうかということでありました。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
たしかに何かいたのです。私は何を撒いたか見たくて命もいらないやうに思ひました。こはいことはやっぱりこはかったのですけれども。
二人の役人 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
もう十時を少し過ぎていて、曇り勝な空から薄日が射していたが、外は依然として寒く、街路にかれた水は、未だカンカンに凍っていた。
血液型殺人事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
今から思うと、実に笑い話だけれど、其の時私はまじめになって、此のバナナの皮を下へいておいて、虎を滑らしてやろうと考えたのだ。
虎狩 (新字新仮名) / 中島敦(著)
根も葉も無い不埒ふらちの中傷を捏造ねつぞうし、デンマーク一国はおろか、ウイッタンバーグの大学までうわさきちらすとは、油断のならぬものですね。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
これはクーリーが下から豆の袋を背負しょって来て、加減の好い場所を見計らって、袋の口から、ばらにけて行くのである。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一体どんな樹の花でも、所謂いはゆる真つ盛りといふ状態に達すると、あたりの空気のなかへ一種神秘な雰囲気をき散らすものだ。
桜の樹の下には (新字旧仮名) / 梶井基次郎(著)
二人がそうやって、押問答をしているうちに日は暮れてしまい、大空には真珠のような光る星影がき散らしたがように輝いたのであります。
百合の花 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あの時、雀の親子のなさけに、いとしさを知って以来、申出るほどの、さしたる御馳走でもないけれど、お飯粒まんまつぶの少々は毎日欠かさずいて置く。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
枕頭まくらもとの障子には、わづかに水をいた許りの薄光うすひかりが聲もなく動いて居る。前夜お苑さんが、物語に氣を取られて雨戸を閉めるのを忘れたのだ。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
そうして、投げ槍のう下で、ほこや剣がかれた氷のように輝くと、人々の身体は手足を飛ばして間断なく地に倒れた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
先日も申上げた通り先ず塩を沢山床の上へ振りいて塵や細菌の舞い上らないようにしてそれから掃くとこれほど清潔になる事はありません。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
その物寂しい長廊下にしばらく三太夫は立っていたが、紙に包んだ白粉を二本の指でつまみ上げ、廊下の一所へそれをいた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
街頭のいたるところに、候補者の立看板、ポスター、などが張りだされ、演説会のビラがかれた。投票は卅一日、翌六月一日、開票される。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
見れば伝馬町てんまちよう三丁目と二丁目との角なり。貫一はここにて満枝をかんと思ひ設けたるなれば、彼の語り続くるをも会釈ずして立住たちどまりつ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
天鵞絨ビロードのやうな贅沢な花びらをかざり立てて、てんでにこつてりしたお化粧めかしをした上に、高い香をそこら中にぷんぷんとき散らし、木は木で
春の賦 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
クニ子は取りかえた古い花を片づけ、バケツの残り水をぱっと勢いこんで道へいた。はあ、と息をつき、実枝と並んで沖の方へ手をかざした。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
やがて善ニョムさんは、ソロソロ立ち上ると、肥笊こいざるに肥料を分けて、畑の隅から、麦の芽の一株ずつに、きはじめた。
麦の芽 (新字新仮名) / 徳永直(著)
それは一昨日あたり今にも紫の粉をいて散りそうに開いていたのが、きょうあたりは花弁をすぼめておつぼの形です。
暖簾のれんを掲げた入口から、丁字形に階下の間と二階の階子段とへ通ふ三和土たゝきには、絶えず水がかれて、其の上に履物の音が引ツ切りなしに響いた。
鱧の皮 (新字旧仮名) / 上司小剣(著)
私は、モスケー・ストロムに呑みこまれ、それからまた投げ出されてロフォーデンの海岸にき散らされた、いろいろな漂流物を思い浮べました。
少し容色きりやうの劣つた姉の方がしきりにまづ仏蘭西フランス語で僕に話し掛けて「日本はわが英国と兄弟の国だ」とか「ゼネラル乃木がうだ」とか愛嬌あいけういた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
空高く西の雲に残光があけににじんでとびに追われる鳥のむれであろう、ごまをいたように点々として飛びかわしていた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
しかも彼は少数の物象にとどまることをしないで、彼を取り巻く無数の物象に、多情と思えるほどな愛情をふりく。
享楽人 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
またある時は馬の鉄蹄てっていが石を蹴って、そこらにき散らす火花の光りが、あたかも火の路を作ったかと疑われました。
近所の人達は屋外そとへ出た。互に家の周囲まわりへ水をいた。叔父が跣足はだしで庭へ下りた頃は、お俊も気分が好く成ったと言って、台所の方へ行って働いた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
海は、黄金をいたように輝いているが、それを眺めて楽しむどころではない。夕方でも、この寒さだから、夜になったら、一層寒さが加わるだろう。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
それにそこらぢゆう一面まるで花火をばらきでもしたやうな閃光せんこうで埋まつてゐるやうな気がしただけださうです。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
この鐘が始めて響いて来ましたのは、まだ月も赤い色をして、夕やみにれた草葉の吐息がしっとりとしたにおいを野にいている時分でございました。
道成寺(一幕劇) (新字新仮名) / 郡虎彦(著)
一等になると、司会が二人になり、奏楽は二曲、司会のほかに、助祭と花きの少女が二人つくことになっている。
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
溶けた雪水の溜りは一日々々と大きく、いたる所に沼をつくった。粉のような羽虫がその上にかれた。汚れはてた雪が、陽と土の温気うんき翻弄ほんろうされた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)