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掩
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おお
ふりがな文庫
“
掩
(
おお
)” の例文
晩春の
黄昏
(
たそがれ
)
だったと思う。半太夫は腕組みをし、棒のように立って空を見あげており、その脇でお雪が、
袂
(
たもと
)
で顔を
掩
(
おお
)
って泣いていた。
赤ひげ診療譚:03 むじな長屋
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
また、あるものはバータムナスの像のまわりを花環のように取り巻いて、
布
(
きれ
)
のように垂れさがった枝はその像をすっかり
掩
(
おお
)
っていた。
世界怪談名作集:08 ラッパチーニの娘 アウペパンの作から
(新字新仮名)
/
ナサニエル・ホーソーン
(著)
あるものは小さい池の岸を
掩
(
おお
)
って、水に浮かぶ鯉の影をかくしている。あるものは四つ目垣に乗りかかって、その下草を圧している。
我家の園芸
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
湖水を挟んで相対している二つの
古刹
(
こさつ
)
は、東岡なるを済福寺とかいう。
神々
(
こうごう
)
しい松杉の古樹、森高く立ちこめて、堂塔を
掩
(
おお
)
うて尊い。
春の潮
(新字新仮名)
/
伊藤左千夫
(著)
しかも予期したことながらあまりにも醜怪なる現実に直面して「
呀
(
あ
)
ッ!」と思わず、私は顔を
掩
(
おお
)
わずにはいられなかったのであった。
陰獣トリステサ
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
▼ もっと見る
動き出した車の中で瑠璃子は一寸居ずまいを正しながら、
背後
(
うしろ
)
に続いている勝彦のあさましい怒号に耳を
掩
(
おお
)
わずにはいられなかった。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
東京市の道路は甚乱雑
汚穢
(
おわい
)
なり。此を攻撃する新聞社の門前は更に乱雑
塵捨場
(
ごみすてば
)
の如し。門に入り戸を開けば乞食も猶鼻を
掩
(
おお
)
うべし。
偏奇館漫録
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
聞いているうちに、コゼツはたまらなくなって、ぶるぶるふるえるからだを投げ出し、両手でしっかりと顔を
掩
(
おお
)
ってしまいました。
フランダースの犬
(新字新仮名)
/
マリー・ルイーズ・ド・ラ・ラメー
(著)
沈黙は
少時
(
しばし
)
一座を
掩
(
おお
)
うたことであろう。金七を退かせてから政宗は老臣等を見渡した。小田原が遣付けらるれば其次は自分である。
蒲生氏郷
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
金吾は浅ましさに一種の
悪酔
(
あくすい
)
をおぼえながら、思わず耳を
掩
(
おお
)
い、それらの物の消化されてゆく社会の健康におののきを感じていました。
江戸三国志
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
北から西にかけて空は一面に黄色く——真黒な雲がその上に
掩
(
おお
)
い
被
(
かぶ
)
さって、黄色な空をだんだんに押しつけて、下に沈ませているようだ。
黄色い晩
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
眼
(
め
)
に
掩
(
おお
)
い
被
(
かぶ
)
さってる
眉
(
まゆ
)
は
山羊
(
やぎ
)
のようで、
赤
(
あか
)
い
鼻
(
はな
)
の
仏頂面
(
ぶっちょうづら
)
、
背
(
せ
)
は
高
(
たか
)
くはないが
瘠
(
や
)
せて
節塊立
(
ふしくれだ
)
って、どこにかこう一
癖
(
くせ
)
ありそうな
男
(
おとこ
)
。
六号室
(新字新仮名)
/
アントン・チェーホフ
(著)
袖で十二分に口のあたりを
掩
(
おお
)
うて
隙見男
(
すきみおとこ
)
に顔をよく見せないが、その今一人に目をじっとつけていると次第によくわかってきた。
源氏物語:03 空蝉
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
「
厭
(
いや
)
だ厭だ厭だ、
堪
(
たま
)
らない……」と彼は身震いして両耳を
掩
(
おお
)
った。それ故彼は、めったな事には人に自分の姓名を
明
(
あか
)
したがらず
鬼涙村
(新字新仮名)
/
牧野信一
(著)
下人
(
げにん
)
は、それらの死骸の
腐爛
(
ふらん
)
した臭気に思わず、鼻を
掩
(
おお
)
った。しかし、その手は、次の瞬間には、もう鼻を掩う事を忘れていた。
羅生門
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
そうは言っても純情なすみ子は揚葉の蝶のようなその厚ぼったい愛の
翅
(
はね
)
で、年少の私の多感の心を
掩
(
おお
)
いつくそうとするような時もあった。
光り合ういのち
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
で、
復
(
ま
)
た私は起き上った。
微温
(
なまぬる
)
い風が麦畠を渡って来ると、私の髪の毛は額へ
掩
(
おお
)
い
冠
(
かぶ
)
さるように成った。復た帽子を冠って、歩き廻った。
千曲川のスケッチ
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
しかしすぐにまた弓を
韔
(
かわぶくろ
)
に収めてしまった。再び
促
(
うなが
)
されてまた弓を取出し、あと二人を
斃
(
たお
)
したが、一人を射るごとに目を
掩
(
おお
)
うた。
弟子
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
真綱はこれを憤慨して、「
塵
(
ちり
)
起るの路は
行人
(
こうじん
)
目を
掩
(
おお
)
う、
枉法
(
おうほう
)
の場、
孤直
(
こちょく
)
何の益かあらん、職を去りて早く
冥々
(
めいめい
)
に入るに
加
(
し
)
かず」
法窓夜話:02 法窓夜話
(新字新仮名)
/
穂積陳重
(著)
その中の一人が弾に顔をうたれて手を以て
掩
(
おお
)
い落馬しかけている図などあって、私は幾度もそれを真似て描いたものであった。
新古細句銀座通
(新字新仮名)
/
岸田劉生
(著)
仄
(
ほの
)
あかるい空の下に、若葉の色がキラキラと光って見える。うす靄に
掩
(
おお
)
われた青田のみずみずしさが眼に
沁
(
し
)
みるようであった。
親馬鹿入堂記
(新字新仮名)
/
尾崎士郎
(著)
女の
為
(
な
)
す事の過半は模倣であるというのは決して女の
本性
(
ほんしょう
)
ではなく、久しい間自分を
掩
(
おお
)
うようにした習慣が今では第二の性質になったのです。
産屋物語
(新字新仮名)
/
与謝野晶子
(著)
する事や書く事の上を
掩
(
おお
)
っている薄絹は、はたから透かして見にくいと申そうよりは、自分で透かして見にくいと申すべきでございましょう。
田舎
(新字新仮名)
/
マルセル・プレヴォー
(著)
古人が既に己の意匠を言ひをらん事を恐れて古句を見るを嫌ふが如きは、耳を
掩
(
おお
)
ふて鈴を盗むよりもなほ
可笑
(
おか
)
しきわざなり。
俳諧大要
(新字旧仮名)
/
正岡子規
(著)
またある時は、あの白い
掩
(
おお
)
いの下で彼女が足を動かして、波打った長い
敷布
(
シーツ
)
のひだを
幽
(
かす
)
かに崩したようにさえ思われました。
世界怪談名作集:05 クラリモンド
(新字新仮名)
/
テオフィル・ゴーチェ
(著)
戸外
(
そと
)
は
朧夜
(
おぼろよ
)
であった。月は薄絹に
掩
(
おお
)
われたように、
懶
(
ものう
)
く空を渡りつつあった。村々は
薄靄
(
うすもや
)
に
暈
(
ぼ
)
かされ夢のように浮いていた。
土竜
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
平岡の家の前へ来た時は、曇った頭を厚く
掩
(
おお
)
う髪の根元が
息切
(
いき
)
れていた。代助は家に
入
(
い
)
る前に
先
(
ま
)
ず帽子を脱いだ。
格子
(
こうし
)
には締りがしてあった。
それから
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
われわれの前にあの方の
佯
(
いつ
)
われていた brilliant な調子のためすっかり
掩
(
おお
)
いかくされていたに過ぎないように思われるものだった。
菜穂子
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
頼りと思う病床の父に
侍
(
じ
)
して、不如意勝な幾月日を送って来た子供達の心持を想像した時、僕は両手で顔を
掩
(
おお
)
うて泣いた。
友人一家の死
(新字新仮名)
/
松崎天民
(著)
国王の
横死
(
おうし
)
の
噂
(
うわさ
)
に
掩
(
おお
)
はれて、レオニに近き漁師ハンスルが娘一人、おなじ時に溺れぬといふこと、問ふ人もなくて
已
(
や
)
みぬ。
うたかたの記
(新字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
無数の彼等の流血は凄惨眼を
掩
(
おお
)
わしめるものがあるけれども、人々を単に死に急がせるかのようなヒステリイ的性格には時に大いなる怒りを感じ
青春論
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
またその人を非難すべきにあらずといえども、榎本氏の一身はこれ普通の例を以て
掩
(
おお
)
うべからざるの
事故
(
じこ
)
あるがごとし。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説
(新字新仮名)
/
福沢諭吉
(著)
ここにおいて黒雲
掩
(
おお
)
い闇夜のごとし、
白雨
(
はくう
)
降り車軸の
似
(
ごと
)
し、竜天に
升
(
のぼ
)
りわずかに尾見ゆ、ついに太虚に入りて晴天と為る
十二支考:04 蛇に関する民俗と伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
然
(
しか
)
るに五・一五事件以来ファッシズム殊に〔軍部〕内に
於
(
お
)
けるファッシズムは、
掩
(
おお
)
うべからざる公然の事実となった。
二・二六事件に就て
(新字新仮名)
/
河合栄治郎
(著)
彼は耳を
掩
(
おお
)
うように深く外套の襟を立てて、
前屈
(
まえかが
)
みに
蹌踉
(
ある
)
いて行った。眼筋が働きを止めてしまった視界の中に、重なり合った男の足跡、女の足跡。
橋
(新字新仮名)
/
池谷信三郎
(著)
お庄らは、この老人の給仕をしているあいだに、袖で顔を
掩
(
おお
)
うて、勝手の方へ逃げ出して来ることがしばしばあった。
足迹
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
検事代理村越欣弥は私情の
眼
(
まなこ
)
を
掩
(
おお
)
いてつぶさに白糸の罪状を取り調べ、大恩の上に大恩を
累
(
かさ
)
ねたる至大の恩人をば、殺人犯として起訴したりしなり。
義血侠血
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
イヤそりゃ今までの経験で解ります、そりゃ
掩
(
おお
)
う
可
(
べか
)
らざる事実だから何だけれども……それに課長の所へ往こうとすれば、是非とも
先
(
ま
)
ず本田に依頼を
浮雲
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
あの方を
袖
(
そで
)
で
掩
(
おお
)
うて上げ度い程お気の毒に思うた。しかし其心の下から、ああ恋は何という手前勝手なものだろう。わたしはこの間違いを悦んで居る。
阿難と呪術師の娘
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
そこを散歩して、己は小さい丘の上に、
樅
(
もみ
)
の木で囲まれた低い小屋のあるのを発見した。木立が、何か秘密を
掩
(
おお
)
い
蔽
(
かく
)
すような
工合
(
ぐあい
)
に小屋に迫っている。
冬の王
(新字新仮名)
/
ハンス・ランド
(著)
雅頌
(
がしょう
)
よりして各国の国風まで収録した詩集であるが、詩は
之
(
し
)
なり、志の
之
(
ゆ
)
く所なりとも称し、孟子にも詩三百一言以てこれを
掩
(
おお
)
えば思い邪なしともいい
婦人問題解決の急務
(新字新仮名)
/
大隈重信
(著)
さすがに霊界の天使達も、一時手を降すの
術
(
すべ
)
なく、
覚
(
おぼ
)
えず眼を
掩
(
おお
)
いて、この醜怪なる鬼畜の舞踊から遠ざかった。それは実に無信仰以上の堕落であった。
霊訓
(新字新仮名)
/
ウィリアム・ステイントン・モーゼス
(著)
貫之
(
つらゆき
)
・
和泉式部
(
いずみしきぶ
)
・西行・式子内親王を同数としたことは、定家の評価の良さを今からでも見ることが出来て、歌人としての力量の鋭さは
掩
(
おお
)
うべくもない。
中世の文学伝統
(新字新仮名)
/
風巻景次郎
(著)
ここにおいて彼は訴うるに処なくして、
遂
(
つい
)
に大地に向って訴うるに至った。これ十八節である。「地よわが血を
掩
(
おお
)
うなかれ、わが
号叫
(
さけび
)
は
休
(
やす
)
む処を得ざれ」
ヨブ記講演
(新字新仮名)
/
内村鑑三
(著)
畏友
(
いゆう
)
島木赤彦を、湖に臨む山墓に葬ったのは、そうした木々に
掩
(
おお
)
われた山際の空の、あかるく澄んだ日である。
歌の円寂する時
(新字新仮名)
/
折口信夫
(著)
可哀想で、情けなくて、男の友達のように、オイ君、大丈夫かい、と肩を叩いたら、泣き出してしまわれるような、心細い寂しさが私を
掩
(
おお
)
ってしまいました。
雨の玉川心中:01 太宰治との愛と死のノート
(新字新仮名)
/
山崎富栄
(著)
江戸川の土堤内の田の中に、一つの用水池があって、その周囲にヤナギの類が茂って小池を
掩
(
おお
)
うていた……。
牧野富太郎自叙伝:01 第一部 牧野富太郎自叙伝
(新字新仮名)
/
牧野富太郎
(著)
鯨の背中のように円い
掩
(
おお
)
いの、やや前寄りに細い出入口がついていて、小さな窓から中の明りがもれていた。
秘境の日輪旗
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
潮はこの映画の写っている間は、頭を下げ顔を
掩
(
おお
)
うたまま、一度も首をあげようとはしなかった。映画が終って、一座の深い
溜息
(
ためいき
)
と共に、パッと電灯がついた。
赤外線男
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
彼はいずまいを正して、
掩
(
おお
)
いかぶさるようにその上にのしかかった。そして彼は書いて書いて書き続けた。
星座
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
掩
漢検準1級
部首:⼿
11画
“掩”を含む語句
掩隠
掩蓋
上掩
掩護
掩蔽
掩護物
掩蔽物
打掩
貝掩
窓掩
掩殺
掩映
掩撃
掩堡
雨掩
掩々
虚誘掩殺
蔽掩
自恨羅衣掩詩句
掩体壕
...