家主やぬし)” の例文
これをいて、事情じじょうらぬひとたちは、金持かねもちや、家主やぬしにありそうなことだと、した青服夫婦あおふくふうふへ、同情どうじょうしたかもしれません。
春はよみがえる (新字新仮名) / 小川未明(著)
はなしそれからまへうちはなれて、家主やぬしはううつつた。これは、本多ほんだとはまる反對はんたいで、夫婦ふうふからると、此上このうへもないにぎやかさうな家庭かていおもはれた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
一度ならず二度までもあまりといえば不思議なので翌朝よくあさ彼はすぐ家主いえぬしの家へ行った、家主やぬし親爺おやじに会って今日まであった事を一部始終はなして
暗夜の白髪 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
左右に居ります縄取なわとりの同心が右三人へ早縄を打ち、役所まで連れきまして、一先ひとまず縄を取り、手錠をめ、附添つきそい家主やぬし五人組へ引渡しました。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
やがてとうとう、その布団ふとんはもと、あるまずしい家のもので、その家族が住んでいた家の家主やぬしの手から、買い取ったものだということがわかりました。
神様の布団 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
家主やぬし硝子屋ガラスやへは出放題の事を言って、間代まだいの残りも奇麗に払い、重吉は荷物の半分を新橋駅しんばしえきの手荷物預り処に預け
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「千兩の褒美で長屋でも建てるんだね、岡つ引よりは家主やぬしの方が柄に合ひさうだぜ。嫁は俺が世話してやらア」
今住んでいる家も、私は一度も頼んだことはないが、いつのまにか家主やぬしの建てておいてくれたものである。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
主人出張勝ちの若い綺麗な奥さんの家へ、仲人を頼んでいるにしろ、家主やぬし店子たなこの関係があるにしろ、若い吉川君が遠慮なく出入するのは現象として面白くない。
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
荷物を出してから、二人して来たこの家に、家主やぬしのところから提燈ちょうちんを借りて来て、二人は相対していた。
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
私共が転居ひっこして来た時、裏の家主やぬしで貸してくれたものだから、もしやと思って、私は早速さっそく裏のうちへ行って訊ねてみると、案の条、婆さんが黙って持って行ったので。
一寸怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
口には出さず、心の中でそう云った。しんじつそう思っていたからである。おれは家主やぬしの喜平におさんのことを頼み、急な場合のために幾らか金も預けて、江戸を立った。
おさん (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
来て見ると、前日中に明け渡す約束なのに、先住せんじゅうの人々はまだ仕舞しまいかねて、最後の荷車に物を積んで居た。以前石山君の壮士そうしをしたと云う家主やぬしの大工とも挨拶あいさつを交換した。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
土井は最初そこへいたばん、筆を執るやうな落着きがないのに、ちよつと失望しつばうしたが、家主やぬしすまつてゐる家のはなれを一しつりておいたからと、甥が言ふので、彼はそれを信じて
(新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
あれは田原町たわらちょう三丁目の家主やぬし喜左衛門きざえもん鍛冶屋富五郎かじやとみごろう鍛冶富かじとみというのを請人うけにんにして雇い入れたのだ。よく働く。眼をかけてやってくれ。どうも下女は婆あに限るようだて。当節の若いのはいかん
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
しかも鼠を捕ろうとして取りがすと、その復讎ふくしゅうが最も怖ろしいものと信じられて、常の日も決して彼らの本名を口にせず、家々村々には色々の忌言葉いみことばがあって、たとえば殿とのがなし、家主やぬしがなし
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
けれどもかれ自身じしん家主やぬしたく出向でむいてそれをたゞ勇氣ゆうきたなかつた。間接かんせつにそれを御米およねふことはなほ出來できなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
家主やぬしは、戦争中せんそうちゅうたけ生活せいかつをしたひとから、時計とけいや、双眼鏡そうがんきょうや、空気銃くうきじゅうなどやすったのだと、やはり酒屋さかやのおじさんがいっていました。
春はよみがえる (新字新仮名) / 小川未明(著)
家主やぬしは下の中の間の六畳と、奥の五畳との二間に住居すまいて、店は八畳ばかり板の間になりおれども、商売家あきないやにあらざれば、昼も一枚しとみをおろして、ここは使わずに打捨てあり。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ことに便所は座敷のわきの細い濡椽ぬれえん伝いに母家おもやと離れている様な具合、当人もすこぶる気に入ったのですぐ家主やぬしうちへ行って相談してみると、屋賃やちんも思ったより安値やすいから非常に喜んで
暗夜の白髪 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
柳原町やなぎはらちょうと町内がつながって居りますが、小田原町の家主やぬしに金兵衞と申す者がございまして、其の頃は家号いえなを申して近江屋おうみやの金兵衞と云う処から近金ちかきんと云われます、年齢としは四十二に成りますが
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「ひどい家主やぬしだね」
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
正吉しょうきちはあとで、この事件じけんいたのであるが、これがため、青服あおふく家主やぬしじゅうかえされなくなったので、弁償べんしょうすることに、はなしがついたといいました。
春はよみがえる (新字新仮名) / 小川未明(著)
話はそれから前のうちを離れて、家主やぬしの方へ移った。これは、本多とはまるで反対で、夫婦から見ると、この上もないにぎやかそうな家庭に思われた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私がかつて、逗子ずしに居た時分その魔がさしたと云う事について、こう云う事がある、丁度ちょうど秋の中旬はじめだった、当時田舎屋を借りて、家内と婢女じょちゅうと三人で居たが、家主やぬしはつい裏の農夫ひゃくしょうであった。
一寸怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
窓には竹の格子こうしがついている。家主やぬしの庭が見える。鶏を飼っている。美禰子は例のごとく掃き出した。三四郎は四ついになって、あとからき出した。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もうすこしのことで、その安井やすゐおな家主やぬしいへ同時どうじまねかれて、となあはせか、むかあはせにすわ運命うんめいにならうとは、今夜こんや晩食ばんめしすままでゆめにもおもけなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
うらの窓もける。窓には竹の格子が付いてゐる。家主やぬしの庭が見える。にはとりを飼つてゐる。美禰子は例の如くき出した。三四郎は四つばいになつて、あとから拭き出した。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
宗助は暗い座敷の中で黙然もくねん手焙てあぶりへ手をかざしていた。灰の上に出た火のかたまりだけが色づいて赤く見えた。その時裏のがけの上の家主やぬしの家の御嬢さんがピヤノを鳴らし出した。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
下からして一側ひとかわも石で畳んでないから、いつくずれるか分らないおそれがあるのだけれども、不思議にまだ壊れた事がないそうで、そのためか家主やぬしも長い間昔のままにして放ってある。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なるものは主人にあらず、吾輩にあらず、家主やぬしの伝兵衛である。いないかな、いないかな、下駄屋はいないかなと桐の方で催促しているのに知らんかおをして屋賃やちんばかり取り立てにくる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)