がっ)” の例文
二日おくれて鎌倉を出た幕軍の第二軍三軍がすでにがっしていたものだった。その兵力も先の比でなく二万五、六千はかぞえられる。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
帝は巍国公ぎこくこう徐輝祖じょきそをして、京軍けいぐん三万をひきいて疾馳しっしして軍に会せしむ。景隆、郭英、呉傑、軍六十万をがっし、百万と号して白溝河はくこうがす。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
今わが政府の内外債、がっして三千百二十万金余の借金くらいは、三年を出ずして人民よりこれをもって完済かんさいすることは容易ではありますまいか。
禾花媒助法之説 (新字新仮名) / 津田仙(著)
渡良瀬川わたらせがわの利根川にがっするあたりは、ひろびろとしてまことに阪東ばんどう太郎の名にそむかぬほど大河たいかのおもむきをなしていた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
がっしてはじめて一秘符となる古文書を、中央からやぶいて二片一番つがいとしたさえあるに、しかも、その両片の一字一語に老工瀕死ひんしの血滴が通い
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「合ったり離れたりして来たその流れが、滝口のところで一つにがっし、すさまじい勢いでどうどうとなだれ落ちるんだ」
滝口 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
神には一層近きを覚えたり、余の愛するものの肉体は失せて彼の心は余の心とがっせり、何ぞおもいきや真正の配合はかえって彼が失せし後にありしとは。
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
そういうところをぬけ、つめたい氷のような風の吹出ふきだしている二、三ヶ所の風穴かざあなの前を通ったりして、鬼神きじん谷の上へ出るとそこで元来た旧道にがっする。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
本所柳原やなぎわら新辻橋しんつじばし京橋八丁堀きょうばしはっちょうぼり白魚橋しらうおばし霊岸島れいがんじま霊岸橋れいがんばしあたりの眺望は堀割の水のあるいは分れあるいはがっする処、橋は橋に接し、流れは流れと相激あいげき
おもううち、るすそをひろげて、一ぽうがっし、たちまち、あたりはうみとなってしまいました。
戦争はぼくをおとなにした (新字新仮名) / 小川未明(著)
それはまた何ごとにも容易よういに弱みを見せまいとするふだんの彼の態度にもがっしていることは確かだった。
三つの窓 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
山は、C川の上で、二ツが一ツにがっし、遙かに遠く、すんだ御料林に連っていた。そこは、何百年間、運搬に困るので、樹を伐ったことがなかった。路も分らなかった。
土鼠と落盤 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
わが空軍の活躍は、アクロン号、いや、こいつは、間違った——ロスアンゼルス、バタビウス、サンタバーバラの飛行船隊とがっすることによりて、絶頂に達することじゃろう。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
両側の断崖が徐々にせばまって、そのがっした所に、水面から一直線に、雲にるかとばかり、そそり立っている所の、これのみは真白に見えている、不思議な石階いしだんを云うのですが
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
囚はれたる心を解脱せしめんが為に、これを研究してゐるのである。此方便にがっせざる文芸は如何なる威圧のもとに強ひらるゝとも学ぶ事をあえてせざるの自信と決心とを有して居る。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
即ちその心臓をはかりにかけられて罪の軽重をはかられ、罪無き者は神とがっし、罪の軽いものは禽獣草木に生れ換り、悪業の深い者は魔神のために喰ってしまわれる事になっておりました。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
また、区内の戸毎こごとに命じて、半年に金一を出ださしめ、貸金の利足にがっして永続のついえに供せり。ただし半年一歩の出金は、その家に子ある者も子なき者も一様に出ださしむる法なり。
京都学校の記 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
その本流と可児かに川のがっするところ、急奔きゅうほんし衝突し、抱合し、反撥する余勢は、一旦いったん、一大鉄城てつじょうのごとく峭立しょうりつし突出する黒褐こっかつの岩石層の絶壁に殺到し、遮断されて水は水とち、力は力とさから
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
じっと、……るに連れて、次第に、ゆるく、柔かに、落着いてを描きつゝ、其のまるい線のがっするところで、又スースーと、一寸二寸づゝ動出うごきだすのが、何となく池を広く大きく押拡おしひろげて、船は遠く
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
それは途中であいがっしたかどうか知れないが、ともかく、相州荻野山中の大久保長門守の陣屋が焼打ちされて、かなり多量の武器と金銭を奪われたのは、それから十日ほど後のことであります。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
こきものは淡墨うすずみとなり、うすきものは白絹しらぎぬとなり、きものはせつなの光となり、ゆるきものは雲の尾にまぎれる、巻々舒々かんかんじょじょ、あるいはがっし、あるいははなれ、呼吸いきがつまりそうな霧のしぶきとなり
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
是は信州と越後との境から落して参り、四万川と称え、流れの末が下山田川しもやまだがわがっして吾妻川へ落しますゆえ、山から材木を伐出きりだし、尺角しゃくかく二尺角あるいは山にて板にき、貫小割ぬきこわりは牛のおろして参ります。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「しかも、前の二枚の中に入れて見れば初めてがっしる三枚続き」
怪異黒姫おろし (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
「これは、神田川にして、隅田川にがっして海に入るさ。」
負けいくさの手勢をがっして、兵庫の魚見堂へ、一族の諸将が落ち合ったのは、乱軍四日めのことであり、魚見堂伝説として
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鉤摭こうせきして説を成し、上古にがっするを務め、先儒を毀訾きしし、以謂おもえらく我に及ぶなりと、更に異議を為して、以て学者を惑わす。是を訓詁くんこという。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
不思議ふしぎなことに、小鳥ことりは、まったく元気げんきづいてしまいました。そして、もう一うみけきって広々ひろびろとした野原のはらいだして、自分じぶんらの仲間なかまがっしようと決心けっしんしました。
小さな金色の翼 (新字新仮名) / 小川未明(著)
明治四年廃藩のころ、中津の旧官員と東京の慶応義塾と商議の上、旧知事の家禄をわかち旧藩の積金つみきんがっして洋学の資本となして、中津の旧城下に学校を立ててこれを市学校となづけたり。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
この神学博士と意見全く相がっするを得ざるに至れり、或は余の一身を処するにおいて忠実なる一信徒より忠告をこうむるあり、いわく、「君の行蹟こうせきは聖典の明白なる教訓に反せり君よろしく改むべし」
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
この推測は今度も七十歳を越した彼の経験にがっしていた。……
古千屋 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
新影、宝山二流をがっした去水きょすい流。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その伊勢から甲賀へ打って出た石堂、仁木の党は、直義の党とがっして、佐々木一族の六角信詮のぶあきらを観音寺城に攻めて殺した。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
孝孺のこのげんてらせば、鄭暁ていぎょうの伝うるところ、実にむなしからざる也。四箴ししんの序のうちの語に曰く、天にがっして人に合せず、道に同じゅうして時に同じゅうせずと。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
しかのみならず、たといかかる急変なくして尋常じんじょうの業に従事するも、双方互に利害情感を別にし、工業には力をともにせず、商売には資本をがっせず、かえって互にあい軋轢あつれきするのうれいなきを期すべからず。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
しかし、一同は、ほッとするもなかった。ひとたび、兵をひいた亀井武蔵守かめいむさしのかみは、ふたたび、内藤清成ないとうきよなりの兵とがっして、堂々と、再戦をいどんできた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分も一の球を取って人々のすがごとくにした。球は野蒜のびるであった。焼味噌の塩味しおみ香気こうきがっしたその辛味からみ臭気しゅうきは酒をくだすにちょっとおもしろいおかしみがあった。
野道 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ふもとのほうから、追々おいおいとかけあつまってきた人数をがっして、かれこれ三、四十人、やり太刀たちを押ッとって、忍剣のきょをつき、すきをねらって斬ってかかる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこで早速自分の所有のを出して見競みくらべて視ると、兄弟か孿生ふたごか、いずれをいずれとも言いかねるほど同じものであった。自分ののふたを丹泉の鼎に合せて見ると、しっくりとがっする。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「あっ!」と三人は、あっ気にもとられたが、また躁狂そうきょうとして、一刻も早く、万吉とお綱の道をくい止め、弦之丞とがっしぬうちに、非常手段を講じなければ——と騒ぎ立った。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なに、大したことはない。主従がっしても、せいぜい八十人か九十人の小勢こぜいです」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこは宇美川うみかわ久原川くはらがわの流れががっし、また支流は縦横に走って、沼や芦原や、いたる所、砂丘さきゅうの雑草もふかく、わけて足場のわるい平野でおざる。——そして西はいちめん多々羅の浪打ちぎわ。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)