勘定かんじょう)” の例文
案外その開化のたまものとして吾々の受くる安心の度は微弱なもので、競争その他からいらいらしなければならない心配を勘定かんじょうに入れると
現代日本の開化 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「うるさいだ。何度なんどんでもだまっていてやろう。」と、おばあさんは、くちなかでいって、らんかおをしてぜに勘定かんじょうしていました。
善いことをした喜び (新字新仮名) / 小川未明(著)
ついては是迄これまで勘定かんじょうは、大阪に着たら中津の倉屋敷まで取りに来い、この荷物だけは預けて行くからと云うと、船頭せんどうが中々聞かない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
父さんはこの花を売って、いくらお金をもうけてどうするという細かい勘定かんじょうをしていらしったのだからそれはずいぶんお金がるようよ
勘定かんじょう奉行の岡島八十右衛門やそえもんは、杉野、前原の二人を連れて、台帳を手に、金蔵へ入って行ったが、やがて、用部屋へもどって来て
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あるいは社会の指導者または模範もはんともなるような事業であっても、珠盤そろばんとなればいかに勘定かんじょうしても間に合わぬというごときものならば
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
そして、中味は、手の切れる様な十円札が、ふるえる指先で勘定かんじょうして見ると、丁度十枚、外でもない、それは何人なにびとかの月給袋なのである。
木馬は廻る (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
フサエのいうとおりならば、おすえさんの手にはまだ四十幾かせ残っている勘定かんじょうになる。いねは、ふうむ、と首を傾け、カヤノに向って
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
夏になって絵かきさんたちが避暑ひしょにくるまでは、気むずかしくても、きちんきちんとお勘定かんじょうはらってくれるお客を、だいじにしなくてはね
こつんとひたいを一つ叩いて、それから急いで勘定かんじょうをして外に飛び出しました。大事な帽子ぼうしを頭にのせることは忘れませんでした。
不思議な帽子 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
ここの勘定かんじょうは利兵衛が払うというのを無理にことわって、半七は連れ立って表へ出ると、雨あがりの春の宵はあたたかいもやにつつまれていた。
半七捕物帳:13 弁天娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それだけなら、何も申し上げるほどの事はありませんが、ためしにその紙屑が渦を巻いている所を、勘定かんじょうして御覧なさい。
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
勘定かんじょうは丹尾が払った。その勘定を払う手付き、札入れの厚さなどを、五郎はじっと見ていた。丹尾は腕時計をちらと見た。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
ただそれが神さまのおぼしめしにもかなうと思ったのは、言わばやや勘定かんじょうずくな、いやしい、また新らしい迷信だったことは否めないのである。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
どんな売女でももっている、女っぽさや、女の純なものがないの、けちんぼだの、勘定かんじょうが細かいのといった。わたしはそれに答えてはこういう。
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
喰うんです。このままで行くと、三十万キロは行けますが、あと八万キロが全く動けない勘定かんじょうです。これは地球へ帰れないことになった。ああ……
月世界探険記 (新字新仮名) / 海野十三(著)
この二月ばかり、自炊をする元気もなく、三度々々小川屋から弁当を運ばせたので、その勘定かんじょうは七八円までにのぼった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
一ヶ月勘定かんじょうになっているので、僅かな汲取料金であるし、歩きさえすれば、すぐにでも集金は済みそうなものであったが、実際はそうではなかった。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
けれども、カエルたちは、そんな勘定かんじょうにはおかまいなしに、またもや、「アク、アク、アク」と、なきたてました。
大阪の新町も、その創立を元和から寛永の頃とすれば、いずれにしても島原より弟であり妹である勘定かんじょうになります。
ほかに「あおきドナウ」を歌ったのや、ピアノで弾いたのを勘定かんじょうすると際限もない。序曲「ジプシー男爵」と「蝙蝠こうもり」も名指揮者達がひと通り入れている。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
それから豚は、白金が、一匁いちもんめ三十円することを、よく知っていたものだから、自分のからだが二十貫で、いくらになるということも勘定かんじょうがすぐ出来たのだ。
フランドン農学校の豚 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
勝治は翌る日、勘定かんじょうの支払いに非常な苦心をした。おまけにその一夜のために、始末のわるい病気にまでかかった。忘れようとしても、忘れる事が出来ない。
花火 (新字新仮名) / 太宰治(著)
父さんは、かあさんより、そいつが少ない。おれは勘定かんじょうしたんだ。父さんには気の毒だが、まあしょうがない。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
上のお姫様ひいさま二人ふたりがおかたづきにならなかったころは六人だったから、六人の家庭教師がいた勘定かんじょうになる。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
その印象の中には赤い柿の実がまじっていた。彼はその印象をちらちらさしながら勘定かんじょうのことを考えた。
青い紐 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「さあ、数がどのくらいだと仰っしゃいますんで? 幾人いくたり死んだか、そいつあちょっくら分りかねますだよ。誰もそんなもの、勘定かんじょうしたことがありましねえだから。」
アンドレイ、エヒミチはぜに勘定かんじょうして、五百えん無言むごんともわたしたのである。ミハイル、アウエリヤヌイチはまだ真赤まっかになって、面目無めんぼくないような、おこったようなふうで。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
私からお金を受け取って宿屋の方では「いりまへん」いうのん無理に勘定かんじょう済ますやら
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
出遅でおくれや落馬へきの有無、騎手の上手じょうず下手へた距離きょりの適不適まで勘定かんじょうに入れて、これならば絶対確実だと出馬表に赤鉛筆えんぴつで印をつけて来たものも、場内を乱れ飛ぶニュースを耳にすると
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
きその谷間たにあいの村あたりで、騒いでいるように、トントンと山腹へ響いたと申すのでありますから、ちょっと裏山へ廻りさえすれば、足許に瞰下みおろされますような勘定かんじょうであったので。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こけが秋刀魚さんま勘定かんじょうでもしてやしめえし、ゆびなんぞってるときじゃありゃァしねえぜ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
人のいお婆さんも、うちへ帰って売上げ高を、勘定かんじょうして見ると、お金が足りないので、私達に騙されるのに、気がついたのでしょう。そっと、交番のお巡査まわりさんに、言いつけたと見えます。
納豆合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
記録には、当時の勘定かんじょう奉行、両名の見届けの判が押してあると申します。
答『それはわからぬ。通例つうれいよほど沢山たくさんで、幾人いくにん勘定かんじょうはしかねるのじゃ。』
ぽつりと言い、彼は立ってミチに背中を見せて、棚の上に手を延ばし、小さな柳行李やなぎごうりを引き降ろすと、腹の処で蓋を取り、さつ勘定かんじょうし始めた。銀行や郵便局の嫌いな彼は現金をいつも持って居た。
刺青 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
彼の父親は、大坂城代部下の、一勘定かんじょう役人であったが、お城修理のみぎり、作事奉行配下の、腕自慢の侍と口論し、筋が立っていたので、その場は言い分を通したが、程経て、闇打ちに会ってしまった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
中津川なかつがわの商人は奥筋おくすじ三留野みどの上松あげまつ、福島から奈良井ならい辺までをさす)への諸勘定かんじょうを兼ねて、ぽつぽつ隣の国から登って来る。伊那いなの谷の方からは飯田いいだの在のものが祭礼の衣裳いしょうなぞを借りにやって来る。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一 金銭取引の勘定かんじょうは時々致すべし
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そのうちおばあさんは、やっとぜに勘定かんじょうしてしまいました。おもったよりもたくさんなのをよろこんで、またもとのように財布さいふうつしました。
善いことをした喜び (新字新仮名) / 小川未明(著)
この残酷ざんこくなじょうだんがばっせられないはずの子どもたちみんなをわらわせた。それからほかの子どもたちも一人一人勘定かんじょうをすました。
「おやおや、お食事しょくじのさいそくでございますか? では、わたくしにもさいそくさせてくださいませ。お勘定かんじょうをしていただきたいんです」
そばに夫のいる事はほとんど忘れて、真面目まじめに聴いているらしかった。宗助はうらやましい人のうちに、御米まで勘定かんじょうしなければならなかった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼はただ死刑がこわさに、盗みためた宝石ほしさに夢中になっていて、つい可愛い妻子のことを勘定かんじょうに入れていなかった。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「そりゃ君の説は勘定かんじょうが少し違うぜ、地球の曲線カーブは一マイルについていくらいくらだぜ。君の先の例に取ったなんマイル以上にある船の帆柱ほばしら云々うんぬん
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
勘定かんじょう蟇口がまぐちから銀貨や銅貨をじゃらつかせながら小畑がした。可愛いおんなの子が釣銭と蕎麦湯と楊枝ようじとを持って来た。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
黍団子の勘定かんじょう素早すばやい猿はもっともらしい雉を莫迦にする。地震学などにも通じた雉は頭のにぶい犬を莫迦にする。
桃太郎 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その上に、月世界が近くなって、その方の引力が、地球の重力とは反対に目に見えて顕著けんちょになり始めた。つまり一切の物体が非常に軽くなったような勘定かんじょう
宇宙尖兵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
人間が魚をとらなければ海が魚でまってしまうという勘定かんじょうさえあるがそんなめのこ勘定でくもんじゃない。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
てめえたちゃ、ばかでっかい口をしてやがって、耳もいたくなるほどギャア、ギャア大さわぎしゃあがるくせして、七ターレルの勘定かんじょうもできねえじゃねえか。