偶々たま/\)” の例文
偶々たま/\愚論を吐いて曰く、古河市兵衛の営業と云ふものは国家の有益であると。——大きにお世話だ。此方は租税を負担して居ります。
政治の破産者・田中正造 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
君の探偵はまぐあたりだ今度の事でも偶々たま/\お紺の髪の毛が縮れて居たから旨く行た様な者の若しお紺の毛が真直だッたら無罪の人を
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
ゾオラが偶々たま/\醜悪しうあくのまゝをうつせば青筋あをすじ出して不道徳ふだうとく文書ぶんしよなりとのゝしわめく事さりとは野暮やぼあまりに業々げふ/\しき振舞ふるまひなり。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
あいちやんは其處そこ彼等かれらまはるのをて、偶々たま/\自分じぶん以前まへしうに、數多あまた金魚鉢きんぎよばちくりかへしたときざまおもおこしました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
偶々たま/\トルストイのように本当にその精神にぶつかることの出来た人に於て、初めてキリストの感情は地上に花を開くのだ。
反キリスト教運動 (新字新仮名) / 小川未明(著)
不安と疑惧ぎぐと悲歎に重苦しく閉ぢこめられて、偶々たま/\大きい聲で物を言ふ者があると、家中の者がはじき上げられたほど吃驚するといつた不思議な靜けさでした。
あさ須原峠のけんのぼる、偶々たま/\行者三人のきたるにふ、身には幾日か風雨ふううさらされてけがれたる白衣をちやくし、かたにはなが珠数じゆづ懸垂けんすゐし、三個の鈴声れいせいに従ふてひびきた
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
今その面を見るに、深く車轍を印したればなり。家壁には時に戸主の姓氏を刻めるを見る。又招牌かんばんの遺れるあり。偶々たま/\その一を讀めば、石目細工の家と題したり。
ただ偶々たま/\に東京がへりの若い歯科医がその窓の障子に気まぐれな赤い硝子を入れただけのことで
水郷柳河 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
偶々たま/\、岩倉大使と共に欧米を巡遊して、その燦然たる文明の諸施設に驚嘆し、殖産興業に依る富国強兵の大策を、土産みやげとして帰朝した大久保利通の眼には、征韓派の主張は
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
本山さんへ來る牛乳配達は、偶々たま/\その林檎の木の下に休んだ旅人の一人に過ぎないのです。
反古 (旧字旧仮名) / 小山内薫(著)
また父子爵にしても彼を引上げて、子爵家の繼嗣よつぎとする必要が無かツたのであツた。雖然子爵夫人に子の無いといふ一ツの事件じけんが、偶々たま/\周三を子爵家の相續人そうぞくにんとすることにした。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
其の上しとやかで物数ものかずを云わず、偶々たま/\口をきくと愛敬があってお客の心を損ねず、芸はもとよりし、何一つ点を打つ処はありませんが、朝は早く起きて御膳焚ごぜんたき同様におまんまを炊き
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
さつせえ、いまに太陽様おてんとうさまさつせえても、濠端ほりばたかけて城跡しろあとには、お前様めえさま私等わしらほかには、人間にんげんらしいかげもねえだ。偶々たま/\突立つゝたつて歩行あるくものは、しやうくねえ、野良狐のらぎつねか、山猫やまねこだよ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
世の批評家はおほしといへども、逍遙子がこたびの大議論を聞きては、皆口をつぐんで物言はず。偶々たま/\物言ふ人ありといへども、唯賞讃のこと葉を重ねて、眞價を秤らむとするに至らず。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
偶々たま/\人が自動車を勧めると、寺田氏は綿屑で一杯詰つたやうな頭を強くつて
そつとさし置たち出しが又立もどり熟眠うまひせし其顏熟々つく/″\打ながめ偶々たま/\此世で親と子に成しえにしも斯ばかりうすちぎりぞ情なし然どなんぢを抱へては親子がつひゑ死に外にせんすべなきまゝに可愛いとし我が子を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
或日の午後のことであつたが、彼は偶々たま/\庭で私とアデェルに出會であつた。
東京 から 偶々たま/\ 追ツかけて 来た 腐れ女 と 一緒に!
札幌の印象 (新字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
み消したる頼朝は憎けれどまた考へれば義仲には關白松殿の姫君のほか巴山吹などの艶福あり義經には京の君靜御前といふ意氣筋あり頼朝めは政子といふ嫉深しつふかのいけない女に恐れ入り偶々たま/\浮氣らしき事あれば三鱗みつうろこ
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
ただ偶々たま/\に東京がへりの若い齒科醫がその窓の障子に氣まぐれな紅い硝子を入れただけのことで
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
露宿をなして以来此汁をすすること二回、其味そのあじはなはだなり、くわふるにかつほの煑出しを以てす、偶々たま/\汁をつくることあるも常に味噌みそを入るるのみなれば、当夜の如き良菌りやうきんを得たるときは
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
一体斯様な事をいう手前などはな主人をつね思わんからだ、主人を思わん奴が偶々たま/\胸に主人の為になる事をうかぶと、あゝ忠義な者じゃとみずから誇る、家来が主人を思うは当然あたりまえの事だ
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
学校がつこう卒業そつげふ証書しようしよが二まいや三まいつたとてはなたしにもならねばたかかべ腰張こしばり屏風びやうぶ下張したばりせきやまにて、偶々たま/\荷厄介にやつかいにして箪笥たんすしまへば縦令たとへばむしはるゝともたねにはすこしもならず。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
偶々たま/\八代将軍吉宗は、紀州侯頼宣よりのぶの孫ではあるが、わづか三万石の領主から、宗家を嗣ぎ、更に将軍になつただけに、天成の英才であると共に、下情に通じ、家康創業の精神を以て、幕政の改革
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
偶々たま/\伸びて来た今川には、奇勝することが出来た。
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)