一節ひとふし)” の例文
と、息切れのするまぶたさっと、気を込めた手に力が入つて、鸚鵡の胸をしたと思ふ、くちばしもがいてけて、カツキとんだ小指の一節ひとふし
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
銀行員は評判を耳にしていたし、事務員は二、三の楽曲を聞いたことがあった——(彼はすぐに得意然とその一節ひとふしを口ずさんだ。)
彼はふといらってみる気になって、人差指で姪の臍の頭をソッと押してみた。指さきは何の支えも感じずに直ぐ一節ひとふしほど臍の中に隠された。
御身 (新字新仮名) / 横光利一(著)
美女、才女、ありとある、一節ひとふしずつある女性にょしょうを書いたあとで、浮舟や女三宮の現れたのを、よく読んで見たいと思った。今でもそう思っている。
ふみはしば/\われらの目をそゝのかし色を顏よりとりされり、されど我等を從へしはその一節ひとふしにすぎざりき 一三〇—一三二
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
染五郎そめごろう(後の幸四郎こうしろう)というような顔触れで、二番目は円朝えんちょう物の「荻江おぎえ一節ひとふし」と内定していたのであるが、それも余り思わしくないと云うので
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
糸につれて唄いいだす声は、岩間にむせぶ水を抑えて、巧みに流す生田いくた一節ひとふし、客はまたさらに心を動かしてか、煙草をよそに思わずそなたを見上げぬ。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
叢竹そうちくの中の一本が、ゆさっと仆れた。しばらくすると、無可先生は、尺八にするにしては太すぎるし、みじかくもある一節ひとふしを切って、藪から出て来た。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その派手はでな姿に白くほおけたおぎの穂をしてほんの舞の一節ひとふしだけを見せてはいったのがきわめておもしろかった。
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
通行人らの騒ぎに、トロミエスの愉快な聴衆もふり向いてながめた。そしてその間にトロミエスは、次のうるわしい一節ひとふしを歌っておしゃべりの幕を閉じた。
わたしの父親がこの話をしているあいだに、かれらは晩餐ばんさん食卓しょくたくをこしらえた。にくの大きな一節ひとふしにばれいしょをそえたものが、食卓のまん中にかれた。
自分は漸くカワレリヤ、ルスチカナの幕開まくあきに淋しい立琴アルプ合方あひかたにして歌ふシチリヤナの一節ひとふし思付おもひついた。
黄昏の地中海 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
なぜか彼にはわからなかったが、それはこの世ならぬ優しい歌の一節ひとふしのように彼を一瞬慰めた。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
姫はどうして行かうかと思案してゐた処なので早速ツルカヅルカの一節ひとふしを歌つた。
嘆きの孔雀 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
すぢ日本につぽんうるはしき乙女おとめ舞衣まひぎぬ姿すがたが、月夜げつやにセイヌかは水上みなか彷徨さまよふてるといふ、きはめて優美ゆうびな、またきはめて巧妙こうめう名曲めいきよく一節ひとふし、一は一よりはなやかに、一だんは一だんよりおもしろく
寂しそうに笑って、やがて、鈴を振鳴して一節ひとふし唄いましたのは、こうでした。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
えだはといえば、みんな、ねばねばした長いうでで、まるで、ミミズのようにまがりくねる指を持っていました。そして、根もとから、いちばん先のはしまで、一節ひとふし一節を動かすことができました。
かねて覚えの謡曲うたい一節ひとふしうたい出でたるおりから。
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)
めづらなるいとも可笑をかしきちやるめらのそと一節ひとふし
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
とりとまりない嘆きの一節ひとふし
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
ふたり歌はむ一節ひとふし
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
ほれぼれと、一節ひとふし
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
と、息切いきぎれのするまぶたさつと、めたちからはひつて、鸚鵡あうむむねしたとおもふ、くちばしもがいてけて、カツキとんだ小指こゆび一節ひとふし
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
見れば、煤竹すすだけ一節ひとふしを切った花入れに、一輪の白菊をけてささげている。静かに、秀吉の横へ坐って、菊の姿のくずれぬ程に、そっと床脇とこわきにおいた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あるいは黒人舞踏クークウォーク一節ひとふしとレオンカヴァロの愚作とをベートーヴェンのアダジオの両側に並べたりして、世にある美しいものを汚すのは、許しがたいことだ。
ウーゴモンは危うく、ラ・エー・サントは奪われ、今はただ中央の一節ひとふしが残ってるのみだった。その一節はなお支持されていて、ウェリントンはそこに兵員を増加した。
どうか此の人々の口から政宗公以来伝わって来た舟唄の一節ひとふしを聴いて貰いたいとのことであった。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
折節おりふしに聞く浄瑠璃じょうるり一節ひとふしにも人事ひとごとならぬ暗涙を催す事が度々であった。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
あゝ此樣こんことつたら何故なぜ倫敦ロンドンへん流行歌はやりうた一節ひとふしぐらいはおぼえてかなかつたらうとくやんだが追付おひつかない、あまりの殘念くやしさに春枝夫人はるえふじんかほると、夫人ふじんいま嘲罵あざけりみゝにして多少たせうこゝろげきしたと
竹河たけかはのはしうちいでし一節ひとふしに深き心の底は知りきや
源氏物語:46 竹河 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「月にうたう懺悔ざんげ一節ひとふし
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「一命を助けてとらせた礼を残して行きやれ。たちも、節に合わせて踊ろう程に、そちの故郷ふるさとひなぶり一節ひとふし唄うておみせやれ。盆唄ぼんうたでも、麦搗唄むぎつきうたでも」
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は自分より長い生命があるに違いないと感じた孫の作品中に、自分のつたな一節ひとふしを插入するという、きわめて罪ない楽しみを、制することができなかったのである。
またもや念ずる法華経の一節ひとふし
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すたれし歌の一節ひとふし
どこかで、かつんッ——と、青竹を伐り仆した響きがしたと思うと、間もなく、一節ひとふしの切竹を持って帰って来た。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かれは、自分よりも長い生命いのちがあるにちがいないと感じたまご作品さくひんの中に、自分のまずい一節ひとふしをはさみ込むという、きわめてつみのないたのしみを、おさえることができなかったのである。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
怒気をみなぎらして構え直った天堂一角、きっと月光のそそぐところを見れば、青き天蓋てんがい銀鼠色ぎんねずいろの虚無僧衣、うるしの下駄を踏み開いて、右手めてに取ったるは尺八に一節ひとふし短い一節切ひとよぎりの竹……。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、ワグナーの一場面に感動したあとに、オフェンバッハのギャロップをピアノでたたき出したり、喜びの頌歌を聞いたあとに、奏楽珈琲店のたまらない一節ひとふしを口ずさんだりした。
その一節ひとふしのなつかしや
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)