たぶさ)” の例文
わたくしの頭を鉄扇で打ち、門弟がたぶさを取って引摺り出し、打ち打擲するのみならず、割下水へさかさまに突込つきこまれてわたくしは半分死んで居ります
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
軽くかわせた荻野八重梅、女力にたぶさを掴み、胸もと近く引き寄せたが、「さあどっちが悪党かねえ」立派に突いた、もう一眼!
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
畳の上に俯伏うつぶしに倒れていましたが、誰かにたぶさをつかんで引摺り出されたように、丸髷がめちゃめちゃにこわれています。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
死にかけてゐる父親の胡麻鹽ごましほたぶさを取つて、ゆすぶり加減にグワツと睨んだ、金之助の顏は、男姿ながら、鬼女そのまゝの物凄ものすごさだつたのです。
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
多勢が寄ってたかって、むりに女のたぶさを放させたが、それにさからったというので、とうとう万年屋を袋叩きにしてしまった。
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
一刀をふりかぶって斬って出た途端に、無数の槍と太刀の下になって、たぶさを散らした水々しい若さの顔が、人々の土足の邪魔をしているだけであった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
四十台か、せいぜい五十に手の届く年ごろの面影おもかげと見えて、まだ黒々とした髪も男のさかりらしく、それを天保てんぽう時代の風俗のようなたぶさに束ねてあった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
この屋根の上にあしが生えて、台所の煙出けむだしが、水面へあらわれると、芥溜ごみためのごみがよどんで、泡立つ中へ、この黒髪がさかさに、たぶさからからまっていようも知れぬ。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やさしい言葉ことばが、やがて一しやくもあらうかとおもはるゝほどにながおほきなたぶさせたあたまのてツぺんからた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
一体、何が中に入っているかと思ってのぞいて見ると、たぶさが無残に押込まれてあるのだ。なるほどと思う。女学生らは、自分の毛髪の入れ場所に悩んでいるのだろう。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
電落した左膳の長剣に、ガジッ! と声あり、そぎとられた頭骸骨ずがいこつの一片が、転々と地をはった。脳漿のうしょう草に散って、まるでたぶさをつけたお椀をほうり出しでもしたよう——。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ちょいとしゃがめば、ちょいと手につかめると云う為事で、あぶなげのないのでなくちゃ厭だ。そう云う旨い為事があるのかい。福の神のたぶさを攫んで放さないと云う為事だ。
橋の下 (新字新仮名) / フレデリック・ブウテ(著)
つめて申しければ昌次郎も一ごんこたへもなく赤面せきめん閉口へいこうしたりしは心地こゝちよくこそ見えにけれ父上臺憑司こらかねて立ち上り昌次郎の襟髮えりがみつかたゝみすり付け打据うちすゆるにお早は娘お梅がたぶさつかんで引倒し怒の聲を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
たぶさを攫んで放さぬように、出来そうな事件を
未練らしく此の間も来てひどい事を言って、私のたぶさって引摺り倒し、散々にちましたから、私も口惜くやしいから了簡しませんでしたが
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
馬鹿だなア、小田原まで行く氣でゐやがる——ね、爺さん。あんなノウテンキな野郎だが、命の恩人だと思つたら、たぶさ
井田さんの髪の毛を掻きむしったり、母のたぶさを掴んだりしたのも、何者の仕業しわざだか判りません。いかがなものでしょう。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
同じような旅装束よそおい。年恰好は四十あまり、ただし頭は総髪に取り上げ元結もとゆいの代りに紫の紐でキリキリとたぶさを結んでいるのがいささか異様に思われた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この算用を算盤そろばんぱちぱち、五を引いて二が残り、たった三厘の相違があってもたぶさつかんで引摺倒ひきずりたおそうという因業いんごうな旦那を持ってるから、夜の更けるまで帳場に坐って
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
曙染あけぼのぞめの小袖に、細身の大小をさし、髪はたぶさい、前髪にはむらさきの布をかけ、更にその上へ青い藺笠いがさかぶって顔をつつみ、丁字屋の湯女ゆなたちにも羞恥はにかましそうに
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
前の晩にこぶしを握り固め、五本の指をかがめ、後ろからたぶさでもつかむようにして、木像の首を引き抜く手まねをして見せながら等持院での現場の話を半蔵に聞かせたその同じ豪傑とも見えなかった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
村上松五郎は此のていを見るより飛掛り、茂之助のたぶさを取って仰向けに引倒し、表附の駒下駄で額の辺を蹴ったからダラ/\と血が流れるを
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
たぶさに黒紋付き、袴なしの着流しにした、大兵の武士がこういうように云った。独り言のように云ったのであった。
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その後ろから虎視眈々こしたん/\として八五郎、老人が逃げ出したら、もう一度たぶさを掴んで引戻す氣だつたことでせう。
各〻、手捕り足取り、ある者は刀の下緒を解いて口にしごき、あるものはたぶさを掴んで押さえつけた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……この方の催促は、またそれ亭主がくといういやなものがからんでさ、たぶさつかんで、引きずって、火箸ひばしたれました、などと手紙を寄越す、田舎芝居の責場があるから。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
文治は突然いきなりおあさのたぶさを取って二畳の座敷へ引摺り込み、此の口で不孝をほざいたか、と云いながら口を引裂ひっさ肋骨あばらぼね打折ぶちおひどい事をしました。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
武士の年齢は四十五、六、総髪の大たぶさ、見上げるばかりの長身であったが、肉付きはむしろ貧しい方で、そのかわりピンと引き締まっていた。着ている衣裳は黒羽二重。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「やい、不貞腐ふてくされ。」と車夫の吉造、不意に飛込んで、婦人おんなたぶさ鷲掴わしづかみにしてぐいと引けば、顔をしかめて、「あいつ、つつつつつ」とこぶしに手を懸け、「無体な、何をするんだねえ。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あツ、痛いツ、痛いよ。たぶさつかんで引いちや、——無法な人だね、お前さんは」
直ぐに飛込んでたぶさってと云う訳にもいきません、坊主ですから鉄鍋の様に両方の耳でも把るか、鼻でもごうかと既に飛込みに掛りましたが
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
しても実家さとから財産を持って来ます。そのかわりただ一度でうござんす。お姑さんを貴方の手で、せめて部屋の外へ突出して、一人の小姑のたぶさつかんで、一人の小姑の横ぞっぽうを
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
返り血を浴びて紅斑々たぶさ千切れた凄じい姿で目付衆の屋敷へ宣り出た、切られた二人の其一人は、家老宮地源左衛門の四男、もう一人は大脇文右衛門の二男で文右衛門は功労ある地方奉行であった。
稚子法師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
揉みも揉んだ姿で、芳年の首へ胸へ、たぶさへと武者振り付くのです。
芳年写生帖 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
と云って逃げようとするおあさのたぶさを取って、二畳の座敷へ引摺ひきずり込み、へだてふすまてましたが、これから如何いかゞなりましょうか、次回つぎに述べます。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
又是は何者か顔を揚げいとたぶさを取って引起すとし……此処こゝうちとゝまの七兵衞さんの死骸が出たのじゃが
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
やれかなわぬと逸足いちあし出して逃出すうしろから、うはさせじと文治はたぶさを引ッつかみ、ずる/\と引摺り出して
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
又母の懐剣でとゞめをさして、両人ふたりの首を切りたぶさを持ったが、首という物は重いもので、孝助は敵を討って、もうこれでよいと思うと心にゆるみが出て尻もちをついて
打人うちては名におう鹽原角右衞門の腕前ですから、狙いたがわず悪者の右の太股へ立ちましたから、アッと云って畑へたおれました所を、角右衞門は悪者のたぶさを取って引仆ひきたお
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
中にも恒太郎は長二が余りの無作法にかっいかって、突然いきなり長二のたぶさを掴んで仰向に引倒し、拳骨で長二の頭を五つつ続けさまに打擲ぶんなぐりましたが、少しもこたえない様子で
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
といきなりたぶさを手に引攫ひッつかんで二つ三つなぐりつけ、それから其処そこらを引摺り廻して、ひい/\泣く奴をったり蹴ったりして、帯を取ってぐる/\巻にし、縄を持って来て
といいながらかたえに有った粗朶そだを取上げ、ピシリと打たれるはずみに多助は「アッ」といいさま囲炉裏のそばへ倒れる処を、おかめは腕を延ばし、たぶさを取って引ずり倒しながら
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
といって倒れるところを音羽が一かたな斬り附ける、小三郎は惣兵衞のたぶさを掴んで上へ引揚げ
大将へ首実検いたさするに指をもとゞりに三本入れた時に(右の手にて攫む)う髻を取って大将の前に備える時に死顔しにがおが柔かに見える、前が剃って有ると又たぶさつかむにも掴み易いと云うので
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
たぶさって引起し、窓から映します月影にて見ると、我が女房おくのでございますから茂之助はびっくりして、これは己のうちじゃアないか知らんと四辺あたりをキョト/\見て死骸へ眼を着けると
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と惣吉と両人ふたりで無茶苦茶に突くばかり、其のうち一角の息が止ると、二人共がっかりしてペタ/\と坐って暫らくは口が利けません。花車は安田一角のたぶさを取り、拳を固めてポカ/\打ち
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
といいながら悴のたぶさを取って引寄せまして、三つ四つ続けうちちました。
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
たぶさを取ってずる/\と引出しますと、今こじられたのは急所の深手
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
アッといって倒れる処へ乗掛り、胸先をえぐりましたが、一刀いっぽん二刀にほんでは容易に死ねません、死物狂い一生懸命に三藏は起上り、新吉のたぶさをとって引き倒す、其の内與助は年こそ取って居りまするが
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と云いながら突然いきなりお賤のたぶさって引倒す。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)