裳裾もすそ)” の例文
中央には富嶽のうるわしい姿を中心に山脈があい連り、幾多の河川や湖沼がその間を縫い、下には模様のように平野の裳裾もすそが広がります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
すると、突然、の緞帳の裾から、桃色のルイザが、吹きつけた花のように転がり出した。裳裾もすそが宙空で花開いた。緞帳は鎮まった。
ナポレオンと田虫 (新字新仮名) / 横光利一(著)
ペツポは我裳裾もすそを握りて離たずしていふやう。血を分けたるアントニオよ。そちがをぢなるペツポを知らぬ人のやうになあしらひそ。
憂鬱メランコリックな、利口そうな顔だちで、左手を長椅子の肘に掛け、右手は、あわのように盛りあがった広い裳裾もすそのほうへすんなりと垂らしている。
これは旅の神をもてなすに適し、そこで女神が裳裾もすそを引きずることもありうる、風通しのよい、壁塗りされていない小舎であった。
この美女たちがいずれも長い裳裾もすそを曳き、薄い練絹ねりぎぬ被衣かつぎを微風になぶらせながら、れ違うとお互いにしとやかな会釈を交わしつつ
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
しかるに近代ちかきよの牧者等は、己を左右より支ふる者と導く者と(身いと重ければなり)裳裾もすそをかゝぐる者とを求む 一三〇—一三二
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
その風は裳裾もすそたもとひるがえし、甲板の日蔽ひおいをあおち、人語を吹き飛ばして少しも暑熱しょねつを感じささないのであるが、それでもはだえに何となく暖かい。
別府温泉 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
灯影ほかげに女たちのなまめかしい裳裾もすそがもつれ合って、手から手へ、一つは二つと杯が飛びかい、座もまたようやく陽気の花をひらきはじめました。
そして物にさわらないように片手で裳裾もすそを引上げていた。それでもやはりかまどのそばにやって来て、さらの中をのぞき込んだり、また味をみまでした。
にぎやかに入って来た客は印度インド婦人服独特の優雅で繚乱りょうらんな衣裳を頭からかぶり、裳裾もすそを長く揺曳ようえいした一団の印度婦人だった。
ガルスワーシーの家 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
瑠璃珊瑚るりさんごちりばめた金冠の重さに得堪えぬなよやかな体を、ぐったり勾欄にもたれて、羅綾らりょう裳裾もすそきざはしの中段にひるがえし、右手に大杯を傾けながら
刺青 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その女の人は長い裲襠うちかけ裳裾もすそを引いて、さながら長局ながつぼねの廊下を歩むような足どりで、悠々寛々ゆうゆうかんかんと足を運んでいることは、尋常の沙汰とは思われません。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
芝居にて贔屓ひいき俳優わざおぎみるここちしてうちまもりたるに、胸にそうびの自然花をこずえのままに着けたるほかに、飾りというべきもの一つもあらぬ水色ぎぬの裳裾もすそ
文づかい (新字新仮名) / 森鴎外(著)
暁の風に姥の裳裾もすそも、袖も白髪しらがなびひるがえり、波がくだけて作られた水泡みなわが、涌き立ち踊り騒ぎ立つように見えた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「ヴォルデマール君は、お小姓の資格で、女王様が庭へけ出す時、その裳裾もすそ捧持ほうじするでしょうな」と、毒々しい口調でマレーフスキイが一矢いっしをむくいた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
と、最初は裳裾もすそが、あたかも真水であるかの如く、水面に拡がるのであるが続いてそれは、傘のようにすぼまって、オフェリヤは水底深くに沈んで行くのだった。
オフェリヤ殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
木の蔭に乗物を立てかけておいて、お島は疲れた体を、草のうえに休めるために跪坐しゃがんだ。裳裾もすそ靴足袋くつたびにはしとしと水分が湿しとって、草間くさあいから虫がいていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
朝戸出あさとできみ足結あゆひらす露原つゆはらはやでつつわれ裳裾もすそらさな 〔巻十一・二三五七〕 柿本人麿歌集
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
少なくとも、声がよく似ている。女のほうはきっとこの家の娘に相違ない。モスクワから帰って来て、長い裳裾もすそのついた着物を着て、マルファのところへスープを
雪のを吹いて、遠くはこんもりと黒く茂った森、柔かい緑の絨氈じゅうたんねらせる水成岩の丘陵、幾筋かの厚襟あつえりをかき合せたカスケード高原の上に、裳裾もすそを引くこと長く
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
婦人の素足の窺える事は、これを見る人々の感じで悪くも見えましょうが、私といたしましては日本のきもののもつ裳裾もすその感じが真に自由で美しいものと考えております。
帯の巾が広すぎる (新字新仮名) / 上村松園(著)
すなわち一生を御社おやしろに捧げて、歌いつ舞いつする者となったり、もしくは水の精をむこもうけたとって、末にはするすると長い裳裾もすそいて、池沼ちしょうの底に入ってしまったり
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
刺繍ぬいの枕も寝台の下に転がし、真白な深股もあらわに、もつるる裳裾もすそを掻き合せている。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
天女の裳裾もすそをとりあげて、泥を払ってやるふりをして、不思議な香気をたのしんだ。
紫大納言 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
美しい女優たちは、自分たちの前にたって荊棘いばらの道を死ぬまで切りひらいたひとの足もと平伏ひれふして、感謝の涙に死体の裳裾もすそをぬらし、額に接吻し、ささぐる花に彼女をうずめつくすであろう。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
そうして裳裾もすそはともかくとして、裳裾の吹きおこす、ちょっと形容しがたい風、これはたしかに私の頬を容赦ようしゃなく撫でて行ったのだが、私はふと、——酒のことを気ちがい水というけど
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
色天鵝絨いろびろうどるごとき裳裾もすそのほかは
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
絹紅もみ裳裾もすその身ぞつらき
枯草 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
羅綾られう裳裾もすそかへしては
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
しきうはぎ裳裾もすそには
カンタタ (旧字旧仮名) / ポール・クローデル(著)
山の裳裾もすその広い原に
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
なアがい裳裾もすそ
赤い旗 (旧字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
王女さまはまだわかいので、裳裾もすそもひかず、金のかんむりもかぶっていませんでしたが、目のさめるような赤いモロッコ革のくつをはいていました。
大兄は遣戸やりどの外へ出て行った。卑弥呼は残った管玉を引きたれた裳裾もすその端でらしながら、彼の方へ走り寄った。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
姫も乳人も眼がさめてみると、一生懸命に夫婦の裳裾もすそにしがみ着いているつもりのが、実は佛前にかゝっているはたの脚に取りすがっていたのであった。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
二人の子供はかん高い泣声をたてて家の中に逃げ込んだ。扉のがたつく音がし、怒った叫び声が聞えた。夫人は長衣の裳裾もすその許すかぎり早く駆けつけて来た。
女たちはまた淡紅やピンク、薄紫、純白、色とりどりの柔らかな、肌も露な、羅衣うすものまとうて、やはり素足にサンダルを穿いて、裳裾もすそは長く地にいていた。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
夜は MAJESTIC-PALACE の広間に翻る孔雀服パウアンヌ裳裾もすそ、賭博館の窓からは、(賭けたり、賭けたりフェト・ヴォ・ジュウ・メッシュー)という玉廻し役クルウピエの懸け声もきかれようという。
火柱の主——仮面めんの城主! 城主の着ている纐纈のほうの袖や裳裾もすそが風に煽られ、グルグルグルグル渦巻く様は、火柱が四方八方へ、あたかも焔をひるがえすようであった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
富士のさばいた裳裾もすそが、ななめがちな大原に引く境い目に、光といわんには弱いほどの、一線の薄明りが横ざまにさす。正面を向いた富士は、平べッたくなって、塔形にすわりがいい。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
時を移さず姿をやつして、鳥追いがさに、あだめかしい緋色ひいろ裳裾もすそをちらちらさせつつ、三味線しゃみせん片手にお由がやって参りましたので、名人は待ちうけながら、ただちにしのぶおか目ざしました。
そればかりか、その中の一枚などは、やたらに長い裳裾もすそのついたものであった。
犬に追はれた家室さんは忽ち野干やかんとなつてまがきの上に乘つてゐる。紅染くれなゐぞめのを着て、裳裾もすそをひいて遊んでゐる妻の容姿すがたは、狐といへど窈窕ようちようとしてゐたので、夫は去りゆく妻を戀ひしたつて
春宵戯語 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
ひばりが空高く啼きお陽さまの裳裾もすそがゆらゆらとゆれかがやいて居ます。そして咲き乱れた花が一ぱい! 人は花子のほか誰れも居ません。おかしいとおもいました。少し淋しくありました。
花子 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
芝居にて贔屓ひいき俳優わざおぎみるここちしてうちまもりたるに、胸にさうびの自然花をこずえのままに着けたるほかに、飾といふべきもの一つもあらぬ水色ぎぬの裳裾もすそ、狭き間をくぐりながちたわまぬ輪をえがきて
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
そして一名の獰猛そうな男が、彼女の両足を裳裾もすそぐるみ持っていた。二人がかりで、ひきあげて行くのだ。ほかの仲間も、離れ離れに、浅瀬をえらんで、ザブザブと、もとの対岸へ、渡って行く——。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
黒髪は裳裾もすそにかかれ
枯草 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
そして二人とも房々とした亜麻色の髪には、紫水晶と緑玉とをちりばめて桃金花てんにんか花綵はなづなかたどった黄金の冠を戴き、裳裾もすそ長くすんなりとした素足には、革のサンダルを穿いていた。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
大抵男子二人、若くは女子二人なるが、ねる如き早足にて半圈に動き、その間手をも休むることなく、羅馬人に産れ付きたる、しなやかなる振をなせり。女子は裳裾もすそかゝぐ。