行儀ぎょうぎ)” の例文
寒い時分で、私は仕事机のわき紫檀したん長火鉢ながひばちを置いていたが、彼女はその向側むこうがわ行儀ぎょうぎよく坐って、両手の指を火鉢のふちへかけている。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そして、みんなが口々くちぐちに、なにかのうたをかわいらしいこえでうたいながら行儀ぎょうぎよく、あかあおむらさき提燈ちょうちんりかざしてあるいてゆきました。
雪の上のおじいさん (新字新仮名) / 小川未明(著)
室殿はちと行儀ぎょうぎがよくないので、かみ衣裳いしょうも常にきちんとしていなければならない御殿住居の夏は余り好むところでないらしい。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてくやしまぎれに、ありもしないことをいろいろとこしらえて、おひめさまが平生へいぜい大臣だいじんのおむすめ似合にあわず、行儀ぎょうぎわるいことをさんざんにならべて
一寸法師 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
いままではあんなに、きちんと行儀ぎょうぎよく飛んでいたのに、こんどは、みんながみんな、霧の中でふざけはじめたのです。
母の前で行儀ぎょうぎをよくしたり、学校の本を復習したりするよりも男の子と遊んで食べたいものを食べているほうがいい。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
ですから、この小さな人たちがじっとお行儀ぎょうぎよくしているところは、見ていてこんないい気持きもちのことはありません。
母の話 (新字新仮名) / アナトール・フランス(著)
自分は行儀ぎょうぎを知らず、作法さほうが分からぬと、自分の弱点を知ったとても、人の前に出て、決しておくすることはない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
かれらはこれを同じようなもったいらしさと、行儀ぎょうぎよさをもって、寺小姓てらこしょう和尚おしょうさんにかしずくようにしていた。
吉之丞は、かたちだけの信徒になっても、吉利支丹の行儀ぎょうぎもしらず、とうおきてを保つことなどは思いもよらない。
呂宋の壺 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
狛犬は後脚を折曲げて行儀ぎょうぎ好く居ずくまり、前の片足を上げて何やら人を招くような形をしていながら、えでもするように角張った口を開いてきばを現し
仮寐の夢 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
食事の態度は行儀ぎょうぎよくつつましかった。少年はたっぷり食べた。「お雑作でがんした」礼もちゃんと言った。
みちのく (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
祠後の小杉しょうさん槍尖そうせんの如く、森然しんぜんとして天を刺す。これをけいすれば、幾多の小碑、行儀ぎょうぎ屏列へいれつするを見る。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
そして戸が少しあいて、行儀ぎょうぎよく帽子ぼうしをとった小さな禿頭はげあたまが、人のいい目つきとおずおずした微笑びしょうと共にあらわれるのだった。「皆さん、今晩は。」とかれはいった。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
商法や行儀ぎょうぎを見習いに来ている子弟は、「親の在所が恋いしゅうて」と何気なく口ずさむうちにも、茅葺かやぶきの家の薄暗い納戸なんどにふせる父母のおもかげしのびつつあったであろう。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
(あれ、貴僧あなた、そんな行儀ぎょうぎのいいことをしていらしってはおめしれます、気味が悪うございますよ、すっぱり裸体はだかになってお洗いなさいまし、私が流して上げましょう。)
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さあみんな、あしをつけて。それで、行儀ぎょうぎただしくやるんだよ。ほら、あっちにえるとしとった家鴨あひるさんに上手じょうずにお辞儀じぎおし。あのかたたれよりもうまれがよくてスペインしゅなのさ。
その態度はもう、中学生だぞといわんばかりで、手には新らしい帽子ぼうしをもっていた。磯吉のほうも見なれぬ鳥打帽とりうちぼうを右手にもち、手織ておじまの着物のひざのところを行儀ぎょうぎよくおさえていた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
が、鼻は行儀ぎょうぎよく唇の上に納まっているだけで、格別それより下へぶら下って来る景色もない。それから一晩寝てあくる日早く眼がさめると内供はまず、第一に、自分の鼻を撫でて見た。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「まだ馬のくつを打ってる。何だか寒いね、君」と圭さんは白い浴衣ゆかたの下で堅くなる。碌さんも同じく白地しろじ単衣ひとええりをかき合せて、だらしのない膝頭ひざがしら行儀ぎょうぎよくそろえる。やがて圭さんが云う。
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「にんじん、笑う時には、行儀ぎょうぎよく、音を立てないで笑っておくれ」
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
右まきの螺旋形らせんけいをつくって、行儀ぎょうぎよくとんでいく噴行艇群だった。
大宇宙遠征隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そのうちに、子供こどもらは、正面しょうめんへずらりとお行儀ぎょうぎよくならんで、兵隊へいたいさんのほうて、バイオリンにわせてうたいはじめました。
少女と老兵士 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それが、如何にも行儀ぎょうぎよく、キチンと座蒲団ざぶとんの上へ坐って、さて、あたりをキョロキョロ見廻しながら、声を低めて、会の用談にとりかかるのでした。
覆面の舞踏者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「その欲望一途いちずな餓鬼のざまは、わが足利の兵も新田の部下も、ひとつもので、行儀ぎょうぎに変りはございませぬ」
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたしはいい境遇きょうぐうの中に育ったわけではないが、兄弟たちの食卓しょくたく行儀ぎょうぎがひどく悪いことは目についた。
「なるほどあんこがついている。お行儀ぎょうぎのわるい金仏かなぶつさまもあればあったものだ。」
和尚さんと小僧 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「ソンキさん、みんな行儀ぎょうぎわるいのよ。あんたももっとらくにすわったら」
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
夜になって、子供たちがまだお行儀ぎょうぎよくテーブルにむかっていたり、低い椅子いすこしかけたりしているころ、オーレ・ルゲイエがやってきます。オーレ・ルゲイエは、静かに静かに階段を上ってきます。
ただぴかぴかと光って、行儀ぎょうぎよく二つがならんでいた。
透明猫 (新字新仮名) / 海野十三(著)
行儀ぎょうぎわるく、火鉢をななめに押出おしだしながら
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
体操たいそうこうになっているだけで、あとはずっとおつ行列ぎょうれつでありました。二郎じろうちゃんは、おしどりが行儀ぎょうぎよくならんでいるので、おかしくなりました。
小さな妹をつれて (新字新仮名) / 小川未明(著)
「おまえ、わたしがまっすぐに歩けるか見てやろうと思っているんだな。よし、この行儀ぎょうぎよくならんだしき石を一つ一つふんで、子どもの寝部屋ねべやまで行けるかどうか、かけをしようか」
さて、このテーブルを中にはさんで、二脚の大型籐椅子とういすが、これもまた整然と、全く対等の位置に向き合い、それに二人の男が、やっぱり人形みたいに行儀ぎょうぎよく、キチンと腰をかけている。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
なんだって、ひめにあんな行儀ぎょうぎわるいまねをさせるのだ。」
一寸法師 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
僭上などと日ごろの行儀ぎょうぎは、知るところでございません。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
母親ははおやは、むすめ裁縫さいほうおしえたり、また行儀ぎょうぎならわしたりしたいとおもったからです。けれどむすめは、それよりか、自分じぶんかってにおどりたかったのであります。
初夏の空で笑う女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「おはなしをしてあげますから……。」と、おかあさんがおっしゃったので、二郎じろうさんは、捕虫網ほちゅうあみをそこにて、太郎たろうさんとお行儀ぎょうぎよくならんで、おかあさんのまえにすわりました。
黒いちょうとお母さん (新字新仮名) / 小川未明(著)
このときたちまち、そのとおい、寂寥せきりょう地平線ちへいせんにあたって、五つのあかいそりが、おなじほどにたがいにへだてをおいて行儀ぎょうぎただしく、しかもすみやかに、文字もんじにかなたをはしっていく姿すがたました。
黒い人と赤いそり (新字新仮名) / 小川未明(著)