蘇生よみがえ)” の例文
薔薇色ばらいろの、朝日の光りが、障子の破れ目から射し込んだ時、女は青い顔をして始めて、蘇生よみがえった思いがした。早速、森に行って見た。
森の暗き夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)
四十年前の春の日に、几帳きちょうのかげで抱かれた時の記憶が、今歴々と蘇生よみがえって来、一瞬にして彼は自分が六七歳の幼童になった気がした。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
俊助は高い天窓てんまどの光のもとに、これらの狂人の一団を見渡した時、またさっきの不快な感じが、力強く蘇生よみがえって来るのを意識した。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
早く見付けて手当てをしたらば、運よく蘇生よみがえったかも知れなかったが、明くる朝までそのまま打っちゃって置いたんだからもう助からねえ。
半七捕物帳:10 広重と河獺 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
小僧は、もの心ついた四つ五つ時分から、親たちに聞いて知っている。大女の小母さんは、娘の時に一度死んで、通夜の三日の真夜中に蘇生よみがえった。
絵本の春 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小屋も大筒も吹飛ふきとばされて、山の形が変ったかと思うほどの有様、後はかえって静寂になって、何時いつの間にやら、四方あたりには虫の声も蘇生よみがえって居ります。
江戸の火術 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「ああようやく、わしの記憶は蘇生よみがえって来た。……ああ、これが、道了塚で勘兵衛と決闘した原因だったのだ。……決闘の結果は私の負けだったが」
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
子供の時分みた景色ほど、山であれ、河であれ、街であれ、やさしくつねに誰のまえにでも蘇生よみがえって来るものはない。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
しばらく休息しているうち、これも旧知である公園主事のそのさんが見える。北海道の札幌と朝夕の温度が同じだというその涼しさに、私達は蘇生よみがえった気がする。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
夕食ゆうめしも食わずに倒れたなり動かずにいた。その時恐るべき日はようやく落ちて、が次第に星の色を濃くした。代助は暗さと涼しさのうちに始めて蘇生よみがえった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
が、半分化石し掛った思想は耆婆扁鵲ぎばへんじゃくが如何に蘇生よみがえらせようと骨を折っても再び息を吹き返すはずがない。
不思議のローマンチックに自分は蘇生よみがえって、またも真昼の暖かいみちを曲りまがってく……、しかし一ぺんとらわれた幻影から、ドウしても私は離れることはきない
菜の花物語 (新字新仮名) / 児玉花外(著)
それに続いてのどが何かにむせるような、それから何物かに強く口をふさがれて、窒息しそうな堪えがたい苦しみの記憶が、ふと、全く思いがけなく彼に蘇生よみがえって来た。
六月 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
そして血糊ちのりの上から、膝の傷口を捲きしめると、彼の精気は再び月光の世界に、はっきりと蘇生よみがえってきたが、同時に、あたりを見廻して、いまし方の、無慚な不覚が
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがてほっという息をいてみると、蘇生よみがえった様にからだが楽になって、女も何時いつしか、もう其処そこには居なかった、洋燈ランプ矢張やはりもとの如くいていて、本が枕許まくらもとにあるばかりだ。
女の膝 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
余「エ、何と仰有る」先生「イヤ此のお夏は一旦死んで、爾して私の与えた新しい生命で蘇生よみがえったのです、死んだお夏は此の顔形で分って居ますが更に、其の蘇生った時の顔を ...
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
笹村は、よく夜更よなかに寂しい下宿の部屋から逃れて、深い眠りに沈んでいる町から町を彷徨さまよい、静かな夜にのみ蘇生よみがえっている、深山の書斎の窓明りを慕うて行ったころのことを思い出していた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
カラリと晴れた青空の下にものみなが動いている町へ出ると蘇生よみがえったように胸が躍って全身の血が勢いよく廻る。早くもまちには夏がみなぎって白く輝く夏帽子が坂の上、下へと汗をき拭き消えて行く。
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
舌鼓したつづみを打ちながら文三が腹立しそうに書物を擲却ほうりだして、腹立しそうに机に靠着もたれかかッて、腹立しそうに頬杖ほおづえき、腹立しそうに何処ともなく凝視みつめて……フトまた起直ッて、蘇生よみがえッたような顔色かおつきをして
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
その詞がお婆さんの耳に蘇生よみがえっていた。
地獄の使 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「オヤ、蘇生よみがえったのかな」
黒猫十三 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
わたしは、いろいろのひとたちの旅行りょこうはなしや、芝居しばいはなしや、音楽おんがくはなしなどをきます。あめや、かぜにいじめられていたわたしは、こうしていま蘇生よみがえっています。
煙突と柳 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あくる日一日は、と、ご悩気のうけと言った形で、摺餌すりえくちばしのあとを、ほんの筋ほどつけたばかり。ただし完全に蘇生よみがえった。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
子供の時分みた風色けしきほど、山であれ河であれ、街であれ、やさしくつねに誰のまえにでも蘇生よみがえって来るものはない。
雷門以北 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
平次と一緒になる前、一二年ここの水茶屋で働いていたお静は、両国へ来ると——往来の人の顔にも両側の店構えにも、いろいろと古い記憶が蘇生よみがえります。
「わしを野中の道了へ連れて行っておくれ。……あそこへ行ったら、わしの記憶が蘇生よみがえるかもしれないから」
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
蘇生よみがえったようにはっきりしたさいの姿を見て、恐ろしい悲劇が一歩遠退とおのいた時のごとくに、胸をでおろした。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ちょうど忘れかかっていたものが記憶に蘇生よみがえってくるような工合に、或は又ほのぼのと夜が明けかかるような塩梅あんばいに、その不思議な物の正体がふいっと分って来たのである。
母を恋うる記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
判然はっきり、それも一言ひとことごとに切なく呼吸いきが切れる様子。ありしがごとき艱難かんなんうちから蘇生よみがえって来た者だということが、ほぼ確かめらるると同時に、吃驚びっくりして
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それでもその日私の気力は、因循いんじゅんらしく見える先生の態度に逆襲を試みるほどに生々いきいきしていた。私は青く蘇生よみがえろうとする大きな自然の中に、先生を誘い出そうとした。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
美しさも、香ばしさも、在りし日のお園と変りません、温かい唇も、軟かい頬も、其の儘のお園が、蘇生よみがえって丈太郎の腕の中に、思いもよらぬ艶かしい媚態を尽すのです。
私は臆病おくびょうな人間が恐怖をこらえて深淵しんえんの底を覗き込むように、「眼鏡のない顔」を数分の間息を凝らして視詰めてから、———新婚旅行の夜の記憶がとたんにあざやかに蘇生よみがえった。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
頼春はこの時気絶して、地に俯向うつむけにたおれていたが、蘇生よみがえって顔を上げた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
美女 あの、桃の露、(見物席の方へ、半ば片袖をおおうて、うつむき飲む)は。(とちいさ呼吸いきす)何という涼しい、さわやいだ——蘇生よみがえったような気がします。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
昔の記憶を語る言葉が互のくちびるから当時を蘇生よみがえらせる便たよりとしてれた。僕は千代子の記憶が、僕よりもはるかにすぐれて、細かいところまであざやかに行き渡っているのに驚ろいた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「この庵寺に住んでいるうち、ツイ眼の前の材木置場を釣場にして、三日に一度、五日に一度、豪勢な行列で殺生に来るあの男を見ると、私の心には、昔の怨みが蘇生よみがえりました」
前世の記憶が、今の私に蘇生よみがえって来るのかも知れない。それともまた、実際の世界でではなく、夢の中で見たのだろうか。夢の中で、これとそっくりの景色を、私は再三見たような心地がする。
母を恋うる記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
しかし彼が道了塚まで辿たどりついたなら、南無妙法蓮華経とられたいしぶみにもたれ、天国の剣を放心したように握り、眼を閉じ、首を傾げ、昔の記憶を蘇生よみがえらせようと、じっと思いに耽っている
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
すでに我身ながら葬り去った身は、ここに片袖とともに蘇生よみがえった。蘇生ると同時に、罪は死である。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
した時の記憶が蘇生よみがえって来たがそれとは全然心持が違ったおよそ大概な盲人は光の方向感だけは持っている故に盲人の視野はほの明るいもので暗黒世界ではないのである佐助は今こそ外界の眼を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「うち捨て置きましても夜の冷気で、蘇生よみがえりますでござります」
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
思い詰めた興奮が去ると、急に悲しみが蘇生よみがえったのでしょう。
さすがに滅入っていた婆さんも、この若い、威勢の可い声に、蘇生よみがえったようになって
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
昔と同じ強さを以て蘇生よみがえって来るのを覚えた。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
お徳の唇にはもう嘲笑が蘇生よみがえります。
私は死んだ者が蘇生よみがえったようになって、うちへ帰りましたが、丁度ちょうど全三月まるみつきったです。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
都鳥もし蘇生よみがえらず、白妙なきものと成らば、大島守を其のまゝに差置さしおかぬぞ、としかと申せ。いや/\待て、必ず誓つて人にはもらすな。——拙道の手に働かせたれば、最早もはそち差許さしゆるす。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
其処そこへ、茶をほうじる、が明けたやうなかおりで、沢は蘇生よみがえつた気がしたのである。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
……肉は取って、村一同冷酒ひやざけを飲んでくらえば、一天たちまち墨を流して、三日の雨が降灌ふりそそぐ。田もはた蘇生よみがえるとあるわい。昔から一度もそのしるしのない事はない。お百合、それだけの事じゃ。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
くの通りの旱魃かんばつ、市内はもとより近郷きんごう隣国りんごくただ炎の中にもだえまする時、希有けう大魚たいぎょおどりましたは、甘露かんろ法雨ほううやがて、禽獣きんじゅう草木そうもくに到るまでも、雨に蘇生よみがえりまする前表ぜんぴょうかとも存じまする。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)