背丈せたけ)” の例文
背丈せたけは、愛子よりも少し高いやうに思つた。だが、顔は見せずじまひで主人の後により添うて向う側の出口から出て行つてしまつた。
蠣フライ (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
子供らは古い時計のかかった茶の間に集まって、そこにある柱のそばへ各自の背丈せたけを比べに行った。次郎のせいの高くなったのにも驚く。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
四という数がいかに面白くない数であるかが判る、三という数の平均美が保たれると、彼はそこに同じ背丈せたけの壺に釣合を見て、据えた。
陶古の女人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
老医師は毎朝早く起きてかうした霜の庭をながめるのが非常に楽しみであつた。小松の高さはそれでも大抵人間の背丈せたけよりは高かつた。
(新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
ヘンリイ・ウイリアムズは、背丈せたけの高い、小綺麗ぎれいな紳士だった。敏捷すばしっこく動く眼と、ロマンティックな顔の所有主だったとある。
浴槽の花嫁 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
そして、舞台ではいとど可憐に思われた小柄な姿も、その黒髪のいただきは、ちょうど高氏の唇をかくすほどな背丈せたけはあった。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
栗の木の株間株間には、刈萱かるかやすすき背丈せたけほども伸びて、毎年秋になると人夫を雇って刈らせるのだったが、その収入もかなりあるようだった。
十五になったばかりの長男の藤作は一年ごとにぐいぐいと背丈せたけがのびて、がっしりとした骨組はうしろから見ると未成年の子供のようではない。
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
源氏の美は今が盛りであると思われた。以前はせて背丈せたけが高いように見えたが、今はちょうどいいほどになっていた。
源氏物語:18 松風 (新字新仮名) / 紫式部(著)
おびははやりの呉絽ごろであろう。ッかけに、きりりとむすんだ立姿たちすがた滝縞たきじま浴衣ゆかたが、いっそ背丈せたけをすっきりせて、さっすだれ片陰かたかげから縁先えんさきた十八むすめ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
背丈せたけ肉付にくづきもわからなければ、店の方でも声ばかりするのでは驚いて、不思議な噂話がパッとひろがらねばならぬ。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
まゆも、顔だちも、はれやかに、背丈せたけなどもすぐれて伸々のびのびとして、若竹のように青やかに、すくすくと、かがみ女の型をぬけて、むしろ反身そりみの立派な恰好かっこうであった。
明治大正美人追憶 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
お豊としては怖ろしいほどの形相ぎょうそうで見つめていると、気のせいか、その笠から洩れる背丈せたけ恰好かっこう、ことに肩つきや、身のそびえ、たしかに覚えのある姿であります。
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
というのは、彼らの背後に、ずっと背丈せたけの高い一人の男が、胸のはだけたシャツ姿で立っており、赤みがかったひげを指でおしたり、ひねったりしていたからである。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
両親の墓へその当時植えた松や杉は、もう大きくなって人の背丈せたけどころではなかろう。兄はもちろん六十を越してる。兄嫁あによめは五十六だ。自分は兄嫁より十しか若くはない。
落穂 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
私と同じくらいの背丈せたけの人間が、これはおかしな言いかたであるが日本にひとりしかいない。
花燭 (新字新仮名) / 太宰治(著)
背丈せたけぐらいの渕が出来ており、夏になると、このへんの子供たちは、よくそこで水をあびる。
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
赤い雨外套あまがいとうを和服の女中の腕に預け、手提てさげだけ腕にかけていたが、この方はしばらく見ないうちに、すっかり背丈せたけが伸び、ぽちゃっとしたところが、均平の体質に似ていた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
文治ぶんじが九つ、自分が六つのとき、父は兄弟を残して江戸へ立ったのである。父が江戸から帰った後、兄弟の背丈せたけが伸びてからは、二人とも毎朝書物を懐中して畑打はたうちに出た。
安井夫人 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
もし予備知識なくして、この人に逢ったらその眼光まなざしといい、面長な顔、背丈せたけ、身のこなし、鼻下の髭さえ除けばあるいはフィリップ殿下と早合点するものがないとも限らない。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
彼は私より背丈せたけは低くかつたけれど体格はがつしりして、私よりも力は強さうに見えた。仕事場からの帰りには必ず私が早い時は彼を待つてゐなければ彼は非常に機嫌きげんが悪かつた。
ある職工の手記 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
土佐では槙山まきのやま郷の字筒越つつごしで、与茂次郎という猟師夜明よあけに一頭の大鹿の通るのを打留うちとめたが、たちまちそのあとから背丈せたけじょうにも余るかと思う老女の、髪赤く両眼鏡のごとくなる者が
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
背丈せたけはせいぜい五尺どまり。身体も痩せていて、体重も十貫か十一貫というところでしょう。しかしこの男はもっともっと肥る素質はあると思います。なんとなくそんな感じがします。
ボロ家の春秋 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
兩親りやうしんおくれし以來いらいびし背丈せたけたれ庇護かげかは、幼稚えうちをりこゝろならひに、つゝしみもなくれまつはりて、鈇石てつせきこゝろうごかせしは、かまへて松野まつのとがならずこゝろのいたらねばなり
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
風采ふうさいもよく、背丈せたけもあり、同役は著流きながしが常なのに、好んで小袴こばかまをはかれました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
余程よほど精巧に出来ていると見え、大地震に会っても、別に狂いも出来ず、現に今でも、人間の背丈せたけ程もある太い鋼鉄針が動いているし、時間時間には教会堂のかねの様な時鐘じしょうが鳴り響くのだ。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
おぎすすきが人の背丈せたけよりも高く生い茂り、草木におく露はまるでしぐれのようにはらはらと降りこぼれているうえに、寺内の草生いたこみちさえどこがどこやらはっきりわからず、その中に
とらねば成ざれど貧乏消光びんばふぐらしの浪人者のうちへは來る者あらじと思へば何處いづこへなりともよめに遣んと思ふにも似ず相應の縁邊えんぺんなければ其儘に背丈せたけのびたをかゝへてをるとさて心配な者でもありとかたる一什を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
しかしこれは、私の背丈せたけがもう昔のままでなくなつてゐるせゐであらう。
木の都 (新字旧仮名) / 織田作之助(著)
みなぎり渡る湯煙りの、やわらかな光線を一分子ぶんしごとに含んで、薄紅うすくれないの暖かに見える奥に、ただよわす黒髪を雲とながして、あらん限りの背丈せたけを、すらりとした女の姿を見た時は、礼儀の、作法さほう
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
背丈せたけびるころちうて、あぎゃん食いたかものじゃろうかなア」
風琴と魚の町 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
父よりは背丈せたけ伸びたり送り来し古ジャンパーをまとひてみれば
遺愛集:02 遺愛集 (新字新仮名) / 島秋人(著)
「いえ、私、本氣ほんきでさうぢやないと申します。私の眼の前に立つてゐたあの姿は、今迄ソーンフィールド莊の邸内では決して私、見かけたものではありません。あの背丈せたけや恰好は私には初めてなのです。」
見ろ毎日々々のらくらと背丈せたけばかり延ばしやがつて
お末の死 (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
「わしが二十四の年やさかいな、今から十六年前や、よいか。二十五まで背丈せたけは伸びるちう其の前の年や。五斗俵は樂に差し上げられるし、女子をなごは三四人……ぢや。其の頃天滿山官林に天狗さんがゐるちうでなア。……」
太政官 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
わが子の背丈せたけのびしかなしみ。
悲しき玩具 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
末子は母さんののこした古い鏡台の前あたりに立って、黒いはかまひもを結んだが、それが背丈せたけの延びた彼女に似合って見えた。
分配 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
このくらいな背丈せたけの人であったろうか、こういう声の人であったろうか——と目もとや髪の先にまで、き母の面影をこころのうちで求めていた。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
中くらいな背丈せたけで、全体から受ける感じが清らかな人である。ほおにかかった髪、かしらつきはその中でも目だって美しい。
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
彫刻家は、わざとらしい質問をあざ笑うように、大きな手で、子供の背丈せたけをはかるようにして見せた。
後の日の童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
が、背丈せたけはすくすくと伸びて、都の少女などには見られないような高さに達していた。腰の周囲に木の皮をまとっただけで、よく発達した胸部を惜し気もなく見せていた。
俊寛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
背丈せたけはヒトミよりすこし高い。お地蔵じぞうさまを青石でこしらえている途中のようなものに見えた。
ふしぎ国探検 (新字新仮名) / 海野十三(著)
なぜなら、背丈せたけのちがいは、男のほうがずっと不利なように変ってしまっていたからである。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
うなるようにいって、背広の人に手をひかれながら、自動車からあらわれたのは、もん羽織はおりにセルのはかまといういでたちの、でっぷりふとった、背丈せたけ人並ひとなみ以上の老人だった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
二、三寸、背丈せたけが高いか低いかに依っても、それだけ、人生観、世界観が違って来るのだ。いわんや、君、男体と女体とでは、そのひどい差はお話にならん。別の世界に住んでいるのだ。
女類 (新字新仮名) / 太宰治(著)
背丈せたけのびゆく子を見つつ
悲しき玩具 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ただし彼の背丈せたけでは寸法がちと足らない。そこで城太郎は、植込みの間から石をころがして来てそれへ乗ってみた。——竹の櫺子れんじにやっと鼻が届く。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今すぐそれが皆さんの背丈せたけに合わないまでも、すこしたって、また取り出してみてくださるなら、きっと「うん、ちょうど、いい」と言ってくださる時もまいりましょう。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
今が十五、六で、背丈せたけが低くふとった、きれいな髪の持ち主で、小袿こうちぎたけと同じほどの髪のすそはふさやかであった。その髪をことさら賞美して撫でまわしている守であった。
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
背丈せたけが五尺五寸ぐらいある、すんなりと美しい線でかこまれた身体を持っていた。そしてととのった容貌ようぼうの持ち主で、ただ先生であるせいか、冷たい感じのする顔であった。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)