耀かがや)” の例文
一家の誰の眼も、にこやかに耀かがやき、床の間に投げ入れた、八重桜やえざくらが重たげなつぼみを、静かに解いていた。まことになごやかな春のよいだった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
大和やまとへの旅に上る必要があったとすれば、それは少なくとも沖縄の島々において、多量多種に産出し、且つ極度に美しく耀かがやかしかった
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
さしも遣る方無くかなしめりし貫一は、その悲をたちどころに抜くべきすべを今覚れり。看々みるみる涙のほほかわけるあたりに、あやしあがれる気有きありて青く耀かがやきぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
それが優しい、褐色の、余り大きいとさえ云いたいような、余りきらきらする潤いが有り過ぎるような目の中から耀かがやいて見える。
『新著百種』は薄命なる才人三唖を暗黒なる生涯に送り出すと同時に天才露伴の『風流仏ふうりゅうぶつ』を開眼して赫灼かくしゃくたる前途を耀かがやかした。
面は火のように、眼は耀かがやくように見えながら涙はぽろりとひざに落ちたり。男はひじのばしてそのくびにかけ、我を忘れたるごとくいだめつ
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
御自分で知っていらっしゃるでしょうか? この頃全体暖く流れているものの中でも特別に耀かがやく一寸したあなたの頭のうなずきがあるのを。
ぶるる、と強く首を振って、瞬間、真面目なひとみを耀かがやかした。そして、一どに醒めたような酒気の名残の底でひそかに思う。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
照明弾の落ちて来る耀かがやきで、ぱッと部屋の明るくなるたびに、私は座蒲団を頭からひっ冠り、寝ている妻の裾へひれ伏した。
ドストエフスキーの作などに描かれているように怒りや憎しみの裏を愛が流れ、争いや呪いのなかに純な善が耀かがやくのである。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
そして楼蘭ろうらんを中心とする一帯の発掘に惨憺さんたんたる辛苦しんくをなめた上に、更に楼蘭を起点とする古代支那路線をたずね、「塩の結晶の耀かがや無涯むがい曠野こうや
『西遊記』の夢 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
今日欧州諸国においてもクルップ砲といい、アームストロングほうといい、甲鉄艦といい、水雷火船といい、ただ一種国光を耀かがやかすの装飾にして
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
きわめて僅かな時間に、眼のまわりにかさがあらわれ、それが顔つきぜんたいに深い陰翳いんえいを与えた。眸子ひとみは大きくなり、きびしい光を帯びて耀かがやいた。
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
女はにも云わずに眼を横に向けた。こぼれ梅を一枚の半襟はんえりおもてに掃き集めた真中まんなかに、明星みょうじょうと見まがうほどの留針とめばり的皪てきれき耀かがやいて、男の眼を射る。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ステラが「仲間」の眼を惹いたのはしかしその船体によつてだけではなく、その名のとほり「星」のやうな船長の一人娘の耀かがやきによつてでもあつた。
水に沈むロメオとユリヤ (新字旧仮名) / 神西清(著)
思わず三吉も喪心した人のように笑った。やがて馬車が出た。沈んだ日光は寒い車の上から彼の眼に映った。林の間は黄に耀かがやいた。彼は眺め、かつ震えた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
これこそ人文世界の薄伽梵ばかぼん仏世尊ぶつせそんの誕生である。かくして耀かがやかしい学芸の創造と興隆が現世に約束される。
蒼白い死の色の漂うなかに鉢植えの雞頭けいとうの花ばかりが燃えさかる生の色をめざましく日光に耀かがやかしている。
母の死 (新字新仮名) / 中勘助(著)
「そうですか。そんならあなたの考えている所を、遠慮なく僕に話して聞かせて貰いたいのですがねえ」純一は大きい涼しい目を耀かがやかして、大村の顔を仰ぎ見た。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
政治しばしばあらたまるといえども、その文運はいぜんたるのみならず、騒乱の際にも、日に増し月に進み、文明を世界に耀かがやかしたるは、ひっきょう、その文学の独立せるがゆえならん。
そうして宅へ帰ったら瓦が二、三枚落ちて壁土が少しこぼれていたが、庭の葉鶏頭はげいとうはおよそ天下に何事もなかったように真紅しんくの葉を紺碧こんぺきの空の光の下に耀かがやかしていたことであった。
烏瓜の花と蛾 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
お銀の目には、以前男のことを話す時見せたような耀かがやきも熱情の影も見られなかった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
更には現在の耀かがやける大衆作家諸君の小説、それ等を検べても解るように、我国には西洋に於ける歴史小説の標準より観察して、歴史小説なるものの水準に達した作品は無いのである。
大衆文芸作法 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
自分の恋しい女が燈火のもとにいて、嬉しそうににこにこしていた時の、何ともいえぬ美しく耀かがやくような現身うつせみ即ちからだそのものの女が、今おもかげに立って来ている、というのである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
ほのおのようにキラキラと照り耀かがやき、その満々と水をたたえた球形の玻璃瓶を貫いて、太陽の光線は一層強烈となり、机の上に置かれた火繩銃の上に、世にも怖ろしいのろいの焦点を作り初めた。
火縄銃 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
だが日本海と格別ちがつたこのふゆ眞中まなかにさへ暖かく明るい大洋も、あのわたしが三十何年まへ山裾の城下まちから、十何里はなれた港へゆく途中、うまれて初めて見た耀かがやかしいばかり綺麗な
地方主義篇:(散文詩) (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
と思うとやがてその輪郭が輝き出して、目も向けられないほど耀かがやいたが、すっと惜しげもなく消えてしまって、葉子は自分のからだが中有ちゅううからどっしり大地におり立ったような感じを受けた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
夢のように彷徨さまよい、また消えようとするとき、二、三分の間、雪の高嶺に、鮮やかな光がって、山の三角的天辺てっぺんが火で洗うように耀かがやく、山は自然の心臓かられたかと思う純鮮血色で一杯に染まる
雪の白峰 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
おそらく心からの微笑がわたしの満面を揺り耀かがやかしていたことと思う。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
此上のない耀かがやきがお目に触れるようにしてくれ。9345
舞台一面、耀かがやく緑の木洩日こもれびあふれている………
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
耀かがやいた未来の外は夢にも想像に浮ぶまい。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
チラチラ耀かがやく黒玉や、真珠母や
光り耀かがやくような街でした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
覆盆子いちごのまみは耀かがやきぬ。
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
鼻のあたり薄痘痕うすいもありて、口を引窄ひきすぼむる癖あり。歯性悪ければとて常にくろめたるが、かかるをや烏羽玉ぬばたまともふべくほとん耀かがやくばかりにうるはし。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
またこんなに美しく照り耀かがやく宝貝が、何故に近世久しい間、これを緒に貫いて頸に掛けられることなしに、過ぎていたかということである。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
炬燵布団にぐったり頬をもたせ、眼の端から良人の仕業を見ていたみや子は、深紅色の珍しい皿の耀かがやきに頭を擡げた。彼女は良人に注意した。
伊太利亜の古陶 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
憂愁をたたえた清らかな眼差まなざしは、細く耀かがやきを帯びて空中を見ていたが、栖方を見ると、つと美しい視線をさけて外方そっぽを向いたまま動かなかった。
微笑 (新字新仮名) / 横光利一(著)
十二けん四面の新しい木の香にかがやいている伽藍がらんには、紫の幕が張りまわされ、開かれた内陣の御扉みとびらには、おびただしい灯りが耀かがやいて見える。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
愛は堅きものをむ。すべての硬性を溶化ようかせねばやまぬ。女の眼に耀かがやく光りは、光りそれみずからのけた姿である。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それは乞食こじきのように哀れな身の上であったり、王姫のように耀かがやかしい生活であったりするが、どっちにしてもそういう空想のほうが現実よりなまなましく
合歓木の蔭 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ただその敵愾の本領に至っては、少しも変ずることなく、いわゆる侵略主義を以て、国権を外に耀かがやかし、弱を撃ちて強に及ぶの策を執りしや、火をるよりも明らけし。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
日が丁度一ぱいに差して来て、七つの杯はいよいよ耀かがやく。七条の銀のへびが泉を繞ってはしる。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
沈んだ日光は、寒い車の上から、私の眼に映った。林の間は黄に耀かがやいた。私は眺め、かつ震えた。小諸の寓居ぐうきょへ帰ってからも、私はそうくわしいことを家のものに話して聞かせなかった。
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
狂乱に近い画家の精神が一種の自爆性を帯びて激しく発散する。いかなる怒濤どとうにもほろぼされまいとする情意の熱がそこにまばゆいばかりの耀かがやきを放って、この海景の気分をまとめようとあせる。
長崎の商人しやうにんとしてゐる LessnerレスナーCohnコーン耀かがや法服ほふふく
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
簪纓しんえいなげうち棄て、耀かがやける家柄をも離れ、木の端、竹のきれのような青道心あおどうしんになって、寂心のもとに走り、其弟子となったのは、これも因縁成熟じょうじゅくして其処に至ったのだと云えば、それまでであるが
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
小野田はそこを出てお島の傍へ来ると、打算的の目を耀かがやかしてたずねた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
流れかね耀かがやきの輪を水つくるそこに野菜を洗へり真青まさを
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)