はね)” の例文
ぶときはそのはねじつうつくしいいろひらめきます。このとりはね綺麗きれいですが、ごゑうつくしく、「ぶっ、ぽう、そう」ときつゞけます。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
この物勢い込んで飛ぶ時、はねが張り切りおり、なかなか博物館で見る死骸を引き伸ばした標品とは、大いに大きさが違うようだった。
彼等は正規的な捕虫網を持っていたが、ある一人は両手を自由にしておくために、四匹の蜻蛉をはねを後に廻して、口でくわえていた。
つぎつぎにしたたる血が、たちまちに、小皿の中央に描いてあった藍絵の胡蝶の胴をひたし、はねをひたし、触角しょくかくをひたしていった。
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
そのうち固い甲羅かうらのやうな黒いはねを開いて、その中から、茶色の薄絹のやうな翅を出して、ブルル・ブルルとふるはせ出しました。
かぶと虫 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
麦藁の花魁おいらんがあかい袂を軽くなびかせて、紙細工の蝶のはねがひらひらと白くもつれ合っているのも、のどかな春らしい影を作っていた。
半七捕物帳:08 帯取りの池 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
蝙蝠のはねの黒色はすすのやうに古び、強く触ればもろく落ちるかと見えながら、涌子がそれを自分の居間の主柱おもばしらの上方に留め付けると
蝙蝠 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
はねを振ったりしている微妙な運動を見ていたが、今度は追いもしなかったのに、ふと一疋が飛んだと思うと、もう一疋の背中に下りた。
九月一日 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
色も鋼鉄のやうな光りをもつてゐて、真黒といふよりは青光りのする美しさである。はねも日の光を受けると紫色に輝いて美しい。
ジガ蜂 (新字旧仮名) / 島木健作(著)
よく飛ぶ鳥は足が弱く、よく走る鳥ははねが小さい。たくみにおよぐものはに登りえず、たくみに枝を渡るものは地に穴をうがちえない。
自然界の虚偽 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
二人はぞっとして振返って見ると、鴉は二つのはねをひろげ、ちょっと身を落して、すぐにまた、遠方の空に向ってのように飛び去った。
(新字新仮名) / 魯迅(著)
そうは言っても純情なすみ子は揚葉の蝶のようなその厚ぼったい愛のはねで、年少の私の多感の心をおおいつくそうとするような時もあった。
光り合ういのち (新字新仮名) / 倉田百三(著)
ギリシャ神話にはねの生えた靴を穿いている神様があります。西遊記の孫悟空そんごくう觔斗雲きんとうんに乗って一瞬に千里を走るのです。速度の夢ですね。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
散りしいた木の葉にまじってはねのはえたいたやの種子が落ちていた。山やまがありったけの風を吹きつくしたかのようにけさは静かである。
島守 (新字新仮名) / 中勘助(著)
羊歯は若緑のささ波を立て、夏あかねがはねをきらめかせて、静かに回遊する。日はこの浅い窪地に満ち溢れて、緩やかにかげろうを燃やす。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
舌出人形の赤い舌を引き拔き、黒い揚羽蝶あげははねをむしりちらした心はまたリイダアの版畫の新らしい手觸てざはりを知るやうになつた。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
その優しい膝の花を眺めていると、かれの想像は、ふッとはねが生えたように飛んで、ふたりの可愛らしい少女をとらえてくる。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
魔鳥のはねのような奇怪なかたちをした雲が飛んでいたが、すぐ雨になって私の住んでいる茗荷谷みょうがだにの谷間を掻き消そうとでもするように降って来た。
変災序記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
外に出ようとするカリカリ嚼る音をたててみんなをおどろかしたこともたぶんあったろうが——どんな美しくはねある生命が
羽目は黒いが、永年の風雨に荒廃し、黒さも薄墨色にぼんやりしたところへ、緑っぽく細かいかびが、蛾のはねの粉を撒いたように滲みついていた。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
墓前を埋めつくした真白な百合の花弁の上に、天鵞絨ビロードの艶を帯びた大黒揚羽蝶が、はねを休めて、息づいておった。…………
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
山下の村人に山の名を聞くと、あれが蝶ヶ岳で、三、四月のころ雪が山のはざまに、白蝶のはねを延しているように消え残るので、そう言いますという。
梓川の上流 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
はねに付いている斑紋が、とりわけ小一郎には奇妙に見えた。普通の蝶の斑紋ではない。それは地図のような斑紋である。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
胡蝶 (涙をき拭き)……あたし……あたし、……蝶々のはねで、……髪かざりを作ったの。(またおいおい泣き出す)
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
いわば彼女の殉情と文学的情熱とは、現実の蜘蛛くもの巣にかかってもだえている、美しい弱いちょうはねのようなものであった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そして、その怒りはますますはげしくなり、その闘いもますます急になったが、間もなく雪のような毛がばらばらに落ちて、はねを垂れて逃げていった。
王成 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
雄のささきりは上の方の青い葉と茎の間に、逆さになってとまり、はね顫慄せんりつさせ乍ら雌を呼んでいた。風のない、静かな曇日の小さなラブ・シイン。
よく見ると、それにはたらいのような眼玉が二つ、クルクルと動いていた。畳一枚ぐらいもあるようなはねがプルンプルンと顫動せんどうしていた。物凄い怪物だッ!
(新字新仮名) / 海野十三(著)
中には暗紅色の地に赤筋の通つたはねや、黒い輪のついた真青な翅や、オレンヂ色のまだらのある真黄色な翅や、さては又、金色に白い縁をとつた翅がある。
そのうちに、十ぶん、みつをってしまったので、ひらひらとおもそうに、はねをふって垣根かきねえて、まぶしい、そらのかなたへ、んでいってしまいました。
黒いちょうとお母さん (新字新仮名) / 小川未明(著)
けれども、こんな海苔巻のようなものが夏になると、あの透明とうめいはねをしたになるのかと想像すると、なんだか可愛かわいらしい気もしないことはありません。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
公人といたしましてははねを並べるとお言いになりますような価値もない私を、ここまでお引き立てくださいました御好意を忘れるものでございませんが
源氏物語:29 行幸 (新字新仮名) / 紫式部(著)
あるとき、そこへもりはうから、とぼとぼと腹這はらばふばかりに一ぴきのかな/\があるいてきました。はねなどはもうぼろぼろになつてべるどころではありません。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
わがはちやうど蝗虫いなごのやうだ、こゝよ、かしこよと跳回はねまはる、うなつてあるく、また或時あるとき色入いろいりはねひろげて、ちひさなくびきとほつて、からところをみせもする。
蝶ははねの美に先ず目をかれるものだけに——またその髭がそう著しいものでもないだけに、これに著眼することが、いささか特異な観察になるのである。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
そこへはねの白いちょうがいちはやく訪れて来て、ひらひらと羽ばたいて、花にいたり花を離れたりして、いつまでも花のあたりを去りかねて飛び廻っている。
普通ふつう中学校などにそなけてある顕微鏡けんびきょうは、拡大度かくだいどが六百ばい乃至ないし八百倍ぐらいまでですから、ちょうはね鱗片りんぺん馬鈴薯ばれいしょ澱粉粒でんぷんりゅうなどはじつにはっきり見えますが
手紙 三 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
夜に向かった窓、その窓の外で、紅い眼を妖しくかがやかせて、彼女は、まだはねをふるわせつづけている……
非情な男 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
隙間なく水の面を被っている、彼らのかさなりあったはねが、光にちぢれて油のような光彩を流しているのだ。そこが、産卵を終わった彼らの墓場だったのだ。
桜の樹の下には (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
私は夕方、青田の中のみちを横切って、八幡川の堤の方へ降りて行った。浅い流れの小川であったが、水は澄んでいて、岩の上には黒とんぼがはねを休めていた。
廃墟から (新字新仮名) / 原民喜(著)
神名をラプシヌプルクル(はねの生えている魔力ある神)と称せられ、大蛇に翼の生えた姿に考えられている。
えぞおばけ列伝 (新字新仮名) / 作者不詳(著)
はねまで厚くて不透明で茶褐色である事、胴体が割に長くて頭の小さい事などが彫刻にいい。ミンミンは此に比べると豪華で、美麗で、技巧的で、上等に見える。
蝉の美と造型 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
仰向あおむけになって鋼線はりがねのような脚を伸したり縮めたりして藻掻もがさまは命の薄れるもののように見えた。しばらくするとしかしそれはまた器用にはねを使って起きかえった。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
べつたりと吸ひついたやうにランプの笠の上へはねを押しつけてぢつとして居る一種重苦しい形。それが、急に狂気の発作のやうに荒々しくその重い翅を働かす有様。
彼女は、これ等の文句を頭の中に、くりかへしながら、目の前に孔雀のはねのきらびやかな蔭を見た。
幸福への道 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
こんどのシャツには蝶々のはねのような大きいえりがついていて、その襟を、夏の開襟かいきんシャツの襟を背広の上衣の襟の外側に出してかぶせているのと、そっくり同じ様式で
おしゃれ童子 (新字新仮名) / 太宰治(著)
蜂は必死にはねを鳴らしながら、無二無三に敵をそうとした。花粉はその翅にあおられて、紛々と日の光に舞い上った。が、蜘蛛はどうしても、噛みついた口を離さなかった。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
神たちはおおよそ飛んで歩くものとみえて、西洋の神々の背にははねが生えていたり、東洋の神たちはへんな図案的な雲に乗っている。いずれも飛ぶということの象徴である。
東奥異聞 (新字新仮名) / 佐々木喜善(著)
金のはねをした甲虫というか、蜻蛉とんぼというか、まあそういったもの——醜いと同時に美しくて——とにかく他のどんなものよりも、恐しい、大きな一種の昆虫に似ていました。
曇って風静まれば草の花ちょうはねのかえって色あざやかに浮立ちほりの水には城市の影沈んで動かず池の水みぞの水雨水のたまりさえことごとく鏡となって物の影を映すもこの時節である。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)