うらやま)” の例文
「そうだろうそうだろう、自分の想像だが、大活躍しとるらしいな、うらやましいよ、じっさい、そのうち家へ遊びに来んか、じゃあ失敬!」
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
として笑い直せたのです。然し私は変にそれが云えなかったのです。そして健康な感情の均整をいつも失わないOをうらやましく思いました。
橡の花 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
自我の利欲に目のくらむ必要がある。少くとも古来より聖賢の教えた道をないがしろにする必要がある。生活難をうたえる人よ。私は諸君がうらやましい。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
単に金持がうらやましいんじゃない。形は違うが、一つああいう風の事業をやろうと云うのを見当としてそんな方面にも走った事がある。
予が半生の懺悔 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
従妹いとこたちがどの様にうらやましがるだらう、折角美事に出来て居るものだから惜しいけれど是非二三本はいて御馳走ごちそうせねばなるまいなどと。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
住むにも、食うにも——昨夜ゆうべは城のここかしこで、早い蛙がもう鳴いた、歌を唄ってる虫けらが、およそうらやましい、と云った場合。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのうちにも入道の日常の修行を見ていると、世の栄華も離れ、真理の探究にいそしむ生活の底知れぬ深さに、うらやましさを抱くのであった。
澤は逃げるように、視線をそらすと、そこには老犬が疲れた形で長々と寝そべっていた。ふと、畜類の身の上がうらやましく思われた。
九月一日 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
東儀与力は、自分より若い羅門塔十郎らもんとうじゅうろうが、そんな自由な境遇にあって、大名の信望までかち得ている身分をうらやましいものに思った。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「まア! 何云つてるのよ。何がうらやましいの? こんな暮しの何処が羨しいの? あなたは次々に云ふ事が変つてゆく人なのね?」
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
それでもその絵具をぬると、下手な絵さえがなんだか見ちがえるように美しく見えるのです。僕はいつでもそれをうらやましいと思っていました。
一房の葡萄 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
晴れ着の背に送られた蕃婦のうらやましそうな視線を意識しながら、妻君は急ぎの脚をふりむきもしないで、うわついた調子に答える。
霧の蕃社 (新字新仮名) / 中村地平(著)
海鼠なまこの氷ったような他人にかかるよりは、うらやましがられて華麗はなやかに暮れては明ける実の娘の月日に添うて墓に入るのが順路である。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
また当時の民間では、七重の衣という言葉さえうらやましい程のものであっただろうから、こういう云い方も伝わっているのである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
私たちはうらやましいので、はやし立てゝ見送りました。女の子たちはうれしさうに、手を挙げたり、おじぎをして出て行きました。
先生と生徒 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
浜子のいる時分、あんなにうらやましく見えた新次が今ではもう自分と同じ継子だと思うと、何か小気味よかったのでしょうか。
アド・バルーン (新字新仮名) / 織田作之助(著)
しかも、そのあいだ、はにかみ屋の田舎娘たちはおずおずしてうしろのほうにかくれ、彼のすぐれた上品さや応対ぶりをうらやましがっていたのである。
しかし二人の侍は、こんな卑しい木樵きこりなどに、まんまと鼻をあかされたのですから、うらやましいのと、ねたましいのとで、腹が立って仕方がありません。
犬と笛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
私を呼んでいるのではないけれども、いまのあの子に泣きながらしたわれているその「おねえちゃん」をうらやましく思うのだ。
女生徒 (新字新仮名) / 太宰治(著)
新平はもう寺を自分のものにしたようなつもりで、大鉈おおなた一打ひとうちこしにぶちんだだけで、うらやましがる若者どもを尻目しりめにかけながら山の寺へ出かけて行った。
鬼退治 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
「お許婚の方をお連れになり、敵討の旅枕、ホ、ホ、ホ、お芝居のようで、いっそおうらやましゅうございますこと……」
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「見合い」の件があることをおもんぱかって、博多の袋帯に暑苦しさをこらえながら、悦子と大して変らないような子供っぽい簡単服を着ている妙子をうらやましがった。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
うらやましいはこの絵すがたじゃ。たとえ此の身が老いさらばう時が来ても描かれたすがたに、変りはないのだ——」
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
……故郷の山の中で一生をちぎり合ったひとと二人っきりで瓜を作る。……いいな。うらやましい生活だ。幸福な余生だ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
何が笑うべきものか、何が憎むに値するものか、一切知らぬ上﨟じょうろうには、唯常と変った皆の姿が、うらやましく思われた。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
どんな階級の人にも、一年に二週間か三週間かの休暇がとれるというと、日本では無条件にうらやましがる人が多い。
日本のこころ (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
彼はみあげを短く刈つて、女のうらやましがるほどの、癖のない、たつぷりした長い髪を、いつも油で後ろへ撫であげ、いかに田舎ゐなかの家がゆつたりした財産家で
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
武「酒家さけのみは妙なものだな、酒屋の前を通ってぷーんと酒のにおいが致すと飲みくなる、わしも同じくごくすきだが、貴様が飲んでる処を見ると何となくうらやましくなる」
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そして、落胆がつかりして、悲観してゐる欣之介に対してもむしろ「君などは身体がいゝんだから、これからだつて何をしようとも好きだ。」と云つてうらやましがつてゐた。
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
「子供が四人はうらやましいなあ。動物園の獅子さえ子を生むそうだから僕のところも京都へ越して来ようか知ら」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「そこへ行くと、堅気さんの女はうらやましいねえ。親がきめてくれる、生涯ひとりの男を持って、何も迷わずに子供をもうけて、その子供の世話になって死んで行く」
老妓抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
このとおり、何でもない場面を描いてあるのだが、伯爵としては、この二人の気楽さと法悦にひたっていることが非常にうらやましく、そして心の慰めとなるのだった。
今まで、美しいと思った御自慢の御器量も、うらやましいと思った華麗はで御風俗おみなりも、奥様の身に附いたものは一切卑す気に成りました。怒の情は今までの心を振い落す。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それで日本人の考えに文学というものはまことに気楽なもののように思われている。山に引っ込んで文筆に従事するなどは実にうらやましいことのように考えられている。
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
ただしなびて居るだけである……。彼は太鼓のひびきに耳を傾けて、その音の源の周囲をとりかこんで居るであらう元気のいい若者たちを、うらやましく眼前に描き出した。
ぼくはこんなにテキパキあなたに話ができる川北氏がうらやましかった。ぼくには、悔恨かいこん憧憬どうけいしかない。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
そして鶴嘴つるはしのさきがチラッ、チラッと青白く光って、手元が見えなくなるまで、働かされた。近所に建っている監獄で働いている囚人の方を、皆はかえってうらやましがった。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
「何うだ、全盛だろう。」と、一寸ちょっと得意そうな顔をした。そして譲吉を可なりにうらやましがらせた。
大島が出来る話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
彼女が彼と屡々しばしば銀座を歩いて居る所を人々は見たのです。又、或る大政治家の息子で文学好きな青年は、度々たびたび彼女と共に劇場に姿を現わして、多くの人々をうらやましがらせました。
彼が殺したか (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
田舎いなかでの御生活は、どこやら不如意ふにょいなようでいて、充実されたものであろうと、おうらやましくぞんじます。あなたのお体にもよし、御家庭にもしみじみとした味の出た事と存じます。
平塚明子(らいてう) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
腕まである長い手袋をはめて、頭は頂の辺が薄くなっているので、日が照ると手拭てぬぐいを乗せるのでした。西洋婦人の帽子がうらやましいといわれました。そして小さな草まで抜かれます。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
うらやましがられる為に在る事を自ら意識している様な男性女性に会う事もあるが、其とても活世間という一つの活舞台の中では、おのずからきた事情にとりまかれて、壁上にかかり
人の首 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
もし地をえて、同じ詩を日本人が書き、これを日本の新聞か雑誌かに掲げたなら、如何いかなる非難を受けるかと思えば、僕はかえって隣邦米人の心持の広きをうらやましく思うのである。
真の愛国心 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「おうらやましいお手の内で御座いました。お蔭様でこの街道の難儀がなくなりまして……」
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
続いてまた二ひき、同じようなのがはりに来た。少年はあせるような緊張した顔になって、うらやましげに、また少しは自分の鉤に何も来ぬのを悲しむような心を蔽いきれずに自分の方を見た。
蘆声 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
銀子は袖かき合はせて傾聴しつ「——梅子さん、貴嬢あなたほんとに幸福ネ——わたしうらやましいワ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「あの泥坊がうらやましい」二人の間にこんな言葉がかわされる程、其頃そのころ窮迫きゅうはくしていた。
二銭銅貨 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
私は時々立つて障子を開けて、向ひ側の陽のよくあたる明るい部屋部屋を上から下まで、うらやましさうに眺めやつた。広い縁側の長椅子の上に長々と横になつてゐる人間たちを眺めやつた。
赤蛙 (新字旧仮名) / 島木健作(著)
江戸えどからている小供こどもはそれがうらやましくてたまらなかったものでございましょう、自分じぶんではおよげもせぬのに、女中じょちゅう不在るすおり衣服きものいで、ふか水溜みずたまりひとつにんだからたまりませぬ。
藤村も宗祇そうぎや芭蕉と同じように自庵では死なないで、ずっと広い世界にはてしない旅をつづけている、死んで永遠に生きるのである。それをおもえばよい死かたをしたものと、うらやましくもある。