祖母ばあ)” の例文
夕飯ゆうはんのあとは、お祖父じいさん、お祖母ばあさん、少年しょうねんの三にんが、いろりのはたでえだ松葉まつばをたき、毎晩まいばんのようにたのしくおはなしをしました。
おかまの唄 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「お京さん、いきなり内の祖母ばあさんの背中を一つトンとたたいたと思うと、鉄鍋てつなべふたを取ってのぞいたっけ、いきおいのよくない湯気が上る。」
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ああ、お祖母ばあさんは先刻さっき穴へ入って了ったが、もう何時迄いつまで待ても帰って来ぬのだと思うと、急に私は悲しくなってシクシク泣出した。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「恋しいでしょう。私は御所の陛下よりも中宮様よりもお祖母ばあ様が好きなんだ。いらっしゃらなくなったら私は悲しいでしょうよ」
源氏物語:41 御法 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ワーニャ伯父さんはふさぎの虫にとりつかれてめそめそしてるし、お祖母ばあさんもあのとおり、それから、あなたのままおっ母さん……
おやおや、思ったとはまるで違う赤ちゃんだよ! この子は母方のお祖母ばあさんに似るはずだったのに、そしてその方がよかったのにさ。
ちようどいらしつてゐたお祖母ばあさまは、かうおつしやりながら、お乳をいたゞいてゐるすゞちやんの、黒い髪の毛をおなでになりました。
ぽつぽのお手帳 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
「つまりほら、家のお祖父ぢいさんはあんなに若かつたのだとか家のお祖母ばあさんはあんなに美しかつたのだと話される時が来ると云ふんだ。」
静物 (新字旧仮名) / 十一谷義三郎(著)
あの子は誰にでも可愛がられるたちやさかえ。御主人にも信用がありますけれど、お祖母ばあさんという人に、大変に気に入られているんです。
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ただ君のお祖母ばあさんのオノリイヌみたいに、「こうだよ」とか、「こうしてやろう」なんていわないでくれたまえ。僕あ、それが嫌いさ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
ずっと前、日本に帰って死んだお祖母ばあさんが夢に出てきて、わたしの手をいてくれ、「これから坂本さんのお宅に行くんだよ」と言います。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
その中で甲斐々々かいがいしく立ち働らいてゐる人影が、お母さんやお祖母ばあさんや若い女中だといふことにさへ咄嗟とっさには気がつかなかつたさうです。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
彼のアダムのお祖母ばあさん流のへまなやり方をもって、彼自身と彼の子孫とはこの世ではうだつがあがらないようにできている。
かみいととはお祖母ばあさんがくださる、ほねたけうら竹籔たけやぶからぢいやがつてれる、なにもかもおうちにあるものひました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
お前たちにも一遍日本のお祖父じいさんお祖母ばあさんをわせてやりたいなあということで、急に日本へ帰ることになったのです。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
そんならいゝけれど、これからだつてお祖母ばあさんが何時も云つて聞かすやうに、芳公に悪い事をするんぢやありませんよ。
白痴の母 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
お母様は、「それで思い出しました。亀井戸かめいどの葛餅屋は暖簾のれんに川崎屋と染めてありました。柔いからお祖母ばあ様も召上れ。」
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
私はそれから少し経つてからある日曜に寺町の大安寺だいあんじへお祖母ばあさんのお墓参りをしました時に楠さんを訪ねて行きました。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
医者はさじを投げたようだった。祖父じいさんと祖母ばあさんとはそのわきにしょんぼりと座ってただ黙々としていた。私は泣いた。
満蔵はお祖母ばあさんが餅に賛成だという。姉はお祖母さんは稲を刈らない人だから、裁決の数にゃ入れられないという。
隣の嫁 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「ほら、私の髪の毛には電気があるでせう、そしてうちのお祖母ばあさんのおなかには瓦斯がすが一ぱい溜つてるでせう。ね……」
祖父じいさんとお祖母ばあさんはもう人生の仕事を一通り終って静かに余生をたのしむばかりである。訪ねて来る人達にも荒川さんのような御隠居さんが多い。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
小さい者が大きくなるとき、年とつた者はこの世からほろびてゆく。栄蔵のお祖父ぢいさん、お祖母ばあさんは死んでしまつた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
「お祖母ばあ様。私は東京に行って謡いを稽古して来ました。御退屈なら伯父が帰るまでに一ツ謡って見ましょうか」
謡曲黒白談 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「おらほめられるわきゃねえよ。うち祖母ばあさが後生願えで、お前が可哀そうだからちゅうんで、おらに世話あさしてるだよ。おらが知ったこっじゃねえ。」
特殊部落の犯罪 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「お祖母ばあ、どうして仁左におらなんだん? おばあが仁左におったら、うちらはあんな大けな家の子じゃのに」
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
ノルマンディ海岸のバルベックに少年がはじめてお祖母ばあさんと一しょに到着した晩のことである。彼はグランド・ホテルに泊る。彼は自分の部屋にはいる。
旅の絵 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
いつだったか父母ちちははが旅中お祖母ばあ様とお留守居の御褒美ごほうびに西洋木馬を買っていただいたのもその家であった。
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
もしお祖母ばあ様ののであった鼠色ねずみいろのキレにを移すならば、緑色だった空はたちまち暗くなって雨が降って来る。
少年・春 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
「お祖母ばあさんがぼけはったのはあれからでしたな」姉は声を少しひそませて意味のこもった眼を兄に向けた。
城のある町にて (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
私は、ブリタニイのカルナク——あの「石の兵士」に近い村で、お祖母ばあさん一人の手で育てられたのです。
踊る地平線:11 白い謝肉祭 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
それから貴方に、お祖母ばあさまの事を申し上げましょう。あの方には、まだ昔の夢が失われてはおりません。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
自分たちだけで作り出すことはできないのか。昔のお祖母ばあさんたちのすそにすがりつきに行かなくちゃならないのか。どうだい、自分たちだけで歩いてみたまえ。
「みよ子はどうしてぢつとしてをるのぢや、早うりて来んと、又お祖母ばああんに叱られるぢやないか?」
父の帰宅 (新字旧仮名) / 小寺菊子(著)
それとも駈落かけおちでもしたのか、そんなことはいっさい判らないのですが、その小僧の祖母ばあさんという人が井戸屋へ押掛けて来て、自分の大事の孫を返してくれという。
経帷子の秘密 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
鳴海の奴は、相変らずやって来ては、頭の悪いお祖母ばあさんのような世話を焼いたり、忠言を繰返した。
大脳手術 (新字新仮名) / 海野十三(著)
もっとも際立っているのは、一郎君のお祖母ばあさんだ。あの方はまったく一度も害をこうむっていない。
暗黒星 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「あなたにはどこかにこわいようなところがあるのね、亡くなったお祖母ばあさまに似たのかしら、——」
合歓木の蔭 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
私にも母にも縁のないお祖母ばあさんだけれどたった一人の義父の母だったし、田舎でさなだ帯の工場に通っているこのお祖母さんが、キトクだと云うことは可哀想だった。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
「ほんとになあ、お母さんが生きてゐなさつたらどんなにか仕合せぢやつたらうに、およしさんはみめよしで、好い人でなあ、せめてお祖母ばあさんでござらつしやれば……。」
ある職工の手記 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
田舍のお祖母ばあさんがね、大變私のことを心配してるのですつて、そしてね、そんな東京なんぞにゐるから病氣になぞなるんだつていつてね、來い來いつていつて來ますからね
道:――ある妻の手紙―― (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
祖父ぢいさんやお祖母ばあさんが、たまにゆつくりお守をさせてくれつていふんだね。わしも孫の顔を早く見たいが、なにしろ、あの息子が嫁を貰ふまでにや、まだ大分暇がかかる。
五月晴れ (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
『奈緒美』と云う名はお祖母ばあさんが附けてくれたんで、そのお祖母さんは鹿鳴館ろくめいかん時代にダンスをやったハイカラな人だったと云うんですが、何処まで本当だか分りゃしません。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
巌谷小波いわやさざなみ君のお伽話とぎばなしもない時代に生れたので、お祖母ばあさまがおよめ入の時に持って来られたと云う百人一首やら、お祖父じいさまが義太夫を語られた時の記念に残っている浄瑠璃本じょうるりぼんやら
サフラン (新字新仮名) / 森鴎外(著)
祖父ぢい祖母ばあも四五年前に死んで、お定を頭に男児二人、家族といつては其丈で、長男の定吉は、年こそまだ十七であるけれども、身体から働振から、もう立派に一人ひとり前の若者である。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
れはりながらげてたのではい、めし掻込かつこんでおもてやうとするとお祖母ばあさんがおくといふ、留守居るすゐをしてるうちのさわぎだらう、本當ほんたうらなかつたのだからねと
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
土器色かわらけいろになった、お祖母ばあさんの時代に買ったのを取出してチョク/\しめるんでしょう、実に面白うげす……此のうちあんころ餅が旨いからわたくしは七つ食べましたら少し溜飲りゅういんこたえました
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
祖母ばあさんが築山つきやまに座って、祖父じいさんに小言をいわれている。早く行ってやれ。」
「悲しければ大人だって泣かずにおらるるものか」と母親は子供の頭をでさすった、「そうじゃろう?——これがかなしゅうなかろうか、祖父じいさん祖母ばあさんの云う通りにしとったら、 ...
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
お二人がお寝みになるこの寝台では、お祖父じいさんもお祖母ばあさんも、みな安らかに最後の息を引き取ったこと。もし牛乳がお入用ならば、毎朝一立アン・リットルずつ扉のそとへ置いとくつもりであること。