狐火きつねび)” の例文
一昨日おとついばんよいの口に、その松のうらおもてに、ちらちらともしびえたのを、海浜かいひんの別荘で花火をくのだといい、いや狐火きつねびだともいった。
星あかり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
沼は絵にある狐火きつねびの形で一方の岸は丸く、反対の岸は焔の様な三つの深いくびれになって、そこに水銀の様に重い水をたたえています。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
この曲の中の「愛の悩みの歌」と「狐火きつねびの歌」をコロムビアのスペルヴィアの歌ったのは手に入って非常に良いものだ(J五四九〇)。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
ひながら、とうさんは蝙蝠かうもりと一しよになつてあるいたものです。どうかすると狐火きつねびといふものがえるのも、むら夕方ゆふがたでした。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
備前のチュウコとは空中に見る怪火にして、他地方の狐火きつねびたまなどを総称した名称である。その原因は狐に帰するからチュウコという。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
まるで竹童の手から狐火きつねびがふりだされるようだったが、いつもの頓智とんちず、蛾次郎がふところにある水性すいせいのふせぎ独楽ごまに気がつかず、ただ
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
白粉花おしろいばな夜中よなかに表をたゝくから、雨戸あまどを明けてふと見れば、墓場の上の狐火きつねびか、暗闇くらがりのなかにおまへの眼が光る。噫、おしろい、おしろい、よごれたよる白粉花おしろいばな
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
公爵の子供の時に見たという狐火きつねび(will-o'-the-wisp)の話に興味をもったりした。
レーリー卿(Lord Rayleigh) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その替りの外題げだいは「優曇華浮木亀山うどんげうききのかめやま」の通しで、きりに「本朝廿四孝」の十種香から狐火きつねびをつけた。
半七捕物帳:38 人形使い (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
人は力強くなり、真に笑うことができる。私は確乎かっこたる信念を持っている。司教さん、人間の不死というのは一つの狐火きつねびにすぎない。まことに結構な約束だ! それを信ずるもまたいいでしょう。
草をかくれたり出たりするのは、やさしい狐火きつねびのように思われました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
狐火きつねびに迷はされて、沼地に踏み入らうとも
○ 狐火きつねび
狐火きつねび
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
一昨日をとつひばんよひくちに、まつのうらおもてに、ちら/\ともしびえたのを、海濱かいひん別莊べつさう花火はなびくのだといひ、いや狐火きつねびだともいつた。
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
神谷の言葉に彼方かなたながめると、いかにも、森の中の怪屋のあたりとおぼしく、一団の火焔かえんが、大きな狐火きつねびのようにメラメラと燃えている。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
むらひとはれて、とうさんはおうちまへからそのチラ/\とえるあを狐火きつねびとほやまむかふのはうのぞんだこともありました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
世間には狐火きつねび、鬼火と同じく、古井の中より青火を発することがある。その例は、先年発行の『毎日新聞』に出ていた。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
さかずきを持ちながら、三人がひとしく空をふりあおぐと、こはなに? 狐火きつねびのような一怪焔かいえんが、ボーッとうなりを立てつつ、頭の上へ落ちてくるではないか。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やさしい狐火きつねびのように思われました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
はなまるい、ひたひひろい、くちおほきい、……かほを、しかいやいろえたので、暗夜やみました。……坊主ばうず狐火きつねびだ、とつたんです。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
つぎに仮怪とは、これに物理的妖怪と心理的妖怪の二種ありて、物理的妖怪とは狐火きつねび、鬼火の類をいい、心理的妖怪とは幽霊、狐きの類を申します。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
とうさんは子供こどもで、なんにもりませんでしたが、あのあをうつくしい不思議ふしぎ狐火きつねびゆめのやうにおもひました。とうさんのうまれたところは、それほどふかやまなかでした。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
それがふもとから見ると、狐火きつねびのように美しい。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よしこことても武蔵野の草に花咲く名所とて、ひさしの霜も薄化粧、夜半よわすごさも狐火きつねびに溶けて、なさけの露となりやせん。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まず第一種の例を挙ぐるに、狐火きつねび鬼火おにび蜃気楼しんきろう、その他越後の七不思議とか称するの類にして、物理的または化学的の変化作用より生ずるものをいう。
妖怪玄談 (新字新仮名) / 井上円了(著)
彼の心は何年となく思出しもしなかった遠い山のかなたに狐火きつねびの燃える子供の時の空の方へ帰って行った。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
野火、狐火きつねび、鬼火、天狗火てんぐび等、種々の怪火かいかある中に、大和国磯城しき郡纏向村近傍に蜘蛛火くもびと名づくる怪火ある由。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
という、ななめに見える市場の裏羽目に添って、紅蓼べにたでと、露草の枯れがれに咲いて残ったのが、どちらがその狐火きつねび小提灯こじょうちんだか、濡々ぬれぬれともれて、尾花にそよいで……それ動いて行く。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夕方にでもなると街道から遠く望まれる恵那山の裾野すそのの方によく火が燃えて、それが狐火きつねびだと村のものは言ったものだが、そんな街道に蝙蝠こうもりなぞの飛び回る空の下にも子供がいた。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
まず物理的妖怪中、人の最も多く奇怪とするものは怪火かいかである。怪火とは、竜灯、鬼火、狐火きつねび不知火しらぬいのごとき、火のあるまじき所に火光を見る類を申すのじゃ。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
臺所だいどころより富士ふじゆ。つゆ木槿むくげほのあかう、茅屋かややのあちこちくろなかに、狐火きつねびかとばかりともしびいろしづみて、池子いけごふもときぬたをりから、いもがりくらん遠畦とほあぜ在郷唄ざいがううたぼんぎてよりあはれささらにまされり。
逗子だより (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
奥山で狐火きつねびの燃える話などをした、そういう楽しい炉辺もあった。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
このくらいの働きは狐にあるに相違なかろうが、世に狐火きつねびと称するものは、狐が人骨を口に挟みて息気を吐くときに、火となりて現るとの説あれども、これははなはだ疑わしい。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
……けたたましく、可哀あわれに、心悲うらがなしい、とびにとらるると聞く果敢はかない蝉の声に、俊吉は肝を冷しつつ、※々ぱっぱっおもてを照らす狐火きつねびの御神燈に、幾たびか驚いて目をふさいだが、路も坂に沈むばかり。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
狐火きつねびのごときは物理的妖怪にして、幽霊のごときは心理的妖怪というべきものである。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
「でも、狐火きつねびか何ぞのようで、薄気味が悪いようでございますね。」
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
第六種(怪火編)怪火、鬼火おにび、竜火、狐火きつねび蓑虫みのむし、火車、火柱、竜灯、聖灯、天灯
妖怪学講義:02 緒言 (新字新仮名) / 井上円了(著)
東西ともに怪火の種類すこぶる多く、狐火きつねび、鬼火、火の玉、竜灯りゅうとう、火柱、火車等、いちいち列挙することはできぬ。なかんずく、わが国において古来最も名高きは肥後ひご不知火しらぬいである。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
これを狐狸こり天狗てんぐの所為のごとく思っておれども、格別恐怖心を起こすでもない。また、各地方にある狐火きつねびのごときも、毎年期節を定めて現出する所にては、これを見ても平気である。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
今その一例を挙ぐれば、狐火きつねび、流星、不知火しらぬい蜃気楼しんきろう、および京都下加茂社内へ移植する木はみなひいらぎに変じ、尾州熱田に移養する鶏はみな牡鶏に化すというがごときは、物理的妖怪なり。
妖怪学 (新字新仮名) / 井上円了(著)