かた)” の例文
アッシェンバッハは目をあげた。そしてかるいいぶかりとともに、身のまわりにかたがひらけて、船路が沖合へむかっているのに気づいた。
けれどもかたの事だから川よりは平穏だから、万一まさかの事もあるまい、と好事ものずき連中れんじゅうは乗ッていたが、げた者も四五人はッたよ。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
時あって遠い常世国とこよのくにしのばしめるような、珍らかなる寄物を吹き寄せて、土地の人の心を豊かにした故に、こういうかたの名を世に残したのではないか。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
おじいさん、どこへゆけば、わたしたちは幸福こうふくらされるというのですか。このいけへおちつくまで、わたしたちはどんなに方々ほうぼうぬまや、かた探索たんさくしたかしれません。
がん (新字新仮名) / 小川未明(著)
「いざ児ども香椎かしひかたに白妙の袖さへぬれて朝菜みてむ」(巻六・九五七)は旅人の歌で憶良のよりも後れている。つまり、旅人が憶良の影響を受けたのかも知れぬ。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
此村にかたあるゆゑ、水鳥かたしたひてきたり、山のくぼみとびきたり、かならず天の網にかゝる。大抵は𪃈あぢといふかもたる鳥也、美味びみなるゆゑ赤塚の冬至鳥とうじとりとてとほ称美しようびす。
私はすぐ山の上にある、空ばかり映っていて、すこしも濁ってない青い水底を考えましたが、そこにも、やはり魚なんぞが河やかたのように住んでいるのからと思って訊ねました。
不思議な国の話 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
五五ぬば玉の夜中よなかかたにやどる月は、五六鏡の山の峯にみて、五七八十やそみなと八十隈やそくまもなくておもしろ。五八沖津嶋山、五九竹生嶋ちくぶしま、波に六〇うつろふ六一あけかきこそおどろかるれ。
このかたにはあしが一面に生えていて、ばんという黒い水鳥が、たくさん棲んでいた。泉鏡花の小説にも出てくるが、このばんという鳥は、何となくこの世ばなれをした感じを与える鳥である。
私のふるさと (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
和歌わかうらしほみちれば、かたをなみ、あしべをさしてたづきわたる
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
日ざかりは短艇ボート動かず水ゆかずかたはつぶつぶ空は燦々きらきら
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
近々に兄さんの来なさるッて事が此地こっちの新聞に二三度続けて出ていましたからね、……五日ほど前にかたふなを取っておいたの。おつけの熱いのをと思ってさ。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
 同御製に「なけばきゝきけばみやこのこひしきに此里このさとすぎよ山ほとゝぎす」▲こしみづうみ 蒲原かんばら郡にかたとよぶ処多し。里言りげんみづうみかたといふ。その大なるを福嶋潟ふくしまがたといふ、四方三里ばかり
わかうらしほればかた葦辺あしべをさしてたづわたる 〔巻六・九一九〕 山部赤人
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
汽船はその島を左手に残して、速力をゆるめながら、その島にちなんだ名の、せまい港をぬけて進み、かたのところへくると、ごたごたとみすぼらしい家並やなみに面して、完全に停止した。
和歌わかうらしほみちれば、かたをなみ、あしべをさしてたづきわたる
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
「あれはかいつむりという鳥じゃ、かたにいる鳥じゃがの。」
姫たちばな (新字新仮名) / 室生犀星(著)
寂しけど何も思はずこのかた銀泥ぎんどろの中に櫂を突き入れ
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
おなじ月影を汲むなら、そんなぢよろ/\水でなしに、かたへ出て、そら、ほつと霧のかゝつた、あの、其処そこの山ほど大きく汲みな。一所いっしょに来な、連れて行くぜ。
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
 同御製に「なけばきゝきけばみやこのこひしきに此里このさとすぎよ山ほとゝぎす」▲こしみづうみ 蒲原かんばら郡にかたとよぶ処多し。里言りげんみづうみかたといふ。その大なるを福嶋潟ふくしまがたといふ、四方三里ばかり
赤人の歌には、「かたをなみ」、「野をなつかしみ」というような一種の手法傾向があるが、それが清潔な声調で綜合そうごうせられている点は、人の許す万葉第一流歌人の一人ということになるのであろうか。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
「緋鯉は立派だから大将だろうが、鮒は雑兵ぞうひょうでも数が多いよ……かた一杯いっぱいなんだもの。」
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かたに遠からずして五月雨山さみだれやまあり。
緋鯉ひごひ立派りつぱだから大將たいしやうだらうが、ふな雜兵ざふひやうでもかずおほいよ……かた一杯いつぱいなんだもの。」
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かたに遠からずして五月雨山さみだれやまあり。
町を流るゝ大川おおかわの、しも小橋こばしを、もつと此処ここは下流に成る。やがてかたへ落ちる川口かわぐちで、の田つゞきの小流こながれとのあいだには、一寸ちょっと高くきずいた塘堤どてがあるが、初夜しょや過ぎて町は遠し、村もしずまつた。
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
かたともみづうみともえた……むし寂然せきぜんとしてしづんだいろは、おほいなる古沼ふるぬまか、千年ちとせ百年もゝとせものいはぬしづかなふちかとおもはれた圓山川まるやまがは川裾かはすそには——河童かつぱか、かはうそは?……などとかうものなら、はてね
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
日当ひあたりの背戸を横手に取って、次第まばら藁屋わらやがある、中に半農——このかたすなどって活計たつきとするものは、三百人を越すと聞くから、あるいは半漁師——少しばかり商いもする——藁屋草履は
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たまにてへる白銀しろがねみのの如く、かいなの雪、白脛しらはぎもあらはに長く、斧を片手に、てのひらにその月を捧げて立てる姿は、かたも川もつまさきにさばく、銀河に紫陽花あじさい花籠はなかごを、かざして立てる女神じょしんであつた。
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
もとよりあのくらいのかただから、誰だッてげるさ、けれどもね、その体度たいどだ、その気力きあいだ、猛将もうしょうたたかいのぞんで馬上にさくよこたえたと謂ッたような、凛然りんぜんとしてうばうべからざる、いや実にその立派さ
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
むらさきいけと、くろかたで……」
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)