淡泊たんぱく)” の例文
「いったいどうすればお前の気に入るんだか、僕には解らないがね、だからその条件をもっと淡泊たんぱくに云っちまったらいいじゃないか」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
けれども、竜之助の大和の国へ逆戻りをして来た縁故がただこれだけであると思うのもあまりに淡泊たんぱくであります。
母は、若い者の無心な淡泊たんぱくさに、そっとお礼を言いたいような気がしていた。自分の濁った狼狽振りを恥ずかしく思った。信頼していていいのだと思った。
ろまん灯籠 (新字新仮名) / 太宰治(著)
卑猥ひわいと道徳とを和解させんとする「男らしい淡泊たんぱくさ」——結婚に淫蕩いんとうの様子を与えながら結婚を保護する放逸な貞節さ——いわゆるゴール風なのであった。
わかちもせず面白おもしろきこと面白おもしろげなる男心をとこごゝろ淡泊たんぱくなるにさしむかひては何事なにごとのいはるべき後世のちのよつれなく我身わがみうらめしくはるはいづこぞはなともはで垣根かきね若草わかくさおもひにもえぬ
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
れから長崎に行き大阪に出て修業して居るその中に、藩の御用で江戸に呼ばれて藩中の子弟を教うるとうことをして居ながらも、藩の政庁に対しては誠に淡泊たんぱく
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
船中せんちゆうあさ食事しよくじは「スープ」のほか冷肉れいにく、「ライスカレー」、「カフヒー」それに香料にほひつた美麗うるはしき菓子くわし其他そのほか「パインアツプル」とうきはめて淡泊たんぱく食事しよくじで、それがむと
時々とき/″\使童ボーイ出入しゆつにふして淡泊たんぱく食品くひもの勁烈けいれつ飮料いんれう持運もちはこんでた。ストーブはさかんえてる——
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
仏国公使の答は徳川政府に対しては陸軍の編制へんせいその他の事に関し少なからざる債権さいけんあり、新政府にてこれを引受けらるることなれば、毛頭もうとう差支さしつかえなしとてその挨拶あいさつはなは淡泊たんぱくなりしという。
けれども、淡泊たんぱくで、無難ぶなんで、第一だいいち儉約けんやくで、君子くんしふものだ、わたしすきだ。がふまでもなく、それどころか、椎茸しひたけ湯皮ゆばもない。金魚麩きんぎよぶさへないものを、ちつとはましな、車麩くるまぶ猶更なほさらであつた。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
意匠に勁健けいけんなるあり、優柔なるあり、壮大なるあり、細繊さいせんなるあり、雅樸がぼくなるあり、婉麗えんれいなるあり、幽遠ゆうえんなるあり、平易なるあり、荘重そうちょうなるあり、軽快なるあり、奇警きけいなるあり、淡泊たんぱくなるあり
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
何等の目的も無く生むで置きながら、せがれがやくざだと大概たいがい仲違なかたがひだ!其處が人間のえらい點かも知れんが、俺は寧ろ犬ツころの淡泊たんぱくな方を取るな。彼奴きやつ子供を育てたからつて決しておんを賣りはしない。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
こんな質問に逢うと、小六は下宿から遊びに来た時分のように、淡泊たんぱくな遠慮のない答をする訳に行かなくなった。やむを得ず
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いいえ、日本人の悪口は、威勢がいいだけで、むしろ淡泊たんぱくです。辛辣というのは当りません。支那には他媽的タマテイという罵言ばげんがありますが、これなどが本当の辛辣といっていいでしょう。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
彼は女がなぜ淡泊たんぱくに自分の欲しいというものの名を判切はっきり云ってくれないかをうらんだ。彼は何とはなしにそれが知りたかったのである。すると
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
宗助そうすけ過去くわこいて、こと成行なりゆきぎやくながかへしては、この淡泊たんぱく挨拶あいさつが、如何いか自分等じぶんら歴史れきしいろどつたかを、むねなか飽迄あくまであぢはひつゝ
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
こんな質問しつもんふと、小六ころく下宿げしゆくからあそびに時分じぶんやうに、淡泊たんぱく遠慮ゑんりよのないこたへをするわけかなくなつた。やむ
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
なんにも執着しない事であった。呑気のんきに、ずぼらに、淡泊たんぱくに、鷹揚おうように、善良に、世の中を歩いて行く事であった。それが彼のいわゆるつうであった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これもうそではなかった。記憶の好いHさんは、その時の話題を明瞭めいりょうに覚えていて、それを最も淡泊たんぱくな態度で話してくれた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そうして自分の骨折から出る結果は、世故せこに通じた田口によって、必ず善意に利用されるものとただ淡泊たんぱくに信じていた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
妹に逢った時顔でも赤らめるかと思ったら存外淡泊たんぱくごうも平生とことなる様子のなかったのはいささか妙な感じがした。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その日曜にちえうかれまた安井やすゐふた。それは二人ふたり關係くわんけいしてゐるあるくわいつい用事ようじおこつたためで、をんなとはまつた縁故えんこのない動機どうきから淡泊たんぱく訪問はうもんであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
その日曜に彼はまた安井をうた。それは二人の関係している或会について用事が起ったためで、女とは全く縁故のない動機から出た淡泊たんぱくな訪問であった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
少なくとももっと淡泊たんぱくでした。私は証拠のない事を云うと思われるのが厭だから、有体ありていに事実を申します。だから兄さんも淡泊に私の質問に答えて下さい。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
淡泊たんぱくだと思った山嵐は生徒を煽動せんどうしたと云うし。生徒を煽動したのかと思うと、生徒の処分を校長にせまるし。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ところが今の若い人は存外淡泊たんぱくで、昔のような感激性の詩趣を倫理的に発揮する事はできないかも知れないが、大体吹き抜けの空筒からづつで何でも隠さないところがよい。
文芸と道徳 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかのみならず五本の毛へこびりつくが早いか、十本に蔓延まんえんする。十本やられたなと気が付くと、もう三十本引っ懸っている。吾輩は淡泊たんぱくを愛する茶人的猫ちゃじんてきねこである。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ところが学校というものはなかなか情実のあるもので、そう書生流に淡泊たんぱくにはかないですからね
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼はそう云ってあとから自分に断った。彼の遣口やりくちは、彼女に取っても自分に取っても、面倒や迷惑の起り得ないほど単簡たんかん淡泊たんぱくなものであった。しかしそれだから物足りなかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「いいえ、僕ああまりそんな事を聞くのがきらいだから、それに、あの男はいっこうなんにも打ち明けない男でね。あれがもっと淡泊たんぱくに思った事を云う風だと慰めようもあるんだけれども」
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
事の成行なりゆきを逆に眺め返しては、この淡泊たんぱく挨拶あいさつが、いかに自分らの歴史を濃くいろどったかを、胸の中であくまで味わいつつ、平凡な出来事を重大に変化させる運命の力を恐ろしがった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
奥さんは懇意になると、こんなところにきわめて淡泊たんぱく小供こどもらしい心を見せた。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
けれども先生の性質が如何にも淡泊たんぱく丁寧ていねいで、立派な英国風の紳士と極端なボヘミアニズムを合併がっぺいしたような特殊の人格を具えているのに敬服して教授上の苦情をいうものは一人もなかった。
おれはそれでも解らないから、淡泊たんぱくにその女に聞いて見た。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ちと正直に淡泊たんぱくになさいと云うんです」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)