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ぬかるみ
ふりがな文庫
“
泥濘
(
ぬかるみ
)” の例文
泥濘
(
ぬかるみ
)
は、
荊棘
(
とげいばら
)
、
蔦葛
(
つたかずら
)
とともに、次第に深くなり、絶えず踊るような足取りで
蟻
(
あり
)
を避けながら、腰までももぐる野象の足跡に落ちこむ。
人外魔境:01 有尾人
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
泥濘
(
ぬかるみ
)
を
捏返
(
こねかへ
)
したのが、
其
(
そ
)
のまゝ
乾
(
から
)
び
着
(
つ
)
いて、
火
(
ひ
)
の
海
(
うみ
)
の
荒磯
(
あらいそ
)
と
云
(
い
)
つた
處
(
ところ
)
に、
硫黄
(
ゆわう
)
に
腰
(
こし
)
を
掛
(
か
)
けて、
暑苦
(
あつくる
)
しい
黒
(
くろ
)
い
形
(
かたち
)
で
踞
(
しやが
)
んで
居
(
ゐ
)
るんですが。
艶書
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
この
泥濘
(
ぬかるみ
)
と
雪解
(
ゆきげ
)
と冬の
瓦解
(
がかい
)
の中で、うれしいものは少し延びた柳の枝だ。その枝を通して、夕方には黄ばんだ灰色の南の空を望んだ。
千曲川のスケッチ
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
気絶した母を抱いたまま
泥濘
(
ぬかるみ
)
に何度も足を取られながら、ただ死力を尽して走りに走った敦夫は、ようやくの事で村田の家へ
辿着
(
たどりつ
)
くと
殺生谷の鬼火
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
永久凍土層表面の融解部、即ち活動層は大抵は黒色腐植入粘土であって、水が多いと俗にへどろと恐れられている
泥濘
(
ぬかるみ
)
に化する。
永久凍土地帯
(新字新仮名)
/
中谷宇吉郎
(著)
▼ もっと見る
さては、と思って
透
(
す
)
かして見ると、
酔眼朦朧
(
すいがんもうろう
)
たるかれの瞳に写ったのは、
泥濘
(
ぬかるみ
)
を飛び越えて身軽に逃げて行く女の後姿であった。
釘抜藤吉捕物覚書:07 怪談抜地獄
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
梅雨に入った元田圃であった下台は、
泥濘
(
ぬかるみ
)
で歩けない道路であった。一度なぞ夏は泥の中をころげ、胸のところまで汚してかえって来た。
童子
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
花の土堤をその列が長く續いて行く途中で、目かづらを被つて
泥濘
(
ぬかるみ
)
の中を踊りながら歩いてゐる花見の群れに幾度か
出
(
で
)
つ
會
(
くは
)
した。
木乃伊の口紅
(旧字旧仮名)
/
田村俊子
(著)
泥濘
(
ぬかるみ
)
にて道悪し、道玄坂はアンコを流したような鋪道だ。一日休むと、雨の続いた日が困るので、我慢して店を出すことにする。
新版 放浪記
(新字新仮名)
/
林芙美子
(著)
で、ある日の事市長を官邸に
招待
(
せうだい
)
した。蛙のやうに
泥濘
(
ぬかるみ
)
に住む事の好きな市長も、目上の人から
招待
(
せうだい
)
される有難さは知つてゐた。
茶話:05 大正八(一九一九)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
小路
(
こうじ
)
の
泥濘
(
ぬかるみ
)
は雨上りと違って
一日
(
いちんち
)
や
二日
(
ふつか
)
では容易に乾かなかった。外から靴を
汚
(
よご
)
して帰って来る
宗助
(
そうすけ
)
が、
御米
(
およね
)
の顔を見るたびに
門
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
因果応報、親分供養の無念ばらしに、今夜こそ片ッ端から、てめえたちの素ッ首を、土手の
泥濘
(
ぬかるみ
)
へたたき落してくれるから覚悟をしやがれ
剣難女難
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
嘉永四年は春寒く、正月十四日から十七日まで四日つづきの大雪が降ったので、江戸じゅうは雪どけの
泥濘
(
ぬかるみ
)
になってしまった。
半七捕物帳:51 大森の鶏
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
平次が行つた時は道だけは
泥濘
(
ぬかるみ
)
をこね返してをりましたが、田圃も庭も雪に埋もれて、
南庇
(
みなみびさし
)
から
雪消
(
ゆきげ
)
の
雫
(
しづく
)
がせはしく落ちてゐる風情でした。
銭形平次捕物控:117 雪の夜
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
嘉三郎はそう言いながらも、悠長に立ち上がって、
泥濘
(
ぬかるみ
)
の往来へ出たが、何故かもう、汽車で行く気にはなれなくなっていた。
栗の花の咲くころ
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
砂浜から一段上ると、その車前草に縁どられた
径
(
こみち
)
が続く。大勢通ったのでひどい
泥濘
(
ぬかるみ
)
になっているので、私は草の上を歩く。
フレップ・トリップ
(新字新仮名)
/
北原白秋
(著)
シォウルの外に
援
(
たすけ
)
を求むる彼の手を取りて引寄すれば、女は
踽
(
よろめ
)
きつつ
泥濘
(
ぬかるみ
)
を出でたりしが、力や余りけん、身を支へかねて
摚
(
どう
)
と貫一に
靠
(
もた
)
れたり。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
雨や
泥濘
(
ぬかるみ
)
や、あらゆる道中の労苦を忍びつつ、旅をつづけて行かねばならないというような時だろうか? いずれとも神ならぬ身には知る由もない。
死せる魂:02 または チチコフの遍歴 第一部 第二分冊
(新字新仮名)
/
ニコライ・ゴーゴリ
(著)
三「解らないよ、
泥濘
(
ぬかるみ
)
へ踏込んでも、どっこい悪い処へ来たと
後
(
あと
)
へ身体を引いて、
一方
(
かた/\
)
の足は汚さねえと云う方だが」
松と藤芸妓の替紋
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
彼は暗がりへ
泥濘
(
ぬかるみ
)
をはね越すように、身を寄せた。——が恵子ではなかった。ホッとすると、自分が汗をかいていたのを知った。ひとりで赤くなった。
雪の夜
(新字新仮名)
/
小林多喜二
(著)
泥濘
(
ぬかるみ
)
を歩くような重さで伸子は云った。それをきくと、佃は椅子の上で、それでよし、と云う風な身じろぎをした。
伸子
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
村端れの溝に芹の葉
一片
(
ひとつ
)
青んでゐないが、晴れた空はそことなく霞んで、
雪消
(
ゆきげ
)
の路の
泥濘
(
ぬかるみ
)
の處々乾きかゝつた上を、春めいた風が薄ら温かく吹いてゐた。
足跡
(旧字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
見ると、自動車は、小径へ這入ろうとして一度そっちへ鼻を向けたが、深い
泥濘
(
ぬかるみ
)
に辟易して、諦めて
背行
(
バック
)
したらしい形跡が、歴然と看取出来るのである。
双面獣
(新字新仮名)
/
牧逸馬
(著)
カオル嬢と上原君の泥靴の青い色からして、二人が今朝そこの
泥濘
(
ぬかるみ
)
を歩いたに違いないという推理を立てたのです
蠅男
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
雨上がりに
錦町河岸
(
にしきちょうがし
)
を通った。電車線路のすぐ脇の
泥濘
(
ぬかるみ
)
の上に、何かしら青い粉のようなものがこぼれている。
鑢屑
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
それにも拘らず、車夫は大久保の方の近路を選んだので、戸山の原を抜ける時には、車は全く
泥濘
(
ぬかるみ
)
の中に陥つて、につちもさつちも行かなくなつて了つた。
初冬の記事
(新字旧仮名)
/
田山花袋
、
田山録弥
(著)
自分
(
じぶん
)
も
恁
(
か
)
く
枷
(
かせ
)
を
箝
(
は
)
められて、
同
(
おな
)
じ
姿
(
すがた
)
に
泥濘
(
ぬかるみ
)
の
中
(
なか
)
を
引
(
ひ
)
かれて、
獄
(
ごく
)
に
入
(
いれ
)
られはせぬかと、
遽
(
にはか
)
に
思
(
おも
)
はれて
慄然
(
ぞつ
)
とした。
六号室
(旧字旧仮名)
/
アントン・チェーホフ
(著)
幌
(
ほろ
)
を
弾
(
は
)
ねた笹村の
腕車
(
くるま
)
が、
泥濘
(
ぬかるみ
)
の深い町の入口を行き悩んでいた。空には暗く雨雲が垂れ下って、屋並みの低い町筋には、湯帰りの職人の姿などが見られた。
黴
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
アスフヮルト敷きつめた銀座日本橋の
大通
(
おおどおり
)
、やたらに
溝
(
どぶ
)
の水を
撒
(
ま
)
きちらす
泥濘
(
ぬかるみ
)
とて一向驚くには及ぶまい。
日和下駄:一名 東京散策記
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
だが、
泥濘
(
ぬかるみ
)
の道を足駄で歩いてるので、しまいには疲れてきた。少し休みたいなと思い思い歩いてるうちに、上野公園に出て、動物園があることを思い出した。
神棚
(新字新仮名)
/
豊島与志雄
(著)
それによって見ると、女中はその辺で転んで倒れて
泥濘
(
ぬかるみ
)
の中へ、せっかくの一合の酒も鰻の丼もみんなブチまけてしまったようですから、米友は舌打ちをして
大菩薩峠:10 市中騒動の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
もう長いこと、
泥濘
(
ぬかるみ
)
の中に落ちていたようですし、この人混の中で、落した人の判ろうはずもありません。
小公女
(新字新仮名)
/
フランシス・ホジソン・エリザ・バーネット
(著)
けれど
泥濘
(
ぬかるみ
)
は恰度好く凍つて、駒下駄がギシ/\と鳴つた。その響きに彼は、いくらか快さを覚えた。
白明
(新字旧仮名)
/
牧野信一
(著)
歯をがたがた震わせながら、眠くてたまらなくなりながら、歩いて行った。それにまた、一着きりの夜会服を
泥濘
(
ぬかるみ
)
でよごさないように注意しなければならなかった。
ジャン・クリストフ:04 第二巻 朝
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
七
哩
(
マイル
)
の間ずっと土砂降。
泥濘
(
ぬかるみ
)
。馬の
頸
(
くび
)
に達する雑草。豚小舎の
柵
(
さく
)
も八ヶ所程飛越す。マリエに着いた時は、既に薄暮。マリエの村には相当立派な民家がかなり在る。
光と風と夢
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
若しも、氣づかれ報いられたときには
鬼火
(
おにび
)
のやうに、救ひやうのない
泥濘
(
ぬかるみ
)
の野に行くより外ないのだ。
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
なくなった高橋駅長が、『あのカラコロカラコロには困る。』とかいったという話を聞いたことがあるが、困ったところで
泥濘
(
ぬかるみ
)
が往来に存在している間は仕方がない。
丸の内
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
少し降っていた雨はやんだが
泥濘
(
ぬかるみ
)
の
路
(
みち
)
につかれていたし、はじめから侍風に装っていたのであるし、目だつこともなく門をはいることのできた山荘の中は混雑していた。
源氏物語:54 蜻蛉
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
寒さと小雨のふる夜、
泥濘
(
ぬかるみ
)
をことともせず、病気静養後の呂昇の出勤へと人は道を急いだ。そして有楽座の座席は臨時の補助
椅子
(
いす
)
までふさがって満員になってしまった。
豊竹呂昇
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
占
(
し
)
まったと思って飛び下りると
美事
(
みごと
)
泥濘
(
ぬかるみ
)
のところへ転んでしまった。手を擦り剥いたよ、こんなに
好人物
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
最初、こういうことに気附いたのは、たしか、己斐から天満橋へ出る
泥濘
(
ぬかるみ
)
を歩いている時でした。
廃墟から
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
こうして、
泥濘
(
ぬかるみ
)
の
中
(
なか
)
に
捨
(
す
)
てられた
天使
(
てんし
)
は、やがて、その
上
(
うえ
)
を
重
(
おも
)
い
荷車
(
にぐるま
)
の
轍
(
わだち
)
で
轢
(
ひ
)
かれるのでした。
飴チョコの天使
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
「とっても……」と、一口いったきりで顔を横に振って
対手
(
あいて
)
になろうとせぬ。なおよく訊ねると、
泥濘
(
ぬかるみ
)
が車輪を半分も埋めるので、俥が動かない、荷車ならば行くという。
狂乱
(新字新仮名)
/
近松秋江
(著)
ここは
泥濘
(
ぬかるみ
)
の路である。たわわに稔つた水田の間を、路はまつ直ぐに走つてゐる。黄熟した稻の穗は、空しく收穫の時期を逸して、風に打たれて既に向き向きに仆れてゐる。
艸千里
(旧字旧仮名)
/
三好達治
(著)
泥濘
(
ぬかるみ
)
の道を、二人とも、高下駄で、注意しながら、歩いた。山を伐りひらいて作ったばかりの道路は、ともすると、ガキッと、下駄の歯をくわえて、足元を狂わせるのだった。
花と龍
(新字新仮名)
/
火野葦平
(著)
「ですからさあ……妾だって全くの世間知らずじゃないんですから、好き好んで
泥濘
(
ぬかるみ
)
を
撰
(
よ
)
って寝ころびたくはないでしょ。ね。ですから云うのよ。モウ少し待って頂戴って……」
二重心臓
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
好
(
すき
)
な讀書にも
飽
(
あ
)
いて
了
(
しま
)
ツた。と
謂
(
い
)
ツて
泥濘
(
ぬかるみ
)
の中をぶらついても始まらない。で
此
(
か
)
うして
何
(
な
)
んといふことは無く庭を眺めたり、また
何
(
な
)
んといふことはなく考込むでボンヤリしてゐた。
青い顔
(旧字旧仮名)
/
三島霜川
(著)
私はからだを斜めにして、ときどき頬にふりかかる雨粒をかんじながら、街灯のしたの音をたてて雨に打たれている
泥濘
(
ぬかるみ
)
をみつめていた。私はいらだち、むしょうに憤ろしかった。
演技の果て
(新字新仮名)
/
山川方夫
(著)
と、名越が、書きながら、話していた時、下の往来の
泥濘
(
ぬかるみ
)
路に、踏み乱れた足音がして
南国太平記
(新字新仮名)
/
直木三十五
(著)
岡田は口と鼻を血だらけにし、キリキリ舞いで、道路の真中の
泥濘
(
ぬかるみ
)
に大の字に倒れた。「お母さん、さようなら」岡田は虫の鳴くようにそう呟き、そのままピクリとも動かなくなる。
さようなら
(新字新仮名)
/
田中英光
(著)
“泥濘”の意味
《名詞》
地面のぬかるんでいるところ。またぬかるんでいること。
(出典:Wiktionary)
泥
常用漢字
中学
部首:⽔
8画
濘
漢検1級
部首:⽔
17画
“泥濘”で始まる語句
泥濘孔
泥濘路
泥濘道
泥濘滑澾