気勢けはひ)” の例文
旧字:氣勢
しばし有りてをんなどもの口々に呼邀よびむかふる声して、入来いりきし客の、障子ごしなる隣室に案内されたる気勢けはひに、貫一はその男女なんによの二人づれなるを知れり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
其時そのときや、よるがものにたとへるとたにそこぢや、白痴ばかがだらしのない寝息ねいききこえなくなると、たちまそとにものゝ気勢けはひがしてた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
戸外では矢張蒙古風が吹荒れてゐるらしく、をり/\屋角を掠めて行く気勢けはひが、硝子窓を、硝子窓に垂れ下つたカアテンを隔てゝ微にきこえた。
北京の一夜 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
斯の廊下が裏側の廊下につゞいて、丁度本堂へ曲らうとする角のところで、急に背後うしろの方から人の来る気勢けはひがした。思はず丑松は振返つた。省吾も。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
と人の来た気勢けはひがしたので彼は首をあげて入口を見やつた。桑野が来たのである。それに、も一人桑野のあとからはひつて来たものは白川弁護士であつた。
瘢痕 (新字旧仮名) / 平出修(著)
と、五六けん手前てまへからしかり付けた。唖者をし子等こらは人の気勢けはひおどろいて、手に手にあか死人花しびとばなを持つたまヽはたけ横切よこぎつて、半町も無い鹿しヽたにの盲唖院へ駆けて帰つた
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
わたくし冗談だとばかり、思つてゐますと、一昨夜二時過ぎに、廊下に人の気勢けはひがするので、ドアを開けて見ますと、勝彦さんが立つていらつしやるぢやありませんか。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
そして私の怒りは隣室でバタ/\団扇を動かすうちの者の気勢けはひにも絶間なく煽られてゐた。胸に湧出る汗は肋骨あばらぼねの間を伝つてチヨロリ/\と背の方へ落ちて行つた。
氷屋の旗 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
二階で起き上つた気勢けはひがして何やら言ひ争つて居る。その声の調子から二人とも芸人だなと直ぐ気づかれた。降りて来た男を見ると髪が長い、浪花節だなとまた思ふ。
岬の端 (新字旧仮名) / 若山牧水(著)
目星をつけた家の気勢けはひを暫くうかゞつた後、格子戸を開けてみると、額の蒼白あをじろい、眉毛まゆげの濃い、目の大きい四十がらみのお神が長火鉢のところにゐて、ちよつと困惑した顔だつた。
のらもの (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
何か女同志が囁き合ひながら歩いて来てゐるのであつた。いきなりBは全身に強い衝動を感じた。かれはかの女の気勢けはひと声とを感じたのである。
時子 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
るにまた畳を摺来すりく跫音あしおときこえて、物あり、予が枕頭ちんとうに近寄る気勢けはひす、はてなと思ふ内に引返ひつかへせり。少時しばらくしてまたきたる、再び引返せり、三たびせり。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
又人の入来いりく気勢けはひなるを宮は心着きてうかがひしに、姿は見えずして靴の音のみを聞けり。梅見る人か、あらぬか、用ありげにせはしく踏立つる足音なりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
鋭い目付の犬は五六匹門外に集つて来て、しきりに二人の臭気にほひを嗅いで見たり、低声にうなつたりして、やゝともすればえ懸りさうな気勢けはひを示すのであつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
何やら探す様な気勢けはひがしてゐたが、がちやりと銅貨の相触れるひびき。——霎時しばしの間何の物音もしない、と老女としより枕頭まくらもとの障子が静かに開いて、やつれたお利代が顔を出した。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
少年が茶を運んで来た後は、暫らくの間、近づいて来る人の気勢けはひもなかつた。三分経ち、五分経ち、十分経つた。信一郎の心は、段々不安になり、段々いら/\して来た。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
それが、自分がのぞいてから、大方一時間にもなるのであるから、酒も次第にその一座に廻つたと覚しく、恐ろしく騒ぐ気勢けはひが其次の間に満ち渡つた。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
この間は貫一は如何いかにこの探偵一件を処置せんかと工夫してゐたり。やや有りて婢の息促いきせ還来かへりきにける気勢けはひせしが、やがて妻の出でて例の声を振ひぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
もつとときは、なにとなく身近みぢかものおそ気勢けはひがする。ひだりがびくりとするときひだりから丁手掻ちよつかいで、みぎうでがぶるつとときみぎはうからねらふらしい。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いざと云ふ時が来たら、一太刀に切つて捨てようとする気勢けはひが、あり/\と感ぜられた。が、勝平は相手の容子などには、一切頓着しないやうに、臆面もなく話し続けた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
お由は二三度唸つて、立上つた気勢けはひ。下腹がしびれて、便気の塞逼そくはくに堪へぬのだ。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
と言ふと、ばら/\と人がちにかゝつた様な気勢けはひが為たので、自分は友の留めるのをも振りほどいて、急いで次の間の、少し戸の明いて居る処へ行つて、そつと覗いた。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
気勢けはひが、やがて昼間ひるま天守てんしゆむねうへいたほどに、ドヽンとすごおとがして、足代あじろつたした老人らうじんしづめてつた手網であみ真中まんなかあたりへ、したゝかなものちたおと
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
と言つてる時、門口に人の気勢けはひ
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
で、がさりとえだんだおとがした。うやらものゝ、くちばしながなはて瞰下みおろす気勢けはひがした。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
つばで窓の紙をぬらす気勢けはひがする。黒いひとみをした二つの笑つた眼が其処に現はれた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
なまぬるいかぜのやうな気勢けはひがするとおもふと、ひだりかたから片膚かたはだいたが、みぎはづして、まへまはし、ふくらんだむねのあたりで単衣ひとへまろげてち、かすみまとはぬ姿すがたになつた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
下の家とはわづか十間位しか離れて居らぬので、母屋おもやでは既に大騒を遣つて居る様子で、やれ水を運べのをけを持つて来いのと老主人が声を限りに指揮さしづする気勢けはひ分明はつきりと手に取るやうに聞える。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
ほたり/\とちて、ずるりと硝子窓がらすまどながるゝしづくは、どぜうのぞ気勢けはひである。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
容易に座敷の方へ行かうとしないやうな気勢けはひを私は耳にした。
ある日 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
そとのものゝ気勢けはひ動揺どよめきつくるがごとく、ぐら/\といへゆらめいた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
遠くで電車の通つて行く気勢けはひがした。
草みち (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)