数多あまた)” の例文
旧字:數多
あしたの天変地異を今夜の今知っている者は、あの出陣列に従って行った御家来衆も数多あまたながら、わしひとりしかなかったのである。
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
肴屋さかなや、酒屋、雑貨店、その向うに寺の門やら裏店うらだなの長屋やらがつらなって、久堅町ひさかたまちの低い地には数多あまたの工場の煙筒えんとつが黒い煙をみなぎらしていた。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
ただ今の時勢人情にては、遠国へ渡海して数多あまたの国々を検査し、うち善悪をえらび開業に掛ることは、日本国の人情においていまだきざさず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
これまで彼は数多あまたの残虐な場面の中に突進した。しかし一度だって、恐ろしさのために躊躇をしたり厭な気持になったことはない。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
九州征伐の時、如水と仙石権兵衛は軍監で、今日の参謀総長といふところ、戦後には九州一ヶ国の大名になる約束で数多あまたの武功をたてた。
黒田如水 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
こういうすべての事柄や、これに類した数多あまたの事柄が、その親愛なる一千七百七十五年とそのすぐ前後に起っていたのであった。
この山の数多あまたの堂塔におわします諸菩薩のような人間が、世の中に生きて居るとしたら、どんなに端麗な、どんなに荘厳なものであろう。
二人の稚児 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
沙汰人数多あまた出でける中に、源内兵衛真弘げんないひょうえさねひろと云う者、腹巻取って打ち懸け、長刀持ちて走り出でけるが、佐殿すけどのを見奉り、馬の口に取り附き
花吹雪 (新字新仮名) / 太宰治(著)
上の中央公論に載せた初稿はなかだちとなつて、わたくしに数多あまたの人を識らしめた。中には当時四郎左衛門と親善であつた人さへある。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
しかしながら、数多あまたの一時の形象の間で、一度触れ合ってたがいに認める魂と魂との接触は、けっして消えせるものではない。
通人はしきりに新参者しんざんものを求めたりしに、あにはからんや新参者は数多あまたの列座中にあったので、それが分った時の通人の驚きは一方ひとかたならなかった。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
数多あまたの人種が、混り、殖民化の歴史を持って居る国の女性としては当然な事でございますでしょう。が、先ず大体三つに分けて見ましょう。
C先生への手紙 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
八葉堂を中にした千隆寺の庭では、数多あまたの坊主どもが、法衣をがれて、例の捕吏とりての手に縛り上げられて、ころがされている。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それどころか軍中央部の高級将校のなかには、進んで激励や賞讃の言葉を蹶起の青年将校たちに呈する者が数多あまたいたのである。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
新聞紙の報ずるだけでも、彼は十指に余る人間の命を絶ち、多くの子女の貞操を蹂躙じゅうりんし、数多あまたの良民をして無念の涙にむせばせて居るのでした。
ある抗議書 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
この際に当りて蕪村は句法の上に種々工夫を試みあるいは漢詩的に、あるいは古文的に、古人のいまだかつて作らざりし者を数多あまた造り出せり。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
砂浜はギラギラと光り、陸に海に喜戯きぎする数多あまたの群衆は、晴々とした初夏はつなつの太陽を受けて、明るく、華やかに輝いて見えた。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
護送役人の下知げじに従いまして、遠島の罪人一同上陸致しますると、図らずも彼方あなたに当りパッパッと砂煙すなけむり蹴立けたって数多あまたの人が逃げて参ります。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
また一ツは米国水兵数多あまた車座くるまざになりて日本料理のぜんに向ひ大きなる料理のたいを見て驚き騒げる様を描きしものあるを記憶す。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
帯に記したる所は、后が王の寵愛を受けし場所は王宮の花園にして、其処には希臘グレシア男女なんによの神体をきざめる美しき大理石の立像数多あまた有りし由に候。
たちまち数多あまたの天使の集団の合唱が起こり、「いと高き処には栄光、神にあれ。地には平和、主の悦び給う人にあれ」との讃美が天地にあふれた。
キリスト教入門 (新字新仮名) / 矢内原忠雄(著)
両者とも数多あまた美術品はあつめてみても、美の魂とかかわりなくつき合ってきた者というものは、真にみじめなもので、御殿山氏といい、青山翁といい
現代茶人批判 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
これ皆朝顔のおかげといたく愛して翌年の夏に至りけるに、去年の花より多くの種残りて、さりとは数多あまた生ひ出で、蔓の頃はさぞかしと思ひやらる。
花のいろ/\ (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
附添の数多あまたの男女は、あるいは怒り、あるいののしり、あるいは呆れ、あるいは呪詛のろった。が、狼狽ろうばいしたのは一様である。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
金眸がひげちりをはらひ、阿諛あゆたくましうして、その威を仮り、数多あまた獣類けものを害せしこと、その罪諏訪すわの湖よりも深く、また那須野なすのはらよりもおおいなり。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
あれからいったいどういう流転るてんをへて、あんな橋の下に、小屋を張っているのだろうと、与吉のあたまは、数多あまたの疑問符が乱れ飛んで、飛白かすりのようだ。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
◎無惨の死骸 昨朝六時頃築地三丁目の川中にて発見したる年の頃三十四五歳と見受けらるゝ男の死骸は何者の所為しわざにや総身に数多あまたの創傷、数多の擦剥すりむき
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
其処で彼は数多あまたの紹介状を贋造して、多くの富豪の知己となり、それから彼は徐々に詐欺の方策を進めて行った。
錬金詐欺 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
奴隷たちをはじめ数多あまたの金銀財宝家具家財を積んだ巨船をして、何処いずくへともなく羅馬を脱去してしまいました。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
けれども、チーヘンの『忌怖きふの心理』などを見ると、極度の忌怖感に駆られた際の生理現象として、それに関する数多あまたの実験的研究が挙げられています。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
旅僧が数多あまたの金を持っていることを知ったので、千代を利用してそれをまきあげようと思って、それを千代にいい含めたが、千代はてんで受けつけなかった。
風呂供養の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
すめらみの、おためとて、備前びぜん岡山を始めとし、数多あまたの国のますらおが、赤い心を墨で書き、国の重荷を背負いつつ、命は軽き旅衣たびごろも、親や妻子つまこを振り捨てて。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
柿の木の下から背戸へ抜け槇屏まきべいの裏門を出ると松林である。桃畑梨畑の間をゆくと僅の田がある。その先の松林の片隅に雑木の森があって数多あまたの墓が見える。
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
しかし、今から思ふと、いくら呑気な大正時代でも、あんな粗末な体裁のわるいうすぺらな雑誌が、数多あまたの名のある雑誌がならんでゐる店頭で、目につく筈がない。
それは山鹿素行やまがそこうの墓のある寺で、山門の手前に、旧幕時代の記念のように、古いえのきが一本立っているのが、私の書斎の北の縁から数多あまたの屋根を越してよく見えた。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
水中に插入そうにゅうしたかいの曲がって見える事は述べてあるが、屈折の方則らしいものは見いだされない。また数多あまたの鏡による重複反射の事実にもともかくも触れてある。
ルクレチウスと科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
数多あまたの樹の枝やその他の材料をもって、臨時に大きな仮山を作り、前後に出入りの口を設け、内には桟道さんどう懸渡かけわたして、志願ある者をしてその中を通り抜けさせた。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
銃弾や霰弾を受けていないものは一本としてない。枯木の骸骨がいこつが果樹園の中には数多あまたある。烏が枝の間を飛んでいる。その向こうは、すみれの咲き乱れた森である。
このむらくも『らくだ』は得意の演題にて、この人のはむしろ後段におもしろき箇所、数多あまたありたり。
随筆 寄席囃子 (新字新仮名) / 正岡容(著)
とくに数多あまたの先生に対しては単に教師と生徒の関係以上に深い尊敬と親しみをもっていた。校長は修身を受け持っているので、生徒は中江藤樹なかえとうじゅしょうをたてまつった。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
これらの倭人は統一なき数多あまたの小国家に分れて、所謂百余国を為し、各自王と称して、漢と交通を開いたものであったが、中にも今の筑前博多地方にあった奴国ぬこくの王は
国号の由来 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
美しき女を数多あまた侍らせ、金殿玉楼に栄燿の夢を見つくさむ事、ひとへにわが学問と武芸にこそよれ。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
国々によりては、他国の方に細工奇麗にて価も安き品数多あまたこれあり候。国用より多く出来しゅったいいたし候品は外国へ相渡し、その国になき産物は他邦より運び入れ候儀に御座候。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
二次会は新中島しんなかじまという宏壮な家で有志の人たちだけで催された。煌々こうこうたるシャンデリヤの下で、置酒交歓、感興成っていつ果つべくも見えない。土地の美妓びぎ数多あまた見えた。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
これその演説中数多あまた如来正徧知にょらいしょうへんちに対してあるべからざる言辞をろうしたるによって明らかである。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
竜巻たつまきだ、と思ううちにも、烈しい風は既に頭上をよぎろうとしていた。まわりの草木がことごとくふるえ、と見ると、その儘引抜かれて空にさらわれて行く数多あまたの樹木があった。
夏の花 (新字新仮名) / 原民喜(著)
彼の怒号の声はさしも広き法廷の外に響き渡って、何事ぞと数多あまたの人々が駈けつけたと云う。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
それは数多あまたの歴史を経、多くの時代を通り、様々な変化をして、或は天才の発見に依り、或は名工の技に依つて長い/\時間の中に、洗練され磨き上げられて来たものである。
日本趣味映画 (新字旧仮名) / 溝口健二(著)
又台所の世帯万端、もとより女子の知る可き事なれば、仮令い下女下男数多あまた召使う身分にても、飯の炊きようは勿論、料理献立、塩噌えんその始末に至るまでも、事こまかに心得置く可し。
新女大学 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
大きな雪の峰が重なり重なってちょうど数多あまたの雪達磨だるまが坐禅をして居るように見えるです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)