どう)” の例文
赤潮のつるぎは、炎の稲妻、黒潮の黒い旗は、黒雲の峰をいて、沖からどうと浴びせたほどに、一浦ひとうらの津波となって、田畑も家も山へ流いた。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と下ろした太刀は斜めにれて、機を得た作左衛門の抜き撃ちは誤またずに、よろけた彼の腰車を、見事にどうと斬って伏せた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
シォウルの外にたすけを求むる彼の手を取りて引寄すれば、女はよろめきつつ泥濘ぬかるみを出でたりしが、力や余りけん、身を支へかねてどうと貫一にもたれたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
乗合全体は総立ちになる途端に、大揺れに揺れた船が何かに触れて、轟然ごうぜんたる音がすると、そのはずみで残らず、どうとぶっ倒されてしまいました。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
肉を斬り、骨を裂くものすごい音とともに、そいつは、持っていた刀を手放し、空気をつかんで、どうッ! と畳を打つ。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
どうと音して牛の身体が板敷の上へ横に成つたは、足と足とが引締められたからである。持主は茫然ばうぜんとして立つた。丑松も考深い目付をして眺め沈んで居た。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
灸所きゅうしょの痛手に金眸は、一声おうと叫びつつ、あえなくむくろは倒れしが。これに心の張り弓も、一度に弛みて両犬は、左右にどう俯伏ひれふして、霎時しばしは起きも得ざりけり。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
とさしもの蠅男も痛打にたまらず、どうと床上に大の字になって引繰り返った。闘いは帆村の快勝と見えた。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
充分したゝか打叩うちたゝきければ彼の男よこどうたふされしにぞ其間そのひまに又七と共に殘り二人の惡者わるもの散々さん/″\に打叩きける故みなかなはじと散々ちり/″\にげ行けりされば金は取られずまづ無事に其場を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
が、おびただしく酔つて居るので、足の力にしまりが無く、かへつて自分が膳や椀の上に地響してどうと倒れた。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
どうき當つて二人共々重なり合ふ事もある。繁が大公孫樹の幹に打衝ぶつつかつて度を失ふ事もある。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
どうと肘掛椅子の中に沈み込んで、顔から両手を離すとそのままぐったりと横に崩れ傾いた。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
一つはずみをつけて犬舎いぬごやの真只中へどうと投げこむが早いか、ぴしゃりを閉めきった。
犬舎 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
床の上へどうと仆れた、余は驚いて馳せ寄ったが、余よりも権田の方が早く
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
河内房は耳に触れぬ振りをして、続けざまにピシャリッピシャリッと五、六本続けて打ち込んだので、新九郎はどうと仰向けにたおれてしまった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それを槍の柄で払おうとして、あぶない足許が一層あぶなくなって、ついに堪らずどうと尻餅をついたのが、お銀様にとっては命の親でありました。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あれ! 栄三郎様、勝って! 勝って! と弥生が気をつめた刹那、どうッ——と倒れるけはいがして、続いて
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
小児等こどもらの糸を引いてかけるがままに、ふらふらと舞台を飛廻り、やがて、樹根きのねどうとなりて、切なき呼吸いきつく。
紅玉 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
僕達は不意に手を離してしまって床の上にどうと抛げだされてこぶこしらえたり、ドッと衄血はなぢを出したり、筋をちがえた片腕を肩に釣って疼痛とうつうにボロボロ泪を流しながらも
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
忽ちどうという大音響をへや中にゆらめき起しつつ、椅子の向う側の壁の附け根に長くなった。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ツと思はず聲を出した時、かの聲無き葬列ははたと進行を止めて居た、そして棺を擔いだ二人の前の方の男は左の足を中有ちうに浮して居た。其爪端つまさきの處に、彼の穢い女乞食がどうと許り倒れて居た。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
どうと倒れたかと見れば、重蔵は袴の裾をひるがえしてパッと跳び上がるなり振りかぶった無想妙剣の一念力、いわおも砕けろと玄蕃の脳天目がけて来たのを
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふと、軒に乾した煙草の葉と、蕃椒とうがらしの間に、山駕籠やまかごすすけたのが一挺かかった藁家を見て、朽縁くちえんどうと掛けた。
栃の実 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
右うでのない左膳の右横から、声もかけず拝みうちに撃ちこんだので、防ぎ得ず左膳、血けむり立ててどうッ! そこに倒れた……と見えたその濛々もうもうたる昇煙は。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
能登守はそれとうなずいている時に、暫らく静かにしていた屋根の上の足音がまた、ミシリミシリと聞えはじめました。つづいてどう庭前にわさきへ落ちる物の音がしました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その鬼神きじんのような力に、元気な一郎だったが、たちまちどうと振りとばされてしまった。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
が、極めて平氣で自分を見下すのだ。癪にさはる。先刻さつきも申上げた通り、これでも柔術は加納流の初段であるので、一秒の後には其非文明な男は雪の堅く凍つた路へどうと許り倒れた。直ぐ起き上る。
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
小児等こどもらの糸を引いてかけるがまゝに、ふら/\と舞台を飛廻とびまわり、やがて、樹根きのねどうと成りて、切なき呼吸いきつく。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
こう言いながら土方歳三の襟髪えりがみを取って突き放すと、よろよろと彼方かなたに飛んでどうと倒れます。
どうッ! と弓形にそる拍子に投げ出された長刀白線一過してグサッ! と畳に刺さった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
僕は俵のようにどうと地上に転倒した。
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
釘打つ音の終るとひとしく、婦人はよろよろと身を退すさりて、束ねしものの崩るる如く、地上にどうと膝を敷きぬ。
黒壁 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その途端に神尾主膳は、どうしたハズミか二三間後ろへどうと尻餅をいてしまいました。釣瓶の縄が切れたのです。釣瓶はすさまじい音をして単独ひとりで井戸の底へ落ちて行きました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と侍を打据えにかかると、うるさくなったものか侍は大手を拡げて闘意のないことを示したが、それも一瞬、いきなり脱兎だっとのようにげだした。足を狙って辰が杖を投げた。それが絡んでどうと倒れた。
「や、」「や、」と声をかけ合せると、や、我が身体からだは宙にられて、庭の土に沈むまで、どうとばかり。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
さきにとまむしろを巻きつけておいた船縁ふなべりへ向って、やや斜めにどうと落ちかかりました。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
不意にハッと驚くを、そのまま引立ひったつるがごとくにして座敷に来り、手を離し、どうとすわり、一あしよろめいて柱にる白糸と顔を見合せ、思わずともに、はらはらと泣く。
錦染滝白糸:――其一幕―― (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
石につまずいてどうと横ざまに倒れる——この時まで壮士は足駄あしだを穿いていたものです。
こいつをつえというていで、客は、箸を割って、ひじを張り、擬勢を示して大胡坐おおあぐらどうとなる。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それが真面まともに石燈籠へ当ったら、槍の穂先もポッキリと折れるのでしょうが、燈籠の屋根の上をかすめて流れたから、そのハズミで主膳は石燈籠へブッつかって、どうと後ろへ倒れました。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
神職 (あばき出したる形代かたしろわら人形に、すくすくと釘のささりたるを片手に高く、片手に鉄槌をかざすと斉しく、威丈高いたけだか突立上つッたちあがり、お沢の弱腰よわごしどうる)汚らわしいぞ! 罰当ばちあたり。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
痩せて弱っていた猛犬は七兵衛に後ろへ取って捨てられてどうと倒れたが、クルリと起き上って、二三歩退いて両足を前に合せて、そうしてじっと七兵衛のかおを睨んでウォーと唸りつけていました。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
刀をふるって階子の口に、一度きつと下を見込む。肩に波打ち、はっと息してどうとなる。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これと共に絶叫して、しりえにどうと倒れたのが神尾主膳であります。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
幾度遣ってもたかんなの皮をくに異ならずでありまするから、呆れ果ててどうと尻餅、茫然ぼんやり四辺あたりみまわしますると、神農様の画像を掛けた、さっき女が通したのと同じ部屋へ、おやおやおや。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と叫ぶ声が樹の上でして、どうという音が米友の足許でしました。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
居ずまいの乱るるはだに、くれない点滴したたりは、血でない、蛍の首でした。が、筆は我ながらメスより鋭く、双の乳房を、驚破すわ切落したように、立てていた片膝なり、思わず、どうと尻もちをいた。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
芹沢はどうと倒れた、土方歳三は直ぐにそれにのしかかる。
つかみひしぐが如くにして突離つきはなす。初の烏、どうと地に坐す。三羽の烏はわざとらしく吃驚きっきょう身振みぶりをなす。)地をふ烏は、鳴く声が違ふぢやらう。うむ、うぢや。地を這ふ烏は何と鳴くか。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
つかみひしぐがごとくにして突離す。初の烏、どうと地にす。三羽の烏はわざとらしく吃驚きっきょう身振みぶりをなす。)地をう烏は、鳴く声が違うじゃろう。うむ、どうじゃ。地を這う烏は何と鳴くか。
紅玉 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)