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しよいう
門口に
誰の
所有とも
付かない
柳が一
本あつて、
長い
枝が
殆ど
軒に
觸りさうに
風に
吹かれる
樣を
宗助は
見た。
庭も
東京と
違つて、
少しは
整つてゐた。
貧乏な
百姓はいつでも
土にくつゝいて
食料を
獲ることにばかり
腐心して
居るにも
拘はらず、
其の
作物が
俵になれば
既に
大部分は
彼等の
所有ではない。
尤も、
私の
父は
初め
小さな
士族として、
家屋と、
宅地と、
其の
周圍の
少しの
山と、
金祿公債證書の
何百
圓かを
所有してゐたが、
私が
家督を
相續した
頃には
右は
軸になつて
居りますが、三
遊亭一
派の
共有物として、
円朝は
門弟共の
方へ
預けて
置ましたけれども、
是は
河竹黙阿弥翁が
所有されて
居たのを、
円朝が
貰ひ
受けました。
拳で
胸を
打つて
祈るかと
思へば、
直に
指で
戸の
穴を
穿つたりしてゐる。
是は
猶太人のモイセイカと
云ふ
者で、二十
年計り
前、
自分が
所有の
帽子製造場が
燒けた
時に、
發狂したのであつた。
成程一旦他の
所有に
歸したものは、たとひ
元が
自分のであつたにしろ、
無かつたにしろ、
其所を
突き
留めた
所で、
實際上には
何の
効果もない
話に
違なかつた。
だから
私が
其時、
日本國民として
所有する
物は、
只だ
僅かの
家具と、
僅かの
本と、
僅かの
衣服類とに
過ぎなかつた。そして
僅かに
文筆勞働に
依つて
衣食するのであつた。
從てそれだけ
丁度日本に
流通して
居る
通貨が
減るのである。
金が
減ると
云ふことになると
金利が
上り、さうして
國民の
日常所有して
居る
通貨が
減るのであるから
購賣力が
減る。
其の
所有であり
得るのは
作物が
根を
以て
田や
畑の
土に
立つて
居る
間のみである。
小作料を
拂つて
畢へば
既に
手をつけられた
短い
冬季を
凌ぐ
丈けのことがともすれば
漸くのことである。
竹の
立つてる
林は
彼の
所有ではないけれど、
彼は
恁うして
必要の
度毎に
強ひては
隱さない
盜みを
敢てするのである。
南瓜も
庭の
隅へ
粟幹で
圍うた
厠の
側へ
植ゑた。それから
庭の
栗の
木へも
絡ませた。