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懐手
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ふところで
ふりがな文庫
“
懐手
(
ふところで
)” の例文
旧字:
懷手
火鉢の火の灰になったのもそのままに重吉は
懐手
(
ふところで
)
してぼんやり壁の上の影法師を眺めている。やがて小女が番茶を入れて持って来た。
ひかげの花
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
私は、暑気の中に
懐手
(
ふところで
)
して、めあてなく街を歩いた。額に、窓の開く音が、かすかに、そして爽やかに、絶え間なくきこえてゐた。
ふるさとに寄する讃歌:――夢の総量は空気であつた――
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
薄寒い月のない晩で、頭巾に顔を隠すには好都合ですが、着膨れて、
懐手
(
ふところで
)
までしているので、何となく掛引の自在を欠きそうです。
銭形平次捕物控:068 辻斬綺談
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
私はそれまでにも何かしたくって
堪
(
たま
)
らなかったのだけれども、何もする事ができないのでやむをえず
懐手
(
ふところで
)
をしていたに違いありません。
こころ
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
見よ兵庫は地に仆れ、舌打ちをした痣の浪人は、いつか刀を鞘に納め、
懐手
(
ふところで
)
をしたまま悠々と、町の方へ歩いて行くではないか。
猫の蚤とり武士
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
▼ もっと見る
ちなみに太郎の仙術の
奥義
(
おうぎ
)
は、
懐手
(
ふところで
)
して柱か塀によりかかりぼんやり立ったままで、面白くない、面白くない、面白くない、面白くない
ロマネスク
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
向うに働かしてこっちは
懐手
(
ふところで
)
をしていて、うまい汁はみんな吸い上げてしまう、こんな面白い商売はまたとあるもんじゃない。
大菩薩峠:09 女子と小人の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
往来
(
おうらい
)
では、
勇坊
(
ゆうぼう
)
と
時子
(
ときこ
)
さんが、
寒
(
さむ
)
そうに
懐手
(
ふところで
)
をして
遊
(
あそ
)
んでいましたが、
羽根
(
はね
)
が
落
(
お
)
ちてくるとすぐに
二人
(
ふたり
)
は、
走
(
はし
)
り
寄
(
よ
)
りました。
東京の羽根
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
祭の日などには舞台据えらるべき
広辻
(
ひろつじ
)
あり、貧しき家の児ら
血色
(
ちいろ
)
なき顔を
曝
(
さら
)
して
戯
(
たわむ
)
れす、
懐手
(
ふところで
)
して立てるもあり。ここに来かかりし
乞食
(
こじき
)
あり。
源おじ
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
早いもので、もう番傘の
懐手
(
ふところで
)
、高足駄で悠々と
歩行
(
ある
)
くのがある。……そうかと思うと、今になって一目散に駆出すのがある。
妖術
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
というのは、重武はその後東京に引移り、二川家から相当額の支給を受けて、大きな顔をしてブラリ/\と
懐手
(
ふところで
)
で暮していたらしいのである。
黄鳥の嘆き:——二川家殺人事件
(新字新仮名)
/
甲賀三郎
(著)
懐手
(
ふところで
)
して、ずンぐりな男は
頸
(
くび
)
がねじれているようで、右仰向きに空へむかっては、怖ろしい勢いで、
百舌鳥
(
もず
)
のような奇声を発するのである。——
冬枯れ
(新字新仮名)
/
徳永直
(著)
何にもしないで
懐手
(
ふところで
)
をしてブラブラ遊んでいると
外
(
ほか
)
思われない二葉亭の態度や心持を
慊
(
あきた
)
らなく思うは普通の人の親としての当然の人情であった。
二葉亭四迷の一生
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
落さないように
懐手
(
ふところで
)
をしながら、帽子も何も
冠
(
かぶ
)
らないままブラリと表口から出て行ったのを、女房と番頭が見ておった。
近眼芸妓と迷宮事件
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
私が知ってからの彼の生活は、ほんの御役目だけ第×銀行へ出るほかは、いつも
懐手
(
ふところで
)
をして遊んでいられると云う、至極結構な身分だったのです。
開化の良人
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
下では梵妻と娘が
茣蓙
(
ござ
)
の四隅を持ち、上からちぎって落す柿を受けていた。老僧も監督するような形で、
懐手
(
ふところで
)
をしながら
日向
(
ひなた
)
に立って眺めていた。
果樹
(新字新仮名)
/
水上滝太郎
(著)
五間幅の往還、くわツくわと照る夏の日に、短く刈込んだ頭に帽子も冠らず、腹を前に突出して、
懐手
(
ふところで
)
で
暢然
(
ゆつたり
)
と歩く。
刑余の叔父
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
懐手
(
ふところで
)
を出すのも面倒くさく、そのまま行き過ぎようとして、ひょいと顔を見ると、平べったい貧相な輪郭へもって来て、頬骨だけがいやに高く張り
勧善懲悪
(新字新仮名)
/
織田作之助
(著)
金五郎は、
懐手
(
ふところで
)
をしたまま、訊ねた。懐手をしていることは危険にきまっているが、敵の芝居気が伝染したのである。
花と龍
(新字新仮名)
/
火野葦平
(著)
十二月三十日の
夜
(
よ
)
、吉は坂上の得意場へ
誂
(
あつら
)
への日限の
後
(
おく
)
れしを
詫
(
わ
)
びに行きて、帰りは
懐手
(
ふところで
)
の急ぎ足、草履下駄の先にかかる物は面白づくに
蹴
(
け
)
かへして
わかれ道
(新字旧仮名)
/
樋口一葉
(著)
人間様が機械にギュッ/\させられてたまるもんかい、彼はだらしなく、
懐手
(
ふところで
)
をしている方がましだと思っていた。
工場細胞
(新字新仮名)
/
小林多喜二
(著)
「いつそ
揉上
(
もみあげ
)
を短くして、ハイカラに分けてやらうか知ら。」と楯彦氏は
理髪床
(
かみゆひどこ
)
へ
往
(
ゆ
)
く途中、
懐手
(
ふところで
)
のまゝで考へた。
茶話:03 大正六(一九一七)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
翌日礼助は起きるなりすぐ髪床へ行き湯に入つて、
手拭
(
てぬぐひ
)
を番台に預けると、
懐手
(
ふところで
)
をしてぶらりと近所を散歩した。
曠日
(新字旧仮名)
/
佐佐木茂索
(著)
出る時は、店廊下を、突きぬけて、大戸のしとみ障子を開け、田所町の通りへ、ぶらんと、
懐手
(
ふところで
)
で、歩き出した。
雲霧閻魔帳
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
天秤
(
てんびん
)
の先へ
風呂敷
(
ふろしき
)
ようのものをくくしつけ肩へ掛けてくるもの、軽身に
懐手
(
ふところで
)
してくるもの、
声高
(
こわだか
)
に元気な話をして通るもの、いずれも大回転の波動かと思われ
隣の嫁
(新字新仮名)
/
伊藤左千夫
(著)
何が辛いと言つたつて、用が無くて生きて居るほど世の中に辛いことは無いね。家内やなんかが
踖々
(
せつせ
)
と働いて居る側で、自分ばかり
懐手
(
ふところで
)
して見ても居られずサ。
破戒
(新字旧仮名)
/
島崎藤村
(著)
そして、時々、蒼白いカサカサな皮膚をした若い男が、
懐手
(
ふところで
)
をしながら、巧みに、ついついと角を曲って行く姿が、ふと
蝙蝠
(
こうもり
)
のように錯覚されるような
四辺
(
あたり
)
であった。
腐った蜉蝣
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
彼は鼻をクスリと云わせて、旅館のどてらに
懐手
(
ふところで
)
といういでたちで、静かに追跡を始めたのだった。
蠅男
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
うちの石田氏は、九万吉という名が証明するように、
懐手
(
ふところで
)
で数表やグラフをながめ、大量観察による推理統計で、大局から物事を判断するといった能力をもっていない。
我が家の楽園
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
加藤の二階に上って来てからもお宮は初めから
不貞腐
(
ふてくさ
)
れたように
懐手
(
ふところで
)
をしながら黙り込んでいた。
うつり香
(新字新仮名)
/
近松秋江
(著)
つぶやいた源三郎は、玄心斎の手を静かに振り払って、
懐手
(
ふところで
)
のまま、ずいと部屋を出て行った。
丹下左膳:02 こけ猿の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
寒風に吹き
晒
(
さら
)
されて、両手に
胼
(
ひび
)
を切らせて、紙鳶に日を暮した二十年
前
(
ぜん
)
の小児は、随分乱暴であったかも知れないが、
襟巻
(
えりまき
)
をして、帽子を被って、マントに
包
(
くる
)
まって
懐手
(
ふところで
)
をして
思い出草
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
彼はこの場合、
懐手
(
ふところで
)
をして二人の折衝を傍観する居心地の悪い立場にあった。その代わり、彼は生まれてはじめて、父が商売上のかけひきをする場面にぶつかることができたのだ。
親子
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
懐手
(
ふところで
)
をしたり、他人に背負われたりしては絶対通過ができない、神の国に入るための難所である。イエスは人を欺いたり強要したりして、この道を歩かせることはなし給いません。
イエス伝:マルコ伝による
(新字新仮名)
/
矢内原忠雄
(著)
懐手
(
ふところで
)
をして肩を揺すッて、
昨日
(
きのう
)
あたりの島田
髷
(
まげ
)
をがくりがくりとうなずかせ、
今月
(
この
)
一
日
(
にち
)
に
更衣
(
うつりかえ
)
をしたばかりの
裲襠
(
しかけ
)
の
裾
(
すそ
)
に廊下を
拭
(
ぬぐ
)
わせ、
大跨
(
おおまた
)
にしかも急いで上草履を引き
摺
(
ず
)
ッている。
今戸心中
(新字新仮名)
/
広津柳浪
(著)
若きころ夜遊びに出で、まだ
宵
(
よい
)
のうちに帰り来たり、
門
(
かど
)
の
口
(
くち
)
より入りしに、
洞前
(
ほらまえ
)
に立てる人影あり。
懐手
(
ふところで
)
をして
筒袖
(
つつそで
)
の袖口を垂れ、顔は
茫
(
ぼう
)
としてよく見えず。妻は名をおつねといえり。
遠野物語
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
親方コブセはちらっと面を
火照
(
ほて
)
らしたようだが、急に
懐手
(
ふところで
)
をして胸を反らした。
親方コブセ
(新字新仮名)
/
金史良
(著)
懐手
(
ふところで
)
をしていた私の手に、突然袖口から金氷のように冷たい物が触ってきた。
生不動
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
東京の町を歩くのに、小母さまは、いつも我知らず右手を
八
(
や
)
ツ
口
(
くち
)
から入れて
懐手
(
ふところで
)
をしてお歩きになる。ころんだらおきられなくてあぶないから手をお出しなさいませ、やかましく私が云う。
獄中への手紙:05 一九三八年(昭和十三年)
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
以上は私が
懐手
(
ふところで
)
式に思いついた学説で、根拠もすこぶる薄弱であることは、私自身も充分に承知しているから、その誤りであることが解りさえすれば、いつでもこれを引込めるつもりである
人間生活の矛盾
(新字新仮名)
/
丘浅次郎
(著)
お杉は自然に涙の流れて来るのを感じると、自分がこんなになったのも、誰のためだと問いつめぬばかりに、さもふてぶてしそうに
懐手
(
ふところで
)
をしたまま、じっと小舟の中の老婆の姿を眺め続けた。
上海
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
御沙汰には火の用心をせい、手出しをするなと言ってあるが、武士たるものがこの場合に
懐手
(
ふところで
)
をして見ていられたものではない。情けは情け、義は義である。おれにはせんようがあると考えた。
阿部一族
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
君らのように
懐手
(
ふところで
)
していい
銭儲
(
ぜにもう
)
けの出来る人たア少し違うんだからね。
新世帯
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
懐手
(
ふところで
)
をして立ったまんまの圓太郎を見て、今輔が声をかけた。
円太郎馬車
(新字新仮名)
/
正岡容
(著)
頬冠
(
ほおかむり
)
の頭をうな垂れて
草履
(
ぞうり
)
ぼと/\
懐手
(
ふところで
)
して本家に帰った。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
おまえはまた
懐手
(
ふところで
)
しているのかといってみおろしている
貧しき信徒
(新字新仮名)
/
八木重吉
(著)
懐手
(
ふところで
)
で、その後に続く、吉原冠りの闇太郎だ。
雪之丞変化
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
虎「棟梁さんは
毎
(
いつ
)
も
懐手
(
ふところで
)
で
好
(
い
)
い身の上だねえ」
西洋人情話 英国孝子ジョージスミス之伝
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
懐手
(
ふところで
)
して人込みにもまれをり
五百五十句
(新字旧仮名)
/
高浜虚子
(著)
無事是貴人
(
ぶじこれきにん
)
とか
称
(
とな
)
えて、
懐手
(
ふところで
)
をして
座布団
(
ざぶとん
)
から腐れかかった尻を離さざるをもって旦那の名誉と
脂下
(
やにさが
)
って暮したのは覚えているはずだ。
吾輩は猫である
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
懐
常用漢字
中学
部首:⼼
16画
手
常用漢字
小1
部首:⼿
4画
“懐”で始まる語句
懐
懐中
懐紙
懐剣
懐疑
懐炉
懐柔
懐刀
懐妊
懐胎