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嶮
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けわ
ふりがな文庫
“
嶮
(
けわ
)” の例文
彼のそんな感情の鬱積や
嶮
(
けわ
)
しさも、いまのような気まかせなパリのアパルトマン暮しの中でおだやかに溶け去っているように見える。
道標
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
鳥越山
(
とりこえやま
)
、高時山、横山岳などのふもとを縫って、道もようやく
嶮
(
けわ
)
しくなる頃、日は没して、湖北の水は遠く左手のほうに暮れている。
新書太閤記:04 第四分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
何
(
なん
)
だか二人の支那人と喧嘩したようにも覚えている。また
嶮
(
けわ
)
しい
梯子段
(
はしごだん
)
を
転
(
ころ
)
げ落ちたようにも覚えている。が、どちらも確かではない。
馬の脚
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
その草の中にスクスクと抜け出た
虎杖
(
すかんぽ
)
を取るために崖下に打ち続く裏長屋の子供らが、
嶮
(
けわ
)
しい崖の草の中をがさがさあさっていた。
山の手の子
(新字新仮名)
/
水上滝太郎
(著)
すると
嶮
(
けわ
)
しい兄の眼がすぐ自分の上に落ちた。自分はとうていこれでは約束を
履行
(
りこう
)
するよりほかに道がなかろうとまた思い返した。
行人
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
▼ もっと見る
彼は自分の頭のすぐ上の
嶮
(
けわ
)
しい断崖の上に立っている私を見あげもせずに、あたりを見まわして更に線路の上を見おろしていた。
世界怪談名作集:06 信号手
(新字新仮名)
/
チャールズ・ディケンズ
(著)
お冬さんの眼の色いよいよ
嶮
(
けわ
)
しくなる。これにて一切の秘密判明。紳士は磯貝満彦といいて、東京の某実業家の息子なる
由
(
よし
)
。——
慈悲心鳥
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
彼は
嶮
(
けわ
)
しい眼を閉じるとボロジンの南昌入によって新たな時局の転廻となるか、恐らくは最期の
瓦解
(
がかい
)
となる二つの道を告げるのであった。
地図に出てくる男女
(新字新仮名)
/
吉行エイスケ
(著)
それどころか、彼が私のやって来たこと、気がつかずに来たことに対する批評の時は、彼の峻厳な顔は、いよいよ
嶮
(
けわ
)
しく変ってしまった。
自転車嬢の危難
(新字新仮名)
/
アーサー・コナン・ドイル
(著)
山を越え川を渡り、谷峡を
辿
(
たど
)
る
嶮
(
けわ
)
しい旅路を続けて、飯田城下も
空
(
むな
)
しく過ぎ、赤穂という小さな駅に泊ったときのことであった。
足軽奉公
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
中ノ岳より北に行くこと二十分で、槍ヶ岳第一の子分、峰は二つで、間は一丁余もあろう、標高約三千七十米突、少し
嶮
(
けわ
)
しくなってきた。
穂高岳槍ヶ岳縦走記
(新字新仮名)
/
鵜殿正雄
(著)
漸く平静であろうとした彼女の人生の行路が、その時から一段
嶮
(
けわ
)
しくなり、多岐多様になっていった分岐点が、その時であった。
マダム貞奴
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
その翌九月二十二日東南の山中に向って急坂を登らねばならん。余程な
嶮
(
けわ
)
しい坂で随分慣れて居る人たちでも苦しい息を吐いて登るです。
チベット旅行記
(新字新仮名)
/
河口慧海
(著)
段々爪先上がりの急になって道は
嶮
(
けわ
)
しく、左手に谿間があって、それが絶壁になっており、水の落ちる音がザアザアと聞える。
幕末維新懐古談:73 栃の木で老猿を彫ったはなし
(新字新仮名)
/
高村光雲
(著)
少年はまた
嶮
(
けわ
)
しい道を降りていった。その時一人の羊飼がたくさんの羊を連れて帰っていく姿を見て、その方に駆けていった。
奇巌城:アルセーヌ・ルパン
(新字新仮名)
/
モーリス・ルブラン
(著)
やがて又も河床は乾き、いよいよヴァエア山の
嶮
(
けわ
)
しい面を上って行く。河床らしいものもなくなり、山頂に近い台地に出る。
光と風と夢
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
山はこのあたりでは
嶮
(
けわ
)
しくて石だらけだったが、その山腹から
礫
(
こいし
)
がばらばらと離れて、樹の間をがらがらと音を立てて跳びながら落ちて来た。
宝島:02 宝島
(新字新仮名)
/
ロバート・ルイス・スティーブンソン
(著)
父親は剃刀の
刃
(
は
)
をすかして見てから、紙の
端
(
はし
)
を二つに折って切ってみた。が、少し引っかかった。父の顔は
嶮
(
けわ
)
しくなった。
笑われた子
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
鳰鳥はその時遥か下の分けても
嶮
(
けわ
)
しい岩の上で——巴ヶ淵の岩の上で二人の武士が刀の
柄
(
つか
)
へ物々しく右手を掛けながら云い争うているのを見た。
蔦葛木曽棧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
間もなく相見た時は、君もやゝ心解けて居たが、茶色の眼鋭く
眉
(
まゆ
)
嶮
(
けわ
)
しく、
熬々
(
いらいら
)
した其顔は、一見不安の念を余に
起
(
おこ
)
さした。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
高
(
たか
)
い
山
(
やま
)
の、
鳥
(
とり
)
しかゆかないような
嶮
(
けわ
)
しいがけに、一
本
(
ぽん
)
のしんぱくがはえていました。その
木
(
き
)
は、そこで
幾
(
いく
)
十
年
(
ねん
)
となく
月日
(
つきひ
)
を
過
(
す
)
ごしたのであります。
しんぱくの話
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
眼にも
嶮
(
けわ
)
しい光は見せて居らぬが、それは此人が此頃何処からか仮りて来て
被
(
かぶ
)
っている仮面では無いかと疑われる、むしろ無気味なものであった。
雪たたき
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
ほおずきの根元が急に
嶮
(
けわ
)
しく暗くなってゆくと、
朱
(
あか
)
い実が一きわ赤く燃え立つのが、何か悪い予感がして、それを見ていると、無性に
堪
(
たま
)
らなくなる。
苦しく美しき夏
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
右を見ても左を見ても
嶮
(
けわ
)
しい崖で、
背後
(
うしろ
)
に引返すより他に往く処はありません。修験者の
跫音
(
あしおと
)
はもう聞えて来ました。
宇賀長者物語
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
家庭の
雰囲気
(
ふんいき
)
が
嶮
(
けわ
)
しくなって来ると、すごすご宿へ引き揚げて行くこともあったし、彼女自身が嶮悪になって、ふいと飛び出して行くこともあった。
仮装人物
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
仰いで見ると四方に山が重なって、遠くして高きは真白な雲をかぶり、近くして
嶮
(
けわ
)
しきは行手に立ちはだかって、人を襲うもののように見られます。
大菩薩峠:04 三輪の神杉の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
次にどてらを尻端折して毛臑丸出しの短慶坊が、立ち上りかけて、急に劇烈の腹痛にでも襲われたかのように
嶮
(
けわ
)
しく顔をしかめて、ううむと一声
呻
(
うめ
)
き
新釈諸国噺
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
北部や南部やを
迂回
(
うかい
)
することなしに、西海岸の台中から東海岸の
花蓮港
(
かれんこう
)
へと出るためには、どうしても中央山脈の
嶮
(
けわ
)
しい山坂
径
(
みち
)
を越えなければならない。
霧の蕃社
(新字新仮名)
/
中村地平
(著)
「おおかわ」と言えば水勢ぬるく「たいか」と言えば水勢急に感ぜられ、「いただき」と言えば山
嶮
(
けわ
)
しからず、「ぜっちょう」と言えば山嶮しく感ぜらる。
俳人蕪村
(新字新仮名)
/
正岡子規
(著)
触るるものに
紅
(
くれない
)
の血が
濁染
(
にじ
)
むかと疑われた生々しい
唇
(
くちびる
)
と、
耳朶
(
みみたぶ
)
の隠れそうな長い
生
(
は
)
え
際
(
ぎわ
)
ばかりは昔に変らないが、鼻は以前よりも少し
嶮
(
けわ
)
しい位に高く見えた。
秘密
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
山から山に渡るには頂上より頂上まで行くのが最も
近道
(
ちかみち
)
であるが、実際山より山に
遷
(
うつ
)
るには、一度
麓
(
ふもと
)
の
渓間
(
たにま
)
に降りてまたまた
嶮
(
けわ
)
しき峰をよじ登らねばならぬ。
自警録
(新字新仮名)
/
新渡戸稲造
(著)
お稲荷様の
祠
(
ほこら
)
の脇から杉の木立ちの生い茂っている桜山続きの裏山の
嶮
(
けわ
)
しい細径を登りはじめたが、なるほどこれが亭主のいわゆる裏道伝いというのであろう。
逗子物語
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
誰
(
たれ
)
でもそう申します、あの森から三里ばかり
傍道
(
わきみち
)
へ入りました処に大滝があるのでございます、それはそれは日本一だそうですが、
路
(
みち
)
が
嶮
(
けわ
)
しゅうござんすので
高野聖
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
嶮
(
けわ
)
しい山路で他の国から
遮
(
さえぎ
)
られていたせいか、暮しにも持物にも行事にも色々珍らしいものが見られます。
手仕事の日本
(新字新仮名)
/
柳宗悦
(著)
もと来た道を夢中で駈けだし、それから私は、とにかく、
嶮
(
けわ
)
しい山の中をよじのぼりました。山の上にのぼってみると、あたりの様子が、いくらかわかりました。
ガリバー旅行記
(新字新仮名)
/
ジョナサン・スウィフト
(著)
それは高い岩と岩とのあいだの深い峡谷から、というよりはむしろ、その割れ目からきこえてくるように思われた。二人の進む
嶮
(
けわ
)
しいみちはそのほうに通じていた。
リップ・ヴァン・ウィンクル:ディードリッヒ・ニッカボッカーの遺稿
(新字新仮名)
/
ワシントン・アーヴィング
(著)
その幕の一部を左右に引きしぼったように
梓川
(
あずさがわ
)
の
谿谷
(
けいこく
)
が口を開いている。それが、まだ見ぬ遠い
彼方
(
かなた
)
の別世界へこれから分けのぼる途中の
嶮
(
けわ
)
しさを想わせるのであった。
雨の上高地
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
手すりのかわりに索をとりつけた穴だらけの暗い
嶮
(
けわ
)
しい階段を非常な危険をおかしてのぼってゆく。五階のとっつきに、その部屋があった。鉄棒をはめた小窓がひとつ。
黒い手帳
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
彼れの鼻は以前にも増して、
嶮
(
けわ
)
しく尖り、木で造ったかと思われる程に堅い印象を私に与えた。
ラ氏の笛
(新字新仮名)
/
松永延造
(著)
案の定、声にはまだ
嶮
(
けわ
)
しい名残りがあったが、どうやら御心も鎮ったらしい御諚が下りました。
旗本退屈男:11 第十一話 千代田城へ乗り込んだ退屈男
(新字新仮名)
/
佐々木味津三
(著)
セラピオン師は不安らしい
嶮
(
けわ
)
しい眼をして私を見つめていましたが、また、こう言いました。
世界怪談名作集:05 クラリモンド
(新字新仮名)
/
テオフィル・ゴーチェ
(著)
農場の事務所に達するには、およそ一丁ほどの
嶮
(
けわ
)
しい赤土の坂を登らなければならない。
親子
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
そのとき僕は始めて相手の顔を見た。痩せて
尖
(
とが
)
った顔で、
執拗
(
しつよう
)
に僕を小高いところから見下している眼つきには、風狂者によくある
嶮
(
けわ
)
しさのうちに一脈滑稽じみたところがある。
石ころ路
(新字新仮名)
/
田畑修一郎
(著)
崖
(
がけ
)
を下りて渓川の流に近づかんとしたれど、路あまりに
嶮
(
けわ
)
しければ止みぬ。渓川の向いは
炭
(
すみ
)
焼
(
や
)
く人の往来する山なりという。いま流を渡りて来たる人に問うに、水浅しといえり。
みちの記
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
かえって
濶
(
ひろ
)
いだけに、徒渉の回数は少い、深山の渓流としては、先ず安楽な方で、小渋川や、槍ヶ岳の
蒲田
(
がまた
)
谷などとは、深さと、急と、
嶮
(
けわ
)
しさとにおいて、到底、比べられない。
白峰山脈縦断記
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
峠は
嶮
(
けわ
)
しく、口を開くのも
臆劫
(
おっくう
)
で、話も途切れた。驢馬はすべりがちで、許生員は
喘
(
あえ
)
ぎ喘ぎ幾度も脚を
歇
(
と
)
めなければならなかった。そこを越える毎に、はっきりと
老
(
おい
)
が感じられた。
蕎麦の花の頃
(新字新仮名)
/
李孝石
(著)
行手の
嶮
(
けわ
)
しい
山径
(
やまみち
)
を越えなければならないかと思うと、急に背中の荷物が重味を増して来て、
稍々
(
やや
)
ともすると荘重な華麗な声調を要する筈の唱歌が震えて絶え入りそうになったが
ゼーロン
(新字新仮名)
/
牧野信一
(著)
どっちからでも、もうすぐ其処の宿屋へは帰れるのだが、水車の道の方からだと例のかなり
嶮
(
けわ
)
しい坂道を下りなければならなかったので、私たちは本通りの方から帰ることにした。
美しい村
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
臆病
(
おくびょう
)
などと云うことではなくして、兄の自動車での惨死が、善良な純な彼の心に、自動車に対する、
殊
(
こと
)
に箱根の——唱歌にもある
嶮
(
けわ
)
しい山や、
壑
(
たに
)
の間を縫う自動車に対する不安を
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
殆ど一面に美しい
天鵞絨
(
ビロード
)
の様な芝草に覆われ、処々に背の低い灌木の群を
横
(
よこた
)
えたその丘は、
恰度
(
ちょうど
)
木の枝に梟が止った様な形をして、海に面した断崖沿いに一段と
嶮
(
けわ
)
しく突出していた。
花束の虫
(新字新仮名)
/
大阪圭吉
(著)
嶮
漢検1級
部首:⼭
16画
“嶮”を含む語句
嶮岨
嶮峻
峻嶮
嶮所
嶮路
天嶮
嶮山
嶮崖
嶮隘
嶮悪
嶮難
嶮要
嶮城
人痛嶮艱
嶮道
嶮峰
山嶮
嶮峻巍峨
嶮峡
嶮坂
...