峨々がが)” の例文
クックの伝説からは、何だか峨々ががたる高山のような感じを受けるが、ほんとうは、丸底の盆を伏せたような、だらだらの山である。
黒い月の世界 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
しかも二人の立っている位置は、前方むこうを見ても峨々ががたる山、後方うしろを見ても聳える山、右も左も山と谷の、荒涼寂寞こうりょうせきばくたる境地である。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
峨々ががたる岩城いわしろのこと……、また、そこに住む海賊蘇古根そこね三人姉弟のこと……、さらに、その島を望んだヴィッス・ベーリング——
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
峨々ががとして見える、まゆ墨色のかなたの山々が、三陸の海岸であろう。そして、日没の太陽は、朱を塗りつけるように、どろんと輝いた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
私たちはそのとき峨々ががとしてそびえ立つ岩の頂上にたどりついた。四、五分のあいだ老人はへとへとに疲れきって口もきけないようであった。
「またその身にこけまた檜榲ひすぎい」というのは熔岩流の表面の峨々ががたる起伏の形容とも見られなくはない。「その長さ谿たに八谷やたに八尾やおをわたりて」
神話と地球物理学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
山頂はかなり高くけわしく、最高二千七百尺はある。別名をこもりの松山ともいい、宝寺たからでらの山ともいう。峨々ががたる岩山で、全山、松の木が多い。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つれの夫人がちょっと道寄りをしたので、銑太郎せんたろうは、取附とッつきに山門の峨々ががそびえた。巨刹おおでらの石段の前に立留まって、その出て来るのを待ち合せた。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
四時不断の雪渓を抱擁する峨々ががたる高峰もあれば、絶えず噴煙して時には灰を降らし熔岩を押流す活火山もある。
日本アルプスの五仙境 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
南をはるかに見下すと、果てしなく続く大洋が、漫々と水をたたえ、北は峨々ががたる山岳から、ほとばしる滝のしぶきの白さが、目にしみるようであった。
この空地の向側には、例の山の一つが立っていて、二つの奇怪な峨々ががたる峯をぎらぎらと太陽に輝かせていた。
道は蜿々えんえんとしてこの谷を通して北へ貫くのであって、隠れてまた見え出す。その大道の彼方かなたを見ると、真白な山が、峨々ががとして、雪をいただいてそびえている。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
峨々ががとして雲に頂きをかくしているウェールズの山々。すべてが強い感興をそそるのだ。マージー河をさかのぼるとき、わたしは望遠鏡で海岸地帯を偵察した。
船旅 (新字新仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
かげに小さな小屋がけして、そまが三人停車場改築工事の木材をいて居る。橋の下手しもてには、青石峨々ががたる岬角こうかくが、橋の袂からはすに川の方へ十五六間突出つきでて居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
岳陰荘がくいんそうと呼び、灰色の壁に這い拡がった蔦葛つたかずらの色も深々と、後方遙かに峨々ががたる剣丸尾けんまるびの怪異な熔岩台地を背負い、前方に山中湖を取めぐる鬱蒼たる樹海をひかえて
闖入者 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
その部屋の飾りつけは、夜明けだか夕暮だか分らないけれど、峨々ががたるいわおを背にして、頭の丸い地蔵菩薩じぞうぼさつらしい像が五六体、同じように合掌がっしょうをして、立ち並んでいた。
鬼仏洞事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
鬱蒼うっそうたる森林地帯を通り抜けると、巌石がんせき峨々ががとして半天にそびゆる崑崙山脈にじ登って、お茶の樹を探しまわるのですが、崑崙山脈一帯に叢生そうせいするお茶の樹というのは
狂人は笑う (新字新仮名) / 夢野久作(著)
また少しく小高こだかい処は直ちに峨々ががたる山岳の如く、愛宕山あたごやま道灌山どうかんやま待乳山まつちやまなぞと呼ばれている。
一了簡あり顔の政が木遣きやりを丸めたような声しながら、北に峨々ががたる青山せいざんをとおつなことを吐き出す勝手三昧ざんまい、やっちゃもっちゃの末はけんも下卑て、乳房ちちふくれた奴が臍の下に紙幕張るほどになれば
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
わたしはだいたいこういう景のところであろうとつねから考えていたのである。それは峨々ががたる峭壁しょうへきがあったり岩を奔湍ほんたんがあったりするいわゆる奇勝とか絶景とかの称にあたいする山水ではない。
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
あられうつ石峨々ががとして水急なり 霜磧
俳句の作りよう (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
そこは峨々ががたる岩山で、所々に巨大ないわやがあった。その中の一つの千疋洞に百地ももち三太夫と才蔵とが久しい前から住んでいるのであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
こは明らかに、渦巻の底の峨々ががたる岩石より成り、そのあいだにこれらの木材のあちこちと旋転することを示すものなり。
途中は峨々ががたる岩山のせまい道ばかりだった。行くこと半途にして、その道も重畳ちょうじょうたる柴や木材や車の山でふさがっていた。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
地質年代の昔から、氷に削られてきたこの岩山は、少しまるみを帯びていて、峨々ががというべきものではない。
白い月の世界 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
登れば白雪の峰皓々こうこうとしてそびえ、下れば青山峨々ががとして懸崖へ連なる。こけの細道を辿たどってゆけば、嵐に吹き散る松の雪は梅花のように難行軍の一行の上にふりかかる。
よし、その言い置いた通り白根しらねの山ふところに入ったにしろ、そこでお君が兵馬に会えようとは思われず、いわんや、その道は、険山峨々ががとして鳥も通わぬところがある。
旭岳に続く峨々ががたる山脈に囲まれている一方に、前面は切立ったような、石狩本流の絶壁にさえぎられていて、人間わざでは容易に近付けない位置に在るので、ツイこの頃まで
キチガイ地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
お妻の胸元を刺貫き——洋刀サアベルか——はてな、そこまでは聞いておかない——返す刀で、峨々ががたる巌石いわおそびらに、十文字の立ち腹を掻切かっきって、大蘇芳年たいそよしとしの筆のさえを見よ、描く処の錦絵にしきえのごとく
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
雑草の中から、のぞいてみると、下は、関の古跡こせきの裏街道、峨々ががたる岩の根に添って、海のような竹林がつづいている。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼の眼前に大岩が——大岩というより岩山が、高さ数十丈広さ数町、峨々がが堂々どうどうとしてそびえていたが、正面に一つの口があってそこから内へはいれるらしい。
女人を誘拐かどわかす卑怯未練の賊僧はそれよ。容赦なく踏み込んで召捕れやつと大喝すれば、声を合せて配下の同心、雪を蹴立てゝきおひかゝる。一方は峨々ががたる絶壁半天にかかれり。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
後ろは峨々ががたる地蔵、鳳凰、白根の連脈、それを背にして、お銀様の視線のじっと向うところは、富士でもなく、釜無でもなく、おのずから金峯きんぽうの尖端が、もう雪をいただいて
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
が、三日、五日、六日、七日になっても、まだその二人は谷と谷を隔てている。!……も、——も、丶も、邪魔なようでじれったい。が、しかしその一つ一つが、峨々ががたるいわおしんとした樹立こだちに見えた。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
辺土遠国を仮の住家すみかとして土民百姓の頭として、細々と成長致し候いしも、一陽来復、時節到来、平家一族追討の手始めとして義仲を誅戮ちゅうりくしてよりこの方、ある時は、峨々ががたる岩石に、又ある時は
『それやそのはずだ。何しろあの峨々ががたる大行山脈に住んでいるんだから、俺だって、かなり野性に返ったろうさ』
人間山水図巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
肌は咲き初めた紫陽花あじさいのように、濃い紺青や赤紫やまたは瑠璃るり色やまたはかばや、地味地層のちがうに連れて所まだらに色も変わり諸所に峨々ががたる巌も聳え曲がりくねった山骨さえ露骨あらわ
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
すすきの茂る小野の榛原はいばら。竜之助はともかくもその塚までかけつけて、眼の届く限りを見渡す。ただ茫々ぼうぼうたる原野につづく密々たる深林と、遠くは峨々ががたる山ばかり、人の気配けはいは更にない。
峨々ががたる山容は、登るほどけわしくなり、雨の日に洗い流された道は、河底をなしている。万樹はあだかも刀槍とうそうを植えたようで、虎豹こひょううそぶきを思わせる。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
飛騨ひだの高山で習いました……武者修行の途中、あの山中で峨々ががたる絶壁の丸木橋を渡りわずろうていると、そこへ目の見えない按摩あんまが来て、スルスルと渡ってしまったのを見て、両眼があって
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その裏門を半町ほど行くと、大洋の浪岩を噛む、岩石峨々ががたる海岸であり、海岸から見下ろした足もとには、小さな入江が出来ていた。入江の上に突き出しているのが、象ヶ鼻という大磐石だいばんじゃくであった。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
またも片手に水火棍すいかこん(三尺の警棒)をひッ提げ、林冲の背をしッぱだき、しッぱだき、峨々ががたる山影の遠き滄州そうしゅうの長途へ、いよいよ腹をきめて立っていった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
峨々ががたる山が、道の両わきに、鉄門のようにそびえている。そこを突破すれば、高地の沢から、山地一帯の敵へ肉薄できるのだが、そこまでが、近づけないのだった。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
麦城の北に連なる峨々ががたる峰の背さえ越えれば、道は蜀に通じ、身は呉の包囲の外に立つ。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
時は冱寒ごかんの真冬、天下に聞ゆる陳倉道(沔県べんけんの東北二十里)のけんと、四山の峨々ががは、万丈の白雪につつまれ、眉も息もてつき、馬の手綱も氷の棒になるような寒さであった。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はや葫芦谷ころこくの特徴ある峨々ががたる峰々も間近に見えた。魏延は敗走する兵を立て直すと、ふたたび鼓躁こそうを盛り返して抗戦して来た。そしてその度に、若干の損害を捨てては逃げた。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこの守備が堅いかぎり笠置は不落ふらくといっていい。北も東も、絶壁だった。切りいだような岩石の峨々ががたる下は木津川や布目川ぬのめがわの急流だ。しょせん甲冑かっちゅうでは取りつきようもなく
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
瑞龍山ずいりゅうざん一帯、巌石がんせき峨々ががたる山なので、清水のわき出ている場所は極めて少ない。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かすみの上に、妙義の山の峨々ががとした影が、うすむらさきに眺められた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はじめてふもとから山を見あげて見たが、峨々ががたる岩脈がんみゃくくものような樹林じゅりんの高さをあおぎうるばかりで、しろらしい石垣いしがきも見えず、まして、ここに千も二千もの人数が、立てこもっているとは思われないほど
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)