塩梅あんばい)” の例文
いい塩梅あんばい半月ばかりは何事もないので、少し安心する間もなく、六日前にまた一人、今度は日本人が行くえ不明になったんです。
麻畑の一夜 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
好い塩梅あんばいに眠ったらしい悦子の寝息をうかがいながら起きて、まくらもとの電灯のスタンドの横に置いてあるさっきの帳面を開けて見た。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
さういふ場合にはなるべく注意して塩梅あんばいうまくするとか、または病人の気短く請求する時はなるべく早く調製する必要も起つて来る。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
レクラム本から選んで、西洋料理めいたものをあれこれと作るのでしたが、母はバタ臭い物はお嫌いなので、お塩梅あんばいもなさいません。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
原本写本会読の法それから塾で修行するその時の仕方しかた如何どう塩梅あんばいであったかと申すと、ず始めて塾に入門した者は何も知らぬ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
飢えた蒼鷹くまだかが小鳥をつかむのはこんな塩梅あんばいで有ろうかと思う程に文三が手紙を引掴ひっつかんで、封目ふうじめを押切ッて、故意わざ声高こわだかに読み出したが
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「私、寝不足なんですの、後で少し横になれば治ってしまいますわ。この児もいい塩梅あんばいに今朝はすっかり熱がとれてしまいました」
秘められたる挿話 (新字新仮名) / 松本泰(著)
「今夜は、腹も張つたし、酒ものんで、ええ塩梅あんばいやよつてに、その勢ひで野宿でんでんする」と、相手は答へ、尚も走りつづけようとした。
釜ヶ崎 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
「出雲屋岩太郎は、いい塩梅あんばいに忙しそうで、妾の祝言のやり直しは、弟の岩三郎の初七日が済んでからということになったようですよ」
銭形平次捕物控:245 春宵 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
舌長姥 こぼれたあつものは、埃溜はきだめの汁でござるわの、お塩梅あんばいには寄りませぬ。汚穢むさや、見た目に、汚穢や。どれどれ掃除して参らしょうぞ。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
万作も少しは塩梅あんばいも宜いから、つとめて起きて、親子三人大骨折して後の山にようよう雨露を凌ぐばかりの仮小屋を建てて其処に住んだ。
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
くちもうしたらその時分じぶんわたくしは、えかかった青松葉あおまつばが、プスプスとしろけむりたてくすぶっているような塩梅あんばいだったのでございます。
物価の塩梅あんばいにはほんとうに賢明なる政府諸公も、この猪肉の公定値段をきめるには、思案投げ首の苦境に陥るのではないかと考えられる。
たぬき汁 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
『ああ、いい塩梅あんばいちやがつた。自分じぶん眼玉めだまふなんて阿呆あほうがどこにゐる。ペンペの邪魔じやまさえゐなけりや、もうあとはをれのものだ。』
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
「ござんせん」がイヤに「ござんせん」れがして甘ったるい。寄席よせ芸人か、幇間たいこもちか、長唄つづみ望月もちづき一派か……といった塩梅あんばいだ。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
昨宵ゆんべあんまり寒いからと云って、山へ鹿を打ちにきまして、よう/\塩梅あんばいに一疋の小鹿を打って、ふんじばって鉄砲でかついで来ましたが
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
二の丸と三の丸の境い目の、濠の一所にポッツリと、半分にち切れた井桁いげたのようなものが「キ」こんな塩梅あんばいに描かれてあった。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
日の光は急に戸口より射し入り、暗い南の明窓あかりまども明るくなった。「ああ、日が射して来た、先刻さっきまでは雪模様でしたが、こりゃ好い塩梅あんばいだ」
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
こんな塩梅あんばいに児供の時分から少し変っていたので、二葉亭を可愛がっていた祖母おばあさんは「この子は金鍔きんつばすかこもるかだ、」
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
自然と一対のものが出来たような塩梅あんばいになったのですから、師匠もこれは出来ると思った柏木家へ申し込んだのであります。
綱の塩梅あんばいをして、棒をカセにして締めだしたが、うまくいかないのでべつな綱をとりに行こうとした。足音を聞いて朝霞が顔から帛をとった。
無月物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「そうか。うらやましいな。Wさんに附いて行くのだから、途中でまごつくことはあるまいが、旅行はどんな塩梅あんばいだろう。僕には想像も出来ない」
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
丁度いい塩梅あんばいに、帆村が向うの喫茶ギボンの女給に頼んだ電話によって、強力ごうりき犯係の一行が現場に到着したので危く難をのがれることができた。
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
下締したじめがよく締まらないのかと思われるような下腹のふくらみ塩梅あんばいは、浴衣なぞ着た折は殊に誘惑的に見られるのであった。
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
だけど、その時の可遊さんと来たら、また別の趣きがあって、却って銀杏八丈の野暮作りがぴったり来ると云う塩梅あんばいでね。
絶景万国博覧会 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
其家そこへ泊って一両日ちますとギャア・ラマの好意で送られた下僕しもべは、まあこの塩梅あんばいなら大丈夫でございましょうといって帰ってしまいました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
蝋燭が娘たちに光を投げるように塩梅あんばいされて置かれ、二人の娘がギターに似た物を鳴らし続ける間に、一人が舞踊をした。
どんな塩梅あんばいだときいてみると、爺やの話ではよく分かりませんが、どうも胃癌いがんらしい。それにもう寝たっきりで、再起ののぞみもないようでした。
朴の咲く頃 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
三日目……まだ幾日いくか苦しむ事であろう? もう永くはあるまい。大層弱ったからな。此塩梅あんばいでは死骸のそばを離れたくも、もう離れられんも知れぬ。
丁度私はY君と一緒にその頃先生の指導の下に水素の爆発の実験をしていたので、丁度良い塩梅あんばいにその研究の御手伝いをすることが出来たのである。
球皮事件 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
まるで材木でも運ぶような塩梅あんばいに、市ヶ谷行きの囚人自動車くるまに積み込む——とまア、そんな工合になっちまってるんです……こうなるとなんですな
あやつり裁判 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
お前がまっ二つにやられた後は、私の番じゃあるまいかと、さっきから、屏風びょうぶの後で息を凝らして見ていたのさ。が、ほんとうにいい塩梅あんばいだったね。
恩讐の彼方に (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「お芳さんがあすこに立っていたから、行って見てきましたの。いい塩梅あんばい平場ひらばの前の方を融通してくれたんですよ」
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ところが裁判官なんてものは、晩かれ早かれ、何かしら動機を見附けだして犯行を解釈してくれるものなので、おれはいい塩梅あんばいに釈放されたのである。
ピストルの蠱惑 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
尾田は物凄い手品でも見ているような塩梅あんばいであっけに取られつつ、もう一度唾液を呑み込んで返事もできなかった。
いのちの初夜 (新字新仮名) / 北条民雄(著)
助ちゃんは「いい塩梅あんばいでした。あたしが通り合わせて。」と云って、それから如何にも感心したように、「清ちゃんはえらい。」と私のことをめた。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
「速記録なら速記者を頼む方が早い。しかしそこをうま塩梅あんばいして、ガラマサどんの精神を如実にょじつに現すのが君の腕さ」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
少し慣れるとその匂い塩梅あんばいで出来加減が分りますが匂いがしてまた二、三分過ぎた時分半紙を一枚手に持っていて
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
学士が来て見ると、病人がこのごろになく好い血色けっしょくをしていた。それを見て学士が云った。「この塩梅あんばいだと、もう二三日立ってから起きられそうだね。」
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
「ホ、ホ、ホ。まあ、そんな塩梅あんばいなんでございましょうね。それですからね、あなた、日のべをしてまで、まだあんなに毎日入りがつづいているんですよ」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
折ふしおひざの上へ乗せておつれになる若殿さま、これがまた見事に可愛かあいい坊様なのを、ろくろくお愛しもなさらない塩梅あんばい、なぜだろうと子供心にも思いました。
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
その中の一人なりまた中立の他の一人なりが試験的の監督となりリーダーとなってその人が単に各句の季題やぞう塩梅あんばいを指定するのみならず、次の秋なら秋
連句雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
外に立っているものは、入っていいのだか悪いのだか計り兼ねて、遠慮をしているような塩梅あんばいでありました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかれども天年を仮さず、空しく一方においては調和塩梅あんばいの勝海舟、他方においては善断の南洲、剛厳の大久保らをして、僅かにその後を善くせしむるに到る。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
「……東京の宮さんから京都へ御降嫁になるんじゃそうな。ついては御殿を二十万円で新築せにゃならんそうで、全国の信者が寄進せにゃならん塩梅あんばいじゃ——」
だるまや百貨店 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
さて学校も出来人間も大概そろったが金がない。軍隊は戦争しようとするけれども、肝腎かんじん兵站へいたん部がない様な塩梅あんばいで、学校も財政のために非常に困ったのである。
東洋学人を懐う (新字新仮名) / 大隈重信(著)
さいこ槌を振り上げてゴロ/\と叩けば五五の二十五文、ゴロ/\と叩けば五五の二十五文まうかつた、といつた塩梅あんばい咄家はなしかのやうな道化た口調で話して聞かせ
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
きょうはいい塩梅あんばいに船もそう混まないで、引潮の岸の河底が干潟になり、それに映って日暮れ近い穏かな初冬の陽が静かにめかけている。かもめが来てあさっている。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
かえって兵隊さん達に親切にされる、それをよろこんでお受けする、それで兵隊さん達が満足される、それをせめてもに思って貰うほかはないといった塩梅あんばいである。
中支遊記 (新字新仮名) / 上村松園(著)
それに気絶するほど頭部あたまぶたれたのだから、脳病でも出なければ可いつて、お医者様もさう言つておいでださうだけれど、今のところではそんな塩梅あんばいも無いさうだよ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)