むかう)” の例文
此返事このへんじいて、むつとはらつた。頭巾づきんした剥出むきだして、血色けつしよく頸元えりもとかゝるとむかう後退あとすざりもしない。またいてた。
更に岸をくだつて水上すゐじやううかかもめと共にゆるやかな波にられつゝむかうの岸に達する渡船わたしぶねの愉快を容易に了解する事が出来るであらう。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
まれていでくるわかどむかうふより番頭新造ばんとうしんぞのおつまちてはなしながらるをれば、まがひも大黒屋だいこくや美登利みどりなれどもまこと頓馬とんまひつるごと
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
製作ぢやうむかう側にはギリシヤあたりの古い美術品かと思はれる彫刻を施した円い石やかくな石が転がつて居るのであつた。馬車の用意が出来た頃弟子がもう一人帰つて来た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
またみづうへ歩行あるいてたものがある。がふねるでもなく、すそみづについてるでもない。たかく、きりおんなじねずみうす法衣ころものやうなものをまとつて、むかうきしからひら/\と。
三尺角拾遺:(木精) (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
さかりと咲亂さきみだれえも云れぬ景色けしきに寶澤は茫然ばうぜんと暫し木蔭こかげやすらひてながめ居たり此時はるかむかうより年頃四十ばかりの男編綴へんてつといふをまと歩行あゆみ來りしがあやしやと思ひけん寶澤に向ひて名を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ホツ、ホツとしまりの無い笛を鳴らして、自動車が過ぎた。湯村の車が右に避けようとしたその車輪のきはどい間をくゞり、重い強い発動器の響を聞かせて、砂埃ほこりの無い路を太いゴム輪が真直にむかうせた。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
おぢさん「ほうら、またむかうでもはじめた」
さすれば自分は救助船に載せられて、北へも南へも僅か三マイルほどしかない、手に取るやうに見えるむかうの岸にあがる事が出来やう。
黄昏の地中海 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
いとはずたどり行に漸々と紀州加田浦かだのうらいたる頃は夜はほの/″\と明掛あけかゝりたり寶澤は一休ひとやすみせんと傍の石にこし打掛うちかけ暫く休みながらむかうを見れば白きいぬぴき臥居ふしゐたり寶澤は近付ちかづき彼の握飯にぎりめし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「ゆうべ長谷川君と遅く迄話し込んだので僕は朝寝をして仕舞しまつた。衣替きがへをする間待つて居てれ給へ。」「滿谷は起きてるから。彼処あすこで待つて居よう。むかうには煖炉ストオブも消えてないだらうから。」
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
ふなばたから手にとるやうに望まれるむかうの山——日に照らされて土は乾き、樹木はすくなく、黄ばんだ草のみに蔽はれた山間に白い壁塗りの人家がチラ/\見える
黄昏の地中海 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
出てもどる頃漸々東がしらみ出し雨も小降こぶりに成たる故浮羅々々ぶら/\戻るむかうよりしりつぺた迄引端打ひつはしをり古手拭ふるてぬぐひ頬冠ほゝかぶかさをも指ずにぬれしよぼたれ小脇差こわきざしをば後ろへ廻し薄氣味惡うすきみわる坊主奴ばうずめが來るのを見れば長庵故かさ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
長吉ちやうきち病後びやうご夕風ゆふかぜおそれてます/\あゆみを早めたが、しか山谷堀さんやぼりから今戸橋いまどばしむかうに開ける隅田川すみだがは景色けしきを見ると、どうしてもしばら立止たちどまらずにはゐられなくなつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
私は毎年の秋たけだいに開かれる絵画展覧会を見ての帰り道、いつも市気しき満々まん/\たる出品の絵画よりも、むかうをか夕陽せきやう敗荷はいかの池に反映する天然の絵画に対して杖をとゞむるを常とした。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
築地つきぢ河岸かしの船宿から四挺艪しちやうろのボオトを借りて遠く千住せんじゆの方まで漕ぎのぼつた帰り引汐ひきしほにつれて佃島つくだじまの手前までくだつて来た時、突然むかうから帆を上げて進んで来る大きな高瀬船たかせぶねに衝突し
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
むかう河岸かししづかないゝうちがあるわ。わたしたちなら一時間じかん百円ひやくゑんでいゝのよ。」
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)