到頭とうとう)” の例文
思いのたけを書き綴って、人伝ひとづてに送っても返事が来ず、到頭とうとうしまいには、多与里の姿を見ただけでもうるさそうに顔を反ける左京です。
ただおしい事には今一歩といふ処まで来て居ながら到頭とうとう輪の内をける事が出来なかつたのは時代の然らしむるところで仕方がない。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
誰も自らその難局に当ろうというものが無くて、到頭とうとう病気の松方まつかた正義まさよし〕侯〔爵〕に大任を持って行った。到頭一週間の時日を費やした。
或る日、明子は到頭とうとう決心して、村瀬を旅に連れ出した。彼は珍しく明子の提議には従つた。彼女と一緒に天の幼児もついて来た。
青いポアン (新字旧仮名) / 神西清(著)
到頭とうとう仕舞しまいには洋書を読むことをめて仕舞うて攘夷論でも唱えたらば、ソレはおわびが済むだろうが、マサカそんな事も出来ない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それどころか僕を、到頭とうとう犯罪狂だといって、気違い病院へたたき込んだんです。……屹度きっとあいつらの仕業しわざなんだがね……それが昨日ですよ。
自殺 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
「畜生、到頭とうとうやられたぞ‼」龍介は口惜くやしそうに呟きながら、どうかして縛ってある縄を解こうとして見たが、厳重な縄はびくともしない。
骸骨島の大冒険 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
与吉の真面目まじめなのに釣込つりこまれて、笑うことの出来なかったお品は、到頭とうとう骨のある豆腐の注文を笑わずに聞き済ました、そして真顔まがおたずねた。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お前くらい冷酷で薄情な奴はないとわめいたり愚痴ったりしたあげくには、麻油に縋りついて到頭とうとうめそめそ泣き出してしまって
小さな部屋 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「そうか。実は昨夜ゆうべも会社へしのび込んだのだが、あの中までは到頭とうとう入れなかったのだ。宇宙艇とまでは気がつかなかった」
空中墳墓 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それで到頭とうとうダンチョン様は、尤も重大な嫌疑者として、その場から拘引されたのです。そうです重大な嫌疑者として……。
西班牙の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
第二回戦セカンドヒイトは、独逸ドイツ加奈陀カナダ新西蘭ニュウジイランドとぶつかり、これも日本は、第三着で、到頭とうとう、準決勝戦に出る資格を失ったのでした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
未来永劫此の世に遺したさに、すがたを描こうと思いつき、到頭とうとうこの一面の肖像すがたえをかいたことを話してきかせました。
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
前の如く文治の口供を持参いたしますると、矢張前の通り手間取って居りますので、到頭とうとう印形を捺すことが出来ませぬ。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
到頭とうとう岸本は幼い子供等を残して置いて東京を離れた。元園町、加賀町、森川町、その他の友人は品川まで彼を見送った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そうして侯爵夫人をつかまえて親方がの女の指輪を貰うのを忘れたから改めて貰って来いと言附けられたと云って、到頭とうとう指輪を奪って帰りました。
薔薇の女 (新字新仮名) / 渡辺温(著)
而して彼女の家では、父死し、弟は年若としわかではあり、母が是非居てくれと引き止むるを聴かず、彼女は到頭とうとううちを脱け出して信州の彼がもとはしったのである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
うだい、到頭とうとう降って来たらしいぜ。過日このあいだから催していたんだから、滅多めったに止むまいよ。困ったもんだ。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
だが、到頭とうとうある日、私は家の横の細い路地で、ヒョッコリと、裏の女房に出逢ってしまったのである。
毒草 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
何処か特徴のある顔が理由わけもなく彼の首をひねらした。して到頭とうとう思い出す事が出来た。
乗合自動車 (新字新仮名) / 川田功(著)
到頭とうとう其處そこふかほとんど四五すんおほきないけ出來できて、大廣間おほひろま半分はんぶんつかつてしまひました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
戸を開きて出迎える細君は待兼し風情にて所天おっとの首にすがり附き情深きキスを移して「あゝ到頭とうとうお帰になりましたね今夜は何だか気に掛りまして」と言掛けて余が目科の背後うしろに在るを見
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
到頭とうとう本来の仕事よりもこの事件の持つ謎自身の方へ強くひかれて了ったらしい大月と、それから秘書の秋田は、間もなく先程の証人の男に案内されて、見晴の良いその丘の頂へやって来た。
花束の虫 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
女二 到頭とうとうあの鎖を断ってしまったんだわねえ。
世評(一幕二場):A morality (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「兄さん、到頭とうとうやったんですよ」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
到頭とうとう勝って、少数奸臣の悪事も明白となり、金森家は領地を召上げられ、城主兵部少輔は南部大膳太夫なんぶだいぜんだゆうにお預けとなりました。
其内そのうちるともなく父鬼村博士の陰謀に気付き、夜に昼をいでなげきかなしんだため、到頭とうとうひどく身体を壊してしまった。
国際殺人団の崩壊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
これらの人々即ち国民の中等階級、知識ある階級が政治から退しりぞけば、到頭とうとう劣悪なる一種の政治的商売が起るのである。
憲政に於ける輿論の勢力 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
誠に世話のない話で、大層たいそう便利を得て、亜米利加アメリカまで行て、帰りの航海中も毎日用いて、到頭とうとう日本までもっかえって、久しく私の家にゴロチャラして居た。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
見神の一義に君は到頭とうとう精力せいりょく傾注けいちゅうせずに居られなくなったのである。しかして生涯の大事だいじ、生存の目的を果したので、君は軽く肉のころもを脱いだのであろう。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
到頭とうとう、たまり兼ねたように、大きく伸びをすると、それでも跫音あしおとをしのばせながら、注意深く歩いて行って、さっき二人が下りたらしい崖の小径を捜して見た。
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
先生の放屁にあてられて、彼は到頭とうとう思わぬ厭世感にかりたてられていたらしい。按吉はこの二行詩が出来上るまで詩というものを作ったことがなかったのである。
勉強記 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
おれはもう一生、誰にも自分の心をくれないつもりだった。到頭とうとうお前に持って行かれてしまった」
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「驚くなよ、浦島丸は一昨日から流血船を捜していたんだが、一時間ばかり前に到頭とうとう捉えたぞ」
流血船西へ行く (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
先刻さっきも云った通り、巡査が一度追掛おっかけたことも有ったが、到頭とうとうつかまらなかった。何しろ、猿と同じように樹にも登る、山坂を平気でかける、到底とても人間の足では追い付かないよ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
相模さがみの海の夕焼け空も、太平洋の夕照とかわりありません。到頭とうとうあなたの手紙は来なかった。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
良「やア出て来たねえ、此方こっちへ来なさい、誠に萩原も飛んだことになって、到頭とうとう死んだのう」
次から次と商売替えをして、到頭とうとうこんなものに落ちぶれて了ったわけなんですが、その時もやっぱり、一つの職業をして、次の職業をめっける間の、つまり失業時代だったのですね。
モノグラム (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あいちやんは、やがまたそれがあらはれるだらうと豫期よきして、しばらくのあひだつてゐました、が、それは到頭とうとう姿すがたせませんでした、良久しばらくしてあいちやんは、三月兎ぐわつうさぎんでるとはれたはうあるいてきました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
讃之助は到頭とうとう立ち上ってしまいました。あやかしを払い退けるように、双腕を振って女を戸口の方へ追いやろうとします。
葬送行進曲 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
十日ほどの辛抱しんぼうののち私は頃合いの犠牲者を到頭とうとう見付けることが出来ました。これが例の細田弓之助という人物です。
三角形の恐怖 (新字新仮名) / 海野十三(著)
独逸ドイツの大宰相としてビスマーク公に譲らぬところのピュロー公は、議会の反対に苦しんで、到頭とうとう自分の地位をなげうつのむなきに至ったのであります。
平和事業の将来 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
翌朝御託おわびに出て昨夜は誠に失礼つかまつりましたとべるけにも行かず、到頭とうとう末代まつだい御挨拶なしにすんで仕舞た事がある。是ればかりは生涯忘れることが出来ぬ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ズウズウしい女達おんなたち順番じゅんばんになった彼女を押のけてミシンを占領したりするので、彼様あんな処へは最早もう行くのはいやでござりますと云って、到頭とうとう女中専門になった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
しばらくすると、あいつ到頭とうとう、濡れた雑巾のようにくしゃくしゃになって死んで仕舞ったんです。その時の気持、それはなんといったら言い表わすことが出来ましょう。
自殺 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
愛犬の骨を敵に渡すのは、何だか口惜くやしようにも思われるので、市郎は到頭とうとうトムを抱えて帰った。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
主「それ御覧なせえ、それだからわしがあんなに止めたのに到頭とうとう強情をお張りなさって」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
一体朝寐坊あさねぼうのたちで、そんなことは珍しくもなかったのですが、母親に起されても起されても、ウンウンとそら返事ばかりして、暖かい寝床を出ようともせず、到頭とうとう登校時間を遅らせ
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
昨日はゆき子にも電話したのだが、これも到頭とうとうこなかった。奴等は僕が秘密を嗅ぎ出したことを知っているらしい。僕は厳重に看視されている。だから秘密を握っても渡す方法がなかった。
劇団「笑う妖魔」 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
到頭とうとう岡君には逢わずじまいにって行くね」
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)