内輪うちわ)” の例文
内輪うちわはお前も知つての通りの火の車だから、上野の寛永寺樣に出入りの株でも賣らなければ、差迫つての千兩の工面はむづかしい。
基康 わしの前で内輪うちわの争いは、見るにえぬわい。さるこくまでに考えを決められい。猶予ゆうよはなりませぬぞ。(退場。家来つづく)
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
やり場のない鬱憤うっぷんも、気のゆるせる内輪うちわの家臣を前に、酒気を加えて洩れ始めると、口ぎたない悪罵あくばにまでなって、止まるなき有様だ。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それに華客場とくいばの中でも、師匠の家の内輪うちわへまで這入はいっていろいろ師匠のためを思ってくれられた特別の華客先もありました中に
そればかりでなく、ある時分じぶん、二ほんみじかあし内輪うちわがっているから、ちょうどブルドッグのあるくときのような姿すがた想像そうぞうさせたのでした。
酒屋のワン公 (新字新仮名) / 小川未明(著)
琥珀こはく刺繍ぬひをした白い蝙蝠傘パラソルを、パツとはすの花を開くやうにかざして、やゝもすればおくれやうとする足をお光はせか/\と内輪うちわに引きつて行つた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「立花様のほうへ、それとなく伺ってみました。添役だから、内輪うちわにして百両——だいたいそんなところだったらしい。」
元禄十三年 (新字新仮名) / 林不忘(著)
禅僧の内輪うちわの生活が次第に栄養不良になる一方の乏しいものでも、貧農ひんのうの目から見れば坊主は裕福ゆうふくという昔からの考えがいくらか残ってはいる。
禅僧 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
本堂の中にと消えた若い芸者の姿は再び階段の下に現れて仁王門におうもんの方へと、素足すあしの指先に突掛つっかけた吾妻下駄あずまげた内輪うちわに軽く踏みながら歩いて行く。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
もっとゆっくり、お嬢様、内輪うちわにお歩きなさいまし。……そうらとらまえた捉まえた。細くて白くてすべっこくて、綺麗なお手々でございますなあ
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
私ども内輪うちわでいくらやかましくいっていても、料理人たちはうわの空でだめですから、こういう機会に、本気で聞かせようと思っているのであります。
日本料理の基礎観念 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
無論内輪うちわの催しであったが、学海翁が『読売』で劇評を発表したのでパッと評判となって、この次には是非切符をもらいたいというものが多勢あった。
さてはこの母親の言ふに言はれぬ、世帯せたい魂胆こんたんもと知らぬ人の一旦いつたんまどへど現在の内輪うちわは娘がかたよりも立優たちまさりて、くらをも建つべき銀行貯金の有るやにそろ
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
やはり「お」の字のおかみの話によれば、元来この町の達磨茶屋だるまぢゃやの女は年々夷講えびすこうの晩になると、客をとらずに内輪うちわばかりで三味線しゃみせんいたり踊ったりする
温泉だより (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
会は毎月一回帝大内山上集会所で開いたが、非公開の内輪うちわの会とし、且つ会員各自の自由談論によることとして、私が指導者的地位に立つことは避けて居た。
帝大聖書研究会終講の辞 (新字新仮名) / 矢内原忠雄(著)
夜中に婆さんが目を醒した時、一匹でも足りないと、家中を呼んで歩くため、客の迷惑する事も時にはある。この婆さんから色々の客の内輪うちわの話も聞かされた。
(新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「貴女は内輪うちわの人だから、もう一つこれも御なぐさみにごらんにいれるかな。さあ、この写真はどうです」
什器破壊業事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
谷山家の内輪うちわでも絶対の秘密になっておりますので、御存じの無いのは御尤も千万ですが、しかし私は天地神明に誓ってもいい事実ばかりを、申上げているのです。
キチガイ地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
尤も前々から、女中どもを相手に内輪うちわでそう云う催しをしていたのであったが、それを今度は、表座敷の書院の間へ侍共を招いて、やゝ盛大に開こうと云うのである。
言わば内輪うちわ披露ひろうで、大体の輪郭に過ぎなかったが、もしこの条山神社創立の企てが諸国同門の人たちの間に知れ渡ったらどんな驚きと同情とをもって迎えられるだろう
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
もっと軍務ぐんむ多端たたんさいとて、そのしきいたって簡単かんたんなもので、ただ内輪うちわでお杯事さかずきごとをされただけ、もなく新婚しんこん花嫁様はなよめさまをおれになって征途せいとのぼられたとのことでございました。
それは義家よしいえ鎮守府ちんじゅふ将軍しょうぐんになって奥州おうしゅうくだってりますと、清原真衡きよはらのさねひら家衡いえひらというあらえびすの兄弟きょうだい内輪うちわけんかからはじまって、しまいには、家衡いえひらがおじの武衡たけひらかたらって
八幡太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
故作家と生前、特に親交あり、いま、その作家を追慕するのあまり、彼のたわむれにものした絵集一巻、上梓して内輪うちわの友人親戚間にわけてやるなど、これはまた自ら別である。
いわば試験的な施設しせつだものですから、各方面のかたに大げさな御案内を出すのもどうかと思いまして、いつも内輪うちわの者だけが顔を出すことにいたしているようなわけなんです。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
「女みたいに内輪うちわに歩く奴だな」警部の独言に気づくと、成程その足跡は皆爪先つまさきの方がかかとよりも内輪になっている。ガニまたの男には、こんな内輪の足癖が、よくあるものだ。
何者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
世間にこそ知れねえが、それまでにも内輪うちわでは貰い娘を何か邪慳じゃけんにしたこともあるだろうし、お安という娘もなかなか利巧者だから、親たちの胸のうちも大抵さとっていたらしい。
半七捕物帳:16 津の国屋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
さいはひにたいしたことはございませんでしたけれど。」彼女かのぢよ内輪うちわはなすのであつた。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
内輪うちわ事のように言っていたので、院はみずから計画に参加あそばさなかったが、女の催しでこれほど手落ちなく事の運ばれることは珍しいほどに万事のととのったのをお知りになって
源氏物語:41 御法 (新字新仮名) / 紫式部(著)
私のした本をうで一杯に抱えて、はじけそうな、銀杏返いちょうがえしを見せて振り向きもしないで、町風まちふう内輪うちわながら早足はやあしに歩いて行く後姿なんかを思いながらフイと番地を聞いて置かなかった
秋風 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
これは、旧幕時代に、将軍さまの御声おこえがかりで建てられたという由緒のある寺でありますが、明治時代になってからは、さほど内輪うちわが豊かでなくなり、かなりに荒れてきたのであります。
墓地の殺人 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
それだけがむずかしければ内輪うちわになってもかまわないんだが……
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
これはまったく内輪うちわの客あつかいといっていい。むかし、垣一重かきひとえの隣り合わせに住んでいた頃の往来も、こうだったのである。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
本堂の中にと消えた若い芸者の姿すがたは再び階段の下にあらはれて仁王門にわうもんはうへと、素足すあし指先ゆびさき突掛つゝかけた吾妻下駄あづまげた内輪うちわに軽く踏みながら歩いてく。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
けれどもまた坊ちゃんと見縊らなければ、彼女ももっとこちらの内輪うちわうかがわせていたことは確かだった。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ところが玄関に出てみると最初に見かけた通りの大前髪おおまえがみに水色襟、紺生平こんきびらに白小倉袴こくらばかま、細身の大小のつか内輪うちわに引寄せた若侍が、人形のようにスッキリと立っていた。
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
いや、あれは内輪うちわの賞で、他流者には通用せぬと説いても、左膳はいっこうききいれない。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
御屋敷方の内輪うちわのことに、わたくしどもが首を突つ込んぢやあ惡うございますが、いつそこれはわたくしにお任せ下さいませんか。二三日のうちにきつらちをあけてお目にかけます。
半七捕物帳:01 お文の魂 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
内輪うちわに見積りましても、俄然がぜん元気を恢復して、居睡りのあと、仕事がはかどりますデス。
発明小僧 (新字新仮名) / 海野十三佐野昌一(著)
私は妻子と共に仏間へ行って、仏さまを拝んで、それから内輪うちわの客だけが集る「常居じょい」という部屋へさがって、その一隅に坐った。長兄の嫂も、次兄の嫂も、笑顔を以て迎えてれた。
故郷 (新字新仮名) / 太宰治(著)
その夜お京は兄の部屋で、かなり遅くまで話しこみ、十二時近くなってしんについた。お京はおとなしい性質で、日本式の娘型。物事ものごと内輪うちわへ内輪へとひそめ、出しゃばることをひどく嫌った。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「兄さんもこの節は彼のことばかり心配してますよ。吾家うちでも、御蔭で、大分商法が盛んに成って、一頃から見ると倍も薬が売れる。この調子で行きさえすれば内輪うちわは楽なものなんですよ。他に何も心配は無い。唯、彼が……」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
多年、乱脈な暴状をきわめていた室町幕府の内輪うちわもめがまた、自爆をんで、三好みよし、松永の両党が、将軍義輝を殺したのは、その年の前年六月だった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お屋敷方の内輪うちわのことに、わたくしどもが首を突っ込んじゃあ悪うございますが、いっそこれはわたくしにお任せ下さいませんか。二、三日の内にきっとらちをあけてお目にかけます。
半七捕物帳:01 お文の魂 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
お家騒動、内輪うちわめから。邪魔な相手を片付けたさに。こうした手段を使った実例ためしが。チラリチラリと残っております。ならば今では、どうかと見ますと。おなじ事じゃと云いたいなれども。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
内輪うちわではつかえるが、四角張った場合には、決してつかえない源三郎だ。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それに始終俯向うつむき加減に伏目になって、あまり口数もきかず、どこかまだ座敷馴れないような風だから、いかにも内輪うちわなおとなしい女としか思われません。長くこんな商売をしていられる身体じゃない。
あぢさゐ (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「ご勅使の大原三位様のお供にいていらっした桂さんという人です。とても、気軽で、吾家うちへは、書生時分から来ているので、まるで内輪うちわの人なんですよ」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もし津の国屋の内輪うちわにそんな秘密が忍んでいるとすれば、その奉公人を周旋した自分の身の上にどんな係り合いが起らないとも限らないと、文字春はそれがためにまた余計な苦労を増した。
半七捕物帳:16 津の国屋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
母親の時子は徳市を深く信用したらしく真面目な内輪うちわの話を初めた。
黒白ストーリー (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
そしてこう行き過ぎた感情をかえりみては、もう語ろうとする内容も自然内輪うちわにならざるを得なかった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)