其様そん)” の例文
旧字:其樣
いや、其様そんな後の事を説いて納屋衆の堺に於て如何様の者であったかを云うまでも無く、此物語の時の一昨年延徳三年の事であった。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
主「親分、なんで其様そんな足腰の立たないものをお縛りなさるのです、わたくしア名主様へ引かれるような罪を犯した覚えはございません」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
……「一体何処に何うしているんだろう?」と、また暫時しばら其様そんなことを思い沈んでいたが、……お宮も何処かへ行って了うと、言う。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
可哀かわいそうに! 普通なみの者なら、何ぼ何でも其様そんなにされちゃ、手をおろせた訳合わけあいのもんじゃございません、——ね、今日こんにち人情としましても。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
我輩が飲む間は、交際つきあはぬといふ。情ないとは思ふけれど、其様そんな関係で、今では娘の顔を見に行くことも出来ないやうな仕末。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「サア何時いつと限った事もありませんが、マアくらい時の方が多いようですね、ツマリくらいから其様そん疎匆そそうをするのでしょうよ」とすましている。
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
乃公は其様そんな事をしたくないが、みんながするから仕方がない。何でも人並にしてとお母さんがくれぐれも言い含めて寄越した。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
茶を飲みながらふと見ると、壁の貼紙はりがみに、彼岸会ひがんえ説教せっきょう斗満寺とまむじと書いてある。斗満寺! 此処ここ其様そんなお寺があるのか。えゝありますと云う。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
第一中隊のシードロフという未だ生若なまわかい兵が此方こッちの戦線へ紛込まぎれこんでいるから⦅如何どうしてだろう?⦆とせわしい中でちら其様そんな事を疑って見たものだ。
「江藤さん、私は決して其様そんなことは真実ほんとにしないのよ。しかし皆なが色々いろんなことを言っていますからもしやと思ったの。怒っちゃいけないことよ、」
二少女 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
振り返ッて見ると、四十ばかりの商人体あきんどていの男が、『彼方あなた其様そんな刀の様な物を担いで通ッたら、飛んだ目に逢ひませう』
東京市騒擾中の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
兼吉と云ふ男は決して其様そんな性格の者ではありませぬ、石川島造船会社でも評判の職工で、酒は飲まず、遊蕩いうたうなどしたことなく、老母にはきはめて孝行で
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
随分変った場所だから、誰でも今夜あの森林を一番奥まで探検して、果して其様そんな不思議な物が落ちて居るか否か、最も正確に林中の模様をわしに報告した者をば
黄金の腕環:流星奇談 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
さうしてつたところ始終しゞふそとで、たま其下宿そのげしゆくつたこともあつたけれど、自分じぶん其様そん初々うひ/\しいこひに、はだけがすほど、其時分そのじぶん大胆だいたんでなかつたとふことをたしかめた。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
其様そんけちな根性だからとても恋はかなはねヱ。之からちつ肝玉きもつたまを練る修行に時々吠えてやるかナ。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
七歳の時に町の小学校に入ったが何時いつも友達からいじめられて学校から帰りには泣かされて来る。彼は決して学校で自分から喧嘩をしかけたことはない。また其様そんな勇気のある子供でない。
蝋人形 (新字新仮名) / 小川未明(著)
けれども、軍隊のことについては、何にも知つちやあゐないので、赤十字の方ならばくわしいから、病院のことなんぞ、悉しくいつて聞かしてつたです。が、其様そんなことは役に立たない。
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「光にかぎって其様そんな事はありゃしねえよ」。是はばばが万作をなだめる言だ。
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
煉瓦を運ばされるやうになつてからは、番頭がやかましくて、もう娘の分まで働いてやれなくなつたが、其代り娘がつまづきはせぬか、煉瓦の重味おもみつぶされはせぬかと、始終其様そんな事ばかり気にしてゐた。
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
兼「人を馬鹿にするなア、いつでもしめえにア其様そんな事だ、おやアおりを置いて行ったぜ、平清のお土産とは気が利いてる、一杯いっぺい飲めるぜ」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
……初めてお宮に会った時にもう其様そんなことが胸に浮んでいた。それが今、長田の言うのを聞けば、長田は知っていなかった。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
『あゝ、伝染うつりはすまいか。』どうかすると其様そんなことを考へて、先輩の病気を恐しく思ふことも有る。幾度か丑松は自分で自分をあざけつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
私は自然だ人生だと口には言っていたけれど、唯書物で其様そんな言葉を覚えただけで、意味がく分っているのではなかった。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
如何にも其様そんな悪びれた小汚い物を暫時にせよていたのがかんに触るので、其物に感謝の代りに怒喝を加えてなげてて気をくしたのであろう。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
いやいや如何どう考えてみても其様そんな筈がない。味方は何処へ往ったのでもない。此処に居るに相違ない、敵を逐払おいはらって此処を守っているに相違ない。
其様そんさわぎも何時しか下火になって、暑い/\と云う下から、ある日秋蝉つくつくぼうしがせわしく鳴きそめる。武蔵野の秋が立つ。早稲が穂を出す。尾花おばなが出てのぞく。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「女の仕事はどうせ其様そんなものですわ、」とお富も「おほほほほ」と笑ッた。そしてお秀は何とも云いにくい、嬉しいような、哀れなような、頼もしいような心持がした。
二少女 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
其様そんなに隠さずとも好いだろう、相見互だもの、己等おいらの付合も為てくれたって、好さそうなもんだ」など、嫌味を言って、強請ゆすりがましいことを、愚図々々言ってますのです。
大利根の大物釣 (新字新仮名) / 石井研堂(著)
何時の間に貴女あなた其様そんな弱き心におりでした、——先夜始めて新聞社の二階で御面会致した時、貴女と同じ不幸におちいつてるひと、又陥りかけてる女が何千何万ともかぎりないのであるから
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
この室にゐるものは、皆な君の所置ぶりに慊焉けんえんたらざるものがあるから、将校方は黙許なされても、其様そんな国賊は、きっと談じて、懲戒を加ゆるために、おのおの決する処があるぞ。いいか。
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「それで何日いつ頃から其様そんな事がはじまったのですね」と問えば、番人は小首をかたげて、「サア何日いつ頃からか知りませんが、何でもの若様が窓からちてしんのち、その阿母おふくろ様もブラブラやまいで、 ...
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
まだ、家が立ち腐れになっている時分、この空家の中でも、いろんな者が集って来て博打をするなどという噂もあったが、この家が取り壊されてしまうと共に其様そんな噂も影さえなくなってしまった。
凍える女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
静かに歩んでの青い光のぐ側に行って見ると、更に意外である、幽霊火と見えたのは其様そんな恐ろしい物では無く、一個の青色球燈がの枝につるしてあり、其真下の地面には、青い光に照されて
黄金の腕環:流星奇談 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
永「何うもこれは思いがけないことを言って、まアそんな事を言って何うもどゞ何ういう理窟で其様そんな事を云うか……のう惠梅様」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
『あれ、少許ちつと其様そんな話は聞きやせんでしたよ。そんならむこさんが出来やしたかいなあ——長いこと彼処あすこの家の娘も独身ひとりで居りやしたつけ。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
……けれど、まあ其様そんな根掘り葉掘り聞く必要はないわねえ。……で、一昨日おとといは何うして此処に来ていることが分ったの?
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
いや其様そんなことを云うまでもなく、釈迦しゃかにさえも娑婆往来おうらい八千返はっせんぺんはなしがあって、梵網経ぼんもうきょうだか何だったかに明示されている。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
其様そんな時には例の無邪気で、うッかりそばへ行って一緒に首を突込もうとする。無論先の犬は、馳走になっている身分を忘れて、おおいいかって叱付ける。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
探がし探がして探がし得ず、がっかりした容子ようすは、主人の眼にも笑止しょうしに見えた。其様そんな事で弱って居る矢先やさき、自動車にかるゝ様なことになったのだろう。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
漁『其様そんなわけでないのだから、決して悪く思って呉れては困るよ。僕は、今夜はよす。』
大利根の大物釣 (新字新仮名) / 石井研堂(著)
何処を押せば其様そんが出る? ヤレ愛国だの、ソレ国難に殉ずるのという口の下から、如何どうして彼様あん毒口どくぐちが云えた? あいらの眼で観ても、おれは即ち愛国家ではないか
どうしてわたし其様そんなものへ娘をることが出来ませう——其れで坑夫共の生活をさゝへる為めに亜米利加アメリカの社会党から運動費を取り寄せる手筈をする、其ればかりでは駄目ぢやと申すので
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
祖母さんに、どんな事が有ッても其様そんな真似は私はしない、私のやれる丈けやって妹と弟の行末を見届けるから心配して下さるなと言切って其時あんまり口惜かったから泣きましたのよ。
二少女 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
脚色すぢだけ話をするとなると、こんな煩さい事はないのですから、自分もまた其様そんな物を読むと云ふ智慧はない時分で、始終絵ばかりを見て居たものですから、薄葉うすえふを買つて貰つて、口絵だの
いろ扱ひ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
市「知りません、其様そんな事どうして、只の字せえ知らねえで習わねえに英語なぞに知る訳がねえ、それは外国人げえこくじんのいうことだ」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
御武家には人質を取るとか申して、約束変改へんがいを防ぐ道があると承わり居りまするが、其様そんなことを致すようでは、商人の道は一日も立たぬのでござりまする。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
あいつに一つ衝突つきあたらないやうに、其様そんなことを思ふだけサ……第一、河に近いのが何よりだ。
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
『随分お好きの方が多いですが、其様そんなに面白いものでせうか。』と
元日の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
新「うも、ななんだってそれは、何うも、エおいあんにい外の事と違って大恩人だもの、何ういう訳で思いちげえて其様そんな事を、え、おいあんにい」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ところが、それで何時迄も済めば其様そんな好いことは無いが、花に百日の紅無し、玉樹亦凋傷ちょうしょうするは、人生のきまり相場で、造物あに独り此人を憐まんやであった。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)