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倦怠
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けんたい
ふりがな文庫
“
倦怠
(
けんたい
)” の例文
然し一時間前の
倦怠
(
けんたい
)
ではもうありませんでした。私はその
衣
(
きぬ
)
ずれのようなまた小人国の汽車のような可愛いリズムに聴き入りました。
橡の花
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
なんのしめくくりもアクセントもないものでは到底進行の感じはなくただ
倦怠
(
けんたい
)
と疲労のほか何物をも生ずることはできないであろう。
映画芸術
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
豪奢
(
ごうしゃ
)
な町人趣味の饗宴は、ようやく、伯をして、少々
倦怠
(
けんたい
)
を催させて来たし、たえず、その顔いろを見ている高瀬理平にもわかった。
かんかん虫は唄う
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
私は美に関するその章において、よもや読者を
倦怠
(
けんたい
)
の情に誘うことはないであろう。また忙しき読者のために最後に「概要」を添えた。
工芸の道
(新字新仮名)
/
柳宗悦
(著)
私
(
わたくし
)
はこの
時
(
とき
)
始
(
はじ
)
めて、
云
(
い
)
ひやうのない
疲勞
(
ひらう
)
と
倦怠
(
けんたい
)
とを、さうして
又
(
また
)
不可解
(
ふかかい
)
な、
下等
(
かとう
)
な、
退屈
(
たいくつ
)
な
人生
(
じんせい
)
を
僅
(
わづか
)
に
忘
(
わす
)
れる
事
(
こと
)
が
出來
(
でき
)
たのである。
蜜柑
(旧字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
▼ もっと見る
……悪? それは一つの悪だろうか?
倦怠
(
けんたい
)
、陶酔、快い
苦悶
(
くもん
)
が、彼のうちにしみ込んでいた。もはや自分が自分のものではなかった。
ジャン・クリストフ:05 第三巻 青年
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
紋三はこの数日、長い間の
倦怠
(
けんたい
)
をのがれて、可なり緊張した気持を味うことが出来た。彼はやっとこの世に
生
(
いき
)
がいを見出した様に思った。
一寸法師
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
これは芝居でもあるまいし、さりとて、もうこの
倦怠
(
けんたい
)
しきった
身体
(
からだ
)
のやり場と、えぐりつけられた顔の傷のさらし場とては無い。
大菩薩峠:26 めいろの巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
苦悩がなければ
倦怠
(
けんたい
)
するかもしれないのであったが、それにしても彼はここいらで、どうか青い空に息づきたいという思いに
渇
(
かわ
)
いていた。
仮装人物
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
それはわたしの家の接ぎ目を割ったので、そのための空気洩れをとめるためにその後多くの
倦怠
(
けんたい
)
をもって
填
(
う
)
められなければならなかった。
森の生活――ウォールデン――:02 森の生活――ウォールデン――
(新字新仮名)
/
ヘンリー・デイビッド・ソロー
(著)
僕の生活は相変らず
空
(
くう
)
な生活で始終している。そして当然僕の生涯の
絃
(
げん
)
の上には
倦怠
(
けんたい
)
と懶惰が灰色の手を置いているのである。
新生
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
生活に懐疑と
倦怠
(
けんたい
)
と疲労と無力さとをばかり与える日常性をのみ
撰択
(
せんたく
)
して、これこそリアリズムだと、レッテルを張り
廻
(
めぐら
)
して来たのである。
純粋小説論
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
社長はそれがお互いを尊重する文化的な寝方であり、同時に
倦怠
(
けんたい
)
の生ずるのをふせぐ合理的な手段だというふうに自慢していたもんだった。
陽気な客
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
二人
同棲
(
どうせい
)
して後の
倦怠
(
けんたい
)
、疲労、冷酷を自己の経験に照らしてみた。そして一たび男子に身を任せて後の女子の境遇の
憐
(
あわれ
)
むべきを思い
遣
(
や
)
った。
蒲団
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
(その疲労感に抵抗しようとして私は一層木村さんに接触する。午後の
倦怠
(
けんたい
)
を忘れるためにはぜひとも木村さんが必要である)
鍵
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
その
間
(
かん
)
、彼はあらゆる角度から、妻君という女を味わってしまった。そのあとに来たものは、かねて
唱
(
とな
)
えられている
窒息
(
ちっそく
)
しそうな
倦怠
(
けんたい
)
だった。
蠅
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
倦怠
(
けんたい
)
は
彼等
(
かれら
)
の
意識
(
いしき
)
に
眠
(
ねむり
)
の
樣
(
やう
)
な
幕
(
まく
)
を
掛
(
か
)
けて、
二人
(
ふたり
)
の
愛
(
あい
)
をうつとり
霞
(
かす
)
ます
事
(
こと
)
はあつた。けれども
簓
(
さゝら
)
で
神經
(
しんけい
)
を
洗
(
あら
)
はれる
不安
(
ふあん
)
は
決
(
けつ
)
して
起
(
おこ
)
し
得
(
え
)
なかつた。
門
(旧字旧仮名)
/
夏目漱石
(著)
また試験実地に臨んでは、先生
一
(
いつ
)
に必ずその理とその法とを丁寧に講じました。先生つねに
倦怠
(
けんたい
)
の色は少しも見えませぬ。
禾花媒助法之説
(新字新仮名)
/
津田仙
(著)
「どうだ、種馬になったら」と、波田が混ぜっかえして、そのまま、死のような
倦怠
(
けんたい
)
へと、一切は吸い込まれてしまった。
海に生くる人々
(新字新仮名)
/
葉山嘉樹
(著)
その人ばかりを見ている目の
倦怠
(
けんたい
)
さで、父君が異なった幾人の夫人を集めておいでになる六条院の生活がうらやましくて
源氏物語:34 若菜(上)
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
しからざるかぎり、芸術は、静的なものとなって、時としては
倦怠
(
けんたい
)
した存在にしかすぎないことがあるでありましょう。
時代・児童・作品
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
お互いが白っちゃけた眼で観察しだす一時的
倦怠
(
けんたい
)
の時代に、夫が妻の丹精になる
晩餐
(
ばんさん
)
の席で、デザアトのプディングをまずそうに口へ運びながら
字で書いた漫画
(新字新仮名)
/
谷譲次
(著)
夜になると、温度はいくぶん下がるけれど、その
倦怠
(
けんたい
)
さと発汗の気味わるさ。湿気の
暈
(
かさ
)
が電灯の灯をとりまいている。
人外魔境:01 有尾人
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
堕落、荒廃、
倦怠
(
けんたい
)
、疲労——僕は、デカダンという分野に放浪するのを、むしろ僕の誇りとしようという気が起った。
耽溺
(新字新仮名)
/
岩野泡鳴
(著)
音楽は最も官能的な芸術である代り、いかなる傑作でも、反復聴くことによっていつかは
倦怠
(
けんたい
)
を感じさせる。が、ブラームスにはそれが
甚
(
はなは
)
だ少ない。
楽聖物語
(新字新仮名)
/
野村胡堂
、
野村あらえびす
(著)
落胆や
倦怠
(
けんたい
)
や美と理想との趣味や無謀な寛大や理想郷や空想や憤怒や虚栄や恐怖などを少しも知らなかった。個人的のあらゆる勇敢さをそなえていた。
レ・ミゼラブル:07 第四部 叙情詩と叙事詩 プリューメ街の恋歌とサン・ドゥニ街の戦歌
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
自分の乱雑な生き方のおかげで、扁理はその徴候をば単なる
倦怠
(
けんたい
)
のそれと間違えながら、それを女達の硬い性質と自分の弱い性質との差異のせいにした。
聖家族
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
外の世界は今
雑沓
(
ざつたふ
)
と
喧騒
(
けんさう
)
とに
充
(
み
)
たされてゐる。併しこゝの事務所はひつそりして
倦怠
(
けんたい
)
と無為とが漂つてゐる。
手品師
(新字旧仮名)
/
久米正雄
(著)
それからこの事柄のもう一つの、しかも同様にありがたくない側はといえば、それはもちろん、一切の真理に対する無感激と無関心と皮肉な
倦怠
(
けんたい
)
となのです。
トニオ・クレエゲル
(新字新仮名)
/
パウル・トーマス・マン
(著)
晴れた日と鮮かな三色旗と腕に抱えている老美人との刺戟に慣れて来ると新吉は少し
倦怠
(
けんたい
)
を感じ出した。
巴里祭
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
然るにこの語数律は、韻文として最も単調のものであり、千篇一律なる同韻の反復にすぎないから、その少しく長篇にわたるものは、到底
倦怠
(
けんたい
)
して
聴
(
き
)
くに堪えない。
詩の原理
(新字新仮名)
/
萩原朔太郎
(著)
嘔吐
(
おうと
)
を催すような肉体の苦痛と、しいて自分を忘我に誘おうともがきながら、それが裏切られて無益に終わった、その後に襲って来る
唾棄
(
だき
)
すべき
倦怠
(
けんたい
)
ばかりだった。
或る女:2(後編)
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
恁
(
か
)
うして
凝然
(
ぢつ
)
として
居
(
ゐ
)
ることをも
勘次
(
かんじ
)
は
僂麻質斯
(
レウマチス
)
が
惱
(
なや
)
まして
居
(
ゐ
)
るのだとは
知
(
し
)
らないで、
寧
(
むし
)
ろ
老人
(
らうじん
)
に
通有
(
つういう
)
な
倦怠
(
けんたい
)
に
伴
(
ともな
)
ふ
睡眠
(
すゐみん
)
を
貪
(
むさぼ
)
つて
居
(
ゐ
)
るのだらう
位
(
ぐらゐ
)
に
見
(
み
)
るのであつた。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
生活の
倦怠
(
けんたい
)
を
託
(
かこ
)
ったり、その荒涼の現実のなかで思うさま
懊悩
(
おうのう
)
呻吟
(
しんぎん
)
することを覚えたわけである。
猿面冠者
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
思うにかくのごとき事実は列挙しきたらばおそらく際限はあるまい、しかし私は読者の
倦怠
(
けんたい
)
を防ぐため、もはやこの上同じような統計的数字を列挙するを控えるであろう。
貧乏物語
(新字新仮名)
/
河上肇
(著)
若し彼が一時間でも部屋を留守にすると、目に付く程の
倦怠
(
けんたい
)
がお客の心にしのび込むやうに思はれた。そして彼が歸つて來ると、確かに新鮮な刺㦸を與へて話を
勢
(
いきほひ
)
づけた。
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
弛
(
ゆる
)
み切った
倦怠
(
けんたい
)
が彼を領する数分、数時間、いや、あるいは数日さえもあったように覚えている——それはある種の
瀕死
(
ひんし
)
の病人に起こる、病的な無関心状態に似た倦怠だった。
罪と罰
(新字新仮名)
/
フィヨードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
(著)
事実、三分とはたたないうちに、沈黙に
倦怠
(
けんたい
)
を感じたらしい視線が塾生たちの間にとりかわされはじめた。すると、その視線にはげまされたように、ひとりの塾生が口をきった。
次郎物語:05 第五部
(新字新仮名)
/
下村湖人
(著)
喬介は直ちに手袋をはめると、比較的
新
(
あた
)
らしい鉄屑の
傍
(
そば
)
へ腰を
屈
(
かが
)
めて、ごそごそとさばき始めた。暫く一面に
掻
(
か
)
き廻していたが、
何
(
な
)
んの変化も見られない。
追々
(
おいおい
)
私は
倦怠
(
けんたい
)
を覚え始めた。
カンカン虫殺人事件
(新字新仮名)
/
大阪圭吉
(著)
我々の身の廻りを見るがよい。絶えざる変転、不安、
懊悩
(
おうのう
)
、恐怖、幻滅、闘争、
倦怠
(
けんたい
)
。まさに
昏々昧々
(
こんこんまいまい
)
紛々若々
(
ふんぷんじゃくじゃく
)
として
帰
(
き
)
するところを知らぬ。我々は現在という瞬間の上にだけ立って生きている。
悟浄出世
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
俄然、張り詰めた心に思ひもそめない、重い/\
倦怠
(
けんたい
)
が、一時にどつと襲ひかゝつた。
恰
(
あたか
)
もバネが外れて運動を止めたもののやうに、私は凡てを投げ出し無届欠席をした。有らゆる判断を除外した。
途上
(新字旧仮名)
/
嘉村礒多
(著)
喜びにつけ、悲しみにつけ、私は私の人生に
倦怠
(
けんたい
)
を感じはじめた。
新版 放浪記
(新字新仮名)
/
林芙美子
(著)
倦怠
(
けんたい
)
の
沙漠
(
さばく
)
に坐せる
黄金
(
こがね
)
の
怪獣
(
シメール
)
。
珊瑚集:仏蘭西近代抒情詩選
(新字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
倦怠
(
けんたい
)
の
凄
(
すさ
)
まじさやいかに。
生けるものと死せるものと
(旧字旧仮名)
/
アンナ・ド・ノアイユ
(著)
倦怠
(
けんたい
)
と
愁
(
うれひ
)
が重なる。
畑の祭
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
倦怠
(
けんたい
)
の城
スリーピー・ホローの伝説:故ディードリッヒ・ニッカボッカーの遺稿より
(新字新仮名)
/
ワシントン・アーヴィング
(著)
だからその時間中、
倦怠
(
けんたい
)
に倦怠を重ねた自分たちの中には、無遠慮な
欠伸
(
あくび
)
の声を洩らしたものさえ、自分のほかにも少くはない。
毛利先生
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
ただ現在のビンボー類似の作品はあまりに
荒唐無稽
(
こうとうむけい
)
な刺激を求め過ぎて遠からず観客の
倦怠
(
けんたい
)
を来たすおそれがありはしないかと思われる。
映画芸術
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
次には、説得によらずとも少なくとも
倦怠
(
けんたい
)
によって、彼を思うとおりにしてしまいたいと、人々はやはり望んでいたからである。
ジャン・クリストフ:06 第四巻 反抗
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
折角
(
せっかく
)
下宿屋を替えて、新しい人達に接して見ても、一週間たつかたたない内に、彼は又しても底知れぬ
倦怠
(
けんたい
)
の中に沈み込んで了うのでした。
屋根裏の散歩者
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
倦
漢検準1級
部首:⼈
10画
怠
常用漢字
中学
部首:⼼
9画
“倦怠”で始まる語句
倦怠期
倦怠感
倦怠相
倦怠状