五月蠅うるさ)” の例文
男子なる方は、五月蠅うるさきことに思ったのであろう。われわれはこれから、コルシカはタラノの谿谷けいこくへ虎狩りにゆくつもりであること。
特殊な団欒を持たないので、紋切型の社交が殊更に五月蠅うるさく感ぜられ、齢と共に沁々と孤独なる喜びが身に沁み渡るやうであつた。
群集の人 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
向ふに見えるはごゞ島で中央に高いのがごゞ島の小富士、果物くだものが名物にて年に二十万円の産額があるなど五月蠅うるさくつき纏つて離れない。
坊つちやん「遺蹟めぐり」 (新字旧仮名) / 岡本一平(著)
最初のうち伝さんは、その出迎男でむかえおとこを、何処かインチキなホテルの客引かなんかであろうと考えた。そして、五月蠅うるさい商売がたきだと思った。
三の字旅行会 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
五月蠅うるさがって出るのは彼方の勝手だ。——決心に満足を感じ、せきは誰はばかるところない大欠伸おおあくびを一つし、徐ろに寝床へ這い込んだ。
(新字新仮名) / 宮本百合子(著)
それは吉田が「そこまで言ってしまってはまたどんな五月蠅うるさいことになるかもしれない」ということを急に自覚したのにもよるが
のんきな患者 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
與吉よきちはおつぎにかれるときいつもくおつぎの乳房ちぶさいぢるのであつた。五月蠅うるさがつて邪險じやけんしかつてても與吉よきちあまえてわらつてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
なほさら五月蠅うるさいとはしくくるまのおとのかどとまるをなによりもにして、それおいできくがいなや、勝手かつてもとのはうき手拭てぬぐひをかぶらせぬ。
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
へツ、へツ、二十五兩と稼いだのは惡くなかつたぜ、——最初は葛籠つゞらへ入れて船の中に飼つて置いたが、知合の船が五月蠅うるさくて叶はねエ。
今のように、多勢の前で五月蠅うるさく喧嘩を売られれば売られるほど、喬之助は、自分でも不思議なほど冷静になっていくのだった。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
忙がしいのでイライラしていた俺は、二等運転手チャプリンの話が五月蠅うるさかったんだろう。そのまま一気にタラップを馳上かけあがって、船長室に飛込んだ。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「黙れ、五月蠅うるさい! 自分が間抜けだから、そういう目に遭ったのだ! ツベコベ騒ぐな! なんだ、このになって見苦しい」
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「もう、セルを着て居ないと、見っともないわ。」と云い出すと、彼の妻は、譲吉がセルを買ってしまう迄は、五月蠅うるさくその提言を繰返した。
大島が出来る話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
女はいぬのやうなもので余り好かれても五月蠅うるさくて迷惑するが、嫌はれても一寸困る。彼等は吠えつくすべを知つてゐるから。
騎馬の兵士が大久保柏木かしわぎ小路こみちを隊をなしてせ廻るのは、はなは五月蠅うるさいものである。いな五月蠅いではないしゃくにさわる。
『暑いとも、暑いとも。恁麽こんな日におめえみたいな垢臭い婆さんが行くと、如来様も昼寝が出来ねえで五月蠅うるさがるだあ。』
刑余の叔父 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
私に陰謀があるなら諸君の所へ来て話をするなり演説をするなりするが、実は私は五月蠅うるさいから学校へ来て構わない。
客の中にも文化文政ごろからの生き残り爺さんがまだいて、初代の可楽はどうのむらくはどうのと五月蠅うるさいことを並べ立てる手合が少なくなかった。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
ああこれなら日本で見たと思う心理ばかりが五月蠅うるさくつきまとって、羽左衛門のパリ見物そのままにナポレオンも耶蘇かと突然言いたくなるのである。
北京と巴里(覚書) (新字新仮名) / 横光利一(著)
『言うまでもなく、近代の新聞はすこし五月蠅うるさくなりかけています。あなたなども随分個人的に立ち入った報道をされて御迷惑なすったことでしょう。』
踊る地平線:09 Mrs.7 and Mr.23 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
幸い、捕り方たちは見当外れの方角へ、駆け去ってしまっていたものの、この侍が大声を発したら、またも、五月蠅うるさく、まつわって来るに相違なかった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
……父の仇、不倶戴天、こういう義理は小五月蠅うるさい。……訊きたいことが一つある。お前は将来も俺を狙うか?
天主閣の音 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
まして近眼者は物を見ることを五月蠅うるさがるやうな傾向が生じて来ては、どうしても知識を得る機会が少くなる。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
それのみならずひどく子供の看護を五月蠅うるさがつて仕事が出來ずに困りますと言ひきつてゐた。そのくせ仕事と云つては手内職の編物一つもしてゐないのである。
一家 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
何が、この頃のひでりで、やれ雨が欲しい、それ水をくれろ、と百姓どもが、姫様ひいさまのお住居すまい、夜叉ヶ池のほとりへ五月蠅うるさきほどにたかってせる。それはまだい。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
八郎太も、小太郎も、ぺらぺら妙なことを喋っている庄吉に、五月蠅うるささを感じていたが、岡田と聞いて、次を聞く気になった。七瀬も、娘も、庄吉の顔を見た。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
何か外にもっと深い意味があるのですかと聞いてみたら、きっと昔先生に五月蠅うるさく根掘り葉掘り何かをきいた時のように、「今に分るよ」といわれることだろう。
霜柱と白粉の話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
尼さんは世間から名士扱いにされるのを五月蠅うるさがって、宿がえ蓮月と云われるほど宿がえを致した位だからその名士見物の素振りをちらっとも見せてはならんぞ。
ある日の蓮月尼 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
亮太郎 (妻の意外にも快活な調子に惹き入れられて)言ふとまた五月蠅うるさいからさ。子供の時分つて、僕が子供の時分は、おやぢはうちにゐた例しはないんだからね。
村で一番の栗の木(五場) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
刑罰もなく、咎めることもなく、叱られることもなく、五月蠅うるさ愚図愚図ぐずぐずいわれることもない。
もつと背後うしろもたれかゝつて呉れとか、足を踏ん張つて呉れとか言つて、五月蠅うるさい車夫であつたが、中肉中脊の屈強な足つきは、北野へ着くまでに、十臺からの車を拔いて
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
しかし話してくれないと尚聞き度くなるものであるし、又あまり変なことなので好奇心に馳られた私はどこまでも五月蠅うるさく追窮したので、水島もとうとう笑いながら話してくれた。
息を止める男 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
山に住み世にさかるとも、またく世を厭ふにあらず、五月蠅うるさやとせちに思へど、人来ねばたづきも知らず、妻と我、二人居れども、かくてあれども、時をりはただ寂しくて眼を見合せぬ。
一日婦女どもが食物をり調える処へ上帝来り立ち留まってるを五月蠅うるさがり、あっちへ行けといえど去らず、婦女ども怒って擂木すりこぎで上帝を打ったから、上帝倉皇天に登りまたと地上へくだらず
学生1 五月蠅うるさいな。……君は君で勝手にやまを掛ければいいじゃないか。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
其様そうだ其様だ、いつは土産だ。一つ聞きたいな」などとやかましく言うのを聞かぬ風で一同に顔見られるのを五月蠅うるさそうにお光は顔をそむけて漕ぎながら、時々見るともなく眼をそばだてて見ると
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
嗚呼あゝこの堂々たる手のうちに、金は無いか、銀將無きかとうれたがり、今にして、らずば、末を奈何いかに懸念貌けねんがほ、仔細らしく意味取りちがへて濫用する圍棋ことばの粘、塗、抑、約いと五月蠅うるさしと。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
「また始まッた、ヘン跳馬じゃじゃうまじゃアあるまいし、万古に品々しんしん五月蠅うるさい」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「そうか、五月蠅うるさい奴じゃ。紅茶を一ぱい飲んでからのことだ」
一九五〇年の殺人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
歌にかれた、名人気質かたぎ五月蠅うるさく感じておられたことは
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
清次郎はこう五月蠅うるさそうに言い捨てて行ってしまった。
或る部落の五つの話 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
時次郎 またか、五月蠅うるさい奴め。(敵の刀を奪い闘う)
沓掛時次郎 三幕十場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
「思わなけりゃ思わないでもいいさ。五月蠅うるさい男だな」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
五月蠅うるさい子供の此ン畜生が
へッ、へッ、二十五両と稼いだのは悪くなかったぜ、——最初は葛籠つづらへ入れて船の中に飼っておいたが、知合いの船が五月蠅うるさくてかなわねエ。
五月蠅うるさいとばかりに、首を沈めてモウ! とえると、かねて逃げ腰の組下はあわてて遮塀パレエの後ろへさか落しに飛び込んだ。
驟雨しううあとからあとからとつてるのであかつきしらまぬうちからむぎいてにはぱいむしろほし百姓ひやくしやうをどうかすると五月蠅うるさいぢめた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
俗悪・卑雑な騒ぎを放散させる五月蠅うるささに堪りかねて、丁度十時頃ラジオの終るまでの時刻をどこかラジオのならないところで過す工夫をこらす。
やれ貰へと無茶苦茶に進めたてる五月蠅うるささ、どうなりと成れ、成れ、勝手に成れとてあれを家へ迎へたは丁度貴嬢が御懐妊だと聞ました時分の事
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
吏員から五月蠅うるさがられたので、母等と共に上京して鎌倉に居住し、麻布聯隊区に籍を移し、たしか乙種で不合格となったのを志願して無理にパスした。
父杉山茂丸を語る (新字新仮名) / 夢野久作(著)