高嶺たかね)” の例文
かゝる動き、純なる空氣の中にありて全くほだしなやこの高嶺たかねを撃ち、林に聲を生ぜしむ、これその繁きによりてなり 一〇六—一〇八
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
書をならうんでも然り、各〻、仰ぐ月は一つだが、高嶺たかねにのぼる道をいろいろに踏み迷ったり、ほかの道から行ってみたり、いずれも皆
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そして、(富士の高嶺たかねかすかになり、あま御空みそらの霞にまぎれ、)という処じゃ、小父さんの身体からだが、橋がかりの松の上へすっと上ったよ。」
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「まがなしみらくはしけらくさらくは伊豆の高嶺たかね鳴沢なるさはなすよ」(三三五八或本歌)などでも東歌的動律だが、この方には繰返しが目立つのに
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
万葉の中には「田子の浦ゆうちいでて見れば真白にぞ不尽ふじ高嶺たかねに雪はふりける」「わかの浦にしお満ちくればかたをなみ蘆辺あしべをさしてたづ鳴きわたる」
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
君に言ふのも、な、その目的を変へよではない、だ手段を改めよじや。みちは違へても同じ高嶺たかねの月を見るのじやが
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
現今の宗教はいずれも異なった方面から麓の道を分け登ろうと試みているところであるが、苔虫類はすでに頂上に達して静かに高嶺たかねの月を眺めているのである。
理想的団体生活 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
わざとにあらねど浮世うきよかぜちかづかねば、慈善會じぜんくわいそでひかれたきねがひもかなはず、園遊會ゑんいうくわいものいひなれんたのみもなくて、いとヾ高嶺たかねはなごヽろにるしむひとおほしときしが
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
天地あめつちの分れし時ゆ、神さびて高く貴き駿河なる富士の高嶺たかねを、天の原振りさけ見れば渡る日の、影もかくろひ、照る月の、光も見えず、白雲もい行憚ゆきはゞかり時じくぞ雪は降りける
富嶽の詩神を思ふ (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
もっとも主人のぶなが公のいもうとであらせられ、けらいの身ではおよびもつかぬ高嶺たかねの花でござりましたからまさかそのときにどうというおつもりもござりますまいが
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
あふ坂の関守せきもりにゆるされてより、秋こし山の黄葉もみぢ見過しがたく、浜千鳥の跡ふみつくる鳴海なるみがた、不尽ふじ高嶺たかねけぶり浮嶋がはら、清見が関、いそ小いその浦々
大王哀れとおぼして高嶺たかねに掘り埋めて、梵士は竜王にてありけるという事を知って、南方に向って坐しましけるほどに、深山の中に無量百千万の猿集りて罵りける処へ坐しぬ。
「冗談ぢやありませんよ、あつしなんかの相手になるものですか、高嶺たかねの花で——」
天地あめつちひらけしはじめ、成り成れる不尽ふじ高嶺たかねは、白妙のくすしき高嶺、駿河甲斐二国ふたくにかけて、八面やおもてに裾張りひろげ、裾広に根ざし固めて、常久に雪かつぐ峰、かくそそり聳やきぬれば
観相の秋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
吉野の花のいかだと言おうか、見た目もあやに、高嶺たかねの花とは違ったながめがある。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
わっちが刀の詮議に市川の方へくと、高嶺たかねから船の胴のへ落ちた死骸は、稻垣小左衞門さまという人で、片手かた/\に一節切を握り、片手には黒羅紗の頭巾を持って血まぶれに成って落ちたので
尾上おのえに残る高嶺たかねの雪はわけてあざやかに、堆藍たいらん前にあり、凝黛ぎょうたい後にあり、打ちなびきたる尾花野菊女郎花おみなえしの間を行けば、石はようやく繁く松はいよいよ風情よく、灔耀えんようたる湖の影はたちまち目を迎えぬ。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
清盛の寵姫であったあいだは、高嶺たかねの花よと諦めていた妓王が、一度び市井しせいの人間になると、あっちこっちから、口がかかってきた。しかし妓王は、もう二度と、人の想い者にはなりたくはなかった。
名にし負う影男には、「高嶺たかねの花」なんていうものはなかった。かれの字引きには「不可能」という文字がないのだから、どんな女性だって、手に入れようと思えば、必ず手に入れる力を持っていた。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
さぬらくは玉の緒ばかり恋ふらくは不二の高嶺たかねの鳴沢のごと
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ウーリュンポスの高嶺たかねより怒に燃えて駈け降り、 45
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
沈黙ちんもくを氷とすれば我があるは今いと寒き高嶺たかねならまし
註釈与謝野寛全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
消え残る高嶺たかねの雪を聯想れんそうして怪しまなかった。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
高く貴き 駿河するがなる 布士ふじ高嶺たかね
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
高嶺たかねの、大野おほのの力こもりぬらし。
独絃哀歌 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
富士の高嶺たかね
未刊童謡 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
ローマニヤびとのなかに和ありや戰ひありや我に告げよ、我はウルビーノとテーヴェレの源なる高嶺たかねとの間の山々にすめる者なればなり 二八—三〇
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
「だって、今上きんじょうの天子さまがお馴染なじみで、毎度毎度、お通いになっている高嶺たかねの花、いいえ、お止山とめやまの花ですもの」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
高嶺たかねはるかに雪をかついで、連山の波の寂然と静まった中へ、島田髷しまだに、すすきか、白菊か、ひらひらとかんざしをさした振袖の女が丈立ちよくすらりとあらわれた、と言うと
田児たごの浦ゆうち出でて見れば真白ましろにぞ不尽ふじ高嶺たかねゆきりける 〔巻三・三一八〕 山部赤人
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
「冗談じゃありませんよ、あっしなんかの相手になるものですか、高嶺たかねの花で——」
松の根方へ片手を掛けて身を引く途端に落ちてく様子を見ると、小左衞門は左の手に一節切を持ち、右の手に頭巾を持ったなりモンドリを打って高嶺たかねから市川の流へドブリと落入りましたから
天地あめつちひらけしはじめ、成り成れる不尽の高嶺たかねは白妙の奇しき高嶺、駿河甲斐二国ふたくにかけて八面やおもてに裾張りひろげ、裾広に根ざし固めて、常久に雪かつぐ峰、かくそそり聳やきぬれば、いかしくもたゞしきかたち
令孃ひめ高嶺たかねはなこれはふもとちり、なれどもあらし平等びやうどうものぞかし。
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
二人の目を射たものは、真上に仰ぐ富士の高嶺たかねの姿でありました。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
遠い高嶺たかねと我がこころ
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
雲にあやあり高嶺たかねなる
草わかば (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
いとくれよ。この年じゃあ、どう思っても、高嶺たかねの花だぐらいなことがわからないでどうするもンかね。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
爾時そのとき、さつと云ひ、さつと鳴り、さら/\と響いて、小窓の外を宙を通る……つめたもすその、すら/\とに触つて……高嶺たかねをかけて星の空へ軽く飛ぶやうな音を聞いた。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
らくはたまのばかり恋ふらくは富士の高嶺たかね鳴沢なるさはごと (巻十四・三三五八)
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
駿河なる不二ふじ高嶺たかねをふり仰ぎ大きなる網をさと拡げたり
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
超然と、その人間の聚落むらを離れて、高嶺たかねの法城は、理想の生活に恵まれているかと思ったのは、いとも愚かな考えであった。ここも、下も、変りはないのである。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
高嶺たかねの霞に咲くという、金色こんじきすみれの野を、天上はるかに仰いだ風情。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
れいろうと不尽ふじ高嶺たかねのあらはれて馬鈴薯畑じやがいもはたの紫の花
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
さらには高台寺の高嶺たかねから望むと、六波羅の南北、車大路、大和口までも、たいへんな馬数がみえ、さだかに、その人員ははかりえないが、その物々しさから察して
愛鷹山あしたかやまや富士の高嶺たかねかすかになりて、天つ御空の霞に)——
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
内侍とあるからにはもちろん御寝ぎょしはべ御息所みやすんどころ更衣こういにならぶ女性のひとりにちがいない。高嶺たかねの花だ、訊かぬがましであったよと、義貞はなおさら失望したものだった。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
窓の外は、裾野の紫雲英げんげ高嶺たかねの雪、富士しろく、雨紫なり。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、いってこの聖域へ女人にょにんを連れて上るなどということは思いもよらない望みである。叡山えいざん高嶺たかねはおろかなこと、この雲母きらら坂から先は一歩でも女人の踏み入ることは許されない。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
丹女は、百ヵ日頃まで、家にこもっていたが、やがて一切の家事をきれいに片づけ、六月初め京都の本圀寺ほんごくじへ行って食を断っていたが、その月十八日、高嶺たかねの雪のいつか消えるように逝いた。