饗応きょうおう)” の例文
旧字:饗應
また、そのような私の遊びの相手になって、私の饗応きょうおうを受ける知人たちも、ただはらはらするばかりで、少しも楽しくない様子である。
(新字新仮名) / 太宰治(著)
饗応きょうおうしたり、座敷のお取りもちをする者もはかばかしい者がいないであろう、中将は今日はお客側のお供で来ていられるだろうから
源氏物語:29 行幸 (新字新仮名) / 紫式部(著)
改って、簡単な饗応きょうおうの挨拶をした。まろうどに、早く酒を献じなさい、と言っている間に、美しい采女うねめが、盃を額より高く捧げて出た。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
あまりの寒気にさすがの酔もさめはて難渋なんじゅうの折柄、幸いにも貴下の御呼止にあずかり、御心尽しの御饗応きょうおうに蘇生の想いを致し候。
流転 (新字新仮名) / 山下利三郎(著)
美貌びぼうの直助は美貌の客をたちまち贔屓ひいきにした。若い画家が訪ねて来ると、「えへん/\」とうれしさうに笑ひながら、饗応きょうおうの手伝をした。
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
私が始めて三浦の細君に会ったのは、京城から帰って間もなく、彼の大川端おおかわばたの屋敷へ招かれて、一夕の饗応きょうおうに預った時の事です。
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
妾は近くから珍らしい料理を狩りあつめて貞雄を饗応きょうおうしながら、この機会に妾の悩みを打ちあけて、力になって貰おうと思った。
三人の双生児 (新字新仮名) / 海野十三(著)
型どおりの饗応きょうおうのあとは、例の、茶である。秀吉が茶をたて、千宗易せんのそうえきと、もひとり、妙な男がいて、晴季を主客に、もてなした。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかも後日に至って知るところでは、これらの饗応きょうおうもあながちに我々賓客を慰めんがための、特別の接待でもないのであった。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
実はわたしは疲れていたんです。葬儀、冥福祈祷めいふくきとう、それからミサ、饗応きょうおうと続いたあげく、やっと一人になって、書斎でシガーを
季節はいつでもよいが、夏など口の不味まずい時に、これを饗応きょうおうすれば、たいていの口のおごった人でも文句はいわないだろう。
車蝦の茶漬け (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
明治二十年代の片田舎での出来事として考えるときに、この杏仁水の饗応きょうおうがはなはだオリジナルであり、ハイカラな現象であったような気がする。
しかしデビーは下僕の仕事もしているのだからというて断った。しかしリーブは再三申し出して、とにかく別室でファラデーを饗応きょうおうすることにした。
出世したさに上役へ賄賂わいろを贈り饗応きょうおうをする、しかもそれが他人から借りた金だし、その金のために婚約をしながら、うまくおれをおだてて娘を押付け
恋の伝七郎 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
五百なぞも屋敷住いをして、役人に物を献じ、傍輩ほうばい饗応きょうおうし、衣服調度を調ととのえ、下女げじょを使って暮すには、父忠兵衛はとしに四百両を費したそうである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
関氏は何時いつも彼女の家を絶えずおとずれる訪客の一人であって、いつも彼女に饗応きょうおうをうける側の人であったので、こういう時こそと、自らが主人気取りで
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
そこにある強い充実の味と人間らしさとは私をきつけるに十分である。この饗応きょうおうは私を存分に飽き足らせる。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
少くとも私は、人から饗応きょうおうを受ける場合、食物と一緒に相手方の感情を味うことを免れ得ない人間である。
御萩と七種粥 (新字新仮名) / 河上肇(著)
まんとは我儘わがままである。氏郷政宗二人の様子を饗応きょうおう掛りの者の眼から見たところを写して居るのである。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
で、その祝賀のために来たところの人々にはこっちでも茶、酒、米飯、肉等いろいろの饗応きょうおうをします。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
ことによると、マタ・アリの手から、この「サキ」の饗応きょうおうを受けた日本の大官もあるかもしれない。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
松の間の廊下で、上野介はその日の饗応きょうおう役、浅野内匠頭たくみのかみから、だしぬけに斬りつけられたのである。
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
その後お邸では、年二回位家中の家族を呼んで饗応きょうおうせられるので、向島中の芸者が接待に出ました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
本膳ほんぜんを出さぬほどの手がるな饗応きょうおうを、お茶というところは田舎いなかには多く、ことに九州などでは婚礼の前後にもお茶、また仏事ぶつじの日にもお茶といって人をまねいている。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
それが云いたいばっかりに彼は馬を饗応きょうおうし、イシカリまでの同行を思い立ったのかも知れない。官の威を示す言葉とも見えれば、協力をもとめる切なる望みとも聞える。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
われわれは、手のつけようのない無知のために、この造作ぞうさのない礼儀を尽くすことをいとう。こうして、眼前に広げられた美の饗応きょうおうにもあずからないことがしばしばある。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
君をば満緑まんりょく叢中そうちゅう紅一点こういってんともいいつべく、男子に交りての抜群の働きは、この事件中特筆大書すべき価値ありとて、妾をして卓子テーブルの上に座せしめ、其処そこにて種々の饗応きょうおうあり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
ちょうど時分時じぶんどきなので、アラスカへ誘う気なのだと察した貞之助は、今日もまた饗応きょうおうにあずかることは重ね重ねで心苦しいけれども、この機会に娘と親しんで見たくもあり
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
白雲は少しも辞退せずに、お角の饗応きょうおうを受けて、よく飲み、よく食い、よく語りました。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しこうしてその無聊ぶりょうに堪えざるや、書を獄外に飛して同志を鼓舞し、あるいは金を父兄に募りて、獄中の仲間を饗応きょうおうし、あるいは書をしょうし、あるいは文を草し、あるいは詩歌しいかを詠じ
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
大隈伯爵家のごときは有名なる花壇室内に食卓を設けて西洋人を饗応きょうおうせられる事がある。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
夫の留守中何事もおこたりがちなりければ、裏のはたけ大葱おおねぎの三四茎日に蒸されてえたるほか、饗応きょうおうすべきものとては二葉ばかりの菜蔬さいそもなかりき、法事をせずば仏にも近所にも済まず
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
さて、午過ぎからは、家中いえじゅう大酒盛おおさかもりをやる事になったが、生憎あいにくとこの大雪で、魚屋は河岸かしの仕出しが出来なかったと云う処から、父はうちとりを殺して、出入の者共を饗応きょうおうする事にした。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
かかる饗応きょうおうの前でみだりに食うものでないと言い聞かされ、だんさだめし岩倉公の御不興ごふきょうを受けたであろうと思いしが、翌日にいたりこうより昨日さくじつ来た青年は菓子がすきだと見えるというて
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
その内に始まった饗応きょうおうの演芸が、いかにも亜米利加三界まで流れてきたという感じの浪花節なにわぶしで、虎髭とらひげはやした語り手が苦しそうに見えるまで面をゆがめて水戸黄門様の声をしぼりだすのに
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
ペートルスボルグ滞在中は日本使節一行のめに特に官舎を貸渡かしわたして、接待委員とう者が四、五人あってその官舎に詰切つめきりで、いろ/\饗応きょうおうするその饗応の仕方しかたと云うはすこぶる手厚く
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
賢三郎けんざぶろうは養父のその計画を、ひそかに笑っていた。いまの時代の空気の中に息づいている職工たちがお花見ぐらいの饗応きょうおうで、決してその要求をげるものでないことを彼は知っているのだった。
仮装観桜会 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
一年ひととせ、比野大納言、まだお年若としわかで、京都御名代ごみょうだいとして、日光の社参しゃさんくだられたを饗応きょうおうして、帰洛きらくを品川へ送るのに、資治やすはる卿の装束しょうぞくが、藤色ふじいろなる水干すいかんすそき、群鵆むらちどりを白く染出そめいだせる浮紋うきもん
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
たかが夕食の饗応きょうおうというなかれ。それはイエスのこんこんたる愛の湧出でありました。夕食のパンという小さい事柄に関して湧き出たのでありますが、はからざる大湖をたたえたのであります。
なんとも答えずに伝六のてのひらの上からあずき粒ほどの大黒をつまみあげると、自分の目の前になみなみとつがれてあった饗応きょうおうの薄茶の中へ、容赦なくぼちょりとそれを落としこんだのです。
酒よさかなと善美を尽くした饗応きょうおうの数々、座に連なる人々はひなにはまれなる気高き男女、往診料とて紙に包みし謝礼を納めて帰りしは、遠寺の鐘の音、余韻を引いてさびしく響く一時ごろであった。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
昼は思いがけなく府尹ふいんである未知の増田道義氏から饗応きょうおうを受けた。これも不思議な縁であった。柳の朝鮮に関する著書が仲立ちであった。私たちは旧知の友の如く、心おきなくお互に語り合った。
全羅紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
さすがに広き玄関前もところせきまでつらなりたり。こは篠原子爵が宮崎一郎のなかだちにて。松島秀子と新婚の祝宴を開くなり。故子爵が世にあらば鹿鳴館などにて西洋風の饗応きょうおうをひらかるべきなれど。
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)
形は違うけれど、やっぱり今夜と同じ晩餐の饗応きょうおうである。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
土人独特の料理を饗応きょうおうされたこともあった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
饗応きょうおうの宴は食堂に設けられていた。
宣教師バテレンたちはまた、自分らが貴重としている自国の茶や煙草などを出して、この大賓に饗応きょうおうしたが、信長は手にもふれないで
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
欠点もあるが住みついたならきっとよくなるであろうと明石の人々は思った。源氏は親しい家司けいしに命じて到着の日の一行の饗応きょうおうをさせたのであった。
源氏物語:18 松風 (新字新仮名) / 紫式部(著)
暫く城中の客になるようにといわれ、連日にわたって豪奢ごうしゃ饗応きょうおうを受けた。大豪傑は(首をくれずに)逃亡した、杢助は金沢城を救ったのであった。
似而非物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
何某なにぼうの講談は塩原多助一代記の一節で、そのあとに時代な好みの紅葉狩もみじがりと世話ににぎやかな日本一と、ここの女中達の踊が二組あった。それから饗応きょうおうがあった。
里芋の芽と不動の目 (新字新仮名) / 森鴎外(著)