頭髪かみのけ)” の例文
旧字:頭髮
穴掘り男は頭髪かみのけまで赤土だらけにしながら、「どうも水が多くって、かい出してもかい出しても出て来るので、困ったちゃねえだ!」
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
見たという人の話によると、鳥の巣のような頭髪かみのけつかねて、顔色は青白くて血の気のない唇は、寒さのためにうす紫色をしていた。
凍える女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それは森の大入道の尨毛の頭に生えた髪の毛だ。その首の下部したには頤鬚あごひげが水に洗はれてをり、頤鬚あごひげの下も、頭髪かみのけの上も高い青空だ。
阿呆陀羅経のとなりには塵埃ほこりで灰色になった頭髪かみのけをぼうぼうはやした盲目の男が、三味線しゃみせんを抱えて小さく身をかがめながら蹲踞しゃがんでいた。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「さァ——」横瀬は、モシャモシャ頭髪かみのけを、指でゴシゴシいた。「注射器は判るが、尖端さきについている針が無いから、見当けんとうがつかねえ」
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そこには、押入れの中には、あの死んだ遠藤の首が、頭髪かみのけをふり乱して、薄暗い天井から、さかさまに、ぶら下っていたのです。
屋根裏の散歩者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ただし頭髪かみのけは真っ白で、ちょうど盛りの卯の花のようで、それをまげに取り上げていた。しろがねのように輝くのは、明るい燈火ともしびの作用であろう。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その瞬間に私とソックリの顔が、頭髪かみのけと鬚を蓬々ぼうぼうとさしてくぼんだをギラギラと輝やかしながら眼の前のやみの中に浮き出した。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
背低くして肉せたれど健康は充分にして随分百歳までも生延得る容体とし頭髪かみのけお白茶けたる黄色の艶を帯びて美しく
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
古井戸の底には、いつも一人や二人の若い女の屍体が転がっていないことはなかった。庭の土からは埋めた頭髪かみのけが現れて、雨風に叩かれていた。
そのグローマン風に分けた長い銀色をした頭髪かみのけの下には、狂暴な光に燃えて紅いおき凝然じいっみつめている二つの眼があった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
と思うと、慄然ぞっとして、頭髪かみのけ弥竪よだったよ。しかし待てよ、はたられたのにしては、この灌木の中に居るのがおかしい。
大手前おおてまえ土塀どべいすみに、足代板あじろいたの高座に乗った、さいもん語りのデロレン坊主、但し長い頭髪かみのけひたい振分ふりわけ、ごろごろとしゃくを鳴らしつつ、塩辛声しおからごえして
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、たけ高い、頭髪かみのけをモヂヤ/\さした、眼鏡をかけた一人の青年が、反対の方から橋の上に現れた。静子は
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
つぎ綺麗きれい首筋くびすじ、形の好いはな、ふツくりしたほゝ丸味まるみのあるあご、それから生際はえぎはの好いのと頭髪かみのけつやのあるのと何うかすると口元くちもと笑靨ゑくぼが出來るのに目が付いた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
もう少し月の光が強かったら、この房々としたオカッパの頭髪かみのけが、黄金のように光るだろう——と思えた。
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
この頭髪かみのけは、そのなかの最後の男のものなのです。その男は、十三の年に、私のことがもとで、自ら命をたって果てたのです。変なことだとお考えになるでしょうね。
寡婦 (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
頭髪かみのけを解いて両肩のあたりに垂らした小柄な女が嬰児あかんぼを抱いて前に立っていた。
竇氏 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
二の頭髪かみのけを長く延ばして二十五、六の女中や大層年を取ったお爺さんを連れておいでになったそうだ、と何の気なしに話し出したところが、相手はたちまち何とも言えぬ暗い表情をして
逗子物語 (新字新仮名) / 橘外男(著)
普通病気などで蒼褪あおざめるようなぶんではない、それはあだか緑青ろくしょうを塗ったとでもいおうか、まるで青銅からかねさびたような顔で、男ではあったが、頭髪かみのけが長く延びて、それが懶惰ものぐさそうに、むしゃくしゃと
青銅鬼 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
また女は、羞恥を知り、慎みて宜しきにかなう衣もて己を飾り、編みたる頭髪かみのけと金と真珠とあたいたかき衣もては飾らず、善きわざをもて飾とせん事を。これ神をうやまわんと公言する女にかなえる事なり。
ろまん灯籠 (新字新仮名) / 太宰治(著)
というと、うえから頭髪かみのけがさがってたので、王子おうじのぼってきました。
吊台つりだいの中の病人の延びた頭髪かみのけが眼に入ることもあつた。
哀しき父 (新字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
指で摘んで見ると、それは頭髪かみのけ
秋を剃る頭髪かみのけ土におちにけり
薄暮の貌 (新字旧仮名) / 飯田蛇笏(著)
このとき、あちらからきはらした、まずしげなおんながやってきました。そのおんなは、もうだいぶのとしとみえて、頭髪かみのけしろうございました。
強い大将の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
だが、どうしたのか突然、彼は口を開けたまま、身動きもせずに硬直してしまひ、頭髪かみのけまでが、針のやうに頭上で逆立つた。
虎之助さんが黒の紋附羽織に頭髪かみのけ黒々と気取られた時分のことが何となく眼に見えるやうな気が致して為方しかたがありません。
田舎からの手紙 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
しばらくつと、重さに半ば枕にうずんで、がっくりとした我が頭髪かみのけが、そのしぶき……ともつかぬ水分を受けるにや、じとりと濡れて、粘々ねんばりとするように思われた。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
年の頃は六十前後、半白はんぱく頭髪かみのけ、赭ら顔、腰を曲げて杖を突いているが、ほんとは腰など曲がっていないらしい。鋭い眼、険しい鼻、兇悪な人相の持主である。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
手を伸ばして、喬之助の頭髪かみのけにぎったのは、大迫玄蕃だった。ぐいと力をこめて、ひっ張り上げた。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
横の方から、思いがけない、違った声がして、頭髪かみのけをモシャモシャにした若い男が、姿を現した。
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しばらく仮睡まどろんでから眼が覚めて、さて枕元の時計を見ようとすると、どうした事か、胸の所が寝衣ねまきの両端をとめられているようで、また、頭髪かみのけが引っれたような感じがして
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
そのそばの岩の上には、あの、ネネが、前よりも一層美しくなったように思われるネネが、喪心そうしんしたように突立って、手を握りしめ、帽子を飛してしまった頭髪かみのけを塩風になびかせながら、凝乎じっ
腐った蜉蝣 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
背丈のたかい、鳶色とびいろ頭髪かみのけをした好男子で、いかにも実直そうな顔をしており、その顔立ちにはどことなく凛としたところがあって、何かこう思い切ったことをやりそうな眼つきをした男である。
(新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
伯爵の左の手がその胸倉むなぐらにかかった。夫人も驚いて榻の上に起きなおろうとした。伯爵の右の手が頭髪かみのけの多いその頭にかかった。伯爵はまた獣のようにうなった。そして、大きな呼吸いきを苦しそうにした。
黄灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
或時は、もう寡婦で艶気つやけのない、頭髪かみのけの薄い、神経質な女だと思った。私は、女のことを考えているうちに、日が暮れた。
抜髪 (新字新仮名) / 小川未明(著)
頭髪かみのけをぼうぼうさせて、そこらをぶらぶらしている病人の姿を人々はよく見かけたが、このごろでは、もうどっと床について、枕を高く、やせこけて
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
魔法使の頭髪かみのけは逆立つた。彼は異様な声をあげて叫ぶとともに、前後不覚に泣きだした。そこで馬首をキエフの方角へ向けて、真一文字に駈けに駈けた。
無数の紫の斑点が、あざのように付いていた。額はテカテカ銅のように光り、眉毛と睫毛まつげとが抜け落ちていた。もちろん頭髪かみのけも脱落し、前額は奥まで禿げ上がっていた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
のぼせて、頭ばっかり赫々かッかッと、するもんだで、小春さんのいい人で、色男がるくせに、頭髪かみのけさ、すべりと一分刈にしている処で、治兵衛坊主、坊主治兵衛だ、なあ、旦那。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お高は、頭髪かみのけが顔へかかってきてしようがないので、それをもかきあげた。そういう乱れたところを、まじまじと男に見られるのがいやだったので、ついにっこり笑ってしまった。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
金色の頭髪かみのけでこしらえた小さな指環にふと目をとめた。
寡婦 (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
また、女の頭髪かみのけの乱れたようなつたなどが下っているところもあった。赤い、烏瓜からすうりの吊下っているところもあった。
過ぎた春の記憶 (新字新仮名) / 小川未明(著)
顔は胸まで俯向うつむいている。雪のように白い頭髪かみのけを二房たらりと額際ひたいぎわから垂らし、どうやらもとどりも千切れているらしくまげはガックリと小鬢へれ歩くにつれて顫えるのである。
日置流系図 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いきなり頭髪かみのけをひつ掴みに飛びかかつて来るだらうと思つて、咄嗟に両の腕で頭をかかへた。
頭髪かみのけの艶のいい、鼻筋の通った、色の浅黒い、三十四五の、すっきりとした男で。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それが、妙なことには全身ずぶ濡れの経帷子きょうかたびらを着て、壁に面してさむざむと坐っているのである。かたむいた月光が女の半面を青白く照らして、頭髪かみのけからも肩先からも水の雫が垂れているようだった。
子供は、大きくなるにつれて黒眼勝くろめがちな美しい、頭髪かみのけの色のツヤツヤとした、おとなしい怜悧な子となりました。
赤い蝋燭と人魚 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そして寝台の左右には二人の男女が立っていたが、是も白い手術服を纏っている。男は外人で其頭髪かみのけは、麻のように白かった。鷲のような高い鼻。鼻下の髭さえ真白である。
人間製造 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)