おとしい)” の例文
旧字:
お互いに怪しみ、探り合わせながら、どうしてもめぐり合う事が出来ないと言う不可思議な、気味の悪い運命におとしいれて行くと同時に
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
まだその他に商業上の利害の反目からフランシスコ・ザヹリオ以来日本の貿易と布教とを一手に占めてゐた葡萄牙ポルトガル人をおとしいれようとして
君達はいい加減のことを云って、僕をおとしいれようとしているのだ。サア、僕をN市へ連れて行って下さい。そして雪子と対決させて下さい
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
わたくしは、法律の網をくぐるばかりでなく、法律を道具に使って、善人をおとしいれようとする悪魔を、法律に代って、罰してやろうと思うのです。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
遺恨いこんに思って、それから後は、事ごとに、貴様たちが、わしの一家をおとしいれようと計っていたに違いない。噂は、俺の耳に入っている
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おどかして名刺を見せましたけど、刑事とも何とも書いて無いんですの。偽刑事が人をわなおとしいれようと云う悪企わるだくみなんですわ……
偽刑事 (新字新仮名) / 川田功(著)
自分を死刑におとしいれた法律と、自分を死刑に行うべき執行人とを合せて焼き尽さなんだ事を残念に思うて居るのであろうか。
(新字新仮名) / 正岡子規(著)
私たちが「弓と鉄砲」の話をかつぎ廻っていた翌年には、独墺どくおう合邦という爆弾的宣言が、欧洲を一挙に驚愕きょうがくふちおとしいれた。
原子爆弾雑話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
「あんた詫りなさることあれしませんわ。あんたは何も知りなされへんのんです。わたしたちおとしいれよとしてる者いますから、気イつけなさいや」
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
愛人「それは困りましたね。あなたをおとしいれる黒幕の主人公がはっきり分って居れば、僕はその人物をミシンで血煙ちけむりをたたせてやるのですがねえ」
諜報中継局 (新字新仮名) / 海野十三(著)
潜水夫を殺したのも、立花博士を窮地におとしいれたのも、正平爺やを殺したのも、堤防をきったのも、花井を刺したのも、みんな助手の滝山でした。
水中の宮殿 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
大本教おおもときょうは二、三年前大地震を予言して幾分我々を不安におとしいれたが、地震に対する防備に着手させるだけの力はなかった。
地異印象記 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
純友は部下の藤原恒利といふ頼み切つた奴に裏斬りをされて大敗した後ですら、余勇をして一挙して太宰府だざいふおとしいれた。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
すこぶ変梃へんてこな話であるが、これは大杉を窮地におとしいれて自暴自棄させないための生活の便宜を与える高等政策であったろう。
最後の大杉 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
じりじりと照りつける陽の光と腹匍はらばいになった塚の熱砂の熱さとが、小初の肉体を上下からはさんで、いおうようない苦痛の甘美かんびに、小初をおとしいれる。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
わざと知らせぬように育てたる其むくいは、女子をして家の経済に迂闊うかつならしめ、生涯夢中の不幸におとしいれたるものと言う可し。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
娘時代に我が理想なぞという生意気な心を出すのは他日たじつ身を不幸の地におとしいれるもとだとよく兄が申しますから私は決して未来の事を自分では考えません
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ことに神尾主膳のために駒井能登守がおとしいれられた一条を聞いて、兵馬は気の毒と腹立ちとに堪ゆることができません。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
盛んに空取引からとりひきの手をひろめて、幾年かの間に大きな穴をあけ、さしも大身代の主家を破産の悲運におとしいれたものであった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
あるときは、ほとんどあやうかったところをのがれられてぎゃく敵軍てきぐんおとしいれられたこと、あるときは、おも病気びょうきにかかられたのを、神術しんじゅつ使つか巫女みこあらわれて
北海の白鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)
父親を陥穽わなおとしいれ、一家を離散させ、母親を自害させ、限りない苦悩のどん底に投げ入れたのだと思うと、雪之丞は、只、すぐに一刀に斬り殺したのでは
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
それより進んで大軍は厩橋、沼田、松山、箕輪、河越の諸城を次々におとしいれ、最後に鉢形城を囲んだのである。
老狸伝 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
自白すると、突然兄からつらまって危く死地におとしいれられそうになったのも、実はこういう得意の瞬間であった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おお、どうしてそれを取り除く事を余儀なくするようなはめに自らをおとしいれたのであるか。吾々にはこの処置を弁護すべき弁護らしい弁証があり得るであろうか。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
不幸は、不思議な寂寞せきばくのうちに当の人をおとしいれるものである。一般に人は不幸を本能的に嫌悪けんおする。あたかも不幸が伝染しはすまいかと恐れてるかのようである。
僕はかくのごとき言葉を聞くと、常に不愉快ふゆかいに思い、また人をおとしいるる手段をめぐらしているなと思う気がして、この言葉に対しては常に気味が悪い感想をいだく。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
○同六月二十四日、京都奉行大久保伊勢守西丸留守居に転ず(長野主膳のためにおとしいれられたるなり)。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
親しくなるに従ってきぬの確信は強くなった。良三郎は優れた才能を持っている、それを周囲が認めない許りでなく、寧ろそのために、嫉妬しっとの余り共同で彼をおとしいれるのだ。
山椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
太史令はゆえあって弐師じし将軍とげきあり、遷が陵をめるのは、それによって、今度、陵に先立って出塞しゅっさいして功のなかった弐師将軍をおとしいれんがためであると言う者も出てきた。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
自分で自分を窮地きゅうちおとしいれて苦労をしてみるのも面白いではないか、という意見が出、更にそれが、「無計画の計画」という大沢の哲学めいた言葉にまで発展して、翌日から
次郎物語:03 第三部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
餅をいてうすながら猿に負わせたり、臼をおろさずに藤の花を折らせたり、いろいろと無理な策略をもって相手を危地におとしいれた話であるが、地方によっては瓢箪ひょうたんと針千本とを
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
支那でも『西遊記』に烏鶏国王を井におとしいれ封じた道士がその王に化けて国を治む、王の太子母后に尋ねて父王の身三年来氷のごとく冷たしと聞き、その変化へんげの物たるを知り
sechゼッヒStempelシュテムペル(刻印)の間に不必要な休止ポーズを置いたのですから、それ以下の韻律を混乱におとしいれてしまったことは云うまでもありません、何故セレナ夫人は
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
階下の工場で、一分間に数千枚の新聞紙をりだす、アルバート会社製の高速度輪転機が、附近二十余軒の住民を、不眠性神経衰弱におとしいれながら、轟々ごうごうと廻転をし続けていた。
(新字新仮名) / 池谷信三郎(著)
先輩は怒鳴どなりだした。当時閥族ばつぞく政府へ肉薄して、政府をして窘窮きんきゅうの極におとしいれていた野党の中でも、その中堅とせられている某党の智嚢ちのうの死亡は、野党にとっての一大打撃であった。
雨夜草紙 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
けだし当時の王と称する者、皆いわゆる仁義をかりはかる者なり。これをもってその法王にねいする、彼がごとくついに世を救うゆえんのものをもって、民を土炭とたんおとしいるるに至る。
教門論疑問 (新字新仮名) / 柏原孝章(著)
少し誇張して云えば、もう一度その人を、同じ不幸におとしいれて見たいような気にさえなる。そうしていつの間にか、消極的ではあるが、ある敵意をその人に対して抱くような事になる。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「ねえ、——やっぱり僕はそう思うよ、本能寺をおとしいれた光秀が何故京都あたりでいい気になって戦勝の夢に酔い中国からひっかえしてくる秀吉の軍勢に備えようとしなかったかというんだ」
菎蒻 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
そしてこれが私を、盗むことの余儀ない破目はめおとしいれた唯一の理由なのである。
「自分を推薦して貰うんでなくて、相手をおとしいれることになるから御免蒙る」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
始のほどは高利かうりの金を貸し付けて暴利ぼうりむさぼり、作事こしらへごとかまへて他をおとしいれ、出ては訴訟沙汰そしようさたツては俗事談判ぞくじだんはんゆる間も無き中に立ツて、ぐわんとして、たゞ其の懐中くわいちうこやすことのみ汲々きふ/\としてゐた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
最も同国人の讃歎さんたんするところの面白い仕事は強盗である。あるいは他の部落をおとしいれ幾人の人間を殺すことを非常な名誉と思うて居るんである。カムには強盗の歌がある。その俗謡ぞくようがなかなか面白い。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
おのがおとしいれたあなから左膳を引きあげるために!
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
おとしいれおったな! このうらみは忘れんぞう!
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
今朝、暗いうちに呼びかけられた時とは全然まるで違った……否あの時よりも数層倍した、息苦しい立場におとしいれられてしまったのであった。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
もしです! どうしても戦わんとなれば、この際、しゃ二無二、一夜か半日の間に、長篠城をおとしいれ、しかる後に、織田、徳川を迎えるべきでしょう
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平中は、老人を不幸におとしいれた元兇げんきょうは自分であり、老人は何もそのことを知らずにいるのだと思うと、何と詫び言を云ってよいか分らないのであった。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼、神尾は、自分にとって恩義のある駒井能登守をおとしいれた小人であって、敵の片割れと言えば言えないこともない。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
暴漢は土足のまま闖入ちんにゅうし、手当り次第什器を破壊し、婦人の寝室を襲い、吾輩を人事不省におとしいれて手籠めにした。
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
妾此の頃、智恵ちえのある怜悧れいりな方には、飽き/\していますの。また、その智恵を、人を苦しめたりおとしいれたりする事に使う人達に、飽き/\していますのよ。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)