うた)” の例文
旧字:
予在外中しばしば屠場近く住み、多くの牛が一列に歩んで殺されに往くとて交互哀鳴するを窓下に見聞して、うた惨傷さんしょうえなんだ。
平凡なる私の如きものも六十年の生涯を回顧して、うたた水の流と人の行末という如き感慨に堪えない。私は北国の一寒村に生れた。
或教授の退職の辞 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
野田山に墓は多けれど詣来もうでくる者いと少なく墓る法師もあらざれば、雑草生茂おいしげりて卒塔婆そとば倒れ断塚壊墳だんちょうかいふん算を乱して、満目うたた荒涼たり。
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
奥殿おくどのの風雲うたた急なる時、ふすましとやかに外より開かれて、島田髷しまだまげの小間使慇懃いんぎんに手をつかへ「旦那様、海軍の官房から電話で御座いまする」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
この間も朝鮮人の密航船が玄海灘で難破して、一行二三十名が藻屑もくずとなったという報道を読んで、うたた感深いものがあった。
玄海灘密航 (新字新仮名) / 金史良(著)
読み到りて当時を追想すればうた悚然しようぜんたらずんばあらず、しかも今之を誌上に掲載して、昔日の夢を笑ふが如き、けだし天の幸のみ。碧梧桐附記。
牡丹句録:子規病中記 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
そうすると先生は背向うしろむきに椅子にかけて正面の大きな書き物机にもたれて、ガックリとこううたた寝でも遊ばしているような恰好なんでしょう。
ニッケルの文鎮 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
あの低能児の鼻が、それも人並よりは余程低い鼻が私の一生にこういう大影響を及ぼしたかと考えると、うたた感慨に堪えないものがありますよ
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
うたおぼすらむ。然れども昼牟子を風の吹き開きたりつるより見奉るに、更にものおぼえずつみゆるし給へ云々うんぬん」とある。
点心 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ああこれを思い、彼を想うて、うた潸然さんぜんたるのみ。ああいずれの日かのうが素志を達するを得ん、ただ儂これを怨むのみ、これを悲しむのみ、ああ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
空想勝なる自分の胸は今しもこの山中にも猶絶えない人生の巴渦うづまきの烈しきを想像してうたた一種の感にうたれたのであつた。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
この心なる宮はこの一月十七日に会ひて、この一月十七日の雪に会ひて、いとどしく貫一が事のしのばるるにけてうたた悪人の夫を厭ふことはなはだしかり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
それから新聞の拾ひ読みをしてゐる間に昼間の疲れが襲うて、其のまゝうたをしさうになると二階へ上つて床を敷いて直ぐ寝込んでしまふのが例だ。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
かりそめに敷いた蒲団ふとんの上、箱枕と小掻巻こがいまきだけのうたの姿のまま、主人の白石屋半兵衛は死んでいたのです。
モムゼン(Mommsen)は外蕃の人であるといい、フシュケ(Huschke)はローマ人であると主張し、吾人をしてうたたその適従に苦しましめる。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
添乳をしたままうたしたので、おふじの胸がすっかりはだかっていた。半鐘はとぎれとぎれに鳴り続けた。
鋳物工場 (新字新仮名) / 戸田豊子(著)
而して私共はこの大海のただ中の甲板上に立って、私共を出口まで引張って来た所の三人の恩人を顧みて、うたた感謝の念をさかんにせざるを得ないのであります。
琉球史の趨勢 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
わたくしはこの年から五、六年、はからずも覉旅きりょの人となったが、明治四十一年の秋、重ねて来り見るに及んで、うた前度ぜんど劉郎りゅうろうたる思いをなさねばならなかった。
里の今昔 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
マダケの花は図上に示すが如くその円錐花散漫せずして緊縮しその外部には苞を以てこれを擁しその苞には頂端に卵形の葉をそなえてその状うたた人目を惹くに足る。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
分けても大阪は現在の私に縁故が深くなつたせゐか道頓堀川の水を見てもうたた懐旧の情に堪へない。
青春物語:02 青春物語 (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
してうた深趣しんしゅの感に堪えざらしめましたゆえ、そのつど感想上に浮んだ事を詩文に作って居りました
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
何の被害もこうむらずに、あの時のままですが、今晩この夜中に、天地が寂寥せきりょうとして、焼野が原の跡がうたた荒涼たる時、その柳の木の下に、ふと一つの姿を認められたのは
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
就中なかんづく編輯長ミハイル・イワノヰツチユ君はそんな大人物かと、うたた景慕の念にへなかつた。
板ばさみ (新字旧仮名) / オイゲン・チリコフ(著)
予も又胸に一種の淋しみを包みつつある此際、うたた旅情の心細さを彼がために増すを覚えた。
浜菊 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
いまの児童の読物のあまりに杜撰ずさんなる、不真面目なる、そして調子の低きなどは、児童の人格を造る上に幾何の影響あるかを考えて、うたた感慨なからざるを得ないのであります。
新童話論 (新字新仮名) / 小川未明(著)
前日来の艱酸かんさん辛労しんろうとは茫乎としてうたゆめの如し、一行皆沼岸にしておもむろに風光を賞嘆しやうたんしてまず、とほく対岸を見渡みわたせば無人の一小板屋たちまち双眼鏡裡にえいじ来る、其距離きより凡そ二里
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
書してここに至り吾人は実に悵然ちやうぜんとしてうたた大息を禁ずる能はざる者に候。
渋民村より (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
違警罪いけいざい者街上に充ち、うた寒心かんしんすべきこと多かりし。
東京市騒擾中の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
余は彼等野人の口より此の真率沈痛の語を聴きてうた虔敬けんけいの念に堪へざるなり。此語を伝へて政府と国民とに通達するは則ち、吾人の責任なり。
鉱毒飛沫 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
そゞろ昨夜さくや憶起おもひおこして、うたた恐怖の念にへず、斯くと知らば日のうちに辞して斯塾を去るべかりし、よしなき好奇心に駆られし身は臆病神の犠牲となれり。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
いと淡き今宵の月の色こそ、その哀にも似たるやうに打眺うちながめて、ひとの憎しとよりはうたみづからを悲しと思続けぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
いたずらに歳月矢の如くきて今は全くの白頭になったが、その間何一つでかした事もないので、この年少時代に書いた満々たる希望に対してうた忸怩じくじたらざるを得ない。
恋愛の実境はそんな言ではつくし得ない、すべて少年は縹緻きりょうを重んじ中年は意気をたっとぶ、その半老以後に及んではその事疎にして情うたさかんに、日暮れ道遠しの事多し
儂思うてここに至れば、血涙けつるい淋漓りんり鉄腸てっちょう寸断すんだん石心せきしん分裂ぶんれつの思い、愛国の情、うたた切なるを覚ゆ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
縁側にうたしている利助の眼を狙って、これだけ効果的に銭を叩き付けられるのは江戸広しといえども、投げ銭の手練で有名な、銭形の平次の外にあるはずはありません。
我邦わがくに現代における西洋文明模倣の状況をうかがひ見るに、都市の改築を始めとして家屋什器じゅうき庭園衣服にいたるまで時代の趣味一般の趨勢すうせいに徴して、うたた余をして日本文華の末路を悲しましむるものあり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
一個の人間としての彼の悩みにうたた同情をそゝがざるを得ない。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
車輪は、うたた尊敬すべきものであると思わせました。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
客心何事ぞうた凄然せいぜん
老残 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
日露両国の間、風雲うたた急を告ぐるに連れて、梅子の頭上には結婚の回答をうながすの声、愈々いよ/\切迫し来れり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
これをける貫一は鉄繩てつじようをもていましめられたるやうに、身の重きにへず、心のうたくるしきを感じたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
読書、弾琴、月雪花、それらのものは一つとして憂愁をいやすに足らず、うたた懐旧のなかだちとなりぬ。
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
悲しみ気遣いながら抵抗せず、予のまましたがいしはうたた予をして惻隠そくいんの情に堪えざらしめた。
我邦わがくに現代における西洋文明模倣の状況をうかがひ見るに、都市の改築を始めとして家屋什器じゅうき庭園衣服に到るまで時代の趣味一般の趨勢にちょうして、うたた余をして日本文華の末路を悲しましむるものあり。
浮世絵の鑑賞 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
静子は今までうたた寝の夢を見ていたのだった。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
塀上の風趣うたた掬すべきものがある。
植物一日一題 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
うたた更に堅く著す、国王夫人たる宝女地中より生じ、十頭の羅刹らせつのために大海を将ち渡され、王大いに憂愁するを智臣いさめて、王智力具足すれば夫人の還るは久しからざる内にあり
これを四十四年後に於ける今日こんにちの時勢に比較すると、吾々は殊にミリタリズムの暴圧の下に萎縮しつゝある思想界の現状にかんがみて、うたた夢の如き感があると云つてもいゝ。然し自分は断つて置く。
虫干 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
いまだうを得ず、奴戸に当りって弓を張りを挟み刀を抜く、然、盤中の肉飯を以て狗に与うるに狗噉わず、ただひとみを注ぎ唇をねぶり奴をる、然、またこれを覚る、奴食を催すうたた急なり、然