豪奢ごうしゃ)” の例文
時としては目下の富貴ふうきに安んじて安楽あんらく豪奢ごうしゃ余念よねんなき折柄おりから、また時としては旧時の惨状さんじょうおもうて慙愧ざんきの念をもよおし、一喜一憂一哀一楽
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
豪奢ごうしゃな町人趣味の饗宴は、ようやく、伯をして、少々倦怠けんたいを催させて来たし、たえず、その顔いろを見ている高瀬理平にもわかった。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
美しきものは命短しというをモットーとするように豪奢ごうしゃ絢爛けんらんが極まると直ぐ色せてあの世の星の色と清涼に消え流れて行きます。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
平次は七つの土蔵をめぐって、豪奢ごうしゃを極めた部屋部屋へ触れて歩きましたが、三十余人の女どもは振り向いてみようともしません。
椿岳の生活の理想は俗世間に凱歌がいかを挙げて豪奢ごうしゃおご、でなければ俗世間にねて愚弄ぐろうする乎、二つの路のドッチかより外なかった。
よほど火の回りでも早かったのでしょうか? ことごとく焼失して、在りし日のあの豪奢ごうしゃさ、瀟洒なぞというものは跡形もありません。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
名古屋城内の奥御殿、豪奢ごうしゃを極めたその一室、向かい合っている二人の人物、尾張宗春と薬草道人、しめやかにさっきから話している。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ここで彼らの素朴な気質は知識よりももっと不思議な働きをしている。そのつつましい生活は豪奢ごうしゃよりももっと正しい役割を演じている。
苗代川の黒物 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
繿縷ぼろをまとうた蘇武の目の中に、ときとして浮かぶかすかな憐愍れんびんの色を、豪奢ごうしゃ貂裘ちょうきゅうをまとうた右校王うこうおう李陵りりょうはなによりも恐れた。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
肥満しきった快活豪奢ごうしゃな婦人らが、代わる代わるイソルデやカルメンに扮装ふんそうして現われた。アンフォルタスがフィガロを演じた。
鋳鉄ちゅうてつの階段や、ピカピカ光る真鍮や、マホガニイや、絨毯で飾られた豪奢ごうしゃな邸宅の中で、読みかけの本に向って欠伸をしながら
悲壮な覚悟があるように見える。世に豪奢ごうしゃを誇った香以が、晩年落魄らくはくの感慨を托するに破芭蕉やればしょうえらんだのははなはだ妙である。
枯葉の記 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
水は驚くほど透明で底は美しい砂になっている。川幅は二十碼くらいの狭い流れであって、両岸の植物は、自然の豪奢ごうしゃの限りを見せている。
ともへさきの二カ所に赤々とかがりを焚いて、豪奢ごうしゃきわまりない金屏風を風よけに立てめぐらし、乗り手釣り手は船頭三人に目ざむるような小姓がひとり。
彼は貧困を脱した後も、貧困を憎まずにはいられなかった。同時に又貧困と同じように豪奢ごうしゃをも憎まずにはいられなかった。
ところが現代では安い文化住宅のみならず、豪奢ごうしゃな別荘の洋室においてさえも、絵画らしいものは一切見当らない事がある。
その他なお商家の豪奢ごうしゃを尽したる例甚だ多く、就中なかんずく外妾がいしょうたくわうること商人に最も多くして、手代のやからに至るまでひそかに養わざるものなしという。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
すばらしい金屏きんぺいや、とこの唐美人図や、違い棚の豪奢ごうしゃをきわめた置物、飾物を眺めたとき、弱まった気持を、ふたたび緊張させることが出来た。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
派手好みの豪奢ごうしゃな人であったから、娘達にもあらゆる贅沢ぜいたくをさせてくれたらしいのだけれども、彼女は自分がどれだけのことをしてもらったか
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
線香の煙にせて、せきが出た。石敷の道を左に曲り、右に曲る。墓は豪奢ごうしゃな区域から、しだいに簡素となり、貧しくなる。
夕靄の中 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
けれども私が働いてみたところでとても意にみちる贅沢豪奢ごうしゃはできないから、結局私は働かないだけの話で、私の生活原理は単純明快であった。
いずこへ (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
あらゆる線の重さとその分厚さがロシア風で、この屋敷の豪奢ごうしゃは、はっきり、ロシア化されたフランス趣味というものを語っているようだった。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
ここには色あせたといっても立派な絨毯じゅうたんがしきつめてあり、かさばった家具や、豪奢ごうしゃな金銀の大きな食器がならべてある。
導かれたのは豪奢ごうしゃな地底の客間であった。近代様式の明るい洋室。家具調度のたぐいもアブストラクトふうの最新様式のものがそろえてあった。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
成金だとか、何とかよく新聞などに、彼等の豪奢ごうしゃな生活を、謳歌おうかしているようですが、金でかちうる彼等の生活は、んなに単純で平凡でしょう。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
一人は越後から京都に乗出して、嵯峨野の片ほとりに豪奢ごうしゃな邸宅を構え、京、大阪の美人を漁りまわしていた金丸かなまる長者と呼ばれる半老人であった。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
男はタキシイド、女は紋服もんぷくかイブニング・ドレスといった豪奢ごうしゃ宴会えんかいで、カルホルニア一流の邦人名士の御接待でした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
貨幣の豪奢ごうしゃで化粧されたスカートに廻転窓のある女だ。黄昏たそがれ色の歩道に靴の市街を構成して意気に気どって歩く女だ。
女百貨店 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
天井は全面が摺硝子すりガラスになっていて、白昼電燈が適当な柔かさをもって輝いてい、床には、ふかふかと足を吸込む豪奢ごうしゃ絨毯じゅうたんが敷きつめられてあった。
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
之に似た驚きの経験はかつて一度したことがあった。姫は今其を思い起して居る。簡素と豪奢ごうしゃとの違いこそあれ、驚きの歓喜は、印象深く残っている。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
豪奢ごうしゃと言うのではない、足りととのった家庭。人形をかざったピアノが一つ、坐り机が一つ、縁先に籐椅子が二つ、卓。みるところ若い女の部屋らしい。
みごとな女 (新字新仮名) / 森本薫(著)
宮川は、新調の背広に赤いネクタイをむすんで、とびきり豪奢ごうしゃな恰好をしているのに対し、矢部は例によって、くたびれきった服に身体をつつんでいた。
脳の中の麗人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
此孔雀の舌の料理は往昔おうせき羅馬ローマ全盛のみぎり、一時非常に流行致しそろものにて、豪奢ごうしゃ風流の極度と平生よりひそかに食指しょくしを動かし居候おりそろ次第御諒察ごりょうさつ可被下候くださるべくそろ。……
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いよいよ豪奢ごうしゃな『新古今』の錦繍きんしゅうの調べを愛せられ、来る日も来る月も歌会の催しがにぎわしく続けられた。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
左側は、伊勢広、伊勢嘉、和泉喜などいう札差ふださしが十八軒もずっと並んでいて豪奢ごうしゃな生活をしたものである。
そして一方に自分たちの労働を搾取することによって豪奢ごうしゃな生活を構えている前田賢三郎を見ると、彼らは当然要求すべきものを要求せずにはいられなかった。
仮装観桜会 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
田辺のおばあさんがよくうわさして捨吉に話し聞かせる石町こくちょうの御隠居、一代の豪奢ごうしゃきわめ尽したというあの年とった婦人が住む古い大きな商家のあるあたりにも近い。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
衣桁いこうあり、飾り棚があり、塗机があり、書道の手本とすずりが並べてあるという豪奢ごうしゃな貴婦人好みであった。
あまりの豪奢ごうしゃに黒田伯これを聞いて、もってのほかとつむじを曲げ、且つは一切御用も止まり、伝さんそれ以来左り前となってついに借金王と呼ばれるほどの境遇
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
困らないどころか、その頃のマタ・アリの生活は豪奢ごうしゃの頂点で、この旅行も贅沢ぜいたくをきわめたものだった。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
草や木や、彼ら人間にとって持て余す邪まものを、豪奢ごうしゃに、全力をもってくのだが、燃えあがるその焔さえ、際涯のない夜のなかでは気の毒なほど沈んでいた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
いくつも丸卓を置いた豪奢ごうしゃなホールの前景に、タキシードを着た坂田省吾が、神月と二人の外国人の間にはさまって、シャンパンを飲んでいるところがうつっている。
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
この司教も就任の初めにおいては善良なる使徒らしく振舞いたれども、今や他と異なる所なし。今や彼には四輪馬車を要し駅馬車を要す。以前の司教らの如く豪奢ごうしゃを要す。
同志は如何様いかようの余裕ありて、かくは豪奢ごうしゃを尽すにかあらん、ここぞ詰問きつもんの試みどころと、葉石氏に向かい今日こんにちの宴会は妾ほとほとその心を得ず、磯山氏よりの急使を受けて
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
男たちは、そろってあの丘の上の豪奢ごうしゃな夕映えにまみれ、炎のような形の樹を背にして、彼女の手で箱のなかに収められた瞬間の、それぞれの得意なポーズのままで笑っていた。
箱の中のあなた (新字新仮名) / 山川方夫(著)
寺の門を配した豪奢ごうしゃな別荘もある。廃寺の庭は広々とした芝生しばふで、少年が一人寝転んでんやり空を見ていた。白い雲が、疏水の水に影をおとして流れている。いい天気だった。
田舎がえり (新字新仮名) / 林芙美子(著)
しいの樹は武蔵野の原始林を構成していたといわれるが、しかし五月ごろの東山に黄金色に輝いている椎の新芽の豪奢ごうしゃな感じを知っているものは、これこそ椎だと思わずにはいられない。
京の四季 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
柳のたちあとを左右に見つつ、くるまは三代の豪奢ごうしゃの亡びたる、草のこみちしずかに進む。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
けれども冷めたい西風は幾重の墻壁しょうへきを越して、階前の梧葉ごようにも凋落ちょうらくの秋を告げる。貞子の豪奢ごうしゃな生活にも浮世の黒い影は付きまとうて人知れず泣く涙は栄華の袖にかわく間もないという噂である。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
はいるとそこに、ホテルみたいに、オーバーを預けるクロークがあって、今はそんなのはちっとも珍しくないけど、当時としてはさも豪奢ごうしゃな、いかにも勿体もったいぶったものものしさを感じさせた。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)