はちす)” の例文
「おばばか。おばばはもう十万億土へ行ってしもうた。おおかたはちすの上でな、おぬしの来るのを、待ち焦がれている事じゃろう。」
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
水色縮緬みずいろちりめん蹴出けだしつま、はらはらはちすつぼみさばいて、素足ながら清らかに、草履ばきのほこりも立たず、急いで迎えた少年に、ばッたりと藪の前。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……ほとりには柳やえんじゅのみどりが煙るようだし、亭の脚下きゃっかをのぞけば、蓮池はすいけはちすの花が、さながら袖を舞わす後宮こうきゅうの美人三千といった風情ふぜい
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかもその俗語の俗ならずしてかえって活動する、腐草ほたると化し淤泥おでいはちすを生ずるの趣あるを見ては誰かその奇術に驚かざらん。
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
「縁あらば再び、来世で契り逢おう、そなたも、一つはちすに生れるようよくよく祈っていてくれ。そろそろ、日も暮れて参った、余り待たせても悪いからのう」
原稿用紙二枚に走り書きしたる君のお手紙を読み、わば、屑籠くずかごの中のはちすを、確実に感じたからである。
私はその優雅な島、菊及びはちすの国に関し、種種いろいろ書冊しよさつの中にある美しい記載につて読みました。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
落付おちついて考へれば、考へははちすいとを引く如くにるが、出たものを纏めてると、ひとおそろしがるものばかりであつた。仕舞には、斯様かやうに考へなければならない自分がこわくなつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
磨かれない智慧を抱いたまゝ、何も知らず思はずに過ぎて行つた幾百年、幾万の貴い女性によしやうの間に、はちすの花がぽつちりと莟をもたげたやうに、物を考へることを知りめたのである。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
これは立像りゅうぞうで、手にはちすを持っている。次が制吒迦童子せいたかどうじ、岩に腰を掛け、片脚かたあしを揚げ、片脚を下げ、ねじり棒を持っている。この二体が出来て来ると、次は本体の不動明王を彫るのです。
かかる病なん、ついにその痛むところ、はちすの花の開くがごとくみ崩れて腐り行けば、命幾日もあらずというを聞くにも、今は幾許いくばくならずそのさかいに至らんと思えば、いとど安き心なし。
玉取物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
消え留まるほどやはべきたまさかにはちすの露のかかるばかりを
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
よそに見てはちすの音をちらさめや来ん世にかをるわが魂にせん
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
石の上に白髪かきたれ描くはちす丹念たんねんなれどそこばくの金
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
濁りある水より出てゝ水よりも浄きはちすの露のしら玉
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
あるひはまた印度のはちすの花か
木蔭こかげなる池のはちすはまだ浮葉
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
日下江くさかえ一四の 入江のはちす
枯れたはちすを見もしない
佐藤春夫詩集 (旧字旧仮名) / 佐藤春夫(著)
おなじはちすの上にならはん
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
はちす浮葉うきはき分けて
筑波ねのほとり (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
しかもその俗語の俗ならずしてかへつて活動する、腐草ふそうほたると化し淤泥おでいはちすを生ずるの趣あるを見ては誰かその奇術に驚かざらん。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
さくら山吹やまぶき寺内じないはちすはなころらない。そこでかはづき、時鳥ほとゝぎす度胸どきようもない。暗夜やみよ可恐おそろしく、月夜つきよものすごい。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
地金じがねすべて、黄金なのはいうまでもない。迦陵頻迦かりょうびんがのすかしぼりである。はちすの花は白金だし翠葉みどりは青金せいきんだった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「南無西方極楽世界の教主弥陀如来、願わくは浄土へ導き給え、亡き殿と再び一つはちすに迎え給え」
磨かれぬ智慧を抱いたまま、何も知らず思わずに、過ぎて行った幾百年、幾万の貴い女性にょしょうの間に、はちすの花がぽっちりと、つぼみもたげたように、物を考えることを知りめた郎女であった。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
やり水にはちすの花のかをる夜は枕ただよひ寝られざるかな
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
隔てなくはちすの宿をちぎりても君が心やすまじとすらん
源氏物語:38 鈴虫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
擂鉢に白きはちすをひとつ浮けて貧しき朝やとぼめし
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
葉を枯れてはちすと咲ける花あやめ 一游亭
田の中の小道を行けば冬の溝川水少く草は大方に枯れ尽したる中にたでばかりのあこう残りたる、とある処に古池のはちす枯れてがんかも蘆間あしまがくれにさわぎたる
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
その夥多おびたゞしい石塔せきたふを、ひとひとつうなづくいしごとしたがへて、のほり、のほりと、巨佛おほぼとけ濡佛ぬれぼとけ錫杖しやくぢやうかたをもたせ、はちすかさにうつき、圓光ゑんくわうあふいで、尾花をばななかに、鷄頭けいとううへ
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
はちすの花に似ていながら、もっと細やかな、——絵にある仏の花を見るような——。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
うきなからあはれことしの花もみつ これもはちすのいけるかひかな
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
消ゆと見て歎きはせしかしら露の玉ははちすに結びかへけん
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
白くのみ月にかがやくひと束は紫うすき根のはちすらし
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
幻の苦患くげんめていた、冷汗もまだとまらなかったくらいの処へ、この夢を話されて、おもてを赤うするまで心に恥じた、あわれ泥中のこの白きはちすに比して、我が心かえってけがれたりと
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はちすの花に似てゐながら、もつと細やかな、——絵にある仏の花を見るやうな——
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
白くのみ月にかがやくひと束は紫うすき根のはちすらし
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
はちす花片はなびらの形したる、石の面に、艶子つやこ之墓と彫りたるなり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
白き菜と紫うすき根のはちす冬はさやかに厨戸にあり
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
白き菜と紫うすき根のはちす冬はさやかに厨戸にあり
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
人間のまなこおどろき見てをり人間の描くあかはちす
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
紫うすき根のはちす
海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)