茄子なすび)” の例文
人間を殺すのを、大根か、茄子なすびを切るくらいにしか、考えとらん奴ばっかりじゃけ、困るわい。ボーシンも、気をつけたが、ええばい
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
此処ここのアラビヤ族の黒奴くろんぼ馬来マレイ印度インドのに比して一層毒毒どくどくしい紫黒色しこくしよくをして居て、肉も血も骨までも茄子なすびの色を持つて居さうに想はれる。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
茄子なすびの馬よりもっと小っちゃこい駄馬を引いた胡麻粒ぐらいの人が、平べったくヨチヨチ動いているのまで、一目で見わたせる。
禰宜様宮田 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
言葉が制限であり、習慣が附け紐である限りは、要するにそれはただ蕪村ぶそんのいわゆる「水桶にうなづき合ふや瓜茄子なすび」である。
一体当地にこの春大地震があると、口を合わせましたようにいい出しましたのも、根はその総六がとこ茄子なすびから起りました事。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「流れついたお精霊しょうろさまの茄子なすびみてえな面をしやあがって、いってえどこから迷いこんで来やがったんだ、どこのもんだ」
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
山の紫は茄子なすびの紫でもない、山の青は天空の青とも違う、秋にいんずる病葉わくらばの黄にもあらず、多くの山の色は大気で染められる、この山々の色の変化は
梓川の上流 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
しかし、今朝けさ程から茄子なすびの黒焼を酒で飲みまして、御覧の通り、妙薬のふなを潰して貼っておりますけに、おかげで余程痛みがくつろいだようで御座います。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
現にいつか垣の外に「茄子なすびなへ胡瓜きうりの苗、……ヂギタリスの苗や高山植物の苗」と言ふ苗売りの声を聞いた時にはしみじみ時好じかうの移つたことを感じた。
変遷その他 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
茄子なすび大根の御用をもつとめける、薄元手を折かへすなれば、折からの安うてかさのある物より外はさをなき舟に乘合の胡瓜、つとに松茸の初物などは持たで
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
この言、まことになり。うりつる茄子なすびは実のるべからず。政府は人民の蔓に生じたる実なり。英の人民にして英の政府あり、仏の人民にして仏の政府あり。
学者安心論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「寧子よ。まだ殿のお目ざめには間があろう。そのあいだに、畑の茄子なすびでももいでおこうかの。茄子もはや秋生あきなりの終りごろである。——かごを持って来やい」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うり茄子なすび命があらば三年目」というのである。正岡先生はこの時既に病のあついのを知っておられた。
呉秀三先生 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
うりつる茄子なすびはならない。だけど、どうせ、育てるんじゃないんだから。」笹村も言っていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ちょっと見ると、普通の農家とはあまり違っていない。蠶豆そらまめ莢豌豆さやえんどうの畑がまわりを取り巻いていて、夏は茄子なすび胡瓜きゅうりがそこら一面にできる。玉蜀黍とうもろこし広葉ひろばもガサガサと風になびく。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
さうしたら、本州だけしか書いてないのに、なんだ、それや茄子なすびかつて……。
驟雨(一幕) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
忠君愛国仁義礼智じんぎれいちなどと直接なんらの交渉をも持たない「うり茄子なすびの花盛り」が高唱され、その終わりにはかの全く無意味でそして最も平民的なはやしのリフレインが朗々と付け加えられたのである。
蓄音機 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
麥まくと畑打つ人の曳きこじてたばにつかねし茄子なすび古幹ふるから
長塚節歌集:2 中 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
親の意見と茄子なすびの花は、千に一つのむだもない
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「高い山から谷底見れば、瓜や茄子なすびの……」
随筆 寄席囃子 (新字新仮名) / 正岡容(著)
秋さびし手毎てごとにむけやうり茄子なすび
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
瓜や茄子なすびの花ざかり
茄子なすびヤうれたかと
雨情民謡百篇 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
二人ばかり、十二三、四五ぐらいな、子守のちびが、横ちょ、と猪首いくび小児こども背負しょって、唄も唄わず、肩、背をゆする。他は皆、茄子なすびつるに蛙の子。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
マンが、麻袋のなかに、煙管と、懐中ランプを入れようとすると、一段と背の高い、顎のしゃくった、茄子なすび色の、角刈の男が、マンの右手をつかんだ。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
茄子なすび大根だいこの御用をもつとめける、薄元手を折かへすなれば、折からの安うてかさのある物よりほかさほなき舟に乗合の胡瓜きうりつと松茸まつたけの初物などは持たで
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
自分も子供の頃は「うり茄子なすびの花ざかり」とか、「おまんかわいや布さらす」とかいう歌のおもむきをよく知っていた。その頃は小学校の新築の流行する時代であった。
峠に関する二、三の考察 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
と、秀吉は急に、足を止めて、見送りについて来た家士に、茄子なすびの籠を取りにやった。やがて、駈け戻って来た家士の渡した籠の茄子にはふきの葉がかぶせてあった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これ、當流たうりう奧儀おくぎである、となに矢場七やばしち土場六どばろくが、茄子なすびのトントンを密造みつざうするときのやうに祕傳ひでんがるにはおよばない。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
茄子なすび大根だいこ御用ごようをもつとめける、薄元手うすもとでをりかへすなれば、をりからやすうてかさのあるものよりほかさほなきふね乘合のりあひ胡瓜きうりつと松茸まつたけ初物はつものなどはたで
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
到来の茄子なすびは、さっそく調理され、やがてべつの部屋で、黒田官兵衛をも加えて酒宴となった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ちかい。が焼山やけやまである。唐黍たうもろこしげてゐやう。茄子なすびあかからう。女気をんなげとほざかることかばんのぞいて十あまつた。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
すぐしにするとはなんこと新田につたこそ運平うんぺいこそ大惡人だいあくにん骨頂こつちやうなれむすめばかりはよもやとおもへどそれもこれもこゝろまよひか姿すがたこそことばこそやさしけれうりつるらぬ茄子なすび父親てゝおやおなこゝろになつていま我身わがみ愛想あいそきて
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
夕顏ゆふがほには、豆府とうふかな——茄子なすびなへや、胡瓜きうりなへ藤豆ふぢまめ、いんげん、さゝげのなへ——あしたのおつけのは……
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
……菜大根、茄子なすびなどは料理に醤油したじついえ、だという倹約で、ねぶかにら大蒜にんにく辣薤らっきょうと申す五うんたぐいを、空地あきち中に、植え込んで、塩で弁ずるのでございまして。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ここに、りもの、栗、蜜柑みかん、柿、柘榴ざくろなどと、かぶら、人参、花を添えたつるの藤豆、小さな西瓜すいか、紫の茄子なすび
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
祭礼まつりそろいかな、蛤提灯——こんなのに河豚も栄螺さざえもある、畑のものじゃ瓜もあら。……茄子なすびもあら。」
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何聞く方の耳が鳴るんでしょうから、何事もありません、茄子なすびの鳴くわけは無いのですから。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「そうか、神様のものか。むむ、そして、つとの中は茄子なすびだといったが、まったくかい。」
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
人をつけ、いかに陽気が陽気だって師走空に茄子なすびがあろうか、小馬鹿にしやがる。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
茄子なすびならば、でございますが、ものは茄子なすでも、対手あいては別にございましょう。」
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
茄子なすびを煮て晩飯を食わしてくれたんですが、いや、下地が黒い処へ、海水で色揚げをしたから、その色といったら茄子のようで、ですから、これだって身の皮をいでくれたほどの深切です。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いで、此上このうへは、茄子なすびいんむすんでけ、いろはにほへとといのるならば、などか奇特きどくのなかるべき、などか、ちりぬるをわかンなれ。」といのときかさはんびらきにした、なかにも毒々どく/\しい魔形まぎやうなのが
くさびら (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)