皆無かいむ)” の例文
ところで——番町ばんちやう下六しもろく此邊このへんだからとつて、いし海月くらげをどしたやうな、石燈籠いしどうろうけたやうな小旦那こだんなたちが皆無かいむだとおもはれない。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しかし民主政になっても、直接行動は必ずしも皆無かいむとならず、現代ではゼネストや集団デモが有力な政治闘争の手段になりつつある。
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
我々われわれまちはなし面白おもしろい、知識ちしきのある人間にんげん皆無かいむなのは、じつ遺憾いかんなことじゃありませんか。これは我々われわれっておおいなる不幸ふこうです。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
饒舌しゃべりもし、飛びわりね廻わりして、至極しごく活溌にてありながら、木に登ることが不得手ふえてで、水を泳ぐことが皆無かいむ出来ぬと云うのも
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
しかるにわがくに地震史ぢしんしにはみぎのような現象げんしようおこつたことの記事きじ皆無かいむであるのみならず、明治以後めいじいご大地震調査だいぢしんちようさおいてもいまだかつて氣附きづかれたことがない。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
木綿もめんが日本にふきゅうするまでは、麻布あさぬのを着ぬ日本人は一人もなく、苧を績み布を織らぬ女も皆無かいむにちかかった。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「それを云われると、今度は僕が恐縮する番ですよ。いやな言葉ですが、これはもう迷宮入りですね。あらゆる手段をつくしたのですが、結局、容疑者皆無かいむです」
月と手袋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
客は、余をのぞくのほかほとんど皆無かいむなのだろう。しめた部屋は昼も雨戸あまどをあけず、あけた以上は夜もてぬらしい。これでは表の戸締りさえ、するかしないか解らん。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
(私は音楽の知識は皆無かいむに等しいものであるが、素人アマチュアとして一言することを許して頂ければ——)
FARCE に就て (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
今日は歌よみなる者皆無かいむの時なれどそれでも御歌所連より上手なる歌よみならば民間に可有之これあるべく候。
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
「人は皆無かいむ、仕事は全部」といふフロオベエルの言葉はこのためにわたしを動かすのである。
機関車を見ながら (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
たら吃驚びつくりでござりませういろくろたか不動ふどうさまの名代めうだいといふ、では心意氣こゝろいきかとはれて、此樣こんみせ身上しんしやうはたくほどのひとひといばかり取得とりえとては皆無かいむでござんす
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
この最後の大笑で砲車雲ほうしゃうんは全く打払ッたが、その代り手紙は何を読んだのだか皆無かいむわからない。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
まして家に在て牧師の職を取り得る者の如きは、到底見出し得ぬ処である。しかしこれ世に皆無かいむの事象ではない。欧米諸国においては少数ながらこの種の人が実存するのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
これを一人で処理するのは所詮しょせん無理である。このように寿司屋の下仕事は沢山ある。支店みっちゃんのように下仕事する者皆無かいむで、それを処理せねばならぬところに無理がある。
握り寿司の名人 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
不景気なせいか田舎から奉公人が皆無かいむ出て来ませんし、また口もい口がございませんで困り切って居ります、わたくしどもで此の商売を始めてからんな商売のひまなことはござんせんねえ
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
特に「寸志」とて献金さえすれば、その金高に相当するの家禄かろく、格式を附与するの制すら出できたり、その状すなわち海防費献金をつのりて位階を売るが如きものありき。ある物は皆無かいむまさる。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
ひげはやし洋服を着てコケをおどそうという田舎紳士風の野心さえ起さなければ、よしや身に一銭のたくわえなく、友人と称する共謀者、先輩もしくは親分と称する阿諛あゆの目的物なぞ一切皆無かいむたりとも
公平無私な官吏かんり苛斂誅求かれんちゅうきゅうを事とせぬ政治家の皆無かいむだった当時のこととて、孔子の公正な方針と周到な計画とはごく短い期間に驚異的きょういてきな治績を挙げた。すっかり驚嘆きょうたんした主君の定公が問うた。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
手懸りも皆無かいむである。文字どおり事件は迷宮めいきゅうにはいってしまった。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
時間じかん以上いじやう潜行せんかう持續ぢぞくするものは皆無かいむといふ有樣ありさま
我々われ/\まちはなし面白おもしろい、知識ちしきのある人間にんげん皆無かいむなのは、じつ遺憾ゐかんなことぢやりませんか。これ我々われ/\つておほいなる不幸ふかうです。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
只管ひたすら人懐ひとなつかしさに、進んで、喜んで朝から出掛ける……一頃ひところ皆無かいむだつた旅客りょかくが急に立籠たてこんだ時分はもとより、今夜なども落溜おちたまつたやうに方々から吹寄ふきよせる客が十人の上もあらう。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
現今げんこんでは、うなぎといえば養殖うなぎが通り相場になっているほどである。東京では五、六軒だけ天然うなぎを使用しているが、京、大阪は皆無かいむ。中には両方を混ぜて食わせる店もある。
鰻の話 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
ボオドレエルを始め西洋のデカダンスには必ず神秘的宗教的色彩が強く、また死に対する恐しい幻覚が現はれてゐるが、此れ等は初めから諦めのいゝ人種だけに、江戸思想中には皆無かいむである。
虫干 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
口に言わないでも心におもっいやな顔をするにきまって居る。私はソンな不愉快な屋敷に住もうと思わない。何はさて置き、構うことはない、ドウぞこの金を渡してださい。皆無かいむ損をしてもよろしい。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
また人物声望の如何いかんなどまるで知るところは皆無かいむだった。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
デミトリチのひだりほうとなりは、猶太人ジウのモイセイカであるが、みぎほうにいるものは、まるきり意味いみかおをしている、油切あぶらぎって、真円まんまる農夫のうふうから、思慮しりょも、感覚かんかく皆無かいむになって
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
病床の療治は皆無かいむ素人しろうとでも、時としては診察医も役に立つことがある。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
デミトリチのひだりはうとなりは、猶太人ジウのモイセイカであるが、みぎはうにゐるものは、全然まるきり意味いみかほをしてゐる、油切あぶらぎつて、眞圓まんまる農夫のうふうから、思慮しりよも、感覺かんかく皆無かいむになつて、うごきもせぬ大食おほぐひな
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)