田舎道いなかみち)” の例文
旧字:田舍道
やっと、かれは、その居酒屋いざかやからそとました。ふらふらとあるいて、まちはずれてから、さみしい田舎道いなかみちほうへとあるいていきました。
百姓の夢 (新字新仮名) / 小川未明(著)
自分の住まっている町から一里半余、石ころの田舎道いなかみちをゆられながらやっとねえさんのうちへ着いた。門の小流れの菖蒲しょうぶも雨にしおれている。
竜舌蘭 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
梅雨つゆ上がりの、田舎道いなかみちがまの子が、踏みつぶさねば歩けないほど出るのと同じように、沢山出ているはずの帆船や漁船は一そうもいなかった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
ある夏の日、笠をかぶった僧が二人ふたり朝鮮ちょうせん平安南道へいあんなんどう竜岡郡りゅうこうぐん桐隅里とうぐうり田舎道いなかみちを歩いていた。この二人はただの雲水うんすいではない。
金将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
竹こそないが、やぶと云うのが適当と思われるくらいな緑の高さだから、日本の田舎道いなかみちを歩くようなおとなしい感じである。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
車は場末ばすえへ場末へと道を取って、いつの間にか人家もまばらな田舎道いなかみちへはいっていたが、やがて四、五十分も走ったと思う頃、やっと前の車が停車した。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
けれどもここは甲府と違って、人家もまばらな田舎道いなかみちであります。笛吹川へ注ぐ小流れに沿って竜之助は、やや下って行ったけれど誰も人には会いません。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
自分は何となく少しテレた。けれども先輩達は長閑気のんきに元気に溌溂はつらつと笑い興じて、田舎道いなかみちを市川の方へあるいた。
野道 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
あの辺はいかにも田舎道いなかみちらしい気のするところだ。途中に樹蔭こかげもある。腰掛けて休む粗末な茶屋もある。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
イワン・フョードロヴィッチは馬車から降りると、たちまち御者の群れに包囲された。で、十二露里エルスター田舎道いなかみちを私設の駅逓馬車に乗って、チェルマーシニャへ向けて立つことに決めた。
そしてはかまももだちをとって田舎道いなかみちを歩いてゆかれた先生の姿など眼のまえに浮かんでくる。甲州御嶽みたけの歌会には私の都合で行をともにすることのできなかったのを、今でも遺憾に思っている。
左千夫先生への追憶 (新字新仮名) / 石原純(著)
小暗こぐら田舎道いなかみちを五丁ほど行った広い丘陵きゅうりょうの蔭に彼の下宿があるそうである。
麻雀殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
植物の緑は、あわい。山が低い。樹木は小さく、ひねくれている。うすら寒い田舎道いなかみち。娘さんたちは長い吊鐘つりがねマントを着て歩いている。村々は、素知らぬ振りして、ちゃっかり生活を営んでいる。
佐渡 (新字新仮名) / 太宰治(著)
さびしい田舎道いなかみちほうまで、自転車じてんしゃはしらせて、二人ふたりは、散歩さんぽしました。徳蔵とくぞうさんは、たつ一にとって、じつにいさんのようながしました。
とびよ鳴け (新字新仮名) / 小川未明(著)
伝吉の倉井村へはいったのはいぬこくを少し過ぎた頃だった。これは邪魔じゃまのはいらないためにわざと夜を選んだからである。伝吉は夜寒よさむ田舎道いなかみちを山のかげにある地蔵堂へ行った。
伝吉の敵打ち (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
和歌山市を通り越して少し田舎道いなかみちを走ると、電車はじき和歌の浦へ着いた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
田舎道いなかみちを歩いていると道わきの農家の納屋の二階のような所から、この綿弓の弦の音が聞こえてくることがあった。それがやはり四拍子の節奏で「パン/\/\ヤ」というふうに響くのであった。
糸車 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
かれはしかたなく、つかれたあしきずって、田舎道いなかみちあるいて、さびしい、自分じぶん小屋こやのある、むらほうかえっていくのでした。
窓の下を通った男 (新字新仮名) / 小川未明(著)
まちてから、田舎道いなかみちにさしかかったところに居酒屋いざかやがありました。そこまでくると、おとこは、うしまえやなぎにつないで、みせなかへはいりました。
ある男と牛の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
達吉たつきちは、あの、みんなからおくられて、さびしい田舎道いなかみちをいった父親ちちおや姿すがたおもかべました。くるしくなって、あついものがむねうちにこみあげてきました。
僕はこれからだ (新字新仮名) / 小川未明(著)
真夏まなつ午後ごごひかり田舎道いなかみちうえあつらしていました。あまりとおっている人影ひとかげえなかったのであります。
どこで笛吹く (新字新仮名) / 小川未明(著)
どこへゆくのだろう?箱車はこぐるまなかにはいっている天使てんしは、やはり、くらがりにいて、ただくるまいしうえをガタガタとおどりながら、なんでものどかな、田舎道いなかみち
飴チョコの天使 (新字新仮名) / 小川未明(著)
雲切くもぎれのした、でこぼこのある田舎道いなかみち貨物自動車かもつじどうしゃは、ちょうどっぱらいのひとあしどりのように、おどりながら、ガタビシといわせてはしっていたのでした。
なつかしまれた人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
このとき、一だい貨物自動車かもつじどうしゃが、会社かいしゃもんからて、まちぎ、ある田舎道いなかみちにさしかかったのであります。くるまうえには、世帯道具しょたいどうぐがうずたかくまれていました。
なつかしまれた人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
やがて、あめれました。けれど、田舎道いなかみちには、みずがいっぱいたまっていました。その乞食こじきは、ながぐつをはいてみんなのまえ威張いばってとおることができました。
長ぐつの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
仕事しごとをしていても、こころで、ありありと、あのさびしい松並木まつなみきのつづく、田舎道いなかみちえるのでした。はしわたり、むらからずっとはなれた、やまのふもとに自分じぶんいえはあるのです。
母の心 (新字新仮名) / 小川未明(著)
弱虫よわむしだなあ、じゃ、ぼくらだけおよぎにいこうよ。弱虫よわむしなんかこなくてもいいや。」と、二、三にんが、一つになって途中とちゅうからわかれて、田舎道いなかみちあるいてかわのあるほうへといったのであります。
子供の時分の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
まちへいけば、そこにはたくさんの人間にんげんんでいるから、なかには、自分じぶんうえ同情どうじょうせてくれるひともあろうとおもって、おとこは、こうして、毎日まいにちのように、田舎道いなかみちあるいてやってきたのです。
窓の下を通った男 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「まだ、はるにはなかなかなんだね。はやはるがくるといいなあ。」と、立雄たつおくんは、あかみをびた、まつみきをながめて、去年きょねんはる遠足えんそくにいって田舎道いなかみちあるいたときの景色けしきおもしたのです。
町はずれの空き地 (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかし、田舎道いなかみちとおると、むら子供こどもらはをたたいてわらいました。
長ぐつの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)