汁粉しるこ)” の例文
酒飲みでも一旦酒を廃すると汁粉しるこ党に変る事がある。して見ると女は酒を飲まぬがために南瓜などを好むのに違ひない。(七月七日)
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
この状態の粘土は、そのままにしておけば形を保っているが、一度かき乱すと汁粉しるこの汁のようなへどろになってしまうのである。
永久凍土地帯 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
蕎麥そば、お汁粉しるこなど一寸ちよつとはひると、一ぜんではまず。二ぜんは當前あたりまへ。だまつてべてれば、あとから/\つきつけ習慣しふくわんあり。古風こふう淳朴じゆんぼくなり。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
店によるとコーヒーだか紅茶だかよほどよく考えてみないとわからない味のものを飲まされ、また時には汁粉しるこの味のするものを飲まされる事もあった。
コーヒー哲学序説 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
小間物屋の紅勘と近接した横丁には「みめより」という汁粉しるこ屋がある。それから「金麩羅きんぷら」という天麩羅屋がある。
へい、え、あの、御門ごもんところに、お汁粉しるこ看板かんばんりましたが、あれはお長家ながやであそばしますのでげせうか。
士族の商法 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
渠はこの二つの品に半襟を一つ加へてやり、これが代金を拂つてから、食堂で木原店きはらだな汁粉しるこを取り寄せた。
さて友達という数人が来て、汁粉しるこなどを食って帰った跡で、戸棚の本箱を見ると、その中は空虚であった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
道端に荷をおろしている食物売たべものうりあかりを見つけ、汁粉しるこ鍋焼饂飩なべやきうどんに空腹をいやし、大福餅や焼芋に懐手をあたためながら、両国橋をわたるのはほとんど毎夜のことであった。
雪の日 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
苦沙弥はあの時代から曾呂崎の親友で毎晩いっしょに汁粉しるこを食いに出たが、そのたたりで今じゃ慢性胃弱になって苦しんでいるんだ。実を云うと苦沙弥の方が汁粉の数を
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
子供の時分には鏡餅かがみもちを割って汁粉しるこにする日を蔵開というのだと、漫然心得ていたこともあった。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
「お艶、お前、好きだったよねえ。お汁粉しるこができたから持って来たよ。さ、起きておあがり」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ガーゼのマスクをした、桃割もゝわれに結ひたての娘が、蕎麦はまだやかましくて出来ないのだと云つた。こゝで出来るものはと尋ねると、紅茶と、汁粉しること、ソーダ水だけだと云つた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
めて出て行ッたばかりのところで、小万を始め此糸このいと初紫はつむらさき初緑名山千鳥などいずれも七八分のいを催し、新造しんぞのお梅まで人と汁粉しることに酔ッて、頬から耳朶みみたぶを真赤にしていた。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
正太しようた此日このひがけのあつめをやすませもらひて、三五らう大頭おほがしらみせ見舞みまふやら、團子屋だんごや背高せいたか愛想氣あいそげのない汁粉しるこやをおとづれて、うだまうけがあるかえとへば、しようさんおまへところ
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
手置のよろしからぬ横町、不性なる裏通、屋敷町の小路などの氷れる雪の九十九折つづらをりある捏返こねかへせし汁粉しるこの海の、差掛りて難儀をきはむるとは知らず、見渡す町通まちとほり乾々干からからほしかたまれるにそそのかされて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
汁粉しること牡丹餅とを売っているのであるが、私の知っている頃には店もさびれて、汁粉も牡丹餅も余りうまくはなかったらしい。近所ではあったが、わたしは滅多めったに食いに行ったことはなかった。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
帰りに吉原土手の下にあった汁粉しるこ屋に寄った。上が畳敷になっている縁台に腰かけて汁粉を食べながら祖母は、兄が入学したときにも、その帰りにはここで汁粉を食べたのだという話をした。
生い立ちの記 (新字新仮名) / 小山清(著)
おしょさんは、当地に馴染なじみのない人だからと、毎日毎日楽屋へいろんなものをもたしてやる。ほかのものはいいがお汁粉しるこをどっさりこしらえてもってゆく時は、おもよどんは運ぶのに大変だ。
とかいう街の人気男の木戸口でわめく客呼びの声も、私たちにはなつかしい思い出の一つになっているが、この界隈かいわいには飲み屋、蕎麦そば屋、天ぷら屋、軍鶏しゃも料理屋、蒲焼かばやき、お汁粉しるこ、焼芋、すし、野猪のじし
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
するとそこへ誰とも知らぬ者がってきて彼を連れて行った。多勢おおぜいの人にまじって木のこずえを渡りあるきながら、処々方々の家をまわって、行く先々で白餅や汁粉しるこなどをたくさん御馳走ごちそうになっていた。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
南京豆なんきんまめ汁粉しるこ 春 第四 南京豆
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
田舎いなかから始めて来た人などに、ここで汁粉しるこかアイス一杯でもふるまうと意外な満足を表せられる事がある。
丸善と三越 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
小川町辺をがはまちへん御邸おやしきまへ通行つうかうすると、御門ごもん潜戸くゞりど西にしうち貼札はりふださがつてあつて、筆太ふでぶとに「此内このうち汁粉しるこあり」としたゝめてあり、ヒラリ/\と風であほつてつたから
士族の商法 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
入学をした余もすぐ盲腸炎にかかった。これは毎晩寺の門前へ売りに来る汁粉しるこを、規則のごとく毎晩食ったからである。汁粉屋は門前まで来た合図に、きっと団扇うちわをばたばたと鳴らした。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
汁粉しること牡丹餅とを売っているのであるが、私が知っている頃には店も甚ださびれて、汁粉も牡丹餅もあまりうまくはなかったらしい。近所ではあったが、私は滅多めったに食いに行ったことはなかった。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あとで聞いたのだけれどもいつか徳田先生と私と順子さんと、来合わしていた青年のひとと散歩をしてお汁粉しるこを先生に御馳走になったのですが、その青年のひとが窪川鶴次郎くぼかわつるじろう氏だったりしました。
文学的自叙伝 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
さらあんで、台所の婦人ひとがこしらえてくれたお汁粉しるこの、赤いおわんふたをとりながら、燁子さんが薄いお汁粉をき廻しているはしの手を見ると、新聞の鉄箒欄の人は、自分を崇拝している年下の男の方が
柳原燁子(白蓮) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「先生はお汁粉しるこなんかはどうですか?」
メフィスト (新字新仮名) / 小山清(著)
普通なみ汁粉しるこだちよいちよいと焼塩やきしほれるだけの事だ、それから団子だんご道明寺だうみやうじのおはぎなどがあるて。
士族の商法 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
胃の痛むのによく蕎麦そば汁粉しるこを食ったりしては、さらに自分に対する不満を増していたように見える。
亮の追憶 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
実はぜんざいの何物たるかをさえわきまえぬ。汁粉しるこであるか煮小豆ゆであずきであるか眼前がんぜん髣髴ほうふつする材料もないのに、あの赤い下品な肉太にくぶとな字を見ると、京都を稲妻いなずますみやかなるひらめきのうちに思い出す。
京に着ける夕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
二人は二人の月給を机の上にごちゃごちゃにぜて、そのうちから二十五銭の月謝と、二円の食料と、それから湯銭若干そくばくを引いて、あまる金をふところに入れて、蕎麦そば汁粉しるこ寿司すしを食い廻って歩いた。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「お汁粉しるこ取りましょうか、お雑煮ぞうににしましょうか。」
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
門の並びに黒い暖簾のれんをかけた、小さな格子窓こうしまどの平屋はおれが団子を食って、しくじった所だ。丸提灯まるぢょうちん汁粉しるこ、お雑煮ぞうにとかいたのがぶらさがって、提灯の火が、軒端のきばに近い一本の柳の幹を照らしている。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)