果物くだもの)” の例文
「ありがとう。」と、れいをいって、自分じぶんってきたものをして、二人ふたりは、ならんではなしながら、お菓子かしや、果物くだものべたのでした。
生きぬく力 (新字新仮名) / 小川未明(著)
向ふに見えるはごゞ島で中央に高いのがごゞ島の小富士、果物くだものが名物にて年に二十万円の産額があるなど五月蠅うるさくつき纏つて離れない。
坊つちやん「遺蹟めぐり」 (新字旧仮名) / 岡本一平(著)
まだ熟さない青い果物くだものに、おまえは手を出したのだ、それはもう少し待てば熟して、おまえの手にはいったのだ、そう思わないか
夏に近い太陽は、彼女の頬を果物くだもののようにつやつやとみがきたてている。薫々くんくんとふく若葉の風は肺の中まで青くなるほどにおう。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
果物くだもの畑のなしの実は落ちましたが、のたけ高い三本のダァリヤは、ほんのわづか、きらびやかなわらひを揚げただけでした。
まなづるとダァリヤ (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
どこもかしこも金銀きんぎんやさんごでできていて、おにわには一年中いちねんじゅうくりかきやいろいろの果物くだものが、りきれないほどなっていますよ。
くらげのお使い (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
とお雪は仏壇の方へ行って、久し振で小さな位牌いはいの前に立った。土産の菓子や果物くだものなどを供えて置いて、復た姪の傍へ来た。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
襟の掛つた木綿物に、赤前垂をこそしめてをりますが、商賣柄に似ず固いが評判で、枝から取り立ての果物くだもののやうな清純な感じのする娘でした。
まぐさや麦や果物くだものがよくできそうかどうか、そんなことをいたりなんかなすって、話をなさるにも、わたしゃお返事をするひまがないんですもの。
淀見軒という所は店で果物くだものを売っている。新しい普請であった。ポンチ絵をかいた男はこの建築の表を指さして、これがヌーボー式だと教えた。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その途端に障子が明くと、くび湿布しっぷを巻いた姉のおきぬが、まだセルのコオトも脱がず、果物くだものの籠を下げてはいって来た。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
熟し過ぎたといふよりは、古くなつた果物くだものといふ気がするかも知れません。しかし腐れかけた果実くだものは甘いものです。
草みち:序 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
そのうちに一頭の大きい熊が外から戻って来たので、しょせん助からないと覚悟していると、熊はしまってある果物くだものを取り出してまず仔熊にあたえた。
母親は道夫のために小箪笥こだんすからおやつの果物くだものをとりだして、紫檀したんの四角いテーブルのうえへならべながらいった。
四次元漂流 (新字新仮名) / 海野十三(著)
おまけにおいしい果物くだもの菓子かしまで食べられるのだから、まるで天国てんごくのようだったよ。からだもあたたまり、はらごしらえもできると、にわかにねむくなったんだ。
少し行くと、おいしそうな果物くだものの木がありました。そのそばに、きれいな水がふき出しているいずみもありました。
うま果物くだものや綺麗な泉、これらの物があるばかりだ。しかし一たび林の外へ出ると、恐ろしい土人が群れていよう。
二人でいっしょに散歩していると、クリストフは禁札を見るごとにかならずその畑のさくを飛び越してはいった。あるいは所有地の壁越しに果物くだものをつみ取った。
果物くだものやばらのバックは新しいと思う。「初夏」の人物は昨年のより柔らかみが付け加わっている。私は「いちご」の静物の平淡な味を好む。少しのあぶなげもない。
昭和二年の二科会と美術院 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
中に水に臨んだ一小廬しょうろ湖月亭こげつていという。求むる人には席を貸すのだ。三人は東金とうがねより買い来たれる菓子果物くだものなど取り広げて湖面をながめつつ裏なく語らうのである。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
林檎の木のそばには果物くだもの置き場みたいな小屋があって、よく戸締まりもしてないので林檎一つくらい手に入れられそうだった。林檎一つは夕食であり、生命である。
桃のの色の薔薇ばらの花、紅粉こうふんよそほひでつるつるした果物くだもののやうな、桃のの色の薔薇ばらの花、いかにもずるさうな薔薇ばらの花、吾等の齒に毒をお塗り、僞善ぎぜんの花よ、無言むごんの花よ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
それは幾十年という長い年月をこの山里に生いたった者の淡い誇りでもあり、果実と山人との間の天然の親しみの不可分な妙境の尊さででもあった。果物くだものは四季にみのった。
かき・みかん・かに (新字新仮名) / 中島哀浪(著)
何ゆえにこのような遊猟の獲物を描いたものや魚類果物くだもの丹精たんせいこめた彫刻をおくのであるか。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
一方の腰かけのすみには、沖売ろう——船へ菓子や日用品を売り込みに来る小売り商人——の娘が、果物くだもの駄菓子だがしなどのはいった箱を積み上げて、いつ開こうかと待っているのであった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
化粧鏡の付いた箪笥たんすの上には、果物くだもののかごが一つと花束が二つ載せてあった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
両手でも持てないほどの大きなかご果物くだものや菓子を一ぱい入れて贈ってくる。
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
これは肥後熊本の人で、店は道具商で、果物くだものの標本を作っていました。枇杷びわ、桃、かきなどを張り子で拵え、それに実物そっくりの彩色さいしきをしたものでちょっと盛り籠に入れて置き物などにもなる。
それは、廿三歳と云へば成熟しきつた女の身體の、丁度みのつた果物くだものの枝にとゞまり得ぬと同じく、あらゆる慾情を投げ掛けて凭れかゝるべき強い力のある男の腕を求める其の悶えの爲めに違ひない。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
果物くだものなどで、かざってもらえるものと思って、楽しみにしていました。
大臣家では病人の扱いに大騒ぎをして、祈祷きとうやその他に全力を尽くすのであった。病は最悪という容態でもない。ただ食慾しょくよくがひどく減退して、もうこちらへ来てからは果物くだものをさえ取ろうとしなかった。
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
果物くだもの誰方どなたも青いうち食べるのが、お好きとみえますね。」
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それのかをりは果物くだもののかをりによくは混じります。
男優B 新鮮でも未熟な果物くだものは腹をこはす。
職業(教訓劇) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
毛ばだつた秋の果物くだもののやうな
藍色の蟇 (新字旧仮名) / 大手拓次(著)
果物くだもの
貧しき信徒 (新字新仮名) / 八木重吉(著)
安心あんしんあそばしてください、下界げかい穀物こくもつがすきまもなく、に、やまに、はたにしげっています。また樹々きぎには果物くだものかさなりってみのっています。
消えた美しい不思議なにじ (新字新仮名) / 小川未明(著)
彼の車室内へ運んでくれた果物くだものかごもあった。そのふたを開けて、二人の伴侶つれに夫人の贈物をわかとうかという意志も働いた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
また、つたえ聞いた近郡の地頭や、郷士、法師らの献物けんもつもおびただしく、酒、こうじ、干魚、果物くだもの、さまざまな山幸やまさちが、行宮あんぐうの一部の板屋廂いたやびさしには山と積まれた。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そういう場合には、一片のチョコレートや戸棚とだなの中の果物くだものなどをかじった。彼女はそれをアルノーへ言うのを差し控えていた。そういうことが彼女の怠惰だった。
三根夫は、べつのところで、果物くだもの畑を見た。これもきちんと箱にはいって、ならんでいる。木の太さの割合いには、すばらしくたくさんのみごとな実がなっていた。
怪星ガン (新字新仮名) / 海野十三(著)
五月になってもたびたびみぞれがぐしゃぐしゃ降り、七月の末になってもいっこうに暑さが来ないために、去年いた麦も粒の入らない白い穂しかできず、たいていの果物くだもの
グスコーブドリの伝記 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そのかはり、おにはにあるかきなしなぞがりたてのあたらしい果物くだものとうさんに御馳走ごちそうしてれました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
第一に、記録はその船が「土産みやげ果物くだものくさぐさを積」んでいた事を語っている。だから季節は恐らく秋であろう。これは、後段に、無花果いちじゅく云々の記事が見えるのに徴しても、明である。
さまよえる猶太人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ぼろ屑はざるに入れ、果物くだものの種は小桶こおけに入れ、シャツは戸棚とだなに入れ、毛布は箪笥たんすに入れ、紙屑は窓のすみに置き、食べられる物ははちに入れ、ガラスのかけは暖炉の中に入れ、破れくつとびらの後ろに置き
テーブルの上に酒びん、葡萄酒ぶどうしゅのはいったコップ、半分皮をむいたみかん、そんなものが並んでいた。そしてそれはその後に目で見た現実のあらゆるびんやコップや果物くだものよりも美しいものであった。
青衣童女像 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
木村の持って来た果物くだものをありったけかごにつめて
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
苗植ゑしわが手づからに待焦まちこがれたる果物くだもの
摘みとつた果物くだものの匂がする。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
果物くだものの木に匂いあり
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)