さと)” の例文
旧字:
社会政策上にも甚だ不利益である所以をさとらしめ、ついにはこれらの語をして、永久に死語たらしめたい希望を有しているのである。
「上天文に通じ、下地理をさとり、謀略は管仲、楽毅がっきに劣らず、枢機すうきの才は孫子、呉子にも並ぶ者といっても過言ではないでしょう」
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
梅はじっと血色ちいろの亡くなった主人の顔を見ていて、主人がひどく困っていると云うことだけはさとったが、何に困っているのか分からない。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
依って曰く、敵を殺すの多きを以て勝つにあらず、威を耀かし気を奪い勢をたわますの理をさとるべしと。中村は近江おうみ国の人なり。
オルクンは、わたくし共の様子を見て、疑はれたのだなとさとつたものですから、仲間の槍を皆取り上げて、一束にして一人の男に渡しました。
彼はその妻の常にたのしまざるゆゑつゆさとらず、始より唯その色を見て、打沈うちしづみたる生得うまれ独合点ひとりがてんして多く問はざるなりけり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
主人のさいは長二郎に女房の世話を致したいと申して居りましたから、わたくしの考えますには、其の事を長二郎に話しましたのを長二郎がおかしくさとって
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「されど両親は其語れる事をさとらず」と云ふのも恐らくは事実に近かつたであらう。けれども我々を動かすのは「其母これらのすべての事を心にめぬ」
続西方の人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
しかも私達は往々その悲しい結果をさとらないのみか、かくの如きはあらねばならぬ須要しゅようのことのように思いなし易い。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
人間を嘲罵する彼の心絃には触れざりしを、この際に於て豁然くわつぜん悟発して、人間に至真の存するあるをさとらしめたり。
心機妙変を論ず (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
人或は一見して云はむ、これ僅に悲哀の名を変じて鬱悶うつもんと改めしのみと、しかも再考してつひにその全く変質したるをさとらむ。ボドレエルは悲哀に誇れり。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
けれども日蓮は悦ばず、正法を立せずして、弘教を頌揚するのは阿附あふである。さとしがたきは澆季の世である。
... 実にさとりが早いですネエ」余は殆ど赤面はしたけれど「ハイ証拠を見ずとも是ばかりは信じます、秀子の容貌、秀子の振舞いなどが百の証拠より優って居ます」
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
トあじな眼付をしてお勢の貌をジッと凝視みつめた。その意をさとッたか暁らないか、お勢は唯ニッコリして
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
またこれ賊の遺物なるを白糸はさとりぬ。けだし渠が狼藉ろうぜきふせぎし折に、引きちぎりたる賊のきぬの一片なるべし。渠はこれをも拾い取り、出刃をつつみて懐中ふところに推し入れたり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
天下万般の学に通じ事にさとらざるべからず。しかれども一生の間に自ら実験し得べき事物は極めて少数なり。故に多く学び博くらんと欲せば書籍によるをもっともしとす。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
そして、可成彼にさとられざらむ様に息を殺して、好奇心を以て仔細に彼の挙動に注目した。
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
岩居がんきよにむかひ、これは此地にては名をなにとよぶぞとひしに、岩居これはテンプラといふなり、我としごろ此物の名義めいぎさとしがたく、古老こらうにたづねたれどもしる人さらになし
彼の面容かおかたちを変らせていやり給う、その子貴くなるも彼はこれを知らず、卑賤いやしくなるもまたこれをさとらざるなり、ただ己みずからその心に痛苦いたみを覚え己みずからその心になげくのみ
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
と低い声で細々こまごまと教えてくれた。若崎は唖然あぜんとして驚いた。徳川期にはなるほどすべてこういう調子の事が行われたのだなとさとって、今更ながら世の清濁せいだくの上に思をせて感悟かんごした。
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
大艦を打造うちつくり、船軍を習練し、東北にしては蝦夷えぞ唐太からふと、西南にしては流叫りゅうきゅう対馬つしま憧々しょうしょうと往来し、虚日あることなく、通漕捕鯨し、以て操舟を習い海勢をさとり、しかる後往きて朝鮮
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
あやまちすとも、自らさとらざりし
単にその歴史を知り、その実情を知り、差別の不当なりし所以をさとったのみでは不十分です。さらに進んでそれと親しまねばなりません。
融和促進 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
かつて山中で病猪を見たるに実にこの画のごとしと。応挙初めてさとり翁に臥猪の形容を詳しく聞き、専らその口伝くでんに拠って更に臥猪を画く。
嘗て茶山に「死なぬやまひ」を報じたやうに、今又起行の期し難きをさとつたであらう。其胸臆を忖度そんたくすれば、真に愍むべきである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
されども、彼は未だ恋の甘きを知らざるがゆゑに、心狭くもこの面白き世に偏屈のとびらを閉ぢて、いつはりと軽薄と利欲との外なる楽あるをさとらざるならん。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
余はお一語をも発し得ずだ「あ、あ、あれ、あれ」とどもりつゝくだん死体しがいに指さすのみ、目科は幾分か余の意をさとりしにや直様すぐさま死体しがいかさなり掛り其両手を検め見て
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
想像は必らずしもダニヱルの夢の如くに未来をさとらしむるものにあらざるも、朝に暮に眼前の事に齷齪あくさくたる実世界の動物が冷嘲する如く、無用のものにはあらざるなり。
他界に対する観念 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
こは火の如き婦人の熱情のために心身ふたつながら溶解し去らるるならんと、ようやく渠を恐るる気色を、早くさとりたる大年増は、我子ともすべき美少年の、緑陰りょくいん深き所をいといて
黒壁 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
岩居がんきよにむかひ、これは此地にては名をなにとよぶぞとひしに、岩居これはテンプラといふなり、我としごろ此物の名義めいぎさとしがたく、古老こらうにたづねたれどもしる人さらになし
天文地理の書、一として通ぜずということなく、九流三教の事、さとらずということなし。そのことばは、かくいう禰衡を称するためできているようなものだ。……いやまだ云い足らん。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なんの積りだらうと、三人で相談しましたが、とうとうマカロフがさとりました。
空寒き奥州おうしゅうにまで帰る事はわずに旅立たびだち玉う離別わかれには、これを出世の御発途おんかどいでと義理でさとして雄々おおしきことばを、口に云わする心が真情まことか、狭き女の胸に余りて案じすごせばうるの、涙が無理かと
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
一人前の侍となして置いてかたきと名告り討たれんものと心組んだる其のところへ、國と源次郎めが密通したをいかって、二人の命を絶たんとの汝の心底、最前庭にて錆槍をぎし時よりさとりしゆえ
われらの示すをしへさとらじ。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
一休一々その本性をさとり、明旦みょうあさ土人を呼び集め、東の野に馬の頭顱、西の藪中に三足の鶏、南の池に鯉あるべしとて探らせると果してあり。
過去の差別的行為の非をさとり、いわゆる差別撤廃から、進んで真の融和の域に到達すべきものなることは、すでに繰り返し述べた通りであります。
融和促進 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
父忠兵衛も牧も、少女の意のす所をさとっていたが、父ははばかってあえて制せず、牧はおそれて咎めることが出来なかった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
この心をさとれる満枝は、飽くまで憎き事為るよと、持てるハンカチイフにベッドを打ちて、かくまでにあつかはれながら、なほこの人を慕はではまぬ我身かと
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
初めて真成に秀子の身の危険な事をさとった、彼は容儀の改まると共に、全く厳めしい法律の手先と云う威厳が備わり、何となく近づき難い所が現われた、権田時介も余と同様に
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
永楽帝の燕王たるや、塞北さいほくに出征して、よく胡情こじょうを知る。部下の諸将もまた夷事いじに通ずる者多し。王のみなみする、幕中ばくちゅう番騎ばんきを蔵す。およこれの事に徴して、永楽帝の塞外さくがいの状勢をさとれるを知るべし。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
一は牝犬がその子の心得違いをいたく咬み懲らしたので、次は仮装した子馬と会った母馬が後にさとって数日内に絶食して死んだと馬主の直話だと。
しかし末の「止宿之事は此節奈何可有御坐」と対照して其義をさとることが出来る。老人は多分迷惑するだらうとおもふ懸念より云々したと謂ふのである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
又大変な事をさとり得た、今の秀子、即ち其の頃の夏子が殺したと為って居るお紺婆の殺害者も若しや彼では有るまいか、叔父を毒害して其の疑いを秀子に被せようとする今の所行と
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
しかしわたくしは後に茶山の柬牘かんどくを読むこと漸く多きに至つて、その必ずしもさうでなかつたことをさとつた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
〈かつて聞く一聡慧竜馬、人その種をむさぼり、母と合せしむ、馬のちさとり知り、勢を断ちて死す〉と見ゆ。
横井平四郎は最も早くそれを知つた一人である。私の父は身を終ふるまでそれをさとらなかつた一人である。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
プリニウス十巻七十章には、ある鳥どもの血を混ぜて生きた蛇を食べた人能く鳥語をさとると載す。
諸賊射られた輩の矢を抜くと皆死んだので、かかる弓術の達者にとても叶わぬとさとり、一同降参した。大将これをあわれみ、そこに新城を築き諸人を集め住ませ曠野城と名づけた。
黙ってうなずいたお常には、この詞が格別の効果を与えないので、女中は意外に思った。あの女は芸者ではないと思うと同時に、お常は本能的に無縁坂の女だと云うことをさとっていたのである。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)