掻込かいこ)” の例文
綺麗きれいつまをしっとりと、水とすれすれに内端うちわ掻込かいこんで、一人美人がたたずむ、とそれと自分が並ぶんで……ここまで来るともう恍惚うっとり……
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
若者の一人いちにんは猟銃を携えていた。ある者は棒を持っていた。ある者は竹槍を掻込かいこんでいた。巡査はけんつかを握って立った。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しばらくその寝姿を見戍みまもっていた大蛇嶽、やがて何を思ったか、掻込かいこんでいた槍を取直すと、団兵衛の胸先へ
だだら団兵衛 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
も段々と更け渡ると、孝助は手拭てぬぐい眉深まぶか頬冠ほおかむりをし、紺看板こんかんばん梵天帯ぼんてんおびを締め、槍を小脇に掻込かいこんで庭口へ忍び込み、雨戸を少々ずつ二所ふたところ明けて置いて
小法師の姿はあずまの空へ、星の中に法衣ころもそで掻込かいこんで、うつむいて、すつと立つ、早走はやばしりと云つたのが、身動きもしないやうに、次第々々に高くあがる。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
細い褄先つまさきやわらかくしっとりと、内端うちわ掻込かいこんだ足袋たびまって、其処そこから襦袢じゅばん友染ゆうぜんが、豊かに膝までさばかれた。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
帯を掴んで、ぐい、と引いて、おんなの膝を、洋服の尻へ掻込かいこんだりと思うと、もろに凭懸もたれかかった奴が、ずるずるとすべって、それなり真仰向まあおむけさ。傍若無人だ。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その内に……婆の手のかたわらからすすきなびいて、穂のような手が動いた。そっと招いて、胸を開くと、片袖を掻込かいこみながら、かいなをしなやかに、そのすそのあたりを教えた。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、にょっと出た、お源を見ると、取次に出ないも道理、勝手働きの玉襷たまだすき長刀なぎなた小脇に掻込かいこんだりな。高箒たかぼうき手拭てぬぐいかぶせたのを、柄長に構えて、逆上のぼせた顔色がんしょく
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と先生警抜なことを云って、俯向うつむきざまに、灰を払ったが、左手ゆんでを袖口へ掻込かいこんで胸を張って煙を吸った。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
両膝をほっそりと内端うちわかがめながら、忘れたらしく投げてたすそを、すっと掻込かいこんで、草へ横坐りになると、今までの様子とは、がらりと変って、活々いきいきした、すずしい調子で
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夫人 (人形使の皺手しわでを、脇に掻込かいこむばかりにして、先に、番傘をかざして、揚幕へ。——)
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その細腰を此方こなたへ、背をななめにしたすそが、はぎのあたりへかわらを敷いて、細くしなやかに掻込かいこんで、蹴出けだしたような褄先つまさきが、中空なれば遮るものなく、便たよりなさそうに、しかしかろ
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あだなさけ貴下あなた、私も無さそうな形ながら、おんなというだけ、骨の細りと、胸のあたりも慎ましやかに、おとがい掻込かいこんだ姿を、仔細しさいらしくながめたが、さして心した、というでもなかったに
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ふもとの里に、錣頭巾しころずきを取ってかずき、薙刀なぎなた小脇に掻込かいこんだ、つらにはを塗り、まなこ黄金こがねひげ白銀しろがねの、六尺有余の大彫像、熊坂長範くまさかちょうはんを安置して、観音扉かんのんびらきを八文字に、格子もめぬほこらがある。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一人ひとりが、高足たかあしつて、んで、すましてプラツトホームを横状よこざま歩行出あるきだすと、いまわらつたのが掻込かいこむやうにむねどんぶりつた。湯気ゆげがふつとわかれて、饂飩うどんがする/\とはしびる。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
……う、まで骨々ほね/″\しうせもしない兩手りやうて行儀ぎやうぎよくひざうへんだんですが、そのあゐがかつた衣服きもの膝頭ひざがしらへするりと、掻込かいこみました、つまそろつて、ちういたしたゆかへ、すつと
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
一つ揺直ゆすりなおして、下褄したづま掻込かいこんで、本堂へ立向って、トつむりを下げたところ。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なあに、正体を見れば、閑古鳥にしろ、じきそこいらの樹の枝か葉隠れに、翼を掻込かいこんだのが、けろりとした目で、ひまかして、退屈まぎれに独言ひとりごとを言っているのであろうけれども、心あって聞く者が
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ありがとう……提灯の柄のお力添に、片手を縋って、一方に洋杖ステッキだ。こいつがまた素人が拾ったかいのようで、うまく調子が取れないで、だらしなく袖へ掻込かいこんだ処はなさけない、まるで両杖りょうづえの形だな。」
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
棄て置けば狐狸こり棲処すみか、さもないまでも乞食の宿、焚火たきびの火沙汰ざたも不用心、給金出しても人は住まず、持余しものになるのを見済まし、立腐れの柱を根こぎに、瓦屋根を踏倒して、股倉またぐら掻込かいこむ算段
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……つばさ掻込かいこんだ、わたとりかげくろうつつた。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
すそを一つ掻込かいこんで
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)