いくさ)” の例文
旧字:
二つにはいくささわぎに馴れきって、英国の商人たちのように business as usual と悟りすましていたのであった。
三浦右衛門の最後 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それでも足りないで、半兵衛は京都の大徳寺へ度々参禅さんぜんした。——そして、いくさと聞くや、いつも早馬で帰って来て、合戦に加わった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鉄斎老人は久し振に傘屋からかさやを訪ねた。そして蛤御門はまぐりごもんいくさや、桃太郎の鬼が島征伐などの昔話をして、二人とも目頭に涙を浮べて喜んだ。
スチクレスタードの野のいくさの始まる前に、王は部下の将卒の団欒だんらんの中で、フィン・アルネソンのひざをまくらにしてうたた寝をする。
春寒 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
といって、そのあくる日あらためて匡房まさふさのところへ出かけて行って、ていねいにたのんで、いくさ学問がくもんおしえてもらうことにしました。
八幡太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
蔭凉軒の跡とおぼしきあたりも激しいいくさの跡をしのばせて、焼け焦げた兵どもの屍が十歩に三つ四つはまろんでいる始末でございます。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
明治元年といえば鳥羽伏見のいくさを初め、江戸城の明渡、会津征伐等、猫の眼の如く変転する世相、物情騒然たる時節であったが、その中に
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
あんまりいくさが暇でノンビリしているんで、安心しやがったらしい。何しろ寝起きのまま逃げ出した奴が裏山伝いに長襦袢のままのご帰還だ。
斬られの仙太 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
此方こなたは鷹狩、もみじ山だが、いずれいくさに負けた国の、上﨟じょうろう、貴女、貴夫人たちの落人おちうどだろう。絶世の美女だ。しゃつ掴出つかみいだいて奉れ、とある。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「早くっから蜻蛉とんぼの模様なんか売り出させてさ。——今年は蜻蛉の模様がこう流行るから、きっといくさがある前徴だなんて云いふらさせて……」
舗道 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
のみならず重太郎は感情以上に我々の意志をも支配してゐる。いくさごつこをする小学生の重太郎を真似るのは云ふを待たない。
僻見 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
さすがの織田信長も、この時のいくさは難儀だったのだ、徳川家康の加勢で敗勢を転じて大勝利を得たということは知っている。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いくさとくらべると事はずっと小さいが、人が家々から出て大きな働きをするという点で、よく似ているものには狩倉かりくらがあった。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そして敵の武器を奪い、人家の中を捜索し、武器商の店に直ちに侵入したために、いくさは投石に始まったが次いでは銃火をもってするに至った。
高さはギルボアと伯仲はくちゆうの間なり。シユネムはギルボアのサウルに対してペリシテ人の陣せし所、双方の間は小銃のいくさ出来可でくべき程に近く思はる。
「不思議だな、合点がゆかぬ。こんな場合に見知らぬ武士が、いくさの助太刀しようなどと入り込んで来るとは受け取れない。……楠右衛門どん!」
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いくさがあることを知っていて、自分も殺されはすまいかとびくびくしていた。前日、寝床の中で、彼はほんとうに苦しんだ。
幕兵とのいくさがあったために、甲府の町に往くこともできなかったが、二三日のうちには、隙を見て妻をおとなおうと心ひそかに喜んでいるところであった。
怪僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
今度のいくさおもい出した、多分太沽たいくう沖にあるわが軍艦内にも同じような事があるだろうと思うからお話しすると、横須賀よこすかなるある海軍中佐の語るには
遺言 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
ぼくたちがいくさごっこをしに山に遊びに行って、その乞食を遠くにでも見つけたら最後、大急ぎで、「人さらいが来たぞ」といいながらにげるのだった。
火事とポチ (新字新仮名) / 有島武郎(著)
私は彼の文を読んで先生は実に大剛の士であると思ったのです、大槻磐渓おおつきばんけいの『近古史談』というのに、美濃みのいくさに敵大敗して、織田おだ氏の士池田勝三郎
竹乃里人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
明治三十七八年戦役せんえきのとき、旅順りょじゅんいくさにおいて、敵の砲台を爆破するため、こうした坑道こうどうを掘ったことがあるそうだ
未来の地下戦車長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そんなことで、かれこれいくさも長びくうちに、皇后はおあにいさまのとりでの中で皇子をお生みおとしになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
大清国だいしんこく皇帝の大祈祷会だいきとうえ 四月七日の事、大清国皇帝のためにいくさに関係した祈祷会きとうえがあってなかなか盛んな式だと言いますから、それを見に参りました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
もっとも善かれ悪かれ決戦ときめたいくさである、誰にしてもこの合戦におくれることはできないにちがいない。みんな肩肱かたひじを張って侃々かんかんとののしり叫んだ。
城を守る者 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
英国の軍艦を買い独国の大砲を買いそれでいくさに勝ちたりとも運用したる人にして日本人ならば日本のかちと可申候。
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
味方の砲弾たまでやられなければ、勝負のつかないようなはげしいいくさ苛過つらすぎると思いながら、天辺てっぺんまでのぼった。そこには道標どうひょうに似た御影みかげ角柱かくちゅうが立っていた。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこへ戦争がおっぱじまった。×××の方の連隊へも夫々動員令下った。秋山さんは自分じゃもう如何どうしてもいくさに行くつもりで、服なども六七ちゃくこしらえる。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
家内中いくさにでも出るような意気ごみなのでしたから、お雛様を飾ろうなどとは、夢にも思わなかったのでしょう。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
先生を相手にひといくさ、闘ってみてもいゝという気持さえ出たのは、この同じ自分でいながら、その同じ自分の中のどこにそんなものが在ったのでしょうか。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
もっとも、英雄はいくさに臨みては格別尊きものに候えども、勇は術のために制せられ候ものゆえ、勇のみにて術なければ、実は尊しとは参りがたきものに御座候。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
この思想はただいくさのみに関わることではない。平生も持ちたい思想である。世には成功ほど望ましいものはない、失敗ほど恐ろしいものはないと思う人が多い。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
それは戦いの神であり、また力強い生命それ自身であった。かくてふたたびよみがえった彼の前には、すでに新らしい時代が開けていた。しかもそれはいくさの時代であった。
「それにいくさはお師匠しょさん四谷へおいでの時分から上野辺じゃ、もうそろ始まっていたんですってねえ」
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
彰義隊は苦戦奮闘したけれども、とうとう勝てず、散々ちりぢりに落ちて行き、昼過ぎにはいくさみました。
四万噸の一大浮城ふじょうは、さすがに大きい。つづくは戦艦『アキレス』『クリシナ』(いくさの神)である。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
手前てめえのやうな、煮えきらねえ男ばかりだつたら、それこそ、勝ついくさもどうだかわからなくなるぞ。
故郷葛飾の辺はどこもかしこもいくささわぎで、戦塵のちまたとなったということを、世間で取沙汰した。
さきだってのいくさの如く、桃井、京極、山名、一色殿等の上に細川殿までしゅとなって、敵勢の四万、味方は二三千とあっては、如何いかにとも致し方無く、公方、管領の御職位
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「嘘にも本当にも、中国の将軍連はいくさに負けて亡命しても、百万二百万の金を持っていないものはないじゃアありませんか。世の中は利口に立廻らないと馬鹿を見ますよ」
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
昔の言葉でなければいけません、殿様方もおいくさに往って入らっしって命がけを度々たび/\なさったお方が、段々商人あきんどにおなり遊ばして、世の中の人と同等の御交際をされますが
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「人気は悪いし——これで、負けいくさになったら。今までさえ食え無いのが、何うなるだろう」
近藤勇と科学 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
徳川家康のエライところはたくさんありますけれども、諸君のご承知のとおり彼が子供のときに川原かわらへ行ってみたところが、子供の二群がいくさをしておった、石撃いしぶちをしておった。
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
世の中でうまい酒を飲んでる奴等は、金とか地位とか皆それ/″\に武器を持つて居るが、それを、その武器だけを持たなかつた許りにいくさがまけて、立派な男が柿色の衣を着る。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
けれども自分もいくさに負けて帰ったような姿なので、浮き浮きせず祖母始めの顔を見ても別に嬉しくもなかった。それからわれわれの勤務上も常より多くの数で二の丸へ詰めた。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
使者つかひが帰つて、その通り話すと、車の庄の長者は『白鳥を射殺しておきながら、けしからん言分いひぶんぢや』と怒つて了つたのぢや。それがもとで、たうとういくさになつたのぢや。いいか。
黄金の甕 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
『壇ノ浦のいくさの話をお語りなされ——その一条下ひとくさりが一番哀れの深い処で御座いますから』
耳無芳一の話 (新字新仮名) / 小泉八雲(著)
むかし、武蔵坊弁慶むさしぼうべんけいという豪傑ごうけつは、あらゆるいくさの道具を、すっかり背中にせおって歩いたのだそうですが、それを、「弁慶の七つ道具」といって、今に語りつたえられています。
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
あるところに一人の腕白小僧わんぱくこぞうが居った、ある日近所の子供といくさごっこをしていたが、竹の棒で一人の子供の頭に、大きなたんこぶをこしらえた、いたいいたいと子供は泣き出した
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
「それぁ、仕方がないわ。それじゃ、あんたは、また何だっていくさになんか行ったの?」
兵士と女優 (新字新仮名) / 渡辺温オン・ワタナベ(著)