御堂みどう)” の例文
主従三人お昼すぎから増上寺のお花御堂みどう灌仏会かんぶつえに出かけて、ついでのことにおなかへも供養にと、目黒の名物たけのこめしへ回り
西山に御堂みどうの御建築ができて、お移りになる用意をあそばしながらも、一方では女三の宮の裳着もぎの挙式の仕度したくをさせておいでになった。
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
それから——無住ではない、住職の和尚は、斎稼ときかせぎに出て留守だった——その寺へ伴われ、庫裡くりから、ここに准胝観世音じゅんでいかんぜおん御堂みどうに詣でた。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「おん奥の方には、先つ頃、上洛のぼりました節、清水きよみず御堂みどうのほとりで、よそながらお姿を拝したことがござりますが、おやかたには、今宵が初めて」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
みちに迷いて御堂みどうにしばしいこわんと入れば、銀にちりばむ祭壇の前に、空色のきぬを肩より流して、黄金こがねの髪に雲を起せるは
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こりゃ下郎げろう。ただ今もその方が申す如く、この御堂みどう供養の庭には、法界ほっかい竜象りゅうぞう数を知らず並み居られるには相違ない。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
このごろ日脚ひあし西に入り易く、四時過ぎに学校をで、五時半に羽生に着けば日まったく暮る。夜、九時、湯に行く。秋の夜の御堂みどうに友のなみだひややかなり。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
テニス・コウトで草むしりをして居た女から、御堂みどうでは草履をはかせないことを聞いて戻り、やっと内に入った。
長崎の一瞥 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
大正十二年の震災にも焼けなかった観世音かんぜおん御堂みどうさえこの度はわけもなく灰になってしまったほどであるから、火勢の猛烈であったことは、三月九日の夜は同じでも
草紅葉 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
いつも常会じょうかいをひらくまえに、境内けいだいをみんなで掃除そうじすることになっているのだが、きょうはぼくはひとつみんなののつかないところをしてやろうと、御堂みどううらへまわって
ごんごろ鐘 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
九重の塔も六重までが振り落され、三十三間の御堂みどうも、十七間までが倒れ、皇居を始め、諸々の神社仏閣から、一般の民家にいたるまで、倒壊するもの数知れない有様であった。
時の関白殿が施主となって営まるる大法要というのであるから、仏の兼輔に親しいもうといもみな袂をつらねて法性寺の御堂みどうにあつまった。門前は人と車とで押し合うほどであった。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「小さいご本尊に大きい御堂みどう、これには不思議はないとしても、この浅草の観音堂と信州長野の善光寺とは、特にそれが著しいな」こういったのは年嵩としかさの方で、どうやら階級も上らしい。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一体俊成の出た御子左みこひだりの家は御堂みどう関白道長の子長家ながいえから出た。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
御堂みどうの平吉が握りこぶしで眼をひっこすりながら
無頼は討たず (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
この松庵寺の物置御堂みどうの仏の前で
智恵子抄 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
大杉に隠れて御堂みどう秋の風
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
と両手をり合わせて絶望的な歎息たんそくをしているのであった。弟子でしたちに批難されては月夜に出て御堂みどう行道ぎょうどうをするが池に落ちてしまう。
源氏物語:13 明石 (新字新仮名) / 紫式部(著)
祖師堂は典正なのが同一棟ひとつむねに別にあって、幽厳なる夫人ぶにんびょうよりその御堂みどうへ、細長い古畳が欄間の黒いにじを引いて続いている。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「何としても、おきき入れかなわぬ上はこれまでのものです。御一門のさきがけに、まずわれら両名ここの御堂みどうを拝借して、腹掻ッ切って相果てまする」
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
実は我と物を区別してこれを手際てぎわよく安置するために空間と時間の御堂みどう建立こんりゅうしたも同然である。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その向うにある御堂みどうの屋根などは霞んで見えない筈でございますが、この雲気はただ、虚空こくうに何やら形の見えぬものがわだかまったと思うばかりで、晴れ渡った空の色さえ
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
人力では及びのつかない、神仏の加護を借りて、権力の座にいつまでもとどまることを願うという心理にもとづくものである。鳥羽院もかねがね三十三間の御堂みどうを建てたがっていた。
一人の女がその前を、御堂みどうの方へ小走って行った。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
やぶ御堂みどうあいだのしめったをはいた。
ごんごろ鐘 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
池の彼方かなたに、霧のそらなる龍宮の如き御堂みどうの棟をしずかな朝波の上に見つつ行くと、水を隔てた此方こなたみぎわに少しさがる処に、一疋いっぴき倒れた獣があった。
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
自家の御堂みどうとか、かつらの院とかへ行って定まった食事はして、貴人の体面はくずさないが、そうかといって並み並みのしょうの家らしくはして見せず
源氏物語:19 薄雲 (新字新仮名) / 紫式部(著)
御堂みどうの両側に、柳と菩提樹を植えて、手をすすいでいた上人の前へ、夫婦は、おそるおそる来て、大地に両手をつかえ
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その御堂みどうも只今は焼けてございませんが、何しろ国々の良材を御集めになった上に、高名こうみょうたくみたちばかり御召しになって、莫大ばくだい黄金こがねも御かまいなく、御造りになったものでございますから
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
御堂みどうの屋根をおおい包んだ、杉の樹立の、ひさしめた影がす、の灰も薄蒼うすあおう、茶を煮る火の色のぱっと冴えて、ほこりは見えぬが、休息所の古畳。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
人型として見るのに満足しようとする心から申せば山里の御堂みどうの本尊を考えないではおられません。なおもう少し確かな話を聞かせてくださいませんか
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「われらは、一寸たりと、当石山御堂みどう退きませぬ。たとえ父君以下、門徒ことごとくこの地をお去りあろうとも」
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今思出でつと言うにはあらねど、世にも慕わしくなつかしきままに、余所よそにては同じ御堂みどうのまたあらんとも覚えずして、この年月としつきをぞすごしたる。
一景話題 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
嵯峨野さがの御堂みどうに何もそろっていない所にいらっしゃる仏様へも御挨拶あいさつに寄りますから二、三日は帰らないでしょう
源氏物語:18 松風 (新字新仮名) / 紫式部(著)
武蔵は、そこから少し先の御堂みどうの棟に打ち並べてある、沢山な寄進ふだを仰いでいたのである。伊織が駈け寄って
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
更に、日もおかず、お絹が土手番町へ訪ねて来た、しかもその夜、上野の清水きよみず御堂みどうの舞台に、おなじように、二人で立つ事になったんです——
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
源氏は御堂みどうへ行って毎月十四、五日と三十日に行なう普賢講ふげんこう阿弥陀あみだ釈迦しゃかの念仏の三昧さんまいのほかにも日を決めてする法会ほうえのことを僧たちに命じたりした。
源氏物語:18 松風 (新字新仮名) / 紫式部(著)
話しながら、歩き出すと、こもの十郎とお稚児ちごのふたりは、もう浅草寺せんそうじ御堂みどうの縁へ行って、先に腰かけている。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
言うまでもないが、手帳にこれをしるした人は、御堂みどうの柱に、うたたの歌を楽書らくがきしたとおなじ玉脇の妻、みを子である。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
少し閑暇ひまのできたころであったから、御堂みどうの仏勤めにも没頭することができて、二、三日源氏が山荘にとどまっていることで女は少し慰められたはずである。
源氏物語:19 薄雲 (新字新仮名) / 紫式部(著)
花は、夜の風にのって、御堂みどうの廊に、雪のように吹きこむ。音誦朗々おんずろうろう——衆僧の読経もまたつづく。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いやいや、御堂みどう御社みやしろに、参籠さんろう通夜つやのものの、うたたねするは、神のつげのある折じゃと申す。神慮のほどもかしこい。……ねむりを驚かしてはなるまいぞ。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
例年のように秋のふけて行くころになれば、寝ざめ寝ざめに故人のことばかりの思われて悲しい薫は、御堂みどうの竣成したしらせがあったのを機に宇治の山荘へ行った。
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「いや、お吟様へ告げて来るあいだ、寂しかろうが、御堂みどうの縁で、休んでいて貰いたいのだ」
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
既に、草刈り、しば刈りの女なら知らぬこと、髪、化粧けわいし、色香いろかかたちづくった町の女が、御堂みどう、拝殿とも言わず、このきざはし端近はしぢかく、小春こはる日南ひなたでもある事か。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お居間に隣った念誦ねんずの室のほかに、新しく建築された御堂みどうが西の対の前を少し離れた所にあってそこではまた尼僧らしい厳重な勤めをあそばされた。源氏が伺候した。
源氏物語:10 榊 (新字新仮名) / 紫式部(著)
……それを、私はゆうべ、わが子の病気平癒の祈願のため、あの妙厳寺の荼吉尼天堂だきにてんどう夜籠よごもりしているうちに、夢ともうつつともなく、御堂みどうの内で、つい聞いていたのでした。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もっとも、御堂みどうのうしろから、左右の廻廊かいろうへ、山の幕を引廻ひきまわして、雑木ぞうきの枝も墨染すみぞめに、其処そこともかず松風まつかぜの声。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
身体からだを楽になさいましてはおきになりましたきん琵琶びわを持ってよこさせになりまして、仏前でお暇乞いとまごいにお弾きになりましたあとで、楽器を御堂みどうへ寄進されました。
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
御堂みどうの内陣から洩れるあかりの方へ、その手紙をさし向けて、お綱がおののく手に持ったのを見ると、ああ、それはなんという不思議な人の名——不思議な輪廻りんねのあらわれであろう。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)